📌 この記事でわかること
- エドワーズ症候群(18トリソミー)とはどんな病気か、別名と基礎知識
- 揺り椅子状の足や重なり指など、全身にあらわれる主な症状・特徴
- 原因となる3つのタイプ(標準型・転座型・モザイク型)と再発リスクの考え方
- NIPTや超音波など、出生前・出生後の診断方法
- 治療・ケアの進め方と、変化してきた予後・ご家族の意思決定
エドワーズ症候群(えどわーずしょうこうぐん)は、18番染色体が通常より1本多い3本になることで生じる先天性の染色体疾患です。医学的には18トリソミーと呼ばれます。心臓・消化器・脳など全身の多くの臓器に形成の異常を伴いやすく、揺り椅子状の足や重なり指といった特徴的な所見があらわれることが知られています。
「検査で18トリソミーの可能性を告げられた」「わが子がエドワーズ症候群と診断された」。そうした場面で、深い不安や悲しみのなかこのページを開いた方もいらっしゃると思います。
この記事では、エドワーズ症候群の症状・原因・診断から、治療や予後の考え方までを、公的機関や医学文献をもとに整理しました。私たちが日々ご家族と向き合うなかで感じるのは、正確に知ることが、次の一歩を選ぶ支えになるということ。過度に不安を煽らないよう、事実をていねいにお伝えします。落ち着いて読み進めていただければ幸いです。
エドワーズ症候群(18トリソミー)とは?別名と基礎知識

エドワーズ症候群は、18番染色体が3本存在することで全身の臓器形成に影響があらわれる、常染色体トリソミーのひとつです。場面によっていくつかの呼び名が使い分けられています。
| 別名・呼称 | 由来・意味 |
|---|---|
| 18トリソミー(Trisomy 18) | 遺伝学的に最も正確で、現在の医療現場で最も一般的に使われる名称 |
| エドワーズ症候群(Edwards syndrome) | 1960年に本症候群を報告したジョン・エドワーズ博士にちなむ名称 |
| Eトリソミー | 染色体の大きさによる分類(Eグループ:16〜18番)に基づいた呼称 |
| 18番染色体三体性 | 18番染色体が3本ある状態を日本語で表した名称 |
常染色体のトリソミーとしては、ダウン症候群(21トリソミー)に次いで2番目に多い疾患です。同じく全身に影響が及ぶパトウ症候群(13トリソミー)とあわせて、この3つが代表的な常染色体トリソミーとして知られています。
対象となる染色体領域(18番染色体全体)
本症候群は、18番染色体の1本すべてが過剰になること(全長の重複)で生じます。通常、ヒトの細胞には18番染色体が2本ありますが、エドワーズ症候群ではこれが3本になっています。
18番染色体は約7,800万個の塩基対からなり、数百の遺伝子を含みます。この染色体が1本多くなると、そこに含まれる遺伝子の産物(タンパク質など)の量のバランスが崩れます。これを「遺伝子量効果」と呼び、胎児の全身の臓器形成に複雑で深刻な影響が及びます。とくに脳・心臓・腎臓・消化器・骨格系で、高い頻度に先天性の形成異常が起こるのが特徴です。
エドワーズ症候群の発生頻度
出生児のおよそ5,000人に1人とされ、ダウン症候群に次いで2番目に多い常染色体トリソミーです。報告により幅があり、3,500〜8,500人に1人とする資料もあります。
- 母体年齢との関係:ダウン症候群などと同様に、母親の出産年齢が上がるほど発生頻度が高くなる傾向があります。
- 性差:出生時は女児が男児より多く(およそ3対1)、長く生存するお子さんにも女児が多い傾向があります。男児のトリソミー胎児は、流産に至る割合が高いためと考えられています。
- 流産・死産:妊娠中に18トリソミーと診断された場合、その多くが自然流産や死産に至り、出生に至るのは一部です。
エドワーズ症候群の主な症状・特徴(揺り椅子状の足・重なり指)
症状は全身のほぼすべての臓器に及び、出生時の身体的な特徴がはっきりしているのが本症候群の特徴です。あらわれ方や程度には個人差があります。まず全体像を系統別に整理します。
| 部位・系統 | 主にみられる特徴 |
|---|---|
| 頭部・顔面 | 後頭部の突出、小顎症(下あごが小さい)、耳介低位、眼瞼裂の短小 |
| 手足(四肢) | 重なり指、揺り椅子状足底、爪の低形成、胎内発育不全 |
| 内臓 | 先天性心疾患(90%以上)、消化器・泌尿生殖器・呼吸器の疾患 |
| 発達 | 重度の運動・知的発達の遅れ |
外表的な特徴(顔つき・手足)
出生時にみられる身体の特徴は、診断の重要な手がかりになります。とくに手足の所見が特徴的です。
- 重なり指(Overlapping fingers):人差し指が中指の上に、小指が薬指の上に重なるように手を握る、本症候群に特徴的な所見です。
- 揺り椅子状足底(Rocker-bottom feet):足の裏がかかと側に丸く突き出し、揺り椅子の脚のような形になります。18トリソミーを強く疑わせる所見のひとつです。
- 顔つき:後頭部の突出、下あごが小さい小顎症、耳の位置が低い耳介低位、目が小さいなどがみられます。
- 胎内発育不全:在胎週数のわりに小さく生まれ、筋緊張の異常を伴うことがあります。
内臓の合併症(予後に直結する要因)
生命の見通しを大きく左右するのが、内臓の合併症です。とくに先天性心疾患は90%以上に合併し、予後を決める最大の要因になります。
- 先天性心疾患:心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、動脈管開存症(PDA)などがみられ、肺高血圧症を早期に合併しやすいのが特徴です。
- 消化器の疾患:臍帯ヘルニア、食道閉鎖症、鎖肛など。
- 泌尿生殖器の疾患:馬蹄腎、多嚢胞性異形成腎、男児の停留精巣など。
- 呼吸器の疾患:喉頭軟化症や中枢性無呼吸など。出生直後の呼吸不全の主な原因になります。
神経発達の特徴
運動・知能ともに発達はゆっくりで、重度の発達の遅れを伴うことが一般的です。療育を通して、その子の持つ力を少しずつ引き出していきます。
エドワーズ症候群の原因と3つのタイプ
原因は18番染色体が過剰になることですが、その起こり方によって3つのタイプに分かれ、これが次のお子さんへの再発リスクを左右します。まずタイプ別に整理します。
| タイプ | 割合の目安 | 次子への再発リスク |
|---|---|---|
| 標準型18トリソミー | 約94% | 低い(多くは偶然の新生突然変異) |
| 転座型 | 約2% | 親が均衡型転座の保因者なら高くなる。染色体検査が必要 |
| モザイク型 | 約4% | 状態により個別の評価が必要 |
1. 標準型18トリソミー:約94%
もっとも多いタイプです。卵子または精子がつくられる過程(減数分裂)で、18番染色体がうまく分かれない「染色体不分離」が原因で起こります。そのほとんどは偶然の新生突然変異であり、ご両親の染色体は正常です。親の生活習慣が原因になるわけではありません。
2. 転座型:約2%
18番染色体の一部が、ほかの染色体と入れ替わって付着し、実質的に18番の特定の領域が3つ分になるタイプです。この場合、ご両親のどちらかが「均衡型転座の保因者」であることがあります。保因者ご自身は健康ですが、次のお子さんへの再発リスクを考えるうえで、ご両親の染色体検査がすすめられます。
3. モザイク型:約4%
受精した後の細胞分裂の途中で不分離が起こり、18トリソミーの細胞と正常な細胞が体のなかに混在しているタイプです。正常な細胞の割合によっては、症状が比較的やわらかであったり、生存期間が長くなったりすることがあります。
エドワーズ症候群の診断方法(NIPT・超音波・確定検査)

出生前は超音波やNIPTで可能性を調べ、羊水検査などの確定的検査で診断します。出生後は染色体核型分析で確定します。それぞれの検査は次のとおりです。染色体の検査全般については臨床現場で行われている遺伝子検査についてもあわせてご覧ください。
出生前の診断
- 超音波検査:胎内発育不全、後頭部の突出、心奇形、臍帯ヘルニア、重なり指、単一臍帯動脈などの所見から疑われます。
- NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査):母体の血液中に含まれる胎児由来のDNAを解析する検査です。あくまで可能性を調べるスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。
- 確定的検査:羊水検査または絨毛検査で採取した細胞を用い、染色体の核型を分析して診断を確定します。
出生後の診断
新生児の血液細胞を用いた染色体核型分析(Gバンド分染法)で、18番染色体が3本あることを確認し、確定診断を下します。迅速に染色体の数を確認するため、FISH法を併用することもあります。先天性の疾患と検査の関係を広く知りたい方は、遺伝子検査で見る先天性疾患とその予防策も参考になります。
エドワーズ症候群の治療・ケアの考え方

治療の考え方は近年大きく変わり、症状に合わせた対症療法と、ご家族の意向を尊重した意思決定が重視されるようになりました。以前は積極的な治療を控える傾向がありましたが、現在は選択肢が広がっています。
1. 支持療法(呼吸・栄養・感染への対応)
- 呼吸の管理:酸素投与や、状態に応じた人工呼吸器の使用を検討します。
- 栄養の管理:吸う力が弱いため、経管栄養(鼻チューブ)や胃瘻でサポートします。
- 感染症への対策:肺炎などを起こしやすいため、早めの抗生剤治療を行います。
2. 外科的治療(積極的治療)
- 心臓手術:心不全のコントロールが難しい場合、姑息術(肺動脈絞扼術など)や根治術が検討されることがあります。
- 消化器の手術:食道閉鎖症や腹壁の異常に対し、生存を支えるため出生直後に行われることがあります。
- 手術を行うことで生存期間が延び、自宅へ退院できる可能性が高まるという報告も増えています。
3. 発達支援とご家族の意思決定
理学療法(PT)や作業療法(OT)を通じて、お子さんの持つ力を引き出し、ご家族とのふれあいを豊かにする支援を行います。積極的な治療を選ぶか、穏やかな時間を大切にするか。どちらが正しいという答えはありません。小児科医・看護師・医療ソーシャルワーカー・遺伝カウンセラーといったチームと対話を重ね、お子さんにとって最善の道をご家族と一緒に探していくことが大切です。ひとりで抱え込まず、専門家に相談してください。
エドワーズ症候群の予後
従来は非常に短い命とされてきましたが、医療の進歩と積極的治療の広がりにより、長く生きるお子さんも報告されるようになっています。予後は合併症の重さやタイプによって大きく異なります。
- これまでの統計:かつては「1歳までの生存率は10%未満」とされ、公的な資料でも1年生存するのは5〜10%ほどと報告されてきました。
- 近年の動向:集中治療や外科的介入の進歩により、生存期間は延びる傾向にあります。1年以上生存するケースも珍しくなくなり、10歳を超えて学校生活を送るお子さんもいらっしゃいます。
- 主な死因:心不全、無呼吸発作、感染症などが中心です。
数字だけを見ると、見通しは厳しく感じられるかもしれません。それでも私たちが現場で感じるのは、お子さんが確かにご家族の愛を受け取り、力強く生きていくということです。SNS上でも、18トリソミーのお子さんの8歳の誕生日を「もう奇跡とは言わせない」と祝うご家族の声(@hime5053)が見られました。統計は集団の傾向であって、目の前のお子さん一人ひとりの歩みを決めるものではありません。
エドワーズ症候群に関するよくある質問(FAQ)
Q1. エドワーズ症候群と18トリソミーは同じ病気ですか?
同じ病気を指します。18番染色体が3本あることで起こる先天性の染色体疾患で、医療現場では「18トリソミー」という名称が最も一般的に使われます。「エドワーズ症候群」は、1960年に本症候群を報告したエドワーズ博士にちなむ呼び名です。
Q2. エドワーズ症候群の主な症状は何ですか?
重なり指や揺り椅子状足底といった手足の特徴、後頭部の突出や小顎症などの顔つき、そして90%以上に合併する先天性心疾患などが代表的です。消化器・腎臓・呼吸器の疾患や重度の発達の遅れを伴うこともあります。症状の程度には個人差があり、あらわれ方もお子さんによって異なります。
Q3. エドワーズ症候群は遺伝しますか?次の子への影響は?
約94%を占める標準型は偶然の新生突然変異で起こり、次のお子さんへの再発リスクは低いとされます。一方、約2%の転座型では、ご両親のどちらかが均衡型転座の保因者だと再発リスクが高くなります。どのタイプかはご両親の染色体検査で確認でき、遺伝カウンセリングで見通しを整理できます。
Q4. エドワーズ症候群はNIPTでわかりますか?
NIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)は、18トリソミーの可能性を高い精度で調べられる検査です。ただし、あくまでスクリーニング検査であり、確定診断ではありません。NIPTで陽性となった場合は、羊水検査などの確定的検査で診断を確定します。検査を受けるかどうかは、遺伝カウンセリングで十分に説明を受けたうえで決めてください。
Q5. エドワーズ症候群の子どもはどのくらい生きられますか?
合併症の重さによって大きく異なります。従来は1歳までの生存率が10%未満とされてきましたが、近年は積極的治療の広がりにより、1年以上、なかには10歳を超えて成長するお子さんも報告されています。数字だけで見通しは決まりません。ご家族の意向を医療チームと共有しながら、その子に合ったケアを選んでいくことが大切です。
まとめ
エドワーズ症候群(18トリソミー)は、18番染色体が3本あることで、心臓・消化器・脳など全身の多くの臓器に形成異常を伴って生まれてくる疾患です。重なり指や揺り椅子状の足など、特徴的な所見が知られています。
告知を受けたご家族にとって、その衝撃と悲しみは計り知れないものです。かつては「予後不良」と決めつけられてきましたが、現在の医療は、お子さんがご家族と過ごす時間をいかに豊かにするかという視点へと移ってきました。手術を選ぶこともあれば、穏やかな看取りを選ぶこともあります。正解はありません。
私たちが診療の現場で感じるのは、お子さんは言葉がなくても、確かにご家族の愛を受け取り、生きる力を見せてくれるということです。医療チームと対話を重ね、ご家族が納得できる道を一緒に探していきましょう。ほかの染色体疾患について知りたい方は、パトウ症候群(13トリソミー)やクラインフェルター症候群(47,XXY)の解説もあわせてご覧ください。
参考文献
- 小児慢性特定疾病情報センター. 18トリソミー症候群.(概要・症状・診断・支援制度を公的機関がまとめた解説。発生頻度・予後の出典。ページはこちら)
- MedlinePlus Genetics. Trisomy 18. U.S. National Library of Medicine.(原因・頻度・症状・生存率を公的機関がまとめた解説。ページはこちら)
- Cereda A, Carey JC. The trisomy 18 syndrome. Orphanet Journal of Rare Diseases. 2012;7:81.(疫学・臨床像・管理・予後を包括的にまとめたレビュー論文。全文はこちら)
- Edwards JH, Harnden DG, Cameron AH, et al. A new trisomic syndrome. The Lancet. 1960;1(7128):787-790.(本症候群を世界で初めて定義した歴史的な原著論文。)