Early infantile epileptic encephalopathy 4 (EIEE4)

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • STXBP1関連脳症(STXBP1-related encephalopathy)
    • ※現在、医学界では原因遺伝子に基づいたこの名称が最も一般的です。
  • STXBP1関連てんかん性脳症
  • 大田原症候群(Ohtahara syndrome)
    • ※EIEE4の患者の多くが、生後早期にこの臨床型(サプレッション・バーストという脳波異常を伴う重症てんかん)を呈するため、歴史的にこう呼ばれてきました。
  • ウエスト症候群(West syndrome / 点頭てんかん)
    • ※成長に伴い、大田原症候群からウエスト症候群へ移行するケースが多く見られます。
  • MUNC18-1欠損症

対象染色体領域

9番染色体 長腕(q)34.11領域

本疾患は、ヒトの9番染色体の長腕にある「34.11」という位置に存在するSTXBP1遺伝子の変異、あるいは同領域を含む微小な欠失によって引き起こされます。

【ゲノム上の詳細とSTXBP1の役割】

STXBP1(Syntaxin-binding protein 1)遺伝子は、脳の神経細胞(ニューロン)において、神経伝達物質を放出するために必須となる**「MUNC18-1」**というタンパク質を作ります。

  • 神経伝達の仕組み: 神経細胞の中では、神経伝達物質が「シナプス小胞」という小さな袋に詰められています。この袋が細胞膜と合体(融合)することで、物質が外へ放出され、次の神経へと情報が伝わります。
  • STXBP1の働き: MUNC18-1タンパク質は、この小胞の融合を助ける「鍵」のような役割を果たしています。
  • EIEE4の状態: 遺伝子の異常によりこの「鍵」が正しく機能しない、あるいは数が足りなくなる(ハプロ不全)と、神経細胞同士の情報のやり取りが極端に不安定になり、脳が激しい電気的な嵐(てんかん発作)にさらされ、発達が妨げられてしまいます。

発生頻度

約30,000人 〜 100,000人に1人

  • 希少疾患: 非常に稀な疾患に分類されますが、近年の全エクソーム解析(WES)の普及により、報告数は急増しています。
  • 難治性てんかんにおける割合: 原因不明の早期乳児てんかん性脳症の中では、最も頻度の高い原因遺伝子の一つであることが分かってきました。
  • 性別による発生頻度の差はなく、人種を問わず発症します。

臨床的特徴(症状)

EIEE4の症状は非常に重篤で、生後まもなくから現れる「激しくてんかん発作」と「著しい発達の遅滞」が二大特徴です。

1. てんかん発作(Epileptic Seizures)

  • 発症時期: 多くは生後3ヶ月以内(早い場合は生後数日)に始まります。
  • 大田原症候群としての発症: 身体がビクッと硬くなる「強直発作」が頻発します。
  • ウエスト症候群への移行: 生後半年以降、カクンとお辞儀をするような「スパズム(点頭発作)」へ変化することがあります。
  • 難治性: 一般的な抗てんかん薬が効きにくく、発作を完全に止めることが極めて困難なケースが多いです。

2. 特徴的な脳波(EEG Findings)

  • サプレッション・バースト(Suppression-burst): 脳波検査で、激しい電気活動(バースト)と平坦な活動(サプレッション)が交互に現れる非常に特徴的なパターンを示します。これが脳の発達を阻害する大きな要因となります。

3. 重度の発達遅滞(Developmental Delay)

  • 精神運動発達遅滞: てんかん発作の有無にかかわらず、運動面、知能面ともに発達が著しく遅れます。首すわりがお座りが困難な「重症心身障害」の状態となることが多いです。
  • 言語障害: 言葉によるコミュニケーションは極めて困難となります。
  • 退行: 一度できるようになったことが、激しい発作のあとにできなくなる「退行」が見られることもあります。

4. 運動機能の異常(Movement Disorders)

てんかん発作とは別に、運動をコントロールする機能にも問題が生じます。

  • 筋緊張低下: 赤ちゃんの頃、体がふにゃふにゃとして柔らかい。
  • 不随意運動: 自分の意思とは関係なく手足が動く(ジスキネジア)、震える(振戦)など。
  • 痙性: 成長とともに筋肉が突っ張って硬くなる。

5. その他の随伴症状

  • 摂食障害: 飲み込みがうまくいかない(嚥下障害)ため、経管栄養や胃瘻が必要になることがあります。
  • 視覚異常: 脳の問題により、目が見えていても認識が難しい(皮質視覚障害)。

自閉的傾向: 社会性の発達が遅れることがあります。

原因

STXBP1遺伝子の突然変異(ハプロ不全)

  • 新生突然変異(De novo mutation):
    • EIEE4の患者のほぼ100%は、両親から遺伝したものではなく、受精の過程で偶然生じた「突然変異」が原因です。
    • 両親の染色体や遺伝子は正常であり、次子(兄弟)への再発リスクは極めて低い(1%未満)とされています。
  • 機能喪失変異:
    • 遺伝子の配列が1文字変わる(点変異)、あるいは一部分が欠けることにより、正常なMUNC18-1タンパク質が半分しか作られなくなります。脳の高度なネットワークを維持するには、このタンパク質が100%存在しなければならないため、50%に減るだけで重篤な脳症を発症します。

診断方法

かつては原因不明とされていましたが、現在は遺伝子検査が確定診断の鍵となります。

  • 脳波検査(EEG):
    • 前述のサプレッション・バーストやヒプスアリスミアを確認し、臨床的に「早期乳児てんかん性脳症」であると判定します。
  • 磁気共鳴画像装置(MRI):
    • 脳の形に大きな異常はないことが多いですが、脳梁(左右の脳をつなぐ部分)が細い、あるいは脳全体の容積が小さい(脳萎縮)が見られることがあります。
  • 遺伝子検査(確定診断):
    • 次世代シーケンサー(NGS)による全エクソーム解析: 血液からDNAを採取し、STXBP1遺伝子に変異があるかを調べます。現在、これが最も確実な診断方法です。
    • 染色体マイクロアレイ検査: 遺伝子の一部が欠けている(微小欠失)場合に有効です。

治療方法

現在の医療では、異常がある遺伝子そのものを治すことはできません。治療の主眼は「てんかん発作の抑制」と「合併症の管理」「発達の支援」になります。

1. 抗てんかん薬療法

  • 多剤併用: 一剤では止まらないことが多く、数種類の薬を組み合わせて使用します。(フェノバルビタール、バルプロ酸、レベチラセタム、ゾニサミドなど)
  • ACTH療法: ウエスト症候群(点頭てんかん)を合併している場合、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の注射治療が検討されます。一時的に劇的な効果を示すことがありますが、副作用への注意も必要です。

2. 食事療法

  • ケトン食療法: 炭水化物を極端に制限し、脂質を主とする食事療法です。脳のエネルギー源を変えることで、薬が効かない難治性てんかんの発作を減らす効果が期待される場合があります。

3. 外科的治療

  • 迷走神経刺激療法(VNS): 胸に装置を植え込み、首の神経を刺激することで発作を減らす方法です。発作が非常に多く、薬でのコントロールが限界な場合に検討されます。

4. 全身管理・リハビリテーション

  • 呼吸・栄養管理: 嚥下障害がある場合は、誤嚥性肺炎を防ぐための吸引や、胃瘻による栄養補給が必要です。
  • 早期療育:
    • 理学療法(PT):関節の硬直を防ぎ、運動機能を維持します。
    • 作業療法(OT):感覚への刺激や、手先の機能を支援します。
    • 言語聴覚療法(ST):意思疎通の手段(絵カードやサインなど)の模索や、食事の訓練を行います。

5. 最新の研究(将来の展望)

  • ケミカルシャペロン療法: 壊れやすいタンパク質を安定させる化合物(フェニル酪酸など)を用いた治療の研究が進められています。
  • 遺伝子治療: 不足している遺伝子を補充する、あるいは残された正常な遺伝子の働きを強める治療法の研究が世界中で進んでおり、将来的な根本治療への期待がかかっています。

まとめ

EIEE4(早期乳児てんかん性脳症4型)は、脳の神経伝達に関わる大切なタンパク質の不足によって起こる、とても重い疾患です。生後すぐから始まる難治性のてんかんに加え、発達の歩みも非常にゆっくりしたものとなります。

ご家族にとって、告知直後の不安や日々の看病の負担は計り知れないものです。しかし、遺伝子解析が進んだことで、「原因不明」だった状態から「STXBP1の問題」であると正しく診断されるようになりました。これにより、不必要な検査を減らし、同じ悩みを持つ家族会や専門医とつながることができるようになっています。

治療は長期にわたりますが、てんかん専門医、小児神経科医、リハビリスタッフ、そして福祉支援チームと手を取り合い、お子様の「今日一日」の穏やかな時間を守り、少しずつの成長を支えていくことが大切です。医療の進歩は着実に進んでおり、将来の新しい治療法の確立に向けた研究も続けられています。

参考文献

  • Saitsu, H., et al. (2008). De novo mutations in the gene encoding STXBP1 (MUNC18-1) cause early infantile epileptic encephalopathy. Nature Genetics.
    • (EIEE4とSTXBP1遺伝子の関連を世界で初めて報告した、最も重要な原著論文です。)
  • Stamberger, H., et al. (2016). STXBP1 encephalopathy: A neurodevelopmental disorder including epilepsy. Neurology.
    • (STXBP1関連脳症の臨床像を包括的にまとめた大規模な研究報告です。)
  • Suri, M., et al. (2017). STXBP1 encephalopathy: The clinical spectrum and phenotypic-genotypic correlation.
    • (遺伝子の変異の種類と症状の出方の関係について詳細に論じています。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): STXBP1 Encephalopathy.
    • (希少染色体・遺伝子異常の支援団体による、家族向けガイドブックです。)
  • GeneReviews® [Internet]: STXBP1 Encephalopathy with Epilepsy. (NCBI).
    • (医学的な診断基準、最新の管理指針が網羅されたデータベースです。)

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