Charcot-Marie-Tooth disease, type 1A

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • CMT1A
  • 遺伝性運動感覚性ニューロパチー 1A型(Hereditary Motor and Sensory Neuropathy type IA; HMSN IA)
    • ※CMTは歴史的な名称であり、医学的な分類としてはHMSNが使われることがありますが、臨床現場ではCMTが一般的です。
  • 腓骨筋萎縮症(Peroneal muscular atrophy)
    • ※古い名称ですが、ふくらはぎの筋肉が痩せる特徴を捉えています。
  • 脱髄型CMT(Demyelinating CMT)
  • 関連:HNPP(圧脆弱性ニューロパチー / Hereditary Neuropathy with Liability to Pressure Palsies)
    • 【重要】 CMT1Aと同じ染色体領域(17p11.2)の異常ですが、CMT1Aが「重複(増える)」であるのに対し、HNPPは「欠失(減る)」ことで起こる、いわば鏡合わせの関係にある疾患です。

対象染色体領域

17番染色体 短腕(p)11.2領域

本疾患は、ヒトの17番染色体の短腕(pアーム)の「11.2」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部(約1.4Mbの領域)が**重複(Duplication)**することによって生じます。

【ゲノム上の詳細とPMP22遺伝子】

この重複領域には、本疾患の主役となるPMP22遺伝子が含まれています。

  • PMP22 (Peripheral Myelin Protein 22):
    • 末梢神経の「髄鞘(ずいしょう:神経の電線を覆う絶縁カバー)」を構成する重要なタンパク質を作る遺伝子です。
    • 通常、人は父方と母方から1本ずつ、計2本のPMP22遺伝子を持っています。
    • CMT1A(本疾患): 遺伝子が重複して**3本(3コピー)**になります。これにより、PMP22タンパク質が過剰に作られ、逆に髄鞘の構造が不安定になり、壊れやすくなります(脱髄)。
    • HNPP(関連疾患): 遺伝子が欠失して**1本(1コピー)**になります。これもまた、髄鞘の機能障害を引き起こしますが、CMT1Aとは異なる症状(圧迫に弱くなる)が出ます。
    • これを**「遺伝子量効果(Gene dosage effect)」**と呼びます。遺伝子は多すぎても少なすぎても、正常な機能を果たせないのです。

発生頻度

最も頻度の高い遺伝性ニューロパチー

  • 全体頻度: CMT全体としての頻度は、人口2,500人に1人程度とされています。これは指定難病の中でも非常に患者数が多い部類に入ります。
  • CMT1Aの割合: 全CMT患者の約30〜50%、脱髄型(1型)に限れば約70〜80%をこの「CMT1A」が占めます。つまり、CMTの中で最も出会う確率の高いタイプです。
  • 性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

CMT1Aの症状は、手足の末端(遠位)から始まる、ゆっくりとした進行性の筋力低下と感覚障害が特徴です。

発症時期は小児期〜青年期(10代〜20代)が多いですが、症状が軽微で中年以降に診断されるケースもあります。

生命予後(寿命)は一般の人と変わりません。

1. 運動機能障害(Motor symptoms)

神経の伝達速度が遅くなることで、筋肉への指令が届きにくくなり、筋肉が痩せて弱くなります。

  • 下肢の症状(初期〜):
    • 下垂足(Foot drop): 足首を持ち上げる筋肉(前脛骨筋など)が弱くなり、歩くときにつま先が下がってしまいます。
    • 鶏歩(Steppage gait): つま先が引っかからないように、膝を高く上げて歩く独特の歩き方になります。
    • つまずきやすさ: 体育の時間によく転ぶ、何もないところでつまずく、といったエピソードが初期症状としてよく見られます。
    • 逆シャンパンボトル様下腿(Inverted champagne bottle legs): ふくらはぎの筋肉が痩せて細くなる一方で、太ももの筋肉は保たれるため、シャンパンボトルを逆さにしたような脚の形になります(コウノトリ脚とも呼ばれます)。
  • 足の変形:
    • 凹足(Pes cavus): 土踏まずが異常に高くなる(ハイアーチ)変形が、患者さんの多くに見られます。
    • 槌指(Hammertoes): 足の指が鉤爪のように曲がる変形です。
  • 上肢の症状(進行後):
    • 病状が進行すると、手の筋肉(特に親指の付け根や手のひら)も痩せてきます。
    • ペットボトルのキャップが開けにくい、ボタンがかけにくい、といった手先の不器用さ(巧緻運動障害)が現れます。

2. 感覚障害(Sensory symptoms)

運動障害に比べると自覚しにくいですが、診察すると明らかになることが多いです。

  • 手袋靴下型の感覚低下: 手先や足先といった末端部分において、振動覚(揺れを感じる感覚)や位置覚、触覚が鈍くなります。
  • 痛み・しびれ: 痛みを感じにくいことが多いですが、一部の患者さんでは神経痛や筋肉のけいれん(こむら返り)を訴えることがあります。

3. 深部腱反射の消失

  • 膝や足首をハンマーで叩いても反応しない(無反射)、または反応が弱い(反射低下)ことが、診断の重要な手がかりとなります。

4. その他

  • 脊柱側弯症: 背骨が曲がることがあり、成長期のチェックが必要です。
  • 睡眠時無呼吸: 稀に、呼吸に関わる筋肉や咽頭筋の影響で合併することがあります。
  • 知能: 知的発達は正常であり、脳機能には影響しません。

原因

17番染色体(17p11.2)におけるPMP22遺伝子の重複が原因です。

1. 発生機序:不等交叉(Unequal Crossing Over)

なぜ、この部分が増えてしまうのでしょうか?

17p11.2領域には、**「REP(Low Copy Repeats)」**と呼ばれる、DNAの配列がそっくりなブロックが、PMP22遺伝子を挟むように配置されています。

精子や卵子が作られる際(減数分裂)、染色体同士がペアになりますが、この「そっくりなブロック」のせいで、ペアを組む位置がずれてしまうことがあります。

その結果、片方の染色体には遺伝子が2つ分(重複:CMT1A)、もう片方には遺伝子がない(欠失:HNPP)という現象が起こります。

これは構造的に起こりやすいエラーであり、親からの遺伝だけでなく、突然変異として誰にでも起こりうるものです。

2. 遺伝形式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)

  • 50%の確率: 親のどちらかがCMT1Aの場合、子に遺伝する確率は50%です。
  • 浸透率: ほぼ100%です。つまり、重複を持っていれば、程度の差はあれ何らかの症状(神経伝導速度の低下など)が出ます。
  • 表現型の差異: 同じ家族内(全く同じ遺伝子変異)であっても、車椅子が必要になる人もいれば、少し足が疲れやすい程度の人もいるなど、症状の重さには個人差があります。

診断方法

「足の変形」「腱反射消失」などの臨床所見に加え、電気生理学的検査と遺伝学的検査で確定します。

  • 神経伝導検査(NCS):必須
    • 皮膚の上から電気刺激を与え、神経を伝わる速さを測ります。
    • CMT1Aでは、髄鞘が壊れているため、**伝導速度が著しく低下(均一に遅くなる)**します。
    • 具体的には、正中神経などの運動神経伝導速度(MCV)が38 m/s以下(正常は50-60 m/s以上)になることが診断基準の一つです。小児期から(症状が出る前から)速度低下は認められます。
  • 遺伝学的検査:確定診断
    • 血液検査(DNA検査)で、17p11.2領域の重複(PMP22のコピー数)を調べます。
    • FISH法MLPA法マイクロアレイ法などが用いられ、重複が確認されれば確定診断となります。
    • 日本では保険適用で検査が可能です。

治療方法

現時点で、遺伝子重複そのものを治す根本的な治療薬は承認されていませんが、世界中で活発に開発が進められています。

現在の医療は、機能を維持し生活を支える**「対症療法(リハビリ・装具・手術)」**が中心となります。

1. リハビリテーション・装具療法

CMT1A治療の要(かなめ)です。

  • 理学療法(PT):
    • 筋力低下を防ぐための適度な筋力トレーニング、関節が固くなる(拘縮)のを防ぐストレッチを行います。過度な運動は逆効果になることもあるため、専門家の指導が必要です。
  • 装具(Orthotics):
    • 短下肢装具(AFO): 下垂足(つま先が下がる)がある場合、装具をつけることで歩行が劇的に安定し、転倒を防ぐことができます。プラスチック製やカーボン製など、目立ちにくいものもあります。
    • インソール(中敷き): 凹足(ハイアーチ)による足裏の痛みやタコを軽減します。

2. 整形外科的手術

  • 足の変形(凹足や内反足)が強く、装具でも歩行が困難な場合や痛みが強い場合に行われます。
  • 腱移行術: 強い筋肉の付着部を移動させて、弱った筋肉の働きを助け、バランスを整えます。
  • 骨切り術・関節固定術: 骨の形を整えたり、関節を固定して安定させたりします。
  • 手術によって歩行能力が改善するケースは多いですが、適切な時期(成長終了後など)を見極める必要があります。

3. 禁忌薬・注意すべき薬剤(Drug Contraindications)

  • 神経毒性のある薬剤:
    • CMTの患者さんは神経が傷つきやすいため、一部の抗がん剤(ビンクリスチンなど)は、重篤な麻痺を引き起こす可能性があるため原則禁忌、あるいは極めて慎重に使用する必要があります。
    • その他の薬剤については、CMT関連のウェブサイト(CMT Associationなど)でリストを確認し、主治医と相談することが重要です。

4. 研究中の治療薬(PXT3003など)

  • PXT3003 (Pharnext):
    • 既存の3つの薬(バクロフェン、ナルトレキソン、ソルビトール)を配合した合剤です。
    • PMP22遺伝子の過剰な発現を抑える効果が期待されており、国際的な臨床試験(第3相試験)が進められています。CMT1Aに対する世界初の治療薬となることが期待されています。

5. 遺伝カウンセリング

  • 情報の整理:
    • 予後(寿命は正常であること、進行はゆっくりであること)を正しく伝え、過度な不安を取り除きます。
  • 家族支援:
    • 次子再発リスクや、血縁者の発症リスク(親が未診断の患者である可能性)について相談に乗ります。
    • 結婚や就職、妊娠・出産などのライフイベントにおける悩みに対し、長期的なサポートを行います。

まとめ

Charcot-Marie-Tooth disease, type 1A (CMT1A) は、末梢神経のカバー(髄鞘)を作る遺伝子が「重複」して増えすぎることで、神経の伝わる速度が遅くなる疾患です。

CMTの中で最も頻度が高く、決して珍しすぎる病気ではありません。

この病気の特徴は、子供の頃から「かけっこが苦手」「よく転ぶ」といったサインで始まり、ゆっくりと足や手の力が弱くなっていくことです。

しかし、重要なことは、**「進行は非常にゆっくりであり、寿命には影響しない」**ということです。

多くの方は、仕事を持ち、家庭を築き、自立した人生を送られています。

知的な発達には全く問題がなく、痛みや感覚の鈍さも、装具やリハビリテーションで上手に付き合っていくことができます。

特に、足首を支える装具(AFO)などの補助具は、生活の質を大きく高めてくれる頼もしい味方です。

また、現在世界中で、原因となる遺伝子の働きを調整するお薬(PXT3003など)の開発が最終段階に入っており、治療の未来は明るくなりつつあります。

ご家族やご本人が一番気をつけるべきは、「転倒による怪我」と「合わない靴による足のトラブル」です。

神経内科医、整形外科医、リハビリスタッフ、義肢装具士、そして遺伝カウンセラーとチームを組み、ご自身の足の特徴をよく理解した上で、自分らしいアクティブな生活を続けていきましょう。

参考文献

  • Lupski, J.R., et al. (1991). DNA duplication associated with Charcot-Marie-Tooth disease type 1A. Cell.
    • (※CMT1Aの原因が17p11.2領域のDNA重複であることを突き止めた、歴史的かつ最も重要な原著論文。)
  • Raeymaekers, P., et al. (1991). Duplication in chromosome 17p11.2 in Charcot-Marie-Tooth neuropathy type 1a (CMT 1a). Nature Genetics.
    • (※Lupskiらの発見と同時期に、欧州の研究グループが重複変異を報告した重要文献。)
  • Pareyson, D., et al. (2009). Diagnosis and management of Charcot-Marie-Tooth disease.
    • (※CMTの診断フローチャート、各病型の特徴、リハビリテーションや外科的治療を含む管理指針を網羅したレビュー。)
  • Attarian, S., et al. (2021). Efficacy and safety of PXT3003 in patients with Charcot-Marie-Tooth disease type 1A (PREMIER trial).
    • (※現在開発中の治療薬PXT3003の臨床試験結果に関する最新の報告。)
  • GeneReviews® [Internet]: Charcot-Marie-Tooth Neuropathy Type 1. Initial Posting: 1998; Last Update: 2022. Authors: Bird TD.
    • (※CMT1Aの診断基準、最新の管理指針、遺伝カウンセリング情報、禁忌薬リストなどを網羅した、臨床現場で最も信頼されるデータベース。)
  • Saporta, A.S., et al. (2011). Charcot-Marie-Tooth disease subtypes and genetic testing strategies.
    • (※CMTの多数の患者コホートを解析し、CMT1Aが全体の過半数を占めることや、各病型の頻度を明らかにした疫学研究。)

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