大事な会議の前。満員電車の中。試験が始まる直前。決まってお腹が痛くなる、という方は少なくありません。

検査を受けても「異常はありません」と言われてしまう。それでも症状は続く。過敏性腸症候群(IBS)は、そうした行き場のない不調の代表格です。

この記事では、ストレスと過敏性腸症候群の関係を整理します。結論を先にお伝えします。ストレスは確かに関与します。ただし「ストレスだけが原因」という理解は正確ではありません。日本消化器病学会のガイドラインに沿って、誤解の多い点をほどいていきます。

この記事でわかること

  • ストレスと腸が「双方向」に影響し合う脳腸相関の仕組み
  • 「ストレスが原因」で片づけてはいけない理由(IBSは多因子性)
  • IBSと自己判断する前に消化器内科へ行くべき警告徴候
  • 心理療法にどれだけの効果があるのか、ガイドラインの評価
  • 心療内科が役割を持つのはどの段階からか

過敏性腸症候群とストレスの関係|結論は「一方通行ではない」

過敏性腸症候群とストレスの関係は一方通行ではなく、脳と腸が互いに影響し合う双方向の関係です。ここを取り違えると、対処の方向を誤ります。

日本消化器病学会は、IBSの診療ガイドライン2020を公開しています。そこでは「IBSの病態にストレスが関与するか?」という問いが立てられました。回答は明快です。「IBSの病態にはストレスが関与する」と明記されています。

ただし関与するというのは、原因がそれ一つという意味ではありません。ストレスは病態を構成する重要な一因。そう捉えるのが正確です。

ストレスが腸を動かすことは実験で確かめられている

「気のせいでは」と言われた経験を持つ方に、まずお伝えしたい事実があります。ストレスが腸を動かすことは、実験室で客観的に測定されています。

同ガイドラインによると、IBSの患者さんに心理社会的ストレスを負荷すると、大腸の運動が亢進します。大腸内圧で測定された事実です。大腸平滑筋の電位も高まります。脳波は健常者より低振幅速波化し、中枢神経の興奮しやすさを反映するとされています。

さらに画像研究では、ストレス応答を司る扁桃体・前帯状回・島の過活動が確認されています。腹痛は主観ではありません。測定できる現象です。

脳腸相関とは|ストレスが腸に届く仕組み

脳腸相関とは、脳と消化管が双方向に影響し合う機能的な連関のことです。英語ではbrain-gut interactionsと呼ばれます。

脳と腸が双方向の矢印で結ばれ、互いに影響し合う脳腸相関の関係を示した図

ガイドラインは脳腸相関を、IBSの「病態生理の重要部分を占めている」と位置づけています。脳が感じた緊張が腸の動きを変える。同時に、腸から届く不快感が脳の不安を強める。この往復が続きます。

「腸のせいでまたストレス」という悪循環

双方向という言葉の意味は、診察室でこそ実感します。患者さんが語るのは、腹痛そのものより「また痛くなるかもしれない」という予期の苦しさ。そちらのほうが多いのです。

この感覚は当事者の言葉にもよく表れています。Xにはこんな声が上がっていました。「過敏性腸症候群ってストレスが原因だっていわれてるのにお腹のせいでまた余計なストレス」(@2tXoWkV7o266332さんの投稿)。原因とされたものが、症状によって増幅されていく。脳腸相関の双方向性を、これほど端的に言い当てた表現はありません。

満員電車の中で腹部を押さえ、不安そうな表情を浮かべる通勤中の会社員

脳腸相関という言葉は一般メディアでも扱われるようになりました。家庭画報(@KATEIGAHO)も「脳と腸が互いに影響し合う」概念として紹介しています。関心の高まりは、それだけ悩む方が多い証拠でしょう。

幼少期のつらい体験がリスクを高めることがある

脳腸相関は、その日のストレスだけで決まるものではありません。ガイドラインは、人生早期に受けた外傷的ストレスがIBSのリスクを高めると記載しています。

648,375人を対象とした8報のメタアナリシスがあります。外傷的ストレスとIBSの関連は、オッズ比2.8(95%信頼区間2.06〜3.54)と報告されました。過去の体験が現在の腸に影を落とすことがある、ということです。

ここで誤解しないでください。これは「あなたの心が弱いから」という話ではありません。神経系に刻まれた反応の癖の話。責任の所在とは無関係です。

「ストレスが原因」で片づけてはいけない理由

IBSは多因子性の疾患であり、ストレスはその一因にすぎません。原因をストレスだけに帰着させると、二つの実害が生まれます。

ガイドラインはIBSの病態に関わる要素として、次を挙げています。

  • ゲノム(遺伝的な体質)
  • 脳腸ペプチド
  • 消化管運動異常
  • 内臓知覚過敏
  • 消化管免疫
  • 粘膜透過性
  • 腸内細菌
  • 心理社会的因子

これら8つを総合的に捉える概念が脳腸相関です。心理社会的因子は、並んだうちの一つ。感染性腸炎にかかった後にIBSを発症する例もあります。ストレス以外の入口も存在するということです。

単純化がもたらす二つの実害

「ストレスが原因」という一言は、わかりやすい代わりに二つの害を生みます。順に見ていきます。

単純化の内容生じる実害
「ストレスのせいだから仕方ない」大腸がんや炎症性腸疾患など、検査で見つかる病気を見逃す
「心が弱いからお腹に出る」患者さんを不必要に傷つけ、受診と相談から遠ざける

私が診察で最も気をつけているのは、この二つ目です。ストレスという言葉は、説明にも断罪にもなります。使う側の姿勢が問われる言葉。そう考えています。

症状とタイプ|4分類と「75%が型を移る」という事実

IBSは便の形状によって4つの型に分類され、多くの方は経過の中で型が移り変わります。固定的なものではありません。

ガイドラインはブリストル便形状尺度(タイプ1〜7)を用いて分類します。タイプ4が健常な便。タイプ1・2が便秘の便、タイプ6・7が下痢の便です。

特徴
便秘型(C)硬い便が中心。タイプ1・2が多い
下痢型(D)泥状便・水様便が中心。タイプ6・7が多い
混合型(M)便秘と下痢の両方が出現する
分類不能型(U)いずれの基準も満たさない

注目すべきは型の移りやすさです。IBSの女性を15か月追跡した研究では、同じ型にとどまったのは各型のうち25%程度でした。残る75%は、他の型に少なくとも1回は移行しています

「下痢型だから自分はこう」と決めつける必要はありません。症状の出方が変わっても、あなたの認識が誤っていたわけではないのです。

患者数は「増えている」わけではない

IBSは近年増えている、という説明を目にします。ただしガイドラインの見解は異なります。

「IBSの有病率は増加しているか?」という問いへの回答はこうです。「有病率はこの数十年余り、およそ10%であり、経年的に増加しているとはいえない」。世界の論文をまとめたシステマティックレビューも横ばいを示します。1981〜1990年は10.0%、1991〜2000年は12.0%、2001〜2010年は10.9%でした。

性差はあります。男女の有病率は平均8.9%と14.0%で、女性が1.6倍多いと報告されています。増えたのは患者数ではなく、認知度。そう理解するのが実態に近いでしょう。

【重要】IBSと自己判断する前に|消化器内科の受診が必要な警告徴候

IBSは他の病気を除外して初めて診断される「除外診断」の疾患であり、自己判断は危険です。この章がこの記事で最も大切な部分です。

白衣の医師が腹部の不調を訴える患者に落ち着いた様子で説明している診察室の場面

ガイドラインのRome IV基準には、明記された含意があります。IBSの消化器症状は「大腸癌と炎症性腸疾患を代表とする、通常検査で検出される器質的消化器病によるものではない」。つまり検査で除外する工程が、診断の前提です。

この症状があればIBSと考えず消化器内科へ

ガイドラインの診断アルゴリズムは、警告症状・徴候の有無を最初にチェックします。以下に一つでも当てはまれば、IBSと決めつけてはいけません。原文で挙げられている項目です。

  • 発熱
  • 関節痛
  • 血便
  • 6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少
  • 異常な身体所見(腹部のしこりが触れる、直腸診での腫瘤や血液の付着など)

これらは器質的疾患を示唆する症状と徴候です。あわせて危険因子も評価されます。50歳以上での発症、大腸の器質的疾患の既往歴または家族歴が該当します。

警告徴候や危険因子が一つでもあれば、大腸内視鏡検査などを行う流れです。これらに心当たりがある場合、この記事を読み進めるより先に消化器内科を受診してください。心療内科ではありません。

診断の流れは4つのステップ

ガイドラインの診断アルゴリズムは、次の順で進みます。順序に意味があります。

ステップ確認する内容
1警告症状・徴候の有無
2危険因子の有無
3通常臨床検査の異常の有無(血液生化学検査、末梢血球数、炎症反応、TSH、尿一般検査、便潜血検査、腹部単純X線写真)
41〜3がいずれも陰性なら、Rome IV基準に照らしてIBSを診断

便潜血陽性・貧血・低蛋白血症・炎症反応陽性のいずれかがあれば、大腸内視鏡検査などに進みます。ガイドライン自身も釘を刺しています。「診療ガイドラインは器質的疾患の除外を保証するものではない」。この点は正直に共有しておきます。

Rome IV基準|ローマIII基準はすでに過去のもの

現在の国際的な診断基準はRome IV基準です。以前広く紹介されたローマIII基準とは、要件が変わっています。古い基準を載せた解説記事がいまだ残っているため、ここで整理します。

Rome IV基準の内容は次のとおりです。

  • 腹痛が
  • 最近3か月のなかの1週間につき少なくとも1日以上を占め
  • 次の2項目以上の特徴を示すこと
    • (1)排便に関連する
    • (2)排便頻度の変化に関連する
    • (3)便形状(外観)の変化に関連する

加えて、最近3か月間は基準を満たすことが求められます。症状の出現は、少なくとも診断の6か月以上前。この期間の条件も要件です。

旧基準との違いは実務に効きます。ローマIII基準の要件はこうでした。「腹痛あるいは腹部不快感が、最近3か月の中の1か月につき少なくとも3日以上」。Rome IVでは頻度が「1週間に1日以上」へと厳しくなり、「腹部不快感」が要件から外れて腹痛に一本化されました。

なお、診断基準は医師が使う道具です。セルフチェックで当てはめて安心するためのものではありません。

ストレスが関わるIBSに心理療法は有用か|ガイドラインの評価

ガイドラインはIBSへの心理療法を「推奨する」と明記しています。しかも推奨の強さは最上位。ここが心療内科の出番になります。

明るく落ち着いた部屋で向かい合って座り、カウンセリングを行う治療者と相談者

ガイドラインは「IBSに心理療法は有用か?」という問いを立てています。推奨はこうです。「IBSに心理療法は有用であり、心理療法を実施することを推奨する」【推奨の強さ:強(合意率100%)、エビデンスレベル:B】。合意率100%は、作成委員全員が一致したことを意味します。

NNT4という数字の意味

効果の大きさも示されています。2019年のFordらのメタアナリシスは、35件のランダム化比較試験をまとめました。

そこで報告された治療必要数(NNT)は4(95%信頼区間3.5〜5.5)でした。4人が心理療法を受ければ1人に症状改善がもたらされる、という意味です。有害事象はほとんど報告されていません。

効いた療法と、効かなかった療法

ここは正直にお伝えします。すべての心理療法が有効だったわけではありません。

評価療法
有意な症状改善を示した認知行動療法(CBT)、自律訓練法を含むリラクセーション、催眠療法、力動的精神療法、複数の要素を組み合わせた心理療法
有意な症状改善を示さなかったストレスマネジメント、簡略化した認知行動療法、マインドフルネス療法

「ストレスマネジメント」と名の付くものが有意差を示さなかった点は、意外に思われるかもしれません。ストレスが関与する病気に、ストレス対処法が効くとは限らない。この不一致こそ、IBSを単純化してはいけない理由を物語っています。

体系的な心理療法には、専門的な知識と経験のある治療者と、まとまった時間が必要です。すべての医療機関で実施できるわけではありません。

ガイドライン自身が「心療内科もしくは精神科へ」と書いている

心療内科がIBS診療で果たす役割は、私たちの主張ではなくガイドラインに書かれています。治療のフローチャートを読むと明確です。

薬物療法で改善がなければ、リラクセーション法・催眠療法・認知行動療法のような専門的な心理療法を行う。そのうえで、こう記されています。「自施設で心理療法の施行が困難な場合は、専門的な心理療法が実施可能な心療内科もしくは精神科に紹介する」

消化器内科と心療内科は、対立する選択肢ではありません。順番のある役割分担。まず消化器内科で除外診断、必要に応じて心療内科へ、という流れです。

心療内科の受診を検討する目安

心療内科の出番は、器質的な病気が検査で除外された後です。そのうえでストレスとの関連が疑われる段階。順序を守ることが安全につながります。

次のいずれかに当てはまる場合、当院にご相談ください。

  • 消化器内科で検査を受け、「異常なし」と言われたが症状が続いている
  • 症状が緊張・不安・仕事の負荷と連動していると感じる
  • 薬を使っても改善が乏しく、心理療法を試したことがない
  • 「また痛くなるのでは」という予期の不安で外出や通勤に支障が出ている

逆に、まだ消化器内科を受診していない方、先に挙げた警告徴候がある方は、消化器内科が先です。当院にお越しいただいても、まず検査をお願いすることになります。

ヒロクリニック心療内科は川口院・池袋駅前院で診療しています。お電話(048-430-7000)や公式LINEでもご相談を受け付けています。

治療を自己判断で中断しないでください

症状が落ち着くと通院をやめたくなります。その気持ちは自然なものですが、ガイドラインは放置しないことを提案しています。

診察室でも、通院を中断した後に再燃して戻られる方は珍しくありません。Xにも同じ経過の投稿がありました。「だいぶ良くなっていたので通院をやめたら、ここ半月ぐらい症状が出始めて、我慢できず病院へ」(@hanamama_115_2さんの投稿)。よくある経過です。

一方で希望の持てるデータもあります。米国ミネソタ州で12年間追跡した研究を見てください。当初IBS症状のあった方の約30%は、12年後に症状が消失していました。デンマークの研究でも、初年度にIBSだった方の約半数は翌年に診断基準を満たさなくなっています。

なお、お腹の不調が続く中で気分が沈み、つらさを一人で抱えている方は、抱え込まないでください。厚生労働省「まもろうよ こころ」では相談窓口が案内されています。いのちの電話のフリーダイヤル(0120-783-556)は無料で利用できます。

食事と生活習慣|自己流の制限には注意が必要です

食事療法には一定の根拠があります。ただし自己流の極端な制限は栄養面のリスクを伴うため、専門家の指導を受けてください。

近年注目されるのが低FODMAP食です。FODMAPは発酵性のオリゴ糖・二糖類・単糖類・糖アルコールの頭文字。小腸で分解・吸収されにくい糖質です。大腸で急速に発酵してガスを発生させ、腸管内に水分を引き込みます。

ガイドラインが代表的な食品として挙げるのは次のものです。小麦、タマネギ、ひよこ豆、レンズ豆、リンゴ、トウモロコシ、牛乳、ヨーグルト、はちみつ。日常的な食材ばかりです。

ただし注意点があります。低FODMAP食の有効性は、欧米中心の複数のランダム化比較試験で示されました。一方でガイドラインは、日本での評価をこう書いています。「本邦における低FODMAP食の受容性、有効性に関してはさらなる検討が必要である」。日本人の食生活での評価は、まだ途上です。

ここに挙がった食品を一人で片端から抜いていくと、食べられるものがほとんど残りません。栄養が偏るうえ、食事そのものが不安の種になります。除去する食品の選定は、医師や管理栄養士と一緒に決めてください

すべての方に共通して勧められる項目は、実はもっと地味です。ガイドラインは「間食や欠食を慎み、規則的な食事習慣を心がけること」を全患者共通の事項としています。まず整えるべきはリズム。制限はその後です。

ストレスによる不調は腸だけに出るとは限りません

脳腸相関と同じ仕組みは、腸以外の症状としても現れます。関連する症状がある場合は、あわせて確認してください。

検査で異常が出ないのに痛みが続く状態。これは慢性疼痛が心身に与える影響と検査・治療法で詳しく解説しています。不安が体の症状として出る仕組みは全般性不安障害(GAD)とは|症状と治し方が参考になります。

自律神経の乱れそのものは不眠症と自律神経の乱れの関係で扱っています。眠れなさとストレスの関係なら不眠症とストレスの関係と対処法へ。仕事の負荷が引き金になっている方には仕事のストレスで適応障害に?体験談が近い内容です。

よくある質問

診察室で実際によくいただく質問にお答えします。

Q. 過敏性腸症候群はストレスが原因ですか?

A. ストレスは関与しますが、原因はそれだけではありません。日本消化器病学会のガイドラインは、IBSを多因子性の病態としています。関与する要素は8つ。ゲノム、脳腸ペプチド、消化管運動異常、内臓知覚過敏、消化管免疫、粘膜透過性、腸内細菌、心理社会的因子です。ストレスは重要な一因という位置づけになります。

Q. 過敏性腸症候群は何科を受診すればよいですか?

A. まず消化器内科です。大腸がんや炎症性腸疾患などを検査で除外して初めて、IBSと診断されます。検査で異常がなく、ストレスとの関連が疑われる場合。あるいは薬物療法で改善が乏しい場合。ここから心療内科・精神科が担当します。ガイドラインの治療フローチャートにも記載があります。心理療法が自施設で困難なら、心療内科もしくは精神科へ紹介する、と。

Q. 検査で「異常なし」と言われました。気のせいなのでしょうか?

A. 気のせいではありません。IBSの患者さんにストレスを負荷すると、大腸の運動が実際に亢進します。扁桃体・前帯状回・島の過活動も確認されています。「異常なし」は「病変が見つからなかった」という意味。「症状がない」という意味ではありません。ガイドラインも、器質的病変がないとは検査の内容に依存する概念だと注意を促しています。

Q. すぐに消化器内科へ行くべき症状はありますか?

A. 発熱、関節痛、血便、6か月以内の予期せぬ3kg以上の体重減少、腹部のしこりが触れるなどの異常な身体所見。これらはガイドラインが挙げる警告症状・徴候です。50歳以上での発症、大腸の器質的疾患の既往歴・家族歴も危険因子とされます。当てはまる場合はIBSと自己判断せず、消化器内科を受診してください。

Q. 低FODMAP食は自分で始めてよいですか?

A. 自己流での開始は避けてください。低FODMAP食の有効性は欧米の試験で示されています。ただしガイドラインは、日本での受容性・有効性にはさらなる検討が必要としています。対象食品が広く、一人で除去を進めると栄養が偏ります。医師や管理栄養士と相談しながら進めてください。

Q. 心理療法はどのくらい効果がありますか?

A. 35件のランダム化比較試験をまとめたメタアナリシスがあります。治療必要数(NNT)は4(95%信頼区間3.5〜5.5)でした。認知行動療法、自律訓練法を含むリラクセーション、催眠療法、力動的精神療法が有意な改善を示しています。一方でストレスマネジメント、簡略化した認知行動療法、マインドフルネス療法は有意差を示していません。ガイドラインの推奨の強さは「強(合意率100%)」です。

Q. 過敏性腸症候群は一生続きますか?

A. 必ずしも続きません。米国ミネソタ州では12年間の追跡研究が行われました。当初IBS症状があった方の約30%は、12年後に症状を失っています。デンマークの研究でも、初年度にIBSだった方が翌年もIBSだったのは54%でした。年単位で見ると自然に軽快する例が少なくありません。ただし放置を勧める根拠にはならないため、治療は続けてください。

まとめ

過敏性腸症候群とストレスは確かに結びついています。ただし結び方は、多くの解説が言うほど単純ではありません。

本記事の要点を振り返ります。

  • ストレスと腸の関係は双方向。症状がさらなる不安を生む悪循環が起きる
  • ストレスは8つの病態要素のうちの一つ。「ストレスが原因」で片づけない
  • IBSは除外診断。発熱・関節痛・血便・体重減少・50歳以上での発症があれば消化器内科へ
  • 診断基準はRome IV。ローマIII基準の解説は古い
  • 心理療法は推奨の強さ「強」、NNT4。ガイドライン自身が心療内科・精神科への紹介を明記

お腹の不調が続いているなら、まずは消化器内科で検査を受けてください。そのうえで「異常なし」と言われ、それでもつらさが続くとき。心療内科は、その先の受け皿として存在しています。

検査で異常が見つからなかったことは、行き止まりではありません。次の入り口です。

ご予約はお電話(048-430-7000)、公式LINEでも承ります。


【参考文献】

医師監修 監修日:2022年6月27日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。