過敏性腸症候群とは、大腸に炎症や腫瘍などの病気は認められないものの、腹部の不快感や便秘、下痢などの症状が長期間に続く状態のことです。この記事では近年、増加傾向にある過敏性腸症候群のおもな原因と治療法について医師が解説します。

過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群とは、検査をおこなっても大腸に炎症や腫瘍などの疾患が認められない一方、腹部にガスが溜まるような不快感や痛み、吐き気・下痢・便秘などの症状が引き起こる消化管の病気のことです。

過敏性腸症候群は「IBS(Irritable bowel syndrome)」ともいわれ、根本的な原因は解明されていません。食事(食べ物)などの物質的要素やストレス がおもな原因とされ、過敏性腸症候群の患者数は近年、増加傾向にあるといわれています。

過敏性腸症候群の症状に悩む患者は約10〜15%とされており、女性に多く見られる病気です。また、10代の高校生から社会人となる20代に発症し、年齢とともに減少傾向にあることから、学業や仕事といったストレスが引き金ともいえるでしょう。

過敏性腸症候群は命にかかわる重篤な病気や難病ではありません。しかし、お腹の不快感や外出中の下痢症状などの不安により仕事や生活に大きな支障をきたしてしまいます。また、自己診断で過敏性腸症候群と思い込み、ほかの病気を見逃すケースも少なくありません。「お腹にガスが溜まって苦しい」「便秘や下痢を繰り返す」など腹部に異常を生じた際は早めに病院で診察を受けることが大切です。

過敏性腸症候群のおもな症状と原因とは

過敏性腸症候群の症状と排便の特徴

過敏性腸症候群のおもな症状は、消化管に現れます。腹痛・ガス(腹部の張り)・吐き気・下痢(痩せる)・便秘などが多く見られます。10〜20代の若年層に発症するとされ、腹部の不快感や症状は活動時間に不定期かつ発作的に現れては治まることを繰り返します。また、過敏性腸症候群の症状は睡眠時に腹痛や便意をもよおすことは少ないでしょう。

過敏性腸症候群は排便にも特徴があり、排便がともなう腹痛・排便によって緩和する腹痛・硬い便・軟便・液状便(下痢)・残便感などが見られます。一般的に過敏性腸症候群の痛みは下腹部に起こり、鈍痛の持続や消化管の収縮による痙攣性(けいれんせい)の腹痛が多いとされています。

痛みを生じるお腹の位置や痛みの種類、・痛みが生じるきっかけ(通勤時の電車内など)・下痢や便秘といった排便パターンは変わらないことが多く、一貫した症状が長期間続くとされています。また、過敏性腸症候群の症状は時間経過とともに悪化するだけでなく、症状が軽くなるなど変化があることも特徴といえるでしょう。

過敏性腸症候群の原因

過敏性腸症候群の原因ははっきりと解明されていません。「過敏性」とあるように、消化管が敏感になることで正常時には感じない薬や食べ物などの物質的な刺激や、腸の収縮・ガスなどの不快症状が生じるとされています。特に豆類・乳製品・小麦・チョコレート・アスパラガスなど小腸で吸収されにくい食べ物(炭水化物)はガスが発生し、痛みや不快感が生じるため過度な摂取には注意が必要です。

なお、過敏性腸症候群の原因として、最も多く挙げられるのは心因性の問題です。不安やストレス、抑うつなどによって発作が起こり、腹部の痛みや不快感・下痢などの症状が悪化します。

そのほかでは、ウイルスや細菌などによる感染性胃腸炎の罹患後、過敏性腸症候群を発症しやすくなるともいわれています。感染性胃腸炎により腸粘膜が弱まる、または腸内細菌に影響をおよぼすことで、消化管の運動の変化が過敏性腸症候群の発作に繋がります。

過敏性腸症候群を引き起こす脳と消化管の関係 〜脳腸相関〜

過敏性腸症候群の多くはストレスや不安といった心因性の問題が原因とされています。では、なぜ脳で感じるストレスが消化管へ影響を与えるのでしょうか。

ヒトは不安や恐怖、緊張などのストレスを受けると中枢の視床下部よりホルモン分泌を活性化させる信号が送られます。これによりストレスに適応するため自律神経系を中継し、身体にはさまざまな反応が起こり、この状態が長期間続くことで健康に悪影響を与えるのです。

また腸の状態も脳に影響を与えることから、脳と腸は自律神経系を中継しながら互いに影響しているといえるでしょう。これを「脳腸相関」といい、消化管の運動を亢進・抑制し痛みや下痢、便秘を引き起こします。

過敏性腸症候群の診断基準とは〜ローマⅢ基準〜

過敏性腸症候群の症状はさまざまです。病院で過敏性腸症候群の確定診断をおこなうためには診断基準とされる「ローマⅢ基準」が用いられます。同時に血液検査や尿・便検査、大腸内視鏡検査などをおこない、他の病気の可能性について詳しく調べます。

ローマⅢ基準

腹痛あるいは腹部不快感が、最近3ヵ月の中の1ヵ月につき少なくとも3日以上は生じ、下記の3つのうち2つ以上の特徴を示すこと

  1. 排便によって軽快する
  2. 排便頻度の変化で始まる
  3. 便形状(外観)の変化で始まる

過敏性腸症候群の治療法

過敏性腸症候群は心と身体の両方から起こる病気です。症状には個人差があり、また根本的な原因が解明されていないことから、それぞれの症状を和らげる対症療法をおこないます。

過敏性腸症候群の受診科とは

腹部の不快感や下痢や便秘を繰り返すなど、過敏性腸症候群を疑う症状が生じた場合、まずは消化器内科での診察を受けましょう。問診と検査により過敏性腸症候群と診断され、その原因がストレスや不安など心因性の問題であれば心療内科を受診する必要があります。

過敏性腸症候群のおもな治療法は、それぞれの症状への対症療法や生活習慣・食事指導などがおこなわれます。

過敏性腸症候群と食べてはいけないもの

過敏性腸症候群と診断された場合、なるべく消化の悪い食品を避け、食事量や食事回数には注意が必要です。これまでの食生活が1日3食とするのであれば、少量の食事を1日5〜6回など回数を増やすと良いでしょう。また、腹部にガスが溜まる症状があれば炭水化物(糖質)や人工甘味料を使用した食品を避け、刺激の少ない食事を心がけることが大切です。

  • 豆やいも類
  • 小麦類
  • キャベツ
  • アスパラガス
  • チョコレート
  • 人工甘味料使用のガムや清涼飲料水など

まとめ

過敏性腸症候群の多くはストレスや不安によって発症するとされています。過敏性腸症候群の患者数は年々増加し、インターネットなどのメディアでは「過敏性腸症候群の治し方」や「過敏性腸症候群患者の外出時の対処法」などが多く見られます。またドラッグストアでは過敏性腸症候群の症状を緩和する、さまざまな漢方や整腸剤が陳列されているでしょう。しかし、腹部の不快感や腹痛、そして抑うつや不安・緊張などの精神症状の自己診断はとても危険です。

過敏性腸症候群に当てはまる症状が見られた際は、必ず消化器内科で検査をおこないましょう。過敏性腸症候群の確定診断を受け、その原因がストレスや不安など心因性の場合、速やかに心療内科を受診することが大切です。なお、抗うつ薬には不安や睡眠障害だけでなく、過敏性腸症候群によって生じた腹痛や下痢を抑える作用があり、心と身体の両方を緩和するといえるでしょう。

心と身体の痛みを繰り返すことは日常生活に支障をきたし、過敏性腸症候群の症状悪化を招くことも少なくありません。過敏性腸症候群にお悩みの際は、ヒロクリニック心療内科へご相談ください。早期診断と早期改善により健やかな日常を取り戻しましょう。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医