キャットアイ症候群(猫目症候群)は、22番染色体の一部が過剰になることで、目・耳・肛門・心臓など全身にさまざまな症状が現れる先天性の染色体疾患です。「猫の目」という名前から目の病気と思われがちですが、実際には耳の前の小さな突起や鎖肛(肛門閉鎖)のほうが高い頻度で見られます。症状の重さには非常に大きな個人差があり、ほとんど無症状の方から手術が必要な方までさまざまです。
この記事では、キャットアイ症候群の症状・原因・診断・治療を、公的な医学情報にもとづいてできるだけわかりやすく整理しました。お子さんの診断に不安を感じているご家族が、次に何を確認すればよいかがわかる内容を目指しています。
この記事でわかること
- キャットアイ症候群(猫目症候群)が22番染色体のどんな変化で起こるのか
- 3大徴候(眼のコロボーマ・耳前部の異常・鎖肛)と、それぞれの頻度
- 知的発達の見通しなど、ご家族が気になりやすいポイント
- 診断に使う検査(染色体検査・FISH・マイクロアレイ)の流れ
- 治療の考え方と、遺伝カウンセリングでできること
別名・関連疾患名
キャットアイ症候群には、成り立ちや歴史に由来するいくつかの別名があります。カルテや検査報告書で次のような名称を見かけたときは、いずれも同じ疾患を指していると考えて差し支えありません。
- シュミット・フラッカロ症候群(Schmid-Fraccaro syndrome):1965年にこの疾患の染色体メカニズムを報告した2人の医師にちなんだ、正式な別名です。
- 部分22qテトラソミー(Partial tetrasomy 22q):「22番染色体の一部が4本ある」という遺伝学的な状態を正確に表した名称です。
- 22番染色体逆位重複(inv dup(22)(q11)):余分な染色体ができる構造のタイプを示した名称です。
- CES:Cat Eye Syndromeの略称で、論文などで用いられます。
対象染色体領域
原因となるのは、22番染色体の長腕(q)11領域を含む小さな余分な染色体です。通常ヒトは22番染色体を父由来・母由来の2本持っていますが、この疾患ではそこに「小さな余分な染色体(マーカー染色体)」が1本加わります。
「テトラソミー」とはどういう状態か
この小さな染色体は、22番染色体の端(q11領域)が鏡合わせのようにくっついてできています。その結果、キャットアイ症候群の重要領域(CECR:Cat Eye Syndrome Critical Region)にある遺伝子が、通常の2コピーではなく合計4コピー存在する状態になります。
この「特定の遺伝子が4倍になる状態(遺伝子量効果)」が、胎児期の体の発生に影響し、さまざまな症状を引き起こします。なお、余分な染色体が全身ではなく一部の細胞にだけ存在する「モザイク型」の場合は、症状が軽くなる傾向があります。
同じ22番染色体が関係する疾患でも、変化のしかたによって現れる症状は大きく異なります。過剰ではなく22番染色体の一部が失われるタイプとしては22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群)が、別の余分なマーカー染色体で起こる疾患としてはエマヌエル症候群が知られています。
発生頻度
発生頻度は約5万人〜15万人に1人と推定される、まれな疾患です。ただしこれは典型的な症状をもつ患者さんをもとにした推定値です。
キャットアイ症候群は症状の個人差がとても大きく、特徴的な症状が乏しい軽症のケースも少なくありません。そのため、診断されていない潜在的な患者さんは、推定よりも多い可能性があります。性別による頻度の差はなく、男の子にも女の子にも生じます。
臨床的特徴(症状)

「眼のコロボーマ」「耳前部の異常」「鎖肛(肛門閉鎖)」が古典的な3大徴候ですが、3つがすべて揃う患者さんは全体の約40%にとどまります。ほとんど無症状の方から、心臓や腎臓に重い合併症をもつ方まで、症状の幅が非常に広いのが特徴です。
まず、代表的な症状とおおよその頻度を整理します。編集部としても、「猫の目」という名前だけが先に知られてしまい、耳や肛門の症状が見落とされやすい点には注意が必要だと感じています。名前の由来である眼の症状よりも、耳や肛門の症状のほうが高い頻度で見られる点が、この疾患を理解する鍵。
| 主な症状 | 部位 | おおよその頻度 |
|---|---|---|
| 耳前部タグ・耳前部瘻孔などの耳の異常 | 耳 | 約80〜90% |
| 鎖肛(肛門閉鎖症) | 消化器 | 約70〜80% |
| 虹彩コロボーマなどの眼の症状 | 眼 | 約50〜60% |
| 先天性心疾患 | 心臓 | 約50〜60% |
| 3大徴候がすべて揃う | 全身 | 約40% |
| 腎・尿路の形態異常 | 腎臓 | 一部の患者さん |
1. 眼の症状
疾患名の由来となった特徴ですが、全員に見られるわけではなく、約50〜60%とされています。
- 虹彩コロボーマ:虹彩(茶目)の一部が欠けて、瞳孔が鍵穴のような形、あるいは猫の目(縦長)のように見える状態です。通常は虹彩の下側が欠けています。
- 脈絡膜・網膜コロボーマ:外見ではわかりませんが、眼の奥(網膜や脈絡膜)に欠損が及ぶことがあり、視野の一部が欠けたり視力が低下したりします。
- そのほか、斜視、小眼球症、片眼だけの異常などが報告されています。
2. 耳の症状
眼の症状よりも高い頻度(約80〜90%)で見られ、診断の手がかりとして非常に重要なサインです。
- 耳前部タグ:耳の穴の前(顔側)にある小さな皮膚の突起で、片側だけのことも両側のこともあります。
- 耳前部瘻孔:耳の前に小さな穴が開いている状態です。
- 耳介の変形:耳の位置が低い、耳が小さい、形が変形しているなどが見られます。
- 外耳道閉鎖:まれに耳の穴が塞がっていることがあり、伝音性難聴の原因になります。
3. 消化器の症状
鎖肛(肛門閉鎖症)は約70〜80%に見られる高頻度の合併症で、出生直後の対応が必要になることがあります。
- 生まれつき肛門が開いていない、狭い、位置がずれているといった状態です。
- 直腸が尿道や膣とつながる(瘻孔)タイプもあり、出生直後に緊急手術が必要になる場合があります。
4. 心臓・腎臓の症状
先天性心疾患は約50〜60%に合併し、生命予後を左右する重要な要素です。
- 心臓:総肺静脈還流異常症(TAPVR)やファロー四徴症(TOF)といった複雑な心奇形から、心室中隔欠損症(VSD)などの一般的なものまでさまざまです。
- 腎臓・尿路:腎無形成(片方の腎臓がない)、腎低形成(小さい)、水腎症などが見られます。
5. 神経発達・認知機能
多くの患者さんは知的発達が軽度の遅れ、あるいは正常範囲であり、ご家族にとって希望となるポイントです。13トリソミーや18トリソミーなど、ほかの染色体疾患と大きく異なる点でもあります。
- 重度の知的障害を伴うことはまれですが、重い心疾患などの合併症や治療経過によって発達に影響が出ることはあります。
- 運動や言葉の発達がゆっくりになることはありますが、時間をかけて少しずつ獲得していくお子さんが多いです。
6. その他の合併症
- 骨格:側弯症、半椎体、橈骨(腕の骨)の異常などが見られることがあります。
- 成長:小柄な体格(低身長)であることがあります。
- 顔つき:眼間開離(目が離れている)、内眼角贅皮(目頭のひだ)など、軽度の特徴が見られることがあります。
原因

原因は、22番染色体に由来する「過剰なマーカー染色体」です。22番染色体の短腕(p)と長腕のごく一部(q11.1)が切り取られ、2本くっついて(逆位重複して)小さな棒状や輪状になったもので、専門的には二動原体染色体などと呼ばれます。
なぜ起こるのか
- de novo(新生突然変異):多くの患者さんは両親の染色体が正常で、精子や卵子がつくられる過程で偶然生じた変化です。
- 家族性:親のどちらかが同じマーカー染色体をモザイク型でもっている(症状がない、または軽微)場合に、親から子へ受け継がれることがあります。
症状に個人差が生じる理由は完全には解明されていませんが、マーカー染色体の大きさの違いや、マーカーをもつ細胞の割合(モザイク率)の違いが関係すると考えられています。なお、22番染色体の変化で起こる別の疾患には22q13欠失症候群などもあり、「どの領域が」「過剰か欠失か」で症状は大きく変わります。
診断方法

「耳の前の突起」「鎖肛」「コロボーマ」などの症状から疑い、染色体検査で確定します。外見の特徴だけで確定はできないため、遺伝学的な検査が欠かせません。
- 染色体検査(Gバンド分染法):核型分析を行うと、46本の染色体に加えて小さな「47本目の染色体(マーカー染色体)」が見つかり、47,XX,+mar または 47,XY,+mar と表記されます。
- FISH法・マイクロアレイ染色体検査(CMA):そのマーカー染色体が22番由来で、かつ重複していることを確認します。ここで確定診断となります。
- 全身の精査:診断がついたら、無症状であっても心エコー(心疾患)、腹部エコー(腎臓)、眼科検査(網膜コロボーマ)、聴力検査(難聴)などで全身を調べます。
マーカー染色体が余分に加わって起こるという点では、18pテトラソミー症候群のように「余分な染色体(テトラソミー)」で発症する疾患と共通しており、どの染色体が由来かを見極めることが診断の要になります。
治療方法
過剰な染色体を取り除く治療法はなく、症状ごとの対症療法(特に外科手術)と発達を支える療育が中心です。生命予後は重い心疾患の有無に大きく左右されますが、適切な治療を行えば予後は比較的良好とされています。
外科的治療(新生児期〜乳児期)
- 鎖肛の手術:出生直後に人工肛門(ストーマ)を作り、体が大きくなってから肛門を作る根治手術を行うのが一般的です。小児外科医による長期的な排便管理が必要になります。
- 心疾患の手術:TAPVRやTOFなどの重い心疾患がある場合は、心臓血管外科による手術を行います。
- 耳前部タグの切除:必須ではありませんが、見た目や引っかかりやすさを考えて形成外科で切除することがあります。
眼科的ケア・発達支援
- 視力管理:網膜コロボーマによる視力低下があれば、眼鏡による矯正や弱視訓練を行います。
- 遮光:虹彩コロボーマで眩しさ(羞明)を感じやすい場合は、遮光眼鏡やつばの広い帽子で不快感をやわらげます。
- 早期療育:発達の遅れが気になるときは、理学療法(PT)・作業療法(OT)・言語聴覚療法(ST)を早めに始めます。
- 教育:知的障害は軽度〜正常範囲であることが多く、通常学級に通うお子さんも多くいます。
健康管理と遺伝カウンセリング
心疾患や腎疾患がある場合は、ワクチン接種や感染対策を徹底し、定期的な尿・血液検査で腎機能を確認します。遺伝カウンセリングでは、染色体検査の結果の意味をわかりやすく説明し、両親の検査を行うかどうか、次のお子さんへの遺伝リスク、見た目の悩みへの心理的なケアまでを一緒に考えます。
よくある質問
キャットアイ症候群(猫目症候群)とはどんな病気ですか?
キャットアイ症候群は、22番染色体の一部が過剰になり、余分な小さな染色体(マーカー染色体)が加わることで起こる先天性の染色体疾患です。眼・耳・肛門・心臓・腎臓などに多彩な症状が現れますが、症状の重さには非常に大きな個人差があります。
「猫の目」という名前ですが、必ず目に症状が出ますか?
いいえ、必ずしも出ません。名前の由来である眼のコロボーマ(虹彩の欠損)が見られるのは約50〜60%で、むしろ耳前部の異常(約80〜90%)や鎖肛(約70〜80%)のほうが高い頻度で見られます。目の症状がないケースも珍しくありません。
キャットアイ症候群は遺伝しますか?
多くは両親の染色体が正常で、精子や卵子がつくられる過程で偶然生じるde novo(新生突然変異)です。まれに、親がモザイク型で同じマーカー染色体をもっている場合に受け継がれることがあります。遺伝の見通しは遺伝カウンセリングで確認できます。
知的障害は必ずありますか?
多くの患者さんは知的発達が軽度の遅れ、あるいは正常範囲です。重度の知的障害を伴うことはまれで、この点は13トリソミーや18トリソミーなど他の染色体疾患と大きく異なります。
どうやって診断しますか?
症状から疑い、染色体検査(Gバンド分染法)で47本目のマーカー染色体を確認します。さらにFISH法やマイクロアレイ染色体検査(CMA)で、そのマーカーが22番染色体由来で重複していることを確かめて確定診断とします。
まとめ
キャットアイ症候群(猫目症候群)は、22番染色体の一部が増えることで起こる、症状の個人差がとても大きい染色体疾患です。「猫の目」という名前から目の病気と思われがちですが、実際には耳の前の突起や鎖肛のほうが高頻度に見られます。
生まれたばかりのお子さんに手術が必要と言われたり、染色体の変化が見つかったりすることは、ご家族にとって大きな不安をもたらします。それでも、この疾患に伴う鎖肛や心疾患の多くは現代の医療で治療可能で、眼のコロボーマがあっても適切なケアで日常生活に支障がないことも多いです。
何より、知的発達については多くのお子さんがゆっくりでも言葉を覚え、学校に通い、社会生活を送っています。小児外科医・眼科医・循環器の専門医、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、一つひとつの症状を丁寧にケアしながら、お子さんの成長を支えていきましょう。私たちは、正確でわかりやすい情報こそが、ご家族の不安をやわらげる第一歩だと考えています。検査結果の意味や次にとるべき対応に迷ったときは、遺伝カウンセリングでご相談ください。
参考文献
- 東京女子医科大学ゲノム診療科「22qテトラソミー症候群(Cat-eye症候群)」https://www.cma-search.jp/disease-info-pro/disease-info-pro53/
- Orphanet: Cat eye syndrome(ORPHA:195)https://www.orpha.net/en/disease/detail/195
- OMIM: Cat Eye Syndrome; CES(#115470)https://omim.org/entry/115470