別名・関連疾患名
- TSC2/PKD1隣接遺伝子欠失症候群(TSC2/PKD1 contiguous gene deletion syndrome)
- PKDTS
- 重症乳児型多嚢胞性腎症を合併した結節性硬化症
- 関連:結節性硬化症 (Tuberous Sclerosis Complex; TSC)
- 関連:常染色体顕性(優性)多嚢胞性腎症 (ADPKD)
対象染色体領域
16番染色体 短腕(p)13.3領域の微小欠失
PKDTSは、16番染色体短腕の「16p13.3」という位置にある、背中合わせに隣接した2つの原因遺伝子が、ひとまとめに失われる微小欠失によって引き起こされます。
【ゲノム上の詳細と病態メカニズム】
- TSC2遺伝子: 結節性硬化症の原因遺伝子であり、細胞増殖を制御するmTORシグナルの抑制因子(ツベリン)をコードしています。
- PKD1遺伝子: 常染色体顕性多嚢胞性腎症(ADPKD)の主要な原因遺伝子であり、腎臓の尿細管形成を調節するタンパク質(ポリシスチン1)をコードしています。
これら2つの遺伝子は、16p13.3上でわずか数十キロベース(kb)の距離で隣接しており、5’端同士が非常に近い位置にあります。このため、この領域で微小欠失が起こると、両方の遺伝子が同時に欠損します。この「隣接遺伝子欠失」の結果、結節性硬化症の全身症状(腫瘍形成)と、ADPKDの腎症状が、相乗的に、かつ極めて早期(胎児期~乳児期)に現れることになります。
発生頻度
極めて稀(結節性硬化症患者の約2〜3%)
- 希少性: 結節性硬化症(TSC)自体の頻度が約6,000人〜10,000人に1人とされていますが、その中でPKDTSの病態を示すのはごくわずかです。
- 診断の傾向: 単独の多嚢胞性腎症(ADPKD)は通常30代〜50代で発症しますが、PKDTSは乳幼児期、あるいは胎児期の超音波検査で巨大な多嚢胞腎が発見されるため、小児科領域で診断されることがほとんどです。
臨床的特徴(症状)
PKDTSは、結節性硬化症の全身症状と、非常に重篤な多嚢胞性腎症の症状が併発します。
1. 腎臓の症状(Infantile severe PKD)
本疾患の最も顕著かつ予後を左右する特徴です。
- 巨大多嚢胞腎: 出生時、あるいは胎児期から両側の腎臓が著しく腫大し、多数の嚢胞(水の袋)で満たされます。
- 早期の腎不全: 通常のADPKDと異なり、乳幼児期に急速に腎機能が低下します。
- 重症高血圧: 腎臓の腫大と嚢胞形成に伴い、乳児期から制御困難な高血圧を来すことが多く、心負荷や脳出血のリスクとなります。
- 腹部膨満: 巨大化した腎臓によりお腹が大きく膨らみ、呼吸不全や哺乳障害を引き起こすことがあります。
2. 結節性硬化症 (TSC) の症状
全身の様々な臓器に良性の腫瘍(結節)が形成されます。
- 脳病変: 皮質結節(チュベール)、上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)などが形成され、てんかん発作(特に点頭てんかん)や発達遅滞の原因となります。
- 皮膚症状: 白斑(木の葉状白斑)、顔面の血管線維腫、シャグリンパッチなど。
- 心臓病変: 心横紋筋腫(胎児期から乳児期に発見されやすく、成長とともに退縮することが多いですが、不整脈の原因になることがあります)。
- 眼病変: 網膜過誤腫。
3. 神経発達
- 知的障害・発達遅滞: 脳病変や難治性てんかんの影響により、中等度から重度の発達遅滞を伴うことが一般的です。
- 自閉スペクトラム症(ASD): 結節性硬化症に関連した行動特性が見られることがあります。
原因
16p13.3におけるTSC2およびPKD1遺伝子を含む微小欠失(常染色体顕性遺伝形式)
- 遺伝形式:常染色体顕性(優性)遺伝 です。
- 遺伝子のペアのうち、片方の染色体で隣接する2遺伝子が欠失(微小欠失)することで発症します。
- 新生突然変異(De novo deletion):
- ほとんどの症例において、両親は正常な遺伝子を持っており、受精卵の形成過程で偶然に微小欠失が生じたものです。
- 一部の症例では、親が結節性硬化症のみの症状を持つ「モザイク」状態であったり、染色体再構成を持っている場合があります。
- 遺伝子量効果(ハプロ不全):
- 特にPKD1遺伝子が1本分完全に失われることが、通常のADPKD(遺伝子内変異)よりも重症化する主因と考えられています。
診断方法
胎児期・乳児期の画像診断と、分子遺伝学的検査を組み合わせて確定します。
- 画像診断:
- 腹部超音波/MRI: 両側の巨大な多嚢胞腎を確認します。胎児期に「輝度が高い巨大な腎臓」として発見されることも多いです。
- 頭部MRI: TSC特有の脳病変(皮質結節など)を検索します。
- 心エコー: 心横紋筋腫の有無を確認します。
- 分子遺伝学的検査(確定診断):
- マイクロアレイ染色体検査(CMA): 16p13.3領域の微小欠失を検出するための最も有効な手段です。TSC2とPKD1の両方が欠失していることを証明します。
- MLPA法: 特定の領域のコピー数変化(欠失)を調べる検査で、迅速な診断に役立ちます。
- 臨床評価:
- 結節性硬化症の国際診断基準に基づき、皮膚、眼、脳などの全身評価を行います。
治療方法
根本的な治療法はありませんが、近年の分子標的薬の登場により、管理方法が劇的に変化しています。
1. 腎症状の管理
- 降圧治療: ACE阻害薬やARBなどの薬剤を用い、厳格な血圧管理を行います。
- 腎不全治療: 進行した場合は、腹膜透析や血液透析が必要になります。
- 腎摘出手術: 腎臓が巨大化しすぎて呼吸や栄養摂取を妨げる場合、あるいは難治性の出血や感染がある場合、腎摘出術とそれに続く透析・腎移植が検討されます。
2. 分子標的薬(mTOR阻害薬)
- エベロリムス(アフィニトール):
- 欠損したTSC2の機能を補うように、過剰なmTORシグナルを抑制します。
- 脳のSEGAや腎血管筋脂肪腫に対して承認されていますが、PKDTSの症例においても、巨大な多嚢胞腎の増大抑制や、高血圧の改善に効果があったという報告が増えており、早期からの使用が検討されることがあります。
3. 神経・てんかん治療
- 抗てんかん薬: 点頭てんかんに対してはビガバトリン(サブリル)やACTH療法が行われます。
- 発達支援: 早期からのリハビリテーション(PT/OT/ST)と、療育的サポート。
4. 皮膚・その他の管理
- レーザー治療(血管線維腫)や、定期的な眼科・歯科検診。
予後
- 腎予後: PKDTSの予後は、乳児期の腎機能管理と高血圧の制御に強く依存します。多くの場合、10代までに末期腎不全に至り、透析や腎移植が必要となります。
- 生命予後: 早期の心不全(心横紋筋腫による不整脈)や、脳のSEGAによる水頭症などの合併症が適切に管理されれば、長期生存が可能です。
- QOL: 重度の発達遅滞を伴うことが多いため、生涯にわたる包括的な生活支援が必要になります。
まとめ
PKDTS(結節性硬化症を伴う重症乳児型多嚢胞性腎疾患)は、16番染色体上の大切な2つの遺伝子が、お隣さん同士で一緒に失われてしまう(微小欠失)ことで起こる、非常に珍しい病気です。
「全身に腫瘍ができやすい(結節性硬化症)」という体質と、「赤ちゃんの時から腎臓にたくさんの水の袋ができる(多嚢胞性腎症)」という2つの病気が同時に現れるため、一般的なケースよりも早期からの専門的なケアが必要になります。
特に、赤ちゃんの時期からの血圧管理や腎機能のサポートがとても重要です。
診断を聞いて、ご家族は大きな不安に包まれることでしょう。しかし、現在は「mTOR阻害薬」という新しいお薬が登場し、腫瘍の増大を抑えたり、腎臓の状態を改善したりする道が拓かれています。
小児科、腎臓科、神経科、遺伝科の専門家がチームを組み、お子様の成長を全力で支えていきます。最新の情報を得ながら、お子様にとって最善のケアを一緒に考えていきましょう。
参考文献元
- Brook-Carter, P. T., et al. (1994). Deletion of the TSC2 and PKD1 genes associated with severe infantile polycystic kidney disease—a contiguous gene syndrome. Nature Genetics.
- (PKDTSが隣接遺伝子欠失症候群であることを世界で初めて証明した、本疾患の原典となる論文です。)
- Longa, L., et al. (2008). TSC2/PKD1 contiguous gene syndrome: Description of a series of 9 patients and review of the literature.
- (9症例の詳細な臨床経過と、遺伝子欠失の範囲を分析した重要論文。)
- Biava, A., et al. (2019). Everolimus for renal manifestation of TSC2/PKD1 contiguous gene syndrome.
- (mTOR阻害薬エベロリムスが、PKDTSの腎症状に対して有効であったことを報告した最新の臨床知見。)
- GeneReviews® [Internet]: Tuberous Sclerosis Complex. (NCBI).
- (結節性硬化症全体の診断・管理に関する標準的データベース。TSC2/PKD1欠失についても言及あり。)
- Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): 16p13.3 microdeletions including TSC2 and PKD1.
- (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイド。)
- 日本結節性硬化症学会: 結節性硬化症の診断基準および治療指針.
- (国内の標準的な診療ガイドライン。)
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