Beckwith-Wiedemann syndrome (BWS)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • ベックウィズ・ウィーデマン症候群
  • EMG症候群(Exomphalos-Macroglossia-Gigantism syndrome)
    • ※主要な3徴候である「臍帯ヘルニア(Exomphalos)」「巨舌(Macroglossia)」「巨体(Gigantism)」の頭文字をとった古い名称です。
  • ウィーデマン・ベックウィズ症候群(Wiedemann-Beckwith syndrome)
  • 11p15.5関連過成長症候群
  • 関連:ヘミハイパープレジア(片側肥大症 / Hemihyperplasia)
    • ※BWSの症状の一部として、あるいは単独で体の片側だけが大きくなる病態です。

対象染色体領域

11番染色体 短腕(p)15.5領域

本疾患は、ヒトの11番染色体の短腕(pアーム)の末端にある「15.5」と呼ばれるバンド領域における遺伝子発現の調節異常によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と「ゲノムインプリンティング」】

この11p15.5領域は、**「ゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)」**と呼ばれる特殊な制御を受けている領域です。

通常、ヒトの遺伝子は父由来と母由来の2本が同じように働きますが、インプリンティング領域では、「父由来の遺伝子だけが働く」、あるいは「母由来の遺伝子だけが働く」というように、親の由来によってスイッチのON/OFFがあらかじめ決まっています。

この領域には、以下の2つの重要なドメイン(区画)があり、成長のアクセルとブレーキを調整しています。

  1. ドメイン1(テロメア側): IGF2(成長因子:アクセル)とH19(ブレーキ)
  2. ドメイン2(セントロメア側): KCNQ1KCNQ1OT1CDKN1C(細胞周期のブレーキ)

BWSでは、遺伝子の変異やメチル化(スイッチの装飾)の異常により、**「成長を促す遺伝子(IGF2など)が過剰に働く」か、「成長を抑える遺伝子(CDKN1Cなど)が働かなくなる」**ことで、細胞分裂が過剰になり、身体の過成長や腫瘍の発生につながります。

発生頻度

10,000人 〜 13,700人に1人

比較的頻度の高い先天性疾患の一つです。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

【生殖補助医療(ART)との関連】

近年の研究により、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)などの生殖補助医療によって出生した児において、自然妊娠に比べてBWSの発生頻度がわずかに高くなる(約3〜9倍程度)ことが報告されています。これは、受精卵を操作する過程や培養環境が、遺伝子の「メチル化(スイッチ)」の状態に影響を与えるためではないかと推測されていますが、絶対的なリスクとしては依然として低いものです。

臨床的特徴(症状)

Beckwith-Wiedemann syndrome (BWS) の症状は、**「過成長(体が大きい)」「巨舌(舌が大きい)」「腹壁欠損(へその異常)」**の3大徴候が有名ですが、それ以外にも腫瘍リスクや低血糖など、注意すべき点が多岐にわたります。

症状の程度には個人差があり、全ての症状が揃うわけではありません(不全型も多いです)。

1. 過成長・身体的特徴

  • 出生前後の過成長(Macrosomia):
    • 在胎週数に比べて体が大きく生まれ、生後も小児期を通じて身長・体重ともに成長曲線の97パーセンタイルを超えるような急速な成長が見られます。
    • 予後: この過成長は思春期頃には落ち着き、成人の最終身長は平均よりやや高い程度に収まることが多いです。
  • 片側肥大(Hemihyperplasia):
    • 体の右側と左側で大きさが異なる状態です。
    • 手足の太さや長さが違う(脚長差による側弯の原因になる)、顔の左右差がある、などが約25%の患者さんに見られます。
    • 腫瘍発生リスクと関連があるため、重要な所見です。

2. 頭蓋顔面の症状

  • 巨舌(Macroglossia):
    • 最も特徴的な症状で、約90%以上に見られます。
    • 舌が大きく、口から常に出ている状態です。
    • 影響: 哺乳障害、嚥下障害、呼吸障害(睡眠時無呼吸)、構音障害(発音の不明瞭さ)、歯並びへの影響(開咬・下顎前突)などを引き起こす可能性があります。
    • 成長とともに口の中の容積が大きくなり、目立たなくなることもありますが、外科手術が必要な場合もあります。
  • 耳の特徴:
    • 耳垂の線状溝(Ear creases): 耳たぶにシワのような溝があります。
    • 耳輪脚の小窩(Ear pits): 耳の付け根の後ろ側に小さな穴(くぼみ)があります。
    • これらはBWSに非常に特徴的なサインであり、診断のきっかけになります。
  • 顔貌:
    • 目の下の膨らみ、中顔面の低形成などが見られることがあります(Nevus flammeus:前額部の血管腫も見られることがあります)。

3. 腹壁の異常

  • 臍帯ヘルニア(Omphalocele):
    • 生まれた時、へその緒の中に腸や肝臓が出ている状態です。緊急手術が必要になります。
  • 臍ヘルニア(出べそ) / 腹直筋離開:
    • 軽度の場合は、大きめの出べそや、腹筋が弱くお腹がぽっこりしている程度で済むこともあります。

4. 代謝・内臓の異常

  • 新生児低血糖(Neonatal Hypoglycemia):
    • 約30〜50%に見られます。
    • インスリン(血糖値を下げるホルモン)が過剰に分泌されることなどが原因です。
    • 重要: 重度の低血糖を放置すると脳にダメージを与えるため、生後すぐの血糖管理は極めて重要です。多くの場合は生後数日〜数週間で改善しますが、稀に長引くこともあります。
  • 内臓肥大(Visceromegaly):
    • 肝臓、脾臓、腎臓、膵臓などの臓器が大きくなることがあります。

5. 腫瘍発生リスク(Embryonal tumors)

BWSにおいて最も警戒すべき合併症です。

  • 患者さんの約5〜10%に、小児がん(特に胎児性腫瘍)が発生します。
  • 主な腫瘍:
    • ウィルムス腫瘍(腎芽腫): 最も頻度が高い。
    • 肝芽腫: 肝臓のがん。
    • その他:神経芽腫、横紋筋肉腫、副腎皮質癌など。
  • 時期: 大部分は8歳〜10歳までに発症します。成人後のリスクは一般人口と同程度と考えられています。
  • リスク因子: 遺伝子の変異タイプによってリスクが異なります(後述)。

原因

11番染色体(11p15.5)のインプリンティング調節領域の異常が原因です。

BWSの原因は一つではなく、いくつかのパターンに分かれます。これが症状や腫瘍リスクの違いにつながります。

  • IC2(インプリンティングセンター2)のメチル化消失(LOM):約50%
    • 最も多いタイプです。
    • 母由来の染色体で、通常はメチル化されている(スイッチが調整されている)場所のメチル化が外れてしまいます。
    • CDKN1C(成長ブレーキ)が効かなくなります。
    • 特徴: 臍帯ヘルニアなどの身体症状は典型的ですが、腫瘍のリスクは比較的低いとされています。
  • 父性片親性ダイソミー(UPD):約20%
    • 11番染色体の11p15領域が、2本とも「父親由来」になってしまった状態です(通常は父1本、母1本)。
    • 父由来の「成長アクセル(IGF2)」が2倍働き、母由来の「成長ブレーキ(CDKN1C)」が無い状態になります。
    • 特徴: 片側肥大が起きやすく、腫瘍発生リスクが高い(約15%以上)ため、厳重な管理が必要です。
  • IC1(インプリンティングセンター1)のメチル化獲得(GOM):約5%
    • 母由来の染色体が、父由来のようなパターンに変化してしまい、IGF2(成長アクセル)が過剰に出ます。
    • 特徴: 腫瘍発生リスクが非常に高い(約28%)タイプです。
  • CDKN1C遺伝子の変異:約5%
    • 成長ブレーキであるCDKN1C遺伝子そのものが壊れています。
    • 特徴: 家族性(親から遺伝する)の場合、このタイプが多いです。臍帯ヘルニアや口蓋裂が見られることが多いです。
  • 染色体異常(重複、転座、逆位など):約1%未満

※残りの約15〜20%は、現在の検査技術では原因が特定できない「原因不明」ですが、臨床的にBWSと診断されます。

診断方法

臨床的な特徴のスコアリングと、遺伝学的検査を組み合わせて行います。

  • 臨床診断(コンセンサススコア):
    • 主要徴候(各2点): 巨舌、臍帯ヘルニア、片側肥大、多臓器肥大、耳の線状溝/小窩など。
    • 副徴候(各1点): 腎異常、新生児低血糖、血管腫、巨大児、家族歴など。
    • 合計スコアが一定以上(通常4点以上)であれば、遺伝子検査なしでも臨床的にBWSと診断されます。
  • 遺伝学的検査(メチル化解析):
    • 血液からDNAを抽出し、11p15.5領域のメチル化状態を調べます。これにより、IC2-LOM、IC1-GOM、UPDの区別がつきます。
    • 必要に応じてCDKN1C遺伝子のシークエンス解析や、マイクロアレイ検査(微小欠失・重複)を行います。
    • ※遺伝子検査は、腫瘍リスクの予測や、次子再発リスクの評価のために非常に重要です。

治療方法・管理方針

根本的な遺伝子治療法はまだありません。

治療の目的は、「合併症(低血糖・ヘルニア)の治療」と「腫瘍の早期発見」、そして**「QOLの向上(巨舌・脚長差)」**です。

1. 腫瘍サーベイランス(スクリーニング)

BWSの管理において最も重要な部分です。

  • 腹部超音波(エコー)検査:
    • 目的: ウィルムス腫瘍や肝芽腫を早期発見するため。
    • 頻度: 診断後〜7歳(または8歳)頃まで、3ヶ月ごとに行うことが国際的に推奨されています。
    • 早期に見つかれば、ウィルムス腫瘍などは非常に予後の良いがんです。
  • 血清AFP(α-フェトプロテイン)測定:
    • 目的: 肝芽腫のマーカー。
    • 頻度: 生後〜4歳頃まで、数ヶ月ごとに測定することが推奨される場合があります(ただし、AFPは採血が必要なため、負担と利益を考慮して医師と相談します)。
  • ※腫瘍リスクは遺伝子型によって異なるため、リスクに応じたプロトコルが組まれることがあります。

2. 新生児低血糖の管理

  • 生後すぐに血糖値をモニタリングします。
  • 頻回授乳や点滴によるブドウ糖投与で管理します。
  • 難治性の場合は、ジアゾキシドなどの薬物療法や、稀に膵部分切除が必要になることもあります。

3. 巨舌への対応

  • 軽度であれば経過観察です。
  • 呼吸障害(睡眠時無呼吸)、重度の哺乳障害、噛み合わせの問題、発音の問題、あるいは心理社会的な問題(見た目)がある場合、**舌縮小術(舌を部分的に切除して小さくする手術)**が行われます。
  • 手術時期は2〜4歳頃に行われることが多いですが、症状により異なります。

4. 腹壁欠損の治療

  • 臍帯ヘルニアがある場合は、出生直後に小児外科で手術を行います。

5. 整形外科的対応

  • 片側肥大による脚長差(足の長さの違い)がある場合、背骨が曲がる(側弯)のを防ぐため、靴の中敷き(補高)で調整します。
  • 定期的に脚長差をチェックし、差が著しい場合は外科的な骨延長術や成長抑制術(長い方の骨の成長を止める)が検討されることもあります。

6. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 複雑な遺伝メカニズムや、腫瘍リスクについて分かりやすく説明します。
  • 次子再発リスク:
    • 大多数(IC2-LOMやUPD)は突然変異であり、次子再発リスクは低いです。
    • しかし、CDKN1C変異や染色体転座、あるいはIC1の微小欠失などの場合は、最大50%の確率で遺伝する可能性があるため、正確な診断とカウンセリングが不可欠です。

まとめ

Beckwith-Wiedemann syndrome (BWS) は、11番染色体の遺伝子調整のスイッチが切り替わることで、身体の成長が促進されすぎてしまう疾患です。

この病気の赤ちゃんは、大きく生まれ、舌が大きかったり、おへその形が変わっていたり、耳に小さなくぼみがあったりと、特徴的なサインを持っています。

ご家族にとって一番の心配事は「小児がん」のリスクかもしれません。

確かにBWSのお子さんは、ウィルムス腫瘍などがんができやすい体質を持っています。

しかし、重要なのは**「決められたスケジュールで検査を受ければ、命を守れる」**ということです。

3ヶ月ごとの超音波検査を続けることは大変ですが、これによって万が一腫瘍ができても、早期に発見し、完全に治すことが十分に可能です。

また、巨舌や脚の長さの違いについても、手術や装具などの確立された治療法があります。

過剰な成長は大人になるにつれて落ち着き、知的な発達も正常であることが多いため、多くの患者さんが通常の学校生活を送り、社会で活躍されています。

「がん検診」というお守りを持ちながら、お子さんの大きな成長を見守っていく。

小児科医、小児外科医、整形外科医、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、お子さんの元気な未来を支えていきましょう。

参考文献

  • Brioude, F., et al. (2018). Expert consensus document: Clinical and molecular diagnosis, screening and management of Beckwith-Wiedemann syndrome: an international consensus statement. Nature Reviews Endocrinology.
    • (※BWSの診断基準、腫瘍スクリーニングのプロトコル、遺伝子型ごとのリスク分類などをまとめた、現在世界標準となっている国際コンセンサスステートメント。)
  • Choufani, S., et al. (2010). Beckwith-Wiedemann syndrome and epigenetic alterations of the 11p15 region.
    • (※BWSの複雑なエピジェネティクス(メチル化異常)のメカニズムを詳細に解説したレビュー論文。)
  • Weksberg, R., et al. (2010). Beckwith-Wiedemann syndrome. European Journal of Human Genetics.
    • (※臨床的特徴から遺伝学的背景までを網羅した包括的なガイドライン。)
  • Mussa, A., et al. (2016). Cancer Risk in Beckwith-Wiedemann Syndrome: A Systematic Review and Meta-Analysis Outlining a Novel (epi)Genotype Specific Cancer Screening Protocol.
    • (※遺伝子型ごとの腫瘍発生率をメタ解析し、リスクに応じたスクリーニングの必要性を提唱した重要文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: Beckwith-Wiedemann Syndrome. Initial Posting: 2000; Last Update: 2021. Authors: Shuman C, et al.
    • (※最新の臨床情報と遺伝カウンセリング情報を提供する信頼性の高いデータベース。)
  • 日本小児外科学会: 臍帯ヘルニア / ベックウィズ・ヴィーデマン症候群.
    • (※日本国内における外科的治療や管理に関する情報源。)

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