Congenital microcoria

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 先天性小瞳孔(Congenital miosis)
    • ※臨床的にはこの名称で呼ばれることも多いです。
  • MCOR(略称)
  • 13q32.1欠失症候群(関連)
    • ※原因遺伝子座に基づいた名称です。
  • 家族性小瞳孔症(Familial microcoria)
    • ※遺伝性が強いため、こう呼ばれることがあります。
  • 関連:若年緑内障(Juvenile glaucoma)
    • ※本疾患の最も重要な合併症です。
  • 関連:軸性近視(Axial myopia)

対象染色体領域

13番染色体 長腕(q)32.1領域

本疾患は、ヒトの13番染色体の長腕(qアーム)の末端に近い「32.1」と呼ばれるバンド領域における遺伝子異常によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細と責任遺伝子】

Congenital microcoria(以下、MCOR)の発症には、13q32.1領域にある遺伝子群、特にTGIF1遺伝子周辺の欠失や変異が深く関わっていることが解明されています。

  • TGIF1 (TGFB-Induced Factor Homeobox 1):
    • 役割: 胎児期の眼の発生において、虹彩(茶目)の筋肉や、前眼部(眼の前の方の構造)の形成をコントロールする転写因子です。
    • 発生メカニズム:
      • 人間の瞳孔(瞳の大きさ)は、**「瞳孔括約筋(縮める筋肉)」「瞳孔散大筋(広げる筋肉)」**の2つのバランスで調整されています。
      • 胎児期に、TGIF1などの遺伝子シグナルに異常が生じると、「瞳孔散大筋」がうまく発達しません(欠損または低形成)。
      • その結果、瞳を広げる力が働かず、括約筋(縮める力)だけが作用し続けるため、瞳孔が極端に小さいまま固定されてしまいます。
    • ハプロ不全: 遺伝子が欠失して量が半分になること(ハプロ不全)や、遺伝子発現を調節する領域(エンハンサーなど)の異常が原因と考えられています。

発生頻度

稀(Rare)

正確な発生頻度は確立されていません。

世界的な医学文献における報告数も限られていますが、日本を含め世界中で家系報告(家族内発症)がなされています。

「極めて稀」な疾患に分類されますが、軽症例では単なる「近視」や「瞳が小さい体質」として見過ごされ、診断に至っていないケース(過少診断)も一定数あると考えられています。

性別による発生頻度の差はなく、男児にも女児にも発生します。

臨床的特徴(症状)

Congenital microcoriaの症状は、**「極端に小さな瞳孔」「散瞳(瞳が広がること)の欠如」「近視」が3大特徴です。

また、生涯を通じて最も警戒すべき合併症として「緑内障」**があります。

1. 瞳孔・虹彩の異常(Pupillary & Iris defects)

生まれた時から見られる、最も分かりやすい特徴です。

  • 小瞳孔(Microcoria):
    • 瞳孔径(黒目の真ん中の穴の大きさ)が2mm以下(多くは1mm前後)と非常に小さいです。「ピンホール(針の穴)」のようだと表現されます。
    • 暗い場所に行っても瞳孔が広がりません。
  • 散瞳不全:
    • 眼科の検査で使う「散瞳薬(ミドリンPなど)」を点眼しても、瞳孔が広がりません。これは、薬が効くはずの「散大筋」そのものが存在しない、あるいは機能していないためです。
  • 虹彩の菲薄化:
    • 虹彩(茶目)の組織が薄く、のっぺりとして見えます。
  • 偏位(Corectopia):
    • 瞳孔の位置が真ん中から少しずれていることがあります。

2. 視機能・屈折異常

  • 軸性近視(Axial Myopia):
    • 患者さんの多くに、中等度から強度の近視が見られます。
    • これは、眼球の奥行き(眼軸長)が通常より長くなってしまうためです。
  • 暗所での見えにくさ:
    • 暗い場所でも瞳孔が広がらないため、光を十分に取り込めず、夜道などが人より暗く感じることがあります(夜盲とは異なりますが、機能的な暗順応障害となります)。
  • 視力:
    • 適切に眼鏡などで矯正すれば、良好な矯正視力(1.0など)が得られることが多いです。ただし、未治療の強度近視や乱視による弱視には注意が必要です。

3. 緑内障(Glaucoma)

本疾患において最も医学的介入が必要な合併症です。

  • 発症リスク: 患者さんの約30〜50%(報告によってはそれ以上)が、生涯のうちに緑内障を発症します。
  • メカニズム:
    • 虹彩の形成異常に伴い、眼の中の水(房水)の出口である「隅角(ぐうかく)」の発達も未熟であることが多いです(隅角形成不全)。
    • 出口が狭かったり、詰まりやすかったりするため、眼圧が上がり、視神経がダメージを受けます。
  • 発症時期:
    • 小児期(若年緑内障)から成人期まで様々ですが、比較的若い年齢で発症するリスクが高いです。
    • 自覚症状がないまま進行するため、定期検診が命綱となります。

4. その他の眼合併症

  • 白内障: 水晶体の濁りを合併することがあります。手術が必要な場合、瞳孔が広がらないため、非常に高度な手術手技が求められます。
  • 網膜剥離: 強度近視に伴い、網膜剥離のリスクが一般の人より高くなります。

5. 全身症状について

  • 多くの場合は**「眼に限局した症状」**のみです(非症候性)。
  • ただし、13q32欠失の範囲が広い場合(隣接遺伝子症候群)は、発達遅滞や脳梁欠損、その他の身体的特徴を合併することがあります。
  • ※ピアソン症候群(Pierson syndrome)という別の疾患でも小瞳孔が見られますが、こちらは重篤な腎障害を伴います。本稿のCongenital microcoriaとは区別されます。

原因

13番染色体(13q32.1)の遺伝子異常が原因です。

1. 発生機序:神経堤細胞の分化異常

眼の虹彩にある2つの筋肉は、それぞれ異なるルーツを持っています。

  • 瞳孔括約筋(縮める筋肉): 神経外胚葉という組織から作られます。MCORではこちらは正常に作られます。
  • 瞳孔散大筋(広げる筋肉): 神経堤細胞(Neural crest cells)という細胞が移動・分化して作られます。
    MCORでは、13q32.1領域の遺伝子(TGIF1など)の異常により、この**「散大筋を作るプロセス」だけが選択的に失敗**してしまうと考えられています。

2. 遺伝形式:常染色体顕性遺伝(優性遺伝)

  • 最も一般的な形式です。
  • 両親のどちらかがMCORである場合、50%の確率で子に遺伝します。
  • 浸透率: ほぼ100%です。つまり、変異を受け継げば、ほぼ確実に小瞳孔の症状が出ます(症状の強弱はあります)。
  • De novo(新生突然変異): 両親は正常で、突然変異として発症するケースもありますが、家族歴があるケースが多いのが特徴です。

診断方法

特徴的な「小瞳孔」と「散瞳しないこと」を確認し、他の疾患を除外します。

  • 眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査):
    • 瞳孔径を測定します(明所・暗所)。2mm以下で変化がないことを確認します。
    • 虹彩の厚みや構造(透見性があるかなど)を観察します。
    • 散瞳試験: ミドリンPなどの散瞳薬を点眼し、30分後も瞳孔が広がらないことを確認します。これが決定的な診断根拠になります。
  • 隅角検査(ゴニオスコピー):
    • 緑内障のリスク評価のために必須です。隅角の構造(広さや形成不全の有無)を確認します。
  • 眼圧検査・OCT(光干渉断層計)・視野検査:
    • 緑内障の兆候(眼圧上昇、視神経線維層の菲薄化、視野欠損)がないかチェックします。
  • 超音波検査(Aモード):
    • 眼軸長(眼の長さ)を測定し、軸性近視の程度を評価します。
  • 遺伝学的検査:
    • 必須ではありませんが、確定診断や家族のリスク評価のために、血液検査で13q32.1領域の欠失やTGIF1変異を調べることがあります(マイクロアレイ検査など)。

治療方法

先天的な構造異常(散大筋の欠損)を治す根本的な治療法はありません。

治療の目的は、**「視力の発達を促すこと(弱視予防)」と「緑内障による失明を防ぐこと」**です。

1. 屈折矯正(眼鏡・コンタクトレンズ)

  • 近視・乱視の矯正:
    • 多くの患者さんは近視を持っているため、早期(3歳児健診前後やそれ以前)から適切な眼鏡を装用し、網膜にピントを合わせて視力を育てます。
    • 瞳孔が小さいこと自体は、ピンホール効果(カメラの絞りを絞るとピントが合いやすくなる原理)により、裸眼でもある程度見えていることがありますが、正確な視機能発達には眼鏡が必要です。

2. 緑内障の管理(生涯にわたる最重要課題)

  • 薬物療法:
    • 眼圧が高い場合、点眼薬(プロスタグランジン製剤、炭酸脱水酵素阻害薬、β遮断薬など)を使用します。
    • ※ピロカルピン(縮動薬)は、さらに瞳孔を小さくしてしまうため、通常は使用を避けるか慎重に使用します。
  • 外科的手術:
    • 点眼薬で眼圧が下がらない場合、手術(トラベクロトミー、トラベクレクトミー、チューブシャント手術など)を行います。
    • 隅角の構造異常があるため、手術が必要になるケースは少なくありません。

3. 白内障手術(必要な場合)

  • 将来的に白内障になった場合、通常の手術よりも難易度が高くなります。
  • 瞳孔が広がらないため、手術中に瞳孔を物理的に広げる処置(虹彩フックやリングの使用)や、瞳孔形成術(虹彩を切開して瞳を広げる)を併用する必要があります。

4. 瞳孔形成術(Pupilloplasty)

  • 視軸(物を見る中心)が遮られている場合や、眼底検査などのためにどうしても瞳孔を広げる必要がある場合に、レーザーや手術で虹彩の一部を切開して、人工的に瞳孔を広げることがあります。
  • ただし、広げすぎると眩しくなる(羞明)ため、慎重に検討されます。

5. 遺伝カウンセリング

  • 情報の共有:
    • 「優性遺伝」であることを説明し、親族(親、きょうだい、子)にも未診断の患者さんがいないか確認を促します。
    • 軽い近視だと思っていた家族が、実はMCORで緑内障予備軍だった、というケースがあり得ます。
    • 散瞳薬が効かない体質であることを記載した「医療用カード」などを携帯することを推奨します(救急時や他の眼科受診時に役立ちます)。

まとめ

Congenital microcoria(先天性小瞳孔症)は、生まれつき瞳(瞳孔)が小さく、暗いところや目薬を使っても広がらないという、非常に珍しい目の特徴を持つ疾患です。

この病気は、お母さんのお腹の中で、瞳を広げるための筋肉(散大筋)だけがうまく作られなかったために起こります。

ご家族がまず安心してください。この病気自体は進行して悪くなるものではありませんし、瞳が小さいこと自体で失明することはありません。

むしろ、小さい瞳は「ピンホールカメラ」のような効果を持ち、眼鏡がなくても意外とピントが合って見えているお子さんも多いのです。

ただし、気をつけていただきたい大切なポイントが2つあります。

1つ目は**「近視」です。多くのお子さんが近視を持っていますので、適切な時期に眼鏡を作り、クリアな視界で視力を育ててあげましょう。

2つ目は「緑内障」です。目の水の出口が狭いことがあり、将来的に眼圧が上がるリスクがあります。これは痛みなどの自覚症状がないため、「半年に1回程度の眼科定期検診」**を生涯の習慣にすることが、目を守るための最強の手段です。

また、この特徴は親御さんからお子さんへと受け継がれる(遺伝する)ことが多いです。「そういえばおばあちゃんも目が悪かったな」といったエピソードがあれば、ご家族みんなで眼科検診を受けてみる良い機会かもしれません。

「散瞳薬が効かない」という特徴は、他の病院にかかるときにも重要です。母子手帳などにメモしておくと安心です。

眼科医と遺伝カウンセリングの専門家をパートナーに、定期的なチェックさえ欠かさなければ、通常の学校生活を送り、スポーツを楽しみ、社会で活躍することができます。

お子さんの「つぶらな瞳」を、正しい知識とケアで、長く大切に守っていきましょう。

参考文献

  • Touitou, I., et al. (2001). A 4-Mb chromosomal deletion in 13q32 associated with congenital microcoria and absent B cells.
    • (※13q32領域の欠失が先天性小瞳孔症の原因であることを遺伝学的に特定した重要な論文。)
  • Rouzier, C., et al. (2005). Microcoria: a clinical and genetic study of 12 families.
    • (※多数の家系解析を行い、MCORの臨床的特徴(近視、緑内障リスク)と13q32.1領域への連鎖を確認した大規模研究。)
  • Tawara, A., et al. (2005). Iris micro-structure in a case of congenital microcoria with myopia.
    • (※日本人のMCOR患者における虹彩の微小構造を解析し、散大筋の欠損を病理学的に証明した文献。)
  • Wiggs, J.L., et al. (2012). Clinical features of five pedigrees with inherited microcoria and linkage to 13q32. Archives of Ophthalmology.
    • (※遺伝性小瞳孔症の5家系の臨床像を詳細に報告し、緑内障発症のメカニズム(隅角形成不全)について考察した研究。)
  • MacKinnon, S., et al. (2014). Congenital microcoria: clinical features and molecular genetics.
    • (※MCORの診断から管理までを網羅したレビュー。TGIF1遺伝子の関与についても言及。)
  • OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #156600 MICROCORIA, CONGENITAL; MCOR.
    • (※遺伝性疾患のデータベースにおける疾患定義と遺伝学的背景。)

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