お腹が空いていないのに食べ続けてしまう、いつもは食べないジャンクフードが突然食べたくなる、食べ過ぎ・飲み過ぎなどで食欲が急に減少した経験はありませんか。今回は、コントロールできない食欲の増加・減少はどう対処すれば良いかなどについて解説します。

食欲が増加・減少する原因

食欲が増加したり減少する大きな原因としては、ストレスや睡眠不足、女性では月経前などが挙げられます。

まず、ストレスによる食欲の増減には、自律神経の働きが影響しており、トラブルや心配事によって日々のストレスが積み重なることに伴って自律神経が乱れると「コルチゾール」と「ドーパミン」の過剰な分泌がおこり食欲や体重が増減すると考えられています。

急性ストレスがかかる状況下では身体が自然に危機に対応しようと交感神経が働いて、食欲を抑えて不振にさせるとも言われています。

ストレスがかかると、体の内部でストレスホルモンと呼ばれる「コルチゾール」が多量に分泌され、自律神経では交感神経の働きが活発になって、心身の活動を高めて食欲が失われる方向に働きます。

そして、一旦ストレスが落ち着いてほっと安心すると、脳神経に働きかけて快感をもたらす「ドーパミン」というホルモンが分泌されて、食欲が増進すると考えられています。

また、不快なストレスが漫然と長期的に継続されると、コルチゾールが分泌され続ける、あるいはドーパミンが過剰に分泌されて、自律神経の働きも乱れて身体のバランスが崩れることに繋がります。

日常的に食事を摂取して空腹ではないのに、普段は食べないジャンクフードや刺激物などを夜食などに食べたくなる食欲の変化が認められる際には、過度なストレスがかかっているという身体からの暗黙の指標として受け止めることも重要です。

次に、女性の場合には定期的に訪れる月経の前段階には、女性ホルモンの働きが関係していつも以上にイライラして心理的に不安定になって通常よりも食べ過ぎて栄養過多になってしまうことも見受けられます。

排卵期から月経前の時期は、女性ホルモンの一種であるプロゲステロンが大量に分泌されて、浮腫や眠気などの症状が生じる以外にも食欲が増加して、プロゲステロンの増加に伴って血糖値の急上昇や急下降が起こって満腹の状態であっても食べ続けてしまうことが経験されます。

そして、月経前の時期に増加するプロゲステロンとは反対に、更年期などにおいても「エストロゲン」と呼ばれる女性ホルモンの分泌量が減って、幸せホルモンと呼ばれている「セロトニン」の分泌量が減少して、精神的に不安定になるとともに満足感が得られず食欲にブレーキがかかりにくくなります。

これらの一連の女性ホルモンの影響に伴う食欲の変化は、月経が開始されるにつれて自然に改善する場合がほとんどであり、体重が一時的に増加しても月経時や月経後に減少する傾向がありますので、過度に大きく心配する必要はありません。

また、食欲が止まらない原因のひとつとして、慢性的な睡眠不足が考えられます。

普段の生活において仕事などで疲労困憊になって夜遅くに帰宅した際に、ついつい身近な食べ物に手が伸びてしまう場合には、睡眠不足が存在しており長期的に睡眠が不足している状態では食欲を増進に向かわせることが判明しています、

過去に米スタンフォード大学が実施した疫学調査によれば、5時間程度睡眠した人は8時間前後の睡眠を確保した群と比較して、食欲を増進させるホルモンである「グレリン」の分泌量がおよそ15%程度増加したと報告されました。

また、その逆に短時間睡眠群は8時間前後の睡眠摂取群に比べて食欲を抑制する機能を有するホルモンである「レプチン」の分泌量がおおむね16%前後減少したことが明らかにされました。

同様に、アメリカのコロンビア大学における研究結果においても、普段の睡眠する時間が4時間以下の場合と8時間前後の場合を比較すると、前者の群で肥満率が70%程度高くなるという傾向が見受けられたという結果が過去に得られています。

東洋医学の世界では、生命エネルギーである「気」を補うのは睡眠と食事という要素のみであるため、仮に睡眠そのものが不足すると身体は自然に不足分を食事で補おうとすることからも、睡眠不足が食欲を増加する働きに少なからず影響していると推察されます。

過食によって引き起こされる健康被害や合併症

ここからは過食によって引き起こされる健康被害や合併症について解説していきます。

基本的に、過食することは脂質異常症、糖尿病、動脈硬化などを始めとする病気のリスクが高まると考えられています。

血液中の脂質の値が基準値から外れた状態を「脂質異常症」と呼んでおり、その中にはLDLコレステロール(悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度測定値の異常があることが知られています。

過食に伴って肥満による糖尿病は、血糖値を正常範囲に維持するために過剰なインスリンを必要とする状態であるインスリン抵抗性に由来すると考えられています。

内臓脂肪が過剰に蓄積した状態では、インスリンの機能を阻害して動脈硬化を促進する作用を有するTNF–αという物質が多く分泌される状態が長期に続いて、過剰に膵臓が疲弊してインスリン分泌量が減少すると、肥満に関連して糖尿病を発症することになります。

食欲のおもむくままに過度に食事を摂取すると、短い期間で悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪、あるいは血糖値が急激に上昇することにともなって、高齢者や若年者に限らずに動脈硬化が進行して脂質異常症や糖尿病を発症する危険性が上昇すると考えられています。

また、脂質代謝を促進して、中性脂肪分解を補助する成長ホルモンは、就寝してから1時間以上経過した後の深いノンレム睡眠時に分泌されますので、適度に眠れないとこれらの成長ホルモンの働きが正常に機能せずに脂質異常症の罹患リスクが上昇するため要注意です。

また、慢性的に継続するストレスが積み重なって食欲が増進している際には、過剰なストレスが精神的負担になって、便秘や下痢が続く過敏性腸症候群、あるいは検査で異常が見つからないのに胃痛や吐き気、胃もたれなどの症状が続く機能性ディスペプシアなどの便通異常、または自律神経失調症やうつ病などの心理的不調につながる恐れが考えられます。

さらに、自ら食欲を制御できずに過食して想定以上に体重増加したという変化が、自己嫌悪や罪悪感をもたらすことによって、短時間で大量に食べ物を摂取した後に下剤などで対処する「神経性過食症」や「拒食症」などの摂食障害や合併症を引き起こす場合があるので十分注意する必要があります。

また、過食など暴飲暴食などによって急性胃拡張から胃壊死が発症して、急激な胃内圧の上昇と胃壁の拡張による静脈系の鬱血によって胃壁の血流不全が生じて壊死に陥って病院を受診して治療した例も過去に報告されています。

コントロールできない食欲の増加・減少に対する対処策

どうしても食欲が止まらない際には、解決する方法として規則正しい生活習慣を送り過度にストレスを溜めないことが重要な対処策となります。

無理なダイエットなどを契機にして引き起こされるストレスは、病気などを引き起こす悪いものとして捉えられており、運動などを実践して身体を動かせば、汗と一緒にストレスを体外に発散できるとともに、適度な疲労感を得られることによって睡眠の質も向上して、睡眠不足の状態が改善することが期待できます。

過度に溜まったストレスを発散して、定期的にエクササイズを実施して睡眠不足が改善できれば、自然と食欲も抑制されると考えられています。

また、身体のツボには食欲のコントロールに関連している部位があり、食欲が止まらないときには「神門(しんもん)」、「胃点(いてん)」、「飢点(きてん)」の3種類のツボを押してみるのも一案です。

神門は、耳の上のくぼみに存在するツボであり、ストレスを和らげて自律神経を整える作用がありますし、胃点は耳の穴の入り口付近に存在して食欲を調整する、或いは飢点は耳の前にある小さな突起の付け根部分の窪みに存在すると考えられており、食欲を抑えることが期待できます。

睡眠不足の状態であるにもかかわらずなかなか眠れない場合には、かかとの中央部に位置する「失眠(しつみん)」というツボを押すことによって、高ぶった神経を落ち着かせて眠気を誘う効果があると考えられています。

また、甘菓子などには身体をリラックスさせる効果があって、一時的にストレスを緩和させるために、イライラしているときには甘い物を食べたくなります。

ところが、甘いお菓子などの食べ過ぎは決して良くなく、甘菓子などの摂取が自分の意思で制御できないときは、甘味を抑制する機能を有する酸味を取りましょう。

酸味を含む食べ物の代表例としては、黒酢や梅干し、グレープフルーツ、酢の物などが挙げられており、甘いものをついつい過剰に食べてしまう場合には、これらの食品を取り入れることが推奨されます。

また、普段の食事で早食いをしていると、満腹中枢が働く前に食べ終わってしまい、自然と食べる量が増加する恐れがありますので、毎日の食生活では食べ物の味や香りをゆっくりと楽しみながら1口30回を目安にしてよく噛んで食べる事を意識して実践しましょう。

食欲と睡眠欲は脳の近い場所で制御されており、十分な睡眠を確保して脳の欲求不満を満たすことで、食欲を和らげられると考えられますので、普段から良質な睡眠を確保するために、ラベンダーやカモミールなどリラックス効果の高いアロマなどを入浴時などに取り入れてみましょう。

また、他の誰かを好きになる、新たにお気に入りの習いごとを開始するなど趣味や夢中になれることを発見できると、欲が満たされて食欲が落ち着くこともありますし、食欲の増減がとまらないときは睡眠不足を解消する、或いは自分を責めずに心身のセルフケアを実践してください。

まとめ

いつからかお腹が空いているわけではないのに、なぜか食欲が止まらずに食べ続けてしまう経験を持つ方も少なからずいらっしゃるでしょう。

食欲が止まらないのはその人自身の我慢が足りないからではなく、周囲の環境やその時々の体調、過労やストレスなどに原因がある場合がほとんどであり、食欲のままに無理に食べ続けていると心身に負担がかかって結果的に様々な病気を引き起こしてしまうことも見受けられます。

食欲が止まらず食べ続けてしまう結果、体重の増減や心身不調、色々な疾患などを引き起こすことに繋がりますので十分注意しましょう。

今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。食欲が自分でコントロールできない、とお悩みの方は、ぜひヒロクリニック心療内科へご相談ください。


【参考文献】