別名・関連疾患名
- 10p13-p14欠失症候群(10p13-p14 deletion syndrome)
- ※遺伝学的に最も正確な、染色体の状態を表す名称です。
- 10p14微小欠失症候群(10p14 microdeletion syndrome)
- HDR症候群(HDR syndrome)との関連:
- 10p14領域の近傍にある10p15領域の欠失は、HDR症候群(Hypoparathyroidism, Deafness, Renal anomaly:副甲状腺機能低下症、難聴、腎異常)を引き起こします。DGS2の欠失範囲が広い場合、これらの症状が重なることがあります。
- 22q11.2欠失症候群(ディジョージ症候群 1型)との鑑別:
- 症状が酷似しているため、以前は混同されていましたが、現在は染色体10番の原因によるものを「2型(DGS2)」と区別します。
対象染色体領域
10番染色体 短腕(p)13から14領域
本疾患は、ヒトの10番染色体の短腕(pアーム)の先端に近い「14」から「13」と呼ばれるバンド領域において、DNA配列の一部が欠失すること(コピー数が1つになる:ハプロ不全)によって生じます。
【ゲノム上の詳細とクリティカルリージョン】
胎児期における「第3・第4咽頭嚢(いんとうのう)」という組織の発達に関わる遺伝子がこの領域に含まれています。ここから胸腺、副甲状腺、心臓の流出路などが作られるため、この領域が欠失するとこれらの臓器に一連の異常が生じます。
【最重要遺伝子:GATA3 およびその他候補遺伝子】
- GATA3 (GATA Binding Protein 3):
- 胸腺の発達、免疫細胞(T細胞)の分化、副甲状腺や耳、腎臓の形成に不可欠な司令塔となる遺伝子です。10p14領域の欠失にGATA3が含まれると、免疫不全や副甲状腺機能低下が顕著になります。
- CUGBP2 / CUEDC2:
- 心臓の形成や神経発達に関与している可能性が研究されており、これらの遺伝子が欠失範囲に含まれることで、DGS2特有の心疾患や発達遅滞が生じると考えられています。
発生頻度
極めて稀(Ultra-rare)
正確な有病率は確立されていませんが、ディジョージ症候群全体の約90%以上は22q11.2欠失(1型)であり、この10p13-p14欠失による2型(DGS2)は非常に希少です。
- 全世界での報告例も限られており、数万人に1人以下の頻度と推測されます。
- 22q11.2欠失が疑われる患者のうち、検査で22番に異常が見つからなかったケースの一部に、この10番染色体の異常(DGS2)が隠れていることがあります。
臨床的特徴(症状)
DGS2の症状は、22q11.2欠失症候群と共通する部分が多いですが、「免疫不全」や「腎奇形」の頻度が22q11.2欠失よりも高い可能性が示唆されています。
1. 先天性心疾患(Cardiac anomalies)
患者の約半数からそれ以上に見られる、生命予後に直結する重要な症状です。特に「心臓から血液が出る道」の異常が多く見られます。
- ファロー四徴症(Tetralogy of Fallot): 血液が混ざり、チアノーゼ(体が青白くなる)が起きる病気です。
- 心室中隔欠損症(VSD) / 心房中隔欠損症(ASD): 心臓の壁に穴が開いている状態です。
- 大動脈弓離断 / 動脈管開存症: 血管のつながり方が正常と異なる異常です。
2. 免疫不全(Immunodeficiency):胸腺低形成
- 胸腺の欠損・低形成:
- 10p13-p14領域は胸腺の発達に重要です。
- 胸腺はT細胞(ウイルスや細菌と戦う細胞)を育てる場所であるため、ここが未発達だと**「T細胞欠損」**が起き、重い感染症にかかりやすくなります。
- 完全に胸腺がない「完全型ディジョージ症候群」となるリスクが、22q11.2欠失よりも高いという報告があります。
3. 内分泌異常:副甲状腺機能低下症
- 低カルシウム血症:
- 副甲状腺が小さいため、血液中のカルシウム濃度を維持するホルモンが足りなくなります。
- 症状: 赤ちゃん時期のけいれん(テタニー)、筋硬直などが現れます。成長後もストレス時にカルシウムが下がることがあります。
4. 特徴的な顔貌(Craniofacial features)
22q11.2欠失と共通した、いくつかの控えめですが特徴的な顔立ちが見られます。
- 眼: 眼間開離(目が離れている)、眼瞼裂斜下(タレ目)。
- 鼻: 鼻根部が平坦、鼻先が丸い。
- 口・顎: 小顎症(あごが小さい)、耳の形が特徴的(低位付着耳、後方回転など)。
- 口蓋: 軟口蓋麻痺や粘膜下口蓋裂(見た目はつながっているが中の筋肉が分かれている)。これにより、ミルクが鼻から出る、言葉が鼻に抜ける(開鼻声)といった症状が出ます。
5. 腎臓・泌尿器の異常(Renal anomalies)
- 腎欠損・腎形成不全: 片方の腎臓がない、あるいは非常に小さい。
- 膀胱尿管逆流症: 尿が逆流し、腎盂炎などを起こしやすくなります。
- ※10p領域の欠失では、22番の欠失よりも腎奇形の合併率が高い傾向があります。
6. 神経発達・精神的特徴
- 発達遅滞・知的障害: 軽度から中等度の発達の遅れが見られることが多いです。
- 筋緊張低下: 乳児期に体が柔らかく、運動発達(首すわり、歩行)がゆっくりになります。
- 言葉の遅れ: 構音障害(うまく発音できない)や言語獲得の遅れ。
原因
10番染色体短腕(10p13-p14)の微小欠失が原因です。
1. 発生機序
- De novo(新生突然変異):
- 患者の約90%以上は、両親の染色体は正常であり、受精の過程で偶然に欠失が生じたものです。これは誰のせいでもなく、予防できるものではありません。
- 不均衡型転座:
- 稀に、親が「均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので健康)」を持っている場合があります。この場合、子に不均衡な形で受け継がれると欠失が生じ、再発リスクを考慮する必要があります。
2. ハプロ不全
- 遺伝子は通常2本でペアですが、1本失われることでタンパク質の産生量が半分になります。GATA3などの重要な遺伝子が半分になるだけで、複雑な臓器形成(特に心臓や胸腺)のプロセスが途中で止まってしまうことが原因です。
診断方法
臨床症状からディジョージ症候群が疑われる場合でも、22番の検査が陰性であるときに10番の異常を疑います。
- FISH法(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション):
- 10p13-p14領域に特異的な蛍光プローブを用い、欠失の有無を直接確認します。
- マイクロアレイ染色体検査(CMA):
- 現在、最も推奨される検査です。10番染色体のどの範囲が、どのくらい欠けているかを正確に測定できます。これにより、近隣のGATA3遺伝子などが含まれているかどうかも分かります。
- 画像検査・血液検査:
- 心エコー: 心疾患の有無を確認。
- 血液検査: T細胞数(免疫)、カルシウム値(副甲状腺)の測定。
- 腹部エコー: 腎奇形の有無を確認。
治療方法
欠失した染色体を治すことはできませんが、各症状に対して早期から専門的な介入を行うことで、良好な生活を送ることが可能です。
1. 外科的治療(心疾患・口蓋)
- 心臓手術: ファロー四徴症などの心疾患に対し、適切な時期に外科的矯正術を行います。
- 形成外科的治療: 口蓋裂や軟口蓋閉鎖不全に対し、言語や食事を改善するための手術を行います。
2. 内科的・免疫学的管理(重要)
- カルシウム補充: 低カルシウム血症に対し、活性型ビタミンD製剤やカルシウム剤の投与を生涯にわたって継続します。
- 免疫管理:
- 免疫不全がある場合、生ワクチンの接種を控える必要があります。
- 感染症予防のための抗生剤投与や、輸血が必要な際の外照射血(ドナーの細胞を除去したもの)の使用などの配慮が必要です。
- 極めて稀な「完全型」では胸腺移植などが検討されることもあります。
3. 発達・教育的支援
- 早期療育: 筋緊張低下に対するリハビリテーション(PT/OT)や、言葉の訓練(ST)を早期から開始します。
- 特別な教育的配慮: 知的障害や学習障害の程度に合わせ、個別の支援計画(IEP)に基づいた教育環境を整えます。
4. 腎臓の管理
- 腎奇形がある場合、定期的に尿検査やエコーを行い、腎機能が維持されているか、尿路感染症がないかをチェックします。
5. 遺伝カウンセリング
- 本疾患は希少であるため、ご家族の不安は非常に大きくなります。22q11.2欠失との違いや、それぞれの合併症に対する長期的な見通しについて、専門医や遺伝カウンセラーによるサポートが不可欠です。
まとめ
DiGeorge syndrome / velocardiofacial syndrome complex 2 (DGS2) は、10番染色体の一部が欠けていることで、心臓、免疫、カルシウム調節、腎臓など全身にさまざまな特徴が現れる疾患です。
「1型」として知られる22番染色体の欠失とよく似ていますが、DGS2では特に免疫系や腎臓のチェックが重要となります。
ご家族にとって、多くの診療科を受診することは大変な負担ですが、心臓血管外科、小児科、免疫学、内分泌学の専門家が連携することで、お子様はそれぞれの壁を乗り越えて成長していくことができます。
早期に診断を受け、適切な免疫管理とカルシウム補給を行うことが、将来の健康を守る鍵となります。ゆっくりとした発達の歩みに合わせ、療育や教育の場で適切なサポートを組み合わせていきましょう。
参考文献
- Schuffenhauer, S., et al. (1998). The 10p13-p14 DiGeorge critical region (DGCR2).
- (※DGS2のクリティカルリージョンを特定し、10番染色体短腕欠失とディジョージ症候群の関連を確立した重要論文。)
- Lichtner, P., et al. (2000). An integrated genetic and cytogenetic map of the DiGeorge syndrome 2 region on 10p14-p13.
- (※DGS2領域の遺伝子マップを詳細に示した研究。)
- Yagi, H., et al. (2003). GATA3 haploinsufficiency causes human HDR syndrome.
- (※DGS2と密接に関連する10p欠失領域のGATA3遺伝子の機能不全が、副甲状腺や聴覚に与える影響を解析。)
- Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): 10p deletions (2018).
- (※希少染色体異常の患者団体による、10p欠失を持つご家族向けの包括的なガイドブック。)
- GeneReviews® [Internet]: 22q11.2 Deletion Syndrome. (※DGS2との臨床的比較において、1型の管理ガイドラインが参照されることが多い。)
- OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #601362 DIGEORGE SYNDROME, TYPE II; DGS2.
- (※本疾患の遺伝学的背景、症例報告、遺伝子座に関する最新のデータベース。)
詳しくは ヒロクリニック全国のクリニック一覧 をご覧ください。


