Emanuel syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • エマニュエル症候群
  • 派生22番染色体症候群(Der(22) syndrome)
  • 不均衡11/22転座(Unbalanced 11/22 translocation)
  • 部分11/22トリソミー(Partial trisomy 11/22)
  • 22番派生染色体による3染色体性(Supernumerary der(22) syndrome)

かつては「派生22番染色体症候群」と呼ばれることが一般的でしたが、この染色体異常を詳細に定義したエマニュエル博士の名を冠し、現在は「エマニュエル症候群」と呼称されるのが一般的です。

対象染色体領域

11番染色体長腕(q)23領域および22番染色体長腕(q)11領域の重複

エマニュエル症候群の最大の特徴は、通常の46本の染色体に加えて、「派生22番染色体(der(22))」と呼ばれる小さな余分な染色体が1本存在し、合計47本(スーパーヌメヌラリー/余剰染色体)となっている点にあります。

この「派生22番染色体」には以下の領域が含まれています。

  1. 22番染色体の近位部(22q10〜22q11)
  2. 11番染色体の遠位部(11q23〜11qter)

この2つの領域が重複(トリソミー)していることにより、それぞれの領域に含まれる遺伝子が過剰に発現し、多系統にわたる先天異常を引き起こします。

発生頻度

正確な頻度は不明(極めて稀)

世界中で報告がありますが、希少疾患であるため正確な出生頻度は統計的に確定されていません。

  • これまでに数百例の報告がありますが、近年のゲノム解析技術(マイクロアレイ検査など)の普及により、診断される症例が増えています。
  • この症候群のほぼ全ての症例において、両親のどちらかが**「11番と22番の均衡型相互転座(t(11;22)(q23;q11))」の保因者**であることが知られています。この特定の転座は、人類において最も頻度の高い非ロバートソン型転座の一つとされています。

臨床的特徴(症状)

エマニュエル症候群は、身体的特徴、精神発達の遅滞、および内臓の合併症を伴う多系統疾患です。

1. 全般的な発達・知的機能

  • 重度の知的障害・発達遅滞: ほぼ全ての症例で、運動および認知機能の著しい発達遅滞が見られます。
  • 言語発達の遅れ: 言葉によるコミュニケーションの獲得は非常に困難な場合が多いですが、身振りやサインなどでの意思疎通が可能なケースもあります。
  • 筋緊張低下(Hypotonia): 乳児期に体が柔らかく、運動発達の遅れの一因となります。

2. 特徴的な顔貌・身体的特徴

外見上の特徴は診断の重要な手がかりとなります。

  • 小顎症(Micrognathia): 下あごが非常に小さい。
  • 耳の異常: 耳介が小さく形が独特である、耳の前に小さな穴(耳前瘻孔)や、小さないぼのような突起(耳前突起)が見られることが多い。
  • 口蓋の異常: 高口蓋(口の中の天井が高い)、あるいは口蓋裂。
  • 顔立ち: 額が広く、眼瞼裂斜下(タレ目)、鼻根部が平坦といった特徴が見られます。
  • 小さな手足: 手足の指が細い、あるいは関節の拘縮(固まり)が見られることがあります。

3. 先天性奇形および合併症

  • 先天性心疾患(約50%以上): 心室中隔欠損症(VSD)、心房中隔欠損症(ASD)、ファロー四徴症など、生命予後に影響を与える合併症が多く見られます。
  • 泌尿生殖器奇形: 腎欠損、多嚢胞性異形成腎、男児における停留精巣や陰嚢の異常。
  • 消化器系の異常: 鎖肛や、横隔膜ヘルニアなどが報告されています。
  • 中枢神経系の異常: 脳梁欠損や脳室拡大などが見られることがあります。

4. 感覚器の異常

  • 難聴: 伝音性難聴または感音性難聴を伴うことが多く、早期の聴力検査が不可欠です。
  • 視覚異常: 斜視や、視神経の低形成が見られることがあります。

原因

11番染色体と22番染色体の不均衡転座の継承

エマニュエル症候群の根本的な原因は、配偶子(精子または卵子)が作られる際の「減数分裂」のミスにあります。

メカニズムの詳細:3:1分離

  1. 親の背景: 片方の親が「11番染色体と22番染色体の均衡型転座」を持っています。この親自身は遺伝子の過不足がないため、全くの健康です。
  2. 分離の異常: 均衡型転座を持つ親の体内で精子や卵子が作られる際、通常は2対2で分かれる染色体が、特殊な「3:1分離」という形をとることがあります。
  3. 受精: この結果、正常な11番と22番に加えて、転座によってできた小さな「派生22番染色体」が含まれた配偶子が受精すると、子供はエマニュエル症候群となります。

※稀に「新生(De novo)変異」として、親が転座を持たないケースも報告されていますが、極めて稀です。

診断方法

臨床症状から本症候群を疑った場合、以下の細胞遺伝学的検査が行われます。

  1. 染色体核型分析(Gバンド分染法):
    通常の染色体検査です。47番目の小さな染色体(マーカー染色体)の存在を確認します。
  2. FISH法(蛍光インサイチュハイブリダイゼーション):
    11番と22番の特定の領域に光るラベルを貼り、余分な染色体がどこの由来かを特定します。エマニュエル症候群の確定診断において非常に有効です。
  3. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    ゲノムの過不足を数万カ所以上スキャンし、11q23と22q11の重複を正確に定量します。
  4. 両親の染色体検査:
    お子様にエマニュエル症候群が見つかった場合、親が転座保因者であるかを確認することは、将来の家族計画(次子再発リスクの判定)において極めて重要です。

治療方法

現代医学において、余分な染色体を取り除く根本的な治療法はありません。治療の主眼は、**「合併症の管理」「発達の最大化」**に置かれます。

1. 外科的治療

  • 心臓手術: 先天性心疾患がある場合、乳幼児期に外科的矯正術や姑息術が必要になることが多いです。
  • 口蓋裂の手術: 哺乳や言語発達のために、適切な時期に形成手術を行います。
  • 耳鼻科的手術: 耳前瘻孔の感染を繰り返す場合などの切除術。

2. 内科的・発達支援

  • 摂食支援: 筋緊張低下や小顎症により、赤ちゃんの時期に哺乳が困難な場合があります。経管栄養(鼻チューブや胃瘻)の活用、言語聴覚士による嚥下訓練が行われます。
  • 難聴への対応: 補聴器の早期装用や、必要に応じた療育。
  • てんかん管理: 一部の症例でけいれん発作が見られるため、抗てんかん薬による管理を行います。

3. リハビリテーション(ハビリテーション)

  • 理学療法(PT): 筋緊張低下に対するアプローチや、姿勢保持、運動発達の支援。
  • 作業療法(OT): 手先の機能や遊びを通じた発達支援、日常生活動作の工夫。
  • 言語聴覚療法(ST): コミュニケーション手段(サイン、絵カード、視線入力装置など)の模索。

4. 遺伝カウンセリング

  • 親が均衡型転座の保因者である場合、次子での再発リスクは約6%程度と見積もられています。将来の妊娠における出生前診断の選択肢などを含め、専門の遺伝カウンセラーや医師による丁寧なサポートが必要です。

予後

かつては重篤な合併症により予後不良とされることもありましたが、現代の小児医療(心臓外科や周産期管理)の進歩により、多くの患者様が成人期まで成長しています。

  • 重度の知的障害を伴うため、生涯にわたる生活支援が必要ですが、穏やかで家族とのふれあいを大切にする性格の方が多いことも報告されています。
  • 感染症(特に肺炎)を起こしやすい傾向があるため、定期的な健康管理が重要です。

まとめ

Emanuel syndrome(エマニュエル症候群)は、11番と22番の染色体の一部が重複して生まれてくる、非常に希少な疾患です。

「重い障害」という言葉に、ご家族は最初、深い戸惑いや悲しみを感じられるかもしれません。しかし、本症候群のお子様たちは、それぞれが独自のペースで一歩ずつ成長していきます。

大切なのは、心臓や耳などの合併症を一つひとつ丁寧に見守り、早期からリハビリテーションや福祉サービスと繋がることです。

現在はインターネットを通じて、世界中のエマニュエル症候群の家族会(Emanuel Syndrome Advocacy Groupなど)と繋がることができ、経験や情報を共有できる時代です。お子様の持つ可能性を信じ、多職種の医療チームと共に歩んでいくことが、お子様とご家族の豊かな生活へと繋がります。

参考文献

  • Emanuel, B. S., et al. (2004). The Emanuel syndrome: over 25 years of clinical and molecular studies of the t(11;22). American Journal of Medical Genetics Part A.
    (エマニュエル博士本人による、25年間の臨床研究をまとめた最も権威ある論文です)
  • Carter, M. T., et al. (2009). The Emanuel syndrome: update on the clinical phenotype. American Journal of Medical Genetics.
    (臨床的特徴の多様性について詳細に報告した重要文献です)
  • Ohye, T., et al. (2010). Emanuel syndrome: a review of the literature and report of a Japanese case.
    (日本における症例報告と、本症候群の文献的レビュー)
  • Emanuel Syndrome Advocacy Group (ESAG): Family Support and Information Guide. (https://emanuelsyndrome.org/)
    (世界最大の家族会による、実生活に即したガイドブック)
  • Unique (Rare Chromosome Disorder Support Group): Emanuel Syndrome. (https://www.rarechromo.org/)
    (希少染色体異常のサポート団体による包括的な情報シート)
  • GeneReviews® [Internet]: Emanuel Syndrome. (NCBI).
    • (医学的な最新の診断、管理、遺伝カウンセリングに関する標準的なリファレンス)
  • OMIM (Online Mendelian Inheritance in Man): #609029 EMANUEL SYNDROME.
    (遺伝子座、分子遺伝学、臨床症例を網羅した学術データベース)

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