Monosomy 10p syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • 10p欠失症候群(10p deletion syndrome)
  • 10p末端欠失症候群(10p terminal deletion syndrome)
  • ディジョージ症候群 2型(DiGeorge syndrome 2; DGS2)
    • ※10p13-p14領域の欠失により、ディジョージ症候群(通常は22番染色体の異常)とほぼ同一の臨床像を呈することから、このように呼ばれます。
  • HDR症候群(HDR syndrome)
    • ※Hypoparathyroidism(副甲状腺機能低下症)、Deafness(感音性難聴)、Renal anomaly(腎異常)の頭文字をとった症候群で、10p14-p15領域の欠失が原因となります。10pモノソミー症候群の表現型の一つとして扱われます。

対象染色体領域

10番染色体 短腕(p)13領域から末端(p15)にかけての微小欠失

10pモノソミー症候群は、10番染色体の一方の短腕末端部分が失われることで発症します。欠失する範囲の大きさや位置によって、症状の重症度や組み合わせが大きく変わる「隣接遺伝子欠失症候群」です。

【ゲノム上の詳細と主要な責任遺伝子】

この領域には、体の形成において極めて重要な役割を果たす「司令塔」のような遺伝子が複数含まれています。

  • GATA3遺伝子 (10p14.3):
    • 最も重要な遺伝子の一つです。副甲状腺、内耳(聴覚)、腎臓の発達を制御しています。この遺伝子が微小欠失によって1つ失われる(ハプロ不全)と、HDR症候群の特徴が現れます。
  • DGS2領域 (10p13-p14):
    • この領域が失われると、胸腺の低形成(免疫不全)や先天性心疾患が引き起こされます。これは、胎児期の「咽頭嚢(いんとうのう)」という組織の発達に関わる遺伝子群が含まれているためです。
  • CUGBP2 / CUEDC2遺伝子:
    • 心臓の流出路形成や神経発達に関与している可能性が示唆されています。

発生頻度

極めて稀(Ultra-rare)

  • 推定頻度: 正確な統計はありませんが、世界的に見ても報告例は限られており、数万人に1人、あるいはそれ以下の頻度と考えられています。
  • 診断の傾向: ディジョージ症候群が疑われた患者の中で、22q11.2の検査が陰性であったケースから発見されることが多く、近年のマイクロアレイ検査の普及により、診断数が増えつつあります。
  • 性差: 男女差はなく、どちらの性別でも発症します。

臨床的特徴(症状)

10pモノソミー症候群の症状は多岐にわたり、心臓、免疫、内分泌、感覚器、そして精神発達に及びます。欠失範囲が10p末端(p15)側に限定されているか、より中心部(p13)まで及んでいるかによって臨床像が分かれます。

1. ディジョージ症候群様の症状(DGS2)

  • 先天性心疾患: 約50%以上の症例で見られます。特にファロー四徴症、心室中隔欠損(VSD)、大動脈弓離断などの「心臓流出路異常」が典型的です。
  • 免疫不全(胸腺低形成): 胸腺がうまく作られないため、T細胞という免疫細胞が不足します。これにより、ウイルスや細菌に感染しやすくなります(易感染性)。
  • 低カルシウム血症: 副甲状腺機能低下により、血中のカルシウム濃度が低下し、新生児期のけいれん(テタニー)の原因となります。

2. HDR症候群の特徴(GATA3関連)

  • 感音性難聴: 生まれつき、あるいは幼児期から両側性の難聴が見られます。高音域から進行することがあります。
  • 腎異常: 腎欠損(片方の腎臓がない)、腎形成不全、嚢胞性腎疾患などが認められます。
  • 副甲状腺機能低下: 長期的なカルシウム管理が必要になります。

3. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

診断の示唆となるいくつかの外見的特徴があります。

  • 広い額と高いヘアライン: 額が広く見えます。
  • 眼間開離: 両目の間隔が広く離れています。
  • 耳の異常: 耳の位置が低い(低位付着耳)、後方に回転している、あるいは耳介の変形。
  • 鼻: 鼻根部が平坦で、鼻先が丸い。
  • 小顎症: あごが小さく、後ろに下がっている。

4. 神経発達と知的機能

  • 知的障害・発達遅滞: ほぼすべての症例で、軽度から重度の知的発達の遅れが認められます。
  • 筋緊張低下: 乳児期に「フロッピーインファント」として現れることが多く、運動発達(首すわり、お歩き)を遅らせます。
  • 言葉の遅れ: 難聴の影響もあり、言語の獲得には特別な支援が必要になることが多いです。

原因

10p13-p15領域の微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)

  1. 新生突然変異(約80%以上):
    両親の染色体は正常であり、受精の過程で偶然に10pの微小欠失が生じたものです。誰のせいでもなく、予防できるものではありません。この場合、次子(きょうだい)への再発リスクは極めて低いです。
  2. 均衡型転座の継承:
    親のどちらかが「均衡型転座(染色体の一部が入れ替わっているが、量は正常なので本人は健康)」を持っている場合、次子に不均衡な形で受け継がれ、微小欠失が生じるリスクがあります。この場合は、次子への再発リスクを考慮した遺伝カウンセリングが重要です。

診断方法

臨床的な「ディジョージ症状」や「難聴・腎異常」から疑われ、遺伝子検査によって確定されます。

  • マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断の第一選択です。10p領域のどの部分が、どのくらいのサイズで欠けているかを正確に特定できます。
  • FISH法:
    特定の領域を光らせて欠失を確認します。親の染色体構成を調べる際にも多用されます。
  • 全身のスクリーニング検査:
    • 心エコー: 先天性心疾患の有無と重症度を評価。
    • 腹部超音波: 腎臓の形や異常を確認。
    • 血液検査: カルシウム、リン、PTH(副甲状腺ホルモン)、および免疫細胞(T細胞)の数を確認。
    • 聴力検査(ABR/ASSR): 早期の難聴診断。

治療方法

現代の医学において、染色体の欠失を修復する根本的な治療法はありません。治療の主眼は、それぞれの症状に対する**「多職種連携による対症療法」と「予防的管理」**に置かれます。

1. 内科・内分泌的管理

  • 低カルシウム血症の治療: 活性型ビタミンD製剤やカルシウム剤の投与。
  • 免疫管理: 免疫不全がある場合、感染症の早期治療や、生ワクチンの接種可否の慎重な判断が必要です。

2. 外科的治療

  • 心臓手術: 先天性心疾患に対し、必要に応じて外科的な矯正手術を行います。
  • 泌尿器科的処置: 腎異常や尿路感染症に対する管理。

3. 感覚器のサポート

  • 難聴への対応: 早期の補聴器装用や、必要に応じた人工内耳の検討。言語発達を促すために、手話や視覚的支援を用いた言語療法(ST)が行われます。

4. 発達支援・療育

  • 理学療法(PT)および作業療法(OT): 筋緊張低下や運動発達遅滞に対するリハビリテーション。
  • 特別支援教育: 知的レベルや個々の特性に合わせた個別の教育支援計画(IEP)。

予後

予後は合併症(特に心疾患の重症度と免疫不全の程度)に大きく左右されます。

  • 心臓の手術が成功し、カルシウム管理や感染症対策が適切に行われれば、多くの方が成人期を迎えることができます。
  • 知的発達や難聴への対応など、長期的な生活支援が必要になりますが、適切な療育によりそれぞれのペースで成長していきます。

まとめ

Monosomy 10p syndrome(10pモノソミー症候群)は、10番染色体の先端にある大切な設計図(遺伝子)が、ほんのわずかに失われる「微小欠失」によって起こる病気です。

この設計図には、心臓、耳(聴力)、副甲状腺(カルシウム)、腎臓などを作るための指令が含まれているため、全身にさまざまな影響が現れます。

「22q11.2欠失症候群」と非常によく似た症状を持ちますが、この10pモノソミー特有の「難聴」への早期対応が、言葉やコミュニケーションの発達を守るためにとても重要です。

診断がついたとき、ご家族は不安に思われるかもしれませんが、今は多くの専門医(小児科、心臓外科、耳鼻科、内分泌科、遺伝診療部など)がチームを組んで、一つひとつの症状をサポートできる体制が整っています。お子様の歩幅に合わせた成長を、長く温かく支えていきましょう。

参考文献元

  • Schuffenhauer, S., et al. (1995). Deletion 10p and DiGeorge syndrome. Journal of Medical Genetics.
    • (10p欠失とディジョージ症候群の臨床的な関連を解明した初期の重要論文。)
  • Van Esch, H., et al. (2000). GATA3 haploinsufficiency causes human HDR syndrome. Nature.
    • (GATA3遺伝子の欠失がHDR症候群の原因であることを特定した画期的な研究。)
  • Lindstrand, A., et al. (2010). Molecular characterization of 10p terminal deletions.
    • (10p末端欠失の範囲と臨床症状(フェノタイプ)の相関を詳細に分析した文献。)
  • GeneReviews® [Internet]: HDR Syndrome / 10p Deletion. (NCBI).
    • (最新の医学的知見に基づく診断・管理・遺伝カウンセリングの標準的データベース。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 10p Deletions: A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイドブック。)
  • Orphanet: 10p15 deletion syndrome / 10p13-p14 deletion syndrome.
    • (希少疾患の国際的なポータルサイトによる病態概要。)

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