カサンドラ症候群は、身近な人がASDなどの発達障害を有しているために順調にコミュニケーションなどが確保できずに不安障害や抑うつ状態などの症状が出現する状態です。

今回は、カサンドラ症候群になりやすい人、また発症する原因などを解説します。

カサンドラ症候群の特徴

アスペルガー症候群(自閉スペクトラム障害、ASD)を抱える家族や同僚などが身近に存在する人が、通常よりも心的なストレスを大きく負担として感じることは往々にしてあります。その結果、不安感や抑うつ症状など心身の不調を来す状態のことを「カサンドラ症候群」と称しています。

家族関係の中でも、特にASDである夫と、その夫を支える妻というパートナーシップや人間関係の中でカサンドラ症候群を発症するケースが多く見受けられます。また、確定的に診断を受けておらず病名を断定されていない、いわゆる「グレーゾーン」のパートナーが存在する時にも発症する可能性があります。

「カサンドラ」は、ギリシャ神話に登場するトロイの王女の名前です。

太陽神アポロンに愛され、予知能力を授かったトロイの王女カサンドラは、その能力でアポロンに捨てられる未来を予知してしまい、アポロンの愛を拒絶しました。そして怒ったアポロンに「カサンドラの予言を誰も信じない」という呪いをかけられ、人々から予言を信じてもらえなくなってしまった、というエピソードがあります。

このようなカサンドラの境遇と「身近なパートナーとの関係性に辛さや困難を感じ、周囲にも理解してもらえない状態」を重ねて、2003年に心理学者が「カサンドラ症候群」と名づけました。

「カサンドラ症候群」は一般的に障害名や診断名として確立した概念やコンセプトではなく、あくまでも「健常とは異なる、心身ともに不調で異常な状態」として認識されています。正式な病名や疾患ではないため、実際には当事者が抱えている苦悩や苦労は、周囲の人や身近な関係の方々に十分に理解されずに経過することが多いです。

特に、新型コロナウイルス感染症が流行している近年、オンラインワークの普及や在宅勤務などが進み、家庭内に様々なストレスが持ち込まれる機会も決して少なくありません。こうした時代に心身に不調を呈する人が増加して存在することからも、カサンドラ症候群は夫婦間やパートナーとの関係性などにおいての大きな問題として注目されています。

ASDを発症する割合は、男性が女性の約4倍程度高いと言われているため、そのパートナーとなることが多い女性に、発症率が高くなる特性があります。

しかし、必ずしも女性ばかりがカサンドラ症候群に陥るわけではありません。日常的に接する機会が多い身近な家族や、職場環境における上司や同僚、部下などが発達障害を有していて、その関係性が長期に持続しており、苦悩する状態が継続する場合には、男性であっても発症する可能性は大いにあります。

カサンドラ症候群になりやすい人の傾向としては、真面目で何事にも几帳面である、あるいはいい加減なことが嫌いで何をする際にも完璧主義を追求する、といった性格が挙げられます。

また、ASDの人は、仕事の勤務地や労働場面など緊張する環境から解放されると、家庭内では社会性や情緒的な交流関係を放棄する傾向が見受けられます。そのために家庭内や家族間などにおいてコミュニケーション障害が発生し、献身的に支えている家族がカサンドラ症候群になりやすい原因になると考えられます。

カサンドラ症候群の症状

カサンドラ症候群における代表的な症状には、身体的、あるいは精神的な症状や兆候があり、これはパートナーのアスペルガー症候群(自閉スペクトラム障害、ASD)の重症度や進行度に大きく影響されます。軽度の体調変化で済む場合もあれば、場合によっては、日常生活をスムーズに送ることが困難になるレベルまで到達し、様々な専門的治療が必要になる症例も決して少なくありません。

カサンドラ症候群における典型的、かつ代表的な症状は、片頭痛、めまい、体重の大きな変動、自己肯定感の低下、パニック発作、抑うつ傾向や無気力感、疲労感や倦怠感が継続する、などです。このような自律神経失調症に準じた兆候が、身体面・精神面に複雑に出現することもあります。

そして、全身症状が色々と出現して自覚されているのにもかかわらず、周囲の方々の理解や協力が乏しく、身近にサポートしてくれる人がいない状況が長期的に続くことで、うつ病や適応障害、パニック障害などの精神疾患を合併して発症する恐れも十分に考えられるのです。

カサンドラ症候群の原因

夫婦・家族・職場の上司や同僚などの近しい関係性を持つ相手に、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム障害、ASD)の特徴である「気持ちの共感性や情緒的表現の障害」を認める際に、カサンドラ症候群を発症しやすくなると考えられています。

特に、「関係性が悪化している」という事実を、パートナーにも、また周囲の人にも理解されず、孤立した状態になって苦しみを抱え続けてしまうことが大きな発症因子となります。

カサンドラ症候群の発症に深く関与しているASDには、主に3つの代表的な症状や特性があります。1つ目は「コミュニケーション能力の欠如」2つ目は「対人関係の問題」そして3つ目は「限定された物事への強いこだわり」です。

ASDを持つ人は、上記の特性により相手の苦しみを共有・理解できず、さらに外部からはそのパートナー間の関係性や課題を認識しにくいことから、カサンドラ症候群の兆候や予兆を周囲の人々が確認しにくい状態になってしまうことがあります。

また、ASDを持つ人が、ある程度の社会適応性を身につけている場合には、職場などでは他者とコミュニケーションをうまくとれていることもあります。そのようなケースでは、外部からは家庭内の状況に気付くことが困難になる可能性が高くなります。そのため、カサンドラ症候群を発症した当事者が周囲の人に苦しんでいることを訴えても、問題を軽視されてしまったり、理解されないことで孤独感を抱えて多大なストレスをため込んでしまう、という負のスパイラルに陥り、症状が悪化してしまうことが指摘されています。

カサンドラ症候群の治し方や対処策

カサンドラ症候群の治療法としては、主な症状として現れている兆候への対処的な療法が主となります。

例えば、めまいや片頭痛、継続する疲労感や倦怠感など自律神経失調症に準じた症状や兆候が現れている場合には、ゆっくり安静を保ちながら療養し、薬物療法を実施する場合もあります。また、抑うつ症状や不安障害などが合併して認められるケースにおいては、適切な認知行動療法と薬物療法などを効率よく組み合わせて、出来る限り随伴した症状を緩和して改善できるように確実な治療を担当者と実践することが望まれます。

さらに、これらの対処療法を行うだけでなく、根本的に治療することを目指すのであれば、発達障害を有するパートナーとの関係性や、交流関係を改善することが治療の選択肢としては最優先となります。

そのためには、パートナーとのふたりだけの問題として捉えず、孤立した状態にならないようにすることが治療を実践する上で重要なポイントです。まずは身内や信頼のおける知人などに相談してひとりで抱え込まないこと、そして、発達障害者支援センターや専門の医療機関を利用することを考えましょう。

「カサンドラ症候群」は正式な病名や診断名ではありませんが、疑わしい症状が発症する経過や家族背景などを含めて専門対処機関で共有することが、根本的な治療の糸口となるでしょう。

まとめ

カサンドラ症候群は、主にアスペルガー症候群(自閉スペクトラム障害、ASD)の人が社会生活上の役割を果たさずに済む家庭内などで多く見受けられます。また、家庭以外でも職場などの人間関係において、日常的にコミュニケーションを多く密接にとる関係性や交流関係の場合にも発症する可能性があります。

症状を抑えて、身近なパートナーや相手と良好的な関係を長期に渡って築いていくには、お互いのことをより深く知って、病気や状態のことを共に理解して向き合う姿勢が大切です。

日常的に身近に信頼して相談できる相手がいない際には、発達障害者支援センターや専門外来など各種専門家に迅速かつ確実に相談するように意識しましょう。

もしこのような状況でお悩みであれば、ぜひヒロクリニック心療内科にご相談ください。今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医