📌 この記事でわかること
- パトウ症候群(13トリソミー)とはどんな病気か、別名と基礎知識
- 単眼症をはじめとする、全身にあらわれる主な症状・特徴
- 原因となる3つのタイプ(標準型・転座型・モザイク型)と再発リスクの考え方
- 出生前・出生後の診断方法と、利用できる検査の種類
- 治療・ケアの進め方と、変化してきた予後・家族の意思決定
パトウ症候群(ぱとうしょうこうぐん)は、13番染色体が通常より1本多い3本になることで生じる先天性の染色体疾患です。医学的には13トリソミーと呼ばれます。脳・顔面・心臓など体の中心線に沿った臓器に重い形成不全を伴いやすく、まれに単眼症のような重篤な所見があらわれることもあります。
「検査で13トリソミーの可能性を告げられた」「わが子にパトウ症候群と診断された」。そうした場面で、深い不安や悲しみのなかこのページを開いた方もいらっしゃると思います。
この記事では、パトウ症候群の症状・原因・単眼症との関係から、診断方法や治療・予後の考え方までを、公的機関や医学文献をもとに整理しました。私たちが日々ご家族と向き合うなかで感じるのは、正確に知ることが、次の一歩を選ぶ支えになるということです。過度に不安を煽らないよう、事実をていねいにお伝えします。落ち着いて読み進めていただければ幸いです。
パトウ症候群(13トリソミー)とは?別名と基礎知識

パトウ症候群は、13番染色体が3本存在することで全身の臓器形成に影響があらわれる、常染色体トリソミーのひとつです。いくつかの呼び名があり、場面によって使い分けられています。
| 別名・呼称 | 由来・意味 |
|---|---|
| 13トリソミー(Trisomy 13) | 遺伝学的に最も正確で、現在の医療現場で最も一般的に使われる名称 |
| パトウ症候群(Patau syndrome) | 1960年に本症候群を報告したクラウス・パトウ博士にちなむ名称 |
| Dトリソミー | 染色体の大きさによる分類(Dグループ:13・14・15番)に基づいた呼称 |
| 13番染色体三体性 | 13番染色体が3本ある状態を日本語で表した名称 |
常染色体のトリソミーとしては、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)に次いで3番目に多い疾患です。染色体の一部が失われる13q部分欠失症候群とは、同じ13番染色体に関わりながらも成り立ちが異なる疾患です。
対象となる染色体領域(13番染色体全体)
本症候群は、13番染色体の1本すべてが過剰になること(全長の重複)で生じます。通常、ヒトの細胞には13番染色体が2本ありますが、パトウ症候群ではこれが3本になっています。
13番染色体は約1億1,400万個の塩基対からなり、数百の遺伝子を含みます。この染色体が1本多くなると、そこに含まれる遺伝子の産物(タンパク質など)の量のバランスが崩れ、胎児の全身の臓器形成に深刻な影響が及びます。とくに脳・顔面・心臓・腎臓・消化器といった、体の正中線(中心線)に沿った部分の形成不全が起こりやすいのが特徴です。
パトウ症候群の発生頻度
出生児のおよそ5,000〜12,000人に1人とされ、常染色体トリソミーのなかでは3番目に多い疾患です。報告により幅があり、海外の統計では約16,000人に1人とする資料もあります。
- 頻度の順位:ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群(18トリソミー)に次いで多い常染色体トリソミーです。
- 母体年齢との関係:21トリソミーや18トリソミーと同様に、母親の出産年齢が上がるほど発生頻度が高くなる傾向があります。
- 流産・死産:妊娠中に13トリソミーと診断された場合、その多くが自然流産や死産に至り、出生に至るのは一部です。
パトウ症候群の主な症状・特徴
症状は全身の多くの臓器に及び、出生時の身体的な特徴がはっきりしているのが本症候群の特徴です。あらわれ方や程度には個人差があります。まず全体像を系統別に整理します。
| 部位・系統 | 主にみられる特徴 |
|---|---|
| 脳・顔面(正中線) | 全前脳症、小眼球症・単眼症、口唇裂・口蓋裂、鼻の形成不全、頭皮欠損 |
| 四肢・骨格 | 多指(趾)症、重なり指、揺り椅子状足底 |
| 内臓 | 先天性心疾患(約80%以上)、腎疾患、臍帯ヘルニアなど |
| 感覚器・発達 | 重度の難聴、著しい運動・知的発達の遅れ |
中枢神経系・顔面の特徴(単眼症を含む)
体の正中線に沿った形成不全が目立ちます。その代表が、脳が左右に分かれない全前脳症。ここでは主な所見を順にみていきます。
- 全前脳症(ぜんぜんのうしょう):本来は左右に分かれて発達する大脳が、うまく分かれない脳の形成異常です。知的発達や生命維持の機能に大きく影響します。
- 単眼症・小眼球症:目が非常に小さい小眼球症のほか、ごくまれに、左右の眼が中央でひとつになる単眼症がみられることがあります。単眼症は全前脳症のなかでも最も重い形であり、パトウ症候群はその代表的な原因のひとつとして知られています。頻度は高くありませんが、13トリソミーと単眼症の関わりを示す所見です。
- 口唇裂・口蓋裂:唇や口の中の天井が割れている状態で、哺乳や呼吸に影響することがあります。
- 頭皮欠損:頭の皮膚の一部が欠けていることがあります。
四肢・骨格の特徴
- 多指(趾)症:手や足の指が6本以上ある状態です。とくに小指側に余分な指がある「軸後性多指症」が多くみられます。
- 重なり指:指が重なり合って握り込まれている状態です。
- 揺り椅子状足底:足の裏が丸く突き出したような形になります。
内臓の合併症(予後に直結する要因)
生命の見通しを大きく左右するのが、内臓の合併症。とくに心疾患は高い割合で合併します。
- 先天性心疾患(約80%以上):心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)などがみられ、出生後の心不全や呼吸不全の主な原因になります。
- 泌尿生殖器の疾患:嚢胞性腎疾患、馬蹄腎のほか、男児の停留精巣、女児の双角子宮など。
- 消化器の疾患:臍帯ヘルニアや腸回転異常など。
感覚器・発達の特徴
- 難聴:内耳の形成異常による重い難聴を伴うことがあります。
- 発達の遅れ:運動・知能ともに大きな遅れを伴います。療育を通して、その子の持つ力を引き出していきます。
パトウ症候群の原因と3つのタイプ
原因は13番染色体が過剰になることですが、その起こり方によって3つのタイプに分かれ、これが次のお子さんへの再発リスクを左右します。まずタイプ別に整理します。
| タイプ | 割合の目安 | 次子への再発リスク |
|---|---|---|
| 標準型13トリソミー | 約80% | 低い(多くは偶然の新生突然変異) |
| 転座型 | 約15% | 親が均衡型転座の保因者なら高くなる。染色体検査が必要 |
| モザイク型 | 約5% | 状態により個別の評価が必要 |
1. 標準型13トリソミー:約80%
もっとも多いタイプです。卵子または精子がつくられる過程(減数分裂)で、13番染色体がうまく分かれない「染色体不分離」が原因で起こります。そのほとんどは偶然の新生突然変異であり、ご両親の染色体は正常です。親の生活習慣が原因になるわけではありません。
2. 転座型:約15%
13番染色体の一部が、ほかの染色体(主に14番や15番)に付着しているタイプです(ロバートソン型転座)。この場合、ご両親のどちらかが「均衡型転座の保因者」であることがあります。保因者ご自身は健康ですが、次のお子さんへの再発リスクを考えるうえで、ご両親の染色体検査がすすめられます。
3. モザイク型:約5%
受精した後の細胞分裂の途中で不分離が起こり、13トリソミーの細胞と正常な細胞が体のなかに混在しているタイプです。正常な細胞の割合によっては、症状が比較的やわらかであったり、生存期間が長くなったりすることがあります。
パトウ症候群の診断方法

出生前は超音波やNIPTで疑い、羊水検査などの確定的検査で診断します。出生後は染色体核型分析で確定します。それぞれの検査は次のとおりです。染色体の検査全般については臨床現場で行われている遺伝子検査についてもあわせてご覧ください。
出生前の診断
- 超音波検査:全前脳症、口唇口蓋裂、多指症、臍帯ヘルニア、胎内発育不全などの所見から疑われます。
- NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査):母体の血液中に含まれる胎児由来のDNAを解析する検査です。あくまで可能性を調べる検査であり、確定診断ではありません。
- 確定的検査:羊水検査または絨毛検査で採取した細胞を用い、染色体の核型を分析して診断を確定します。
出生後の診断
新生児の血液細胞を用いた染色体核型分析(Gバンド分染法)で、13番染色体が3本あることを確認し、確定診断を下します。先天性の疾患と検査の関係を広く知りたい方は、遺伝子検査で見る先天性疾患とその予防策も参考になります。
パトウ症候群の治療・ケアの考え方

治療の考え方は近年大きく変わり、症状に合わせた対症療法と、ご家族の意向を尊重した意思決定が重視されるようになりました。以前は看取りが中心とされてきましたが、現在は選択肢が広がっています。
1. 呼吸・循環の管理
- 出生直後の呼吸不全に対し、酸素投与や人工呼吸器の使用を検討します。
- 心不全の症状をやわらげるため、強心剤や利尿剤を用いることがあります。
2. 外科的治療(積極的治療)
- 心臓手術:心不全のコントロールや肺高血圧の進行を防ぐため、姑息術(肺動脈絞扼術など)や根治術が検討されるケースが増えています。
- 口唇裂・口蓋裂の手術:哺乳や呼吸の改善のために行われます。
- 多指症の手術:余分な指に対する形成外科的な手術を行うことがあります。
3. 支持療法とハビリテーション
- 栄養の管理:吸う力が弱いため、経管栄養(鼻チューブ)や胃瘻でサポートします。
- 感染症への対策:肺炎などを起こしやすいため、早めの抗生剤治療やワクチン接種を行います。
- 発達の支援:理学療法などを通じてお子さんの持つ力を引き出し、ご家族とのふれあいを支えます。
4. ご家族の意思決定と支援
手術という積極的な治療を選ぶか、穏やかな時間を大切にするか。どちらが正しいという答えはありません。小児科医・看護師・遺伝カウンセラーといった医療チームと対話を重ね、お子さんにとって最善の道をご家族と一緒に探していくことが何より大切です。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してください。
パトウ症候群の予後
従来は非常に短い命とされてきましたが、医療の進歩と積極的治療の広がりにより、長く生きるお子さんも報告されるようになっています。予後は合併症の重さやタイプによって大きく異なります。
- これまでの統計:従来は「1年生存率は10%未満」「生存期間の中央値は生後7〜10日ほど」と報告されてきました。
- 近年の動向:医療技術の進歩と積極的治療の導入により、1年以上生存するお子さんが増え、なかには10代まで成長するケースも報告されています。
- 主な死因:心不全、無呼吸、重症の感染症が中心です。
パトウ症候群に関するよくある質問(FAQ)
Q1. パトウ症候群と13トリソミーは同じ病気ですか?
同じ病気を指します。13番染色体が3本あることで起こる先天性の染色体疾患で、医療現場では「13トリソミー」という名称が最も一般的に使われます。「パトウ症候群」は、1960年に本症候群を報告したパトウ博士にちなむ呼び名です。
Q2. パトウ症候群の主な症状は何ですか?
脳の形成異常(全前脳症)、小眼球症や単眼症などの目の異常、口唇裂・口蓋裂、多指症、そして約80%以上に合併する先天性心疾患などが代表的です。症状の程度には個人差があり、あらわれ方もお子さんによって異なります。
Q3. パトウ症候群と単眼症にはどんな関係がありますか?
単眼症は、大脳が左右に分かれない全前脳症の最も重い形としてあらわれる、左右の眼がひとつになる所見です。パトウ症候群はこの全前脳症を伴いやすく、単眼症の代表的な原因のひとつとして知られています。ただし単眼症の頻度は高くなく、13トリソミーのすべてでみられるものではありません。
Q4. パトウ症候群は遺伝しますか?次の子への影響は?
約80%を占める標準型は偶然の新生突然変異で起こり、次のお子さんへの再発リスクは低いとされます。一方、約15%の転座型では、ご両親のどちらかが均衡型転座の保因者だと再発リスクが高くなります。どのタイプかはご両親の染色体検査で確認でき、遺伝カウンセリングで見通しを整理できます。
Q5. パトウ症候群の子どもはどのくらい生きられますか?
合併症の重さによって大きく異なります。従来は1年生存率が10%未満とされてきましたが、近年は積極的治療の広がりにより、1年以上、なかには10代まで成長するお子さんも報告されています。数字だけで見通しは決まりません。ご家族の意向を医療チームと共有しながら、その子に合ったケアを選んでいくことが大切です。
まとめ
パトウ症候群(13トリソミー)は、13番染色体が3本あることで、脳・顔面・心臓などに多くの形成異常を伴って生まれてくる疾患です。まれに単眼症のような重い所見を伴うこともあります。
告知を受けたご家族にとって、その衝撃と悲しみは計り知れないものです。かつては非常に短い命とされてきましたが、現在は医療の進歩により、ご家族と過ごす時間を少しでも長く、豊かにするための選択肢が増えています。
手術を選ぶか、穏やかな時間を優先するか。正解はありません。私たちが診療の現場で感じるのは、お子さんは言葉がなくても、確かにご家族の愛を受け取り、生きる力を見せてくれるということです。医療チームと対話を重ね、ご家族が納得できる道を一緒に探していきましょう。ほかの染色体疾患について知りたい方は、エドワーズ症候群(18トリソミー)の解説もあわせてご覧ください。
参考文献
- 小児慢性特定疾病情報センター. 13トリソミー症候群.(概要・症状・診断・支援制度を公的機関がまとめた解説。発生頻度の出典。ページはこちら)
- MedlinePlus Genetics. Trisomy 13. U.S. National Library of Medicine.(原因・頻度・症状・遺伝形式を公的機関がまとめた解説。ページはこちら)
- National Organization for Rare Disorders (NORD). Trisomy 13 Syndrome.(症状・原因・治療を患者団体がまとめた解説。ページはこちら)
- Cereda A, Carey JC. The trisomy 13 syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases. 2012;7:81.(疫学・臨床像・管理・予後を包括的にまとめたレビュー論文。全文はこちら)
- Patau K, Smith DW, Therman E, et al. Multiple congenital anomaly caused by an extra autosome. The Lancet. 1960;1(7128):790-793.(本症候群を世界で初めて定義した歴史的な原著論文。)