子どもが成長して家庭から巣立って、寂しさや喪失体験などを感じることを「空の巣症候群」と呼んでいます。
今回、空の巣症候群とはどのような状態を意味するのか、空の巣症候群の特徴や典型的な症状、予防方法などについて、わかりやすく解説していきます。

空の巣症候群の概要

「空の巣症候群」とは、子どもが自立して子供の巣立ちの機会に保護者や両親が自分自身の役割が喪失したという思いに駆られて、空虚感や喪失感が強まる状態を指しています。

一般的に、子どもが進学、就職、あるいは結婚するタイミングなどを契機として親が心身の不調を認める場合に空の巣症候群を疑います。

空の巣症候群は、主に子育ての期間を終えた40代~50代の母親に多くみられる状態であると認識されており、身体に様々な不調を来すことから適応障害のひとつとして捉えられています。

長年の子育て期間の中で子どもの自立する瞬間を心待ちにしていた場合であっても、子どもが自立する場面に立ち会うと、多かれ少なかれ胸に大きな穴が空いたように感じるものです。

様々な苦労を重ねて手塩にかけて育ててきた自分の子どもが、親の手から離れて社会や世界に巣立っていくことを、まるで鳥の雛が巣立っていく環境と類似していることから「空の巣症候群」と呼ばれるようになりました。

これまでシングルマザーの方や母子家庭の環境などを始めとして子ども中心で進んでいた生活そのものが、子どもが自立してライフスタイルが大きく変化することで、心身の不調の引き金となる可能性も懸念されています。

空の巣症候群とは、通常子育てを完結した母親に多く認められる状態と言われていますが、近年においては高齢者が増加して家庭内での介護頻度が増加している背景を受けて、身内の介護が完結した時期に心身の不調を呈する人々も散見されています。

空の巣症候群になりやすい人の特徴としては、何事にも妥協を許さずに一生懸命であり、性格的に努力家である場合にくわえて、家庭以外に他人と交流する場面に乏しいケースや夫などパートナーとの信頼関係が普段十分に構築できていない際には罹患しやすいと考えられています。

あらゆる物事に対して一生懸命であり、真剣に向き合える性格は非常に素晴らしい長所と言えますが、一方で向き合う対象を失った際には反面的に強い喪失感に苛まれるリスクが高いだけでなく、うつ病に罹患しやすい病前性格のひとつであるとも認識されています。

特に、もともと内向的な性格の持ち主で他人との付き合いが苦手である、あるいは屋外に外出するよりも家に長時間いてインドア作業を好む場合、あるいは子育てを一生涯の生き甲斐としてきた専業主婦などにも空の巣症候群は多く認められると指摘されています。

普段から家庭外で他人と何気ないコミュニケーションを出来る場合には、自分の日常的な子育てや介護事情に関する体験談を話す機会も多く、同時に他の人の意見を聞くなどの機会を得ることができて、参考になるケースも見受けられます。

一方で、離婚経験のあるシングルマザーなど日常の会話が家庭内だけで完結している傾向がある人や子どもが自立する機会に伴って話し相手が不在となる際には、空白の時間がたくさんできることで甚大な喪失感や虚無感が出現する可能性も想定されます。

一般的に、心身不調に関連する症状は、自己の孤独感が契機となって認められることが多く、家庭内での信頼関係が希薄であり、子育てや介護が完結後に現れる虚しさや寂しさを共有する人が存在せずに悩みを一人で抱えて共有できない場合には、空の巣症候群に陥りやすいと言えます。

空の巣症候群の症状

ここからは空の巣症候群の代表的な症状について解説していきます。

空の巣症候群においては、親の世話から子ども自身が一般社会に巣立って自立することは喜ばしいことなのですが、その反面保護者の役割が喪失して強い寂しさを自覚する場合が比較的多く見受けられます。

身体的な体調変化としては、食欲不振、動悸、息切れ、倦怠感、疲労感、嘔気、頭痛などを自覚するケースもあります。

また、心理的な変化として、胸にぽっかり穴があいたような喪失感や虚無感を覚える以外にも、何事にもやる気が出ずに無気力な状態が続き、ふとした瞬間に涙が流れて止まらない、強い孤独感を感じて将来的に自分がなにをすべきか判断できないなどの不調に襲われることもあります。

子どもの自立など自分の周囲の環境変化に順調に適応できずに、それに伴うストレスが心身の不調に繋がって、さらに中年期女性では女性ホルモンが減少する更年期障害の時期とも重複することによって身体の不調はさらに悪化して、うつ病に発展する場合も見受けられます。

うつ病とは、病的にあらゆる物事に対して全般的にエネルギーが低下する状態であり、発症する原因は様々ではありますが、日々のストレスや過剰な心身への負担が蓄積していくことによって脳の機能が低下して抑うつ気分や意欲低下などを始めとする症状が2週間以上続きます。

うつ病の発症に伴って、日常生活において思考が抑制されて、慢性的に疲労感を覚えて過度に自分自身を責める機会が増えるなどの体調変化が認められるようになると言われています。

空の巣症候群の予防方法

空の巣症候群の予防方法として、家庭と切り離された趣味の場や機会をなるべく多く持つ、あるいは以前に自分が好きだった物事を紙に書き出す、そして子どもに関係する仕事やボランティア活動を始める、パートナーと思いの丈を存分に話し合うなどが挙げられます。

これまで長きに渡って子育てや介護をしてきた人は、一生懸命な性格だからこそどうしても自分の目の前にいる子どもや介護が必要な家族だけに意識が集中してしまう傾向が強く、時には家庭の役割から一時的にでも離れて、自分の時間を持つことも非常に重要な対策の一つとなります。

空の巣症候群から脱出して、それに伴う症状から抜け出すには、例えば銭湯やスポーツジムに通う、お住まいの地区のカルチャーセンターなどに積極的に参加するなど興味の湧きそうなジャンルに前向きにトライしてみることも空の巣症候群の乗り越え方の一つとして考えられます。

子育てや介護の期間を終えて、急にたくさんの空白時間ができた際に新しい物事の対象分野に興味を示せることの方が少ないので、過去の自分が興味のあったことや好きだった事項を紙に書き出してゆっくりと振り返る時間を設けて空の巣症候群を克服しましょう。

また、地域の見守りボランティアなど子どもに関係する仕事やボランティアを始めることは空の巣症候群を予防する上で有用な対策となり、たとえ自分の子どもではなくても、未来ある子どもを相手にして自分の役割を実感して再認識できる機会に恵まれる場合も数多く存在します。

そして、自分の心身状態を効果的に安定させる為には、夫など同居するパートナーとの信頼関係が非常に重要なポイントであり、普段から感じる寂しさや虚無感を共有する、あるいは空いた時間や老後の期間でパートナーと二人で何をして過ごすかなどをゆっくり話し合うのも大切です。

空の巣症候群を克服するために愛着のあるペットを飼育し始める、あるいはうつ病に発展して症状が悪化する場合には専門医療機関などで薬物治療を実施する、カウンセラーなどに心理的なカウンセリングを受けて人生相談することも空の巣症候群を乗り越える治療方法や対策手段です。

まとめ

長い子育て生活や介護期間を終えて、やっと自分の時間が確保できるので子育て期間や介護時には実践できなかったことをたくさん満喫しようという解放感を味わう場合もある一方で、子どもが自立した機会などに強い喪失感や虚無感に苦悩する人々も存在します。

これらは、空の巣症候群と呼ばれる、子育てや介護を完結した後に訪れる心身の不調症状であると考えられます。

空の巣症候群に陥らない、あるいはその症状を乗り越えるためには、先を見据えて事前に予防策を講じるとともに適切に治療を実践して対策することが重要です。

思い当たる症状がある場合は、ぜひヒロクリニック心療内科へご相談ください。今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医