Potocki-Lupski syndrome

Posted on 2026年 1月 22日

別名・関連疾患名

  • PTLS
  • 17p11.2微小重複症候群(17p11.2 microduplication syndrome)
  • 17p11.2重複症候群
  • スミス・マギニス症候群(SMS)の逆症候群
    • ※同じ領域の「欠失」がスミス・マギニス症候群であり、症状が対照的であることからこう呼ばれます。

対象染色体領域

17番染色体 短腕(p)11.2領域の微小重複

PTLSは、17番染色体短腕の「11.2」という位置にあるゲノム領域が、通常2コピー(父由来・母由来)であるところ、3コピー存在すること(微小重複)で発症します。

【ゲノム上の詳細と最重要遺伝子】

  • 責任領域: 約3.7Mb(メガベース)の共通重複領域。
  • 主要な責任遺伝子: RAI1 (Retinoic Acid Induced 1) 遺伝子
  • 病態メカニズム:RAI1遺伝子は、脳の発達、睡眠・覚醒リズム、身体の成長に関わる多くの遺伝子の働きを調節する転写因子をコードしています。
    • スミス・マギニス症候群(欠失)では、この遺伝子が足りないことが問題となります。
    • 一方、ポトツキ・ルプスキ症候群(重複)では、この遺伝子が「多すぎる」ことで、細胞内のタンパク質バランスが崩れ、神経発達の乱れや身体的特徴が引き起こされます。これを「遺伝子量効果」と呼びます。

発生頻度

約20,000人 〜 25,000人に1人

  • 診断の現状: 以前は診断が非常に困難な疾患でしたが、高解像度の染色体検査(マイクロアレイ検査)が標準化したことにより、近年診断される症例が急速に増えています。
  • 性差: 性別による頻度の差はなく、男女ともに発症します。
  • 認知度: 自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害の原因精査を行う過程で発見されることが多い疾患です。

臨床的特徴(症状)

PTLSの症状は多岐にわたりますが、特に「乳児期の栄養障害」「神経発達の遅れ」「睡眠障害」が大きな柱となります。

1. 乳児期の摂食障害と成長

  • 哺乳困難: 生まれた直後から吸う力が弱く、ミルクを飲むのに非常に時間がかかったり、むせたりすることが多く見られます。
  • 低血圧(筋緊張低下): 「フロッピーインファント」と呼ばれ、体が非常に柔らかい状態で生まれてくることがあります。
  • 成長不全(Failure to Thrive): 栄養摂取の問題や代謝の影響により、体重や身長の増加が標準を下回ります。

2. 神経発達と知能

  • 知的障害・発達遅滞: 軽度から中等度の知的障害が見られることが多いです。
  • 言語発達の著しい遅れ: 運動発達(歩行など)よりも、言葉(特に発話)の遅れが目立つのがPTLSの特徴です。
  • 自閉スペクトラム症(ASD)的特性: 相互的な対人関係の難しさ、こだわり、反復行動が見られます。
  • 多動・注意欠陥: 落ち着きのなさや注意力の散漫さが見られることがあります。

3. 特徴的な顔貌(Facial Dysmorphism)

スミス・マギニス症候群(SMS)に比べると外見的な特徴は控えめですが、共通した特徴があります。

  • 三角形の顔立ち: 顎が小さく、顔の下半分が細い。
  • 眼間開離: 両目の間隔が少し離れている。
  • 鼻: 鼻根部(鼻の付け根)が平坦である。
  • 口: 上唇が薄く、口角が下がっている。

4. 睡眠障害

  • 概日リズム睡眠障害: スミス・マギニス症候群は「夜起きて昼寝る(メラトニンリズムの逆転)」が有名ですが、PTLSではそこまで劇的な逆転はないものの、中途覚醒や寝付きの悪さ、あるいは睡眠時無呼吸症候群(SAS)が多く認められます。

5. その他の身体的合併症

  • 先天性心疾患: 約40%の症例で、中隔欠損などの心奇形が見られます。
  • 腎異常: 腎臓の形や位置の異常。
  • 脊椎の異常: 側弯症など。
  • 視覚・聴覚: 斜視や、一部で軽度の難聴。

原因

17p11.2領域の微小重複(常染色体顕性遺伝形式に相当)

  1. 新生突然変異(De novo duplication):約90%
    両親の染色体は正常であり、精子や卵子が作られる過程(減数分裂)で、偶然に17p11.2領域が重複した状態で受精したものです。この場合、次に生まれるきょうだいへの再発リスクは極めて低いです。
  2. 親からの継承(Inherited duplication):約10%
    親のどちらかがPTLSの微小重複を持っており、それが子供に受け継がれたケースです。親が非常に軽症で、子供が診断されて初めて親も重複を持っていると判明することがあります。この場合、50%の確率で遺伝します。

診断方法

臨床症状からPTLSを疑うことは専門医でも難しい場合があり、遺伝子検査による確定診断が不可欠です。

  1. マイクロアレイ染色体検査(CMA):
    確定診断のゴールドスタンダードです。17p11.2領域の微小重複を数万個のプローブで確実に検出します。従来のGバンド分染法(顕微鏡検査)では、この小さな重複を見つけることはほぼ不可能です。
  2. FISH法:
    17p11.2領域を光らせるプローブを用いて、コピー数を確認します。親の保因状態を確認する際にも有用です。
  3. 心エコー・腹部エコー:
    診断確定後、心奇形や腎奇形の有無をスクリーニングするために行われます。
  4. 睡眠ポリグラフ検査:
    睡眠障害や無呼吸の程度を正確に評価するために行われます。

治療方法

現代の医学において、余分な染色体領域を削除する根本的な治療法はありません。治療は、症状を管理し生活をサポートする**「多職種連携による対症療法」**が中心となります。

1. 栄養・摂食支援

  • 早期の嚥下評価(飲み込みの確認)を行い、必要に応じて粘度の調整や、重症の場合は経管栄養(鼻チューブや胃瘻)でのサポートを検討します。

2. 神経発達支援(療育)

  • 早期介入: 理学療法(PT)、作業療法(OT)、言語療法(ST)を組み合わせます。特に言葉の遅れに対しては、早期から代替コミュニケーション(絵カードやサイン)の活用を検討します。
  • 行動療法: ASD的特性や多動に対し、応用行動分析(ABA)などを用いた環境調整や療育を行います。

3. 外科的・内科的治療

  • 心疾患: 重症度に応じた外科手術や経過観察。
  • 睡眠障害: メラトニン製剤などの投薬や、無呼吸に対するCPAP(持続陽圧呼吸療法)などの検討。

4. 教育的支援

  • 個々の知的レベルや特性に合わせた特別支援教育の提供。

予後

  • 生存期間: 重篤な心疾患などの合併症が適切に管理されれば、寿命そのものは一般の方と大きく変わらないと考えられています。
  • 生活の質(QOL): 言語の遅れやASD的特性により、生涯にわたる一定のサポートが必要になる場合が多いですが、適切な療育により社会的な適応能力を高めることが可能です。

まとめ

Potocki-Lupski syndrome (PTLS) は、17番染色体の一部にある「RAI1」という脳の発達を司る司令塔の役割を持つ遺伝子が、通常よりも一つ分多い(微小重複)ことで起こる病気です。

「赤ちゃんの時にミルクを飲む力が弱い」「言葉の発達がゆっくり」「自閉症のようなこだわりがある」といった特徴が見られます。

一昔前までは見つけるのが難しい病気でしたが、現在は遺伝子検査(マイクロアレイ検査)で確実に診断できるようになりました。

診断がついたとき、ご家族は将来への不安を感じられるかもしれませんが、原因がわかることで「なぜ言葉が遅いのか」という疑問が解消され、最適なリハビリや支援の計画を立てることができます。

PTLSのお子様たちは、適切なサポートがあれば自分たちのペースで確実に成長していきます。専門医や療育チームと手を取り合い、お子様の得意なことや個性を大切に育てていきましょう。

参考文献元

  • Potocki, L., et al. (2000). Characterization of Potocki-Lupski syndrome (dup(17)(p11.2p11.2)) and delineation of a dosage-sensitive critical interval. American Journal of Human Genetics.
    • (ポトツキ博士とルプスキ博士による、本症候群を定義した最も重要な原著論文です。)
  • Lupski, J. R., et al. (2007). Potocki-Lupski syndrome (dup(17)(p11.2p11.2)). GeneReviews® [Internet].
    • (最新の管理指針、遺伝カウンセリング、診断基準が網羅されている世界的データベース。)
  • Zhang, F., et al. (2010). Retinoic acid induced 1 (RAI1) is a dosage-sensitive gene for Potocki-Lupski syndrome.
    • (RAI1遺伝子の過剰(重複)が症状の主因であることを解明した分子遺伝学的研究。)
  • Treadwell-Deering, D., et al. (2010). Cognitive and behavioral characterization in Potocki-Lupski syndrome (17p11.2 duplication).
    • (PTLSにおける認知・行動特性(ASD様症状など)を詳細に調査した文献。)
  • Unique (The Rare Chromosome Disorder Support Group): Potocki-Lupski syndrome (17p11.2 duplications): A guide for families.
    • (希少染色体異常支援団体による、ご家族向けの実践的ガイド。)
  • Orphanet: Potocki-Lupski syndrome (ORPHA:1713).
    • (希少疾患の国際ポータルサイトによる病態概要。)

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