インポスター症候群は、日々の仕事や業務面で成功して周囲から良好な評価をされているにもかかわらず、自分自身を過小に評価して否定的に捉えてしまう傾向を有する人々を指しています。 今回、インポスター症候群の特徴や原因、対処法などを詳しく紹介します。

インポスター症候群の特徴

インポスター症候群 (英語表記:impostor syndrome) とは、普段の仕事場面において順調に成功しているにもかかわらず、自分を必要以上に過小評価してしまう心理傾向や自己不信感を持っている状態を指しています。

インポスター症候群では、自分自身で自らの能力や実績を認められず、仕事や恋愛などプライベートを問わずに順風満帆に経過していても、あくまで運が良かっただけで周囲の強力なサポートがあったからに過ぎないと思い込んでしまうことで、自分の力を信じられない状態に陥ります。

そもそもインポスター(impostor)とは、詐欺師やペテン師を意味する英語であり、インポスター症候群は「詐欺師症候群」と呼ばれることもあります。

この症候群に関しては、1978年に心理学者のポーリン・R・クランス(Pauline Rose Clance)とスザンヌ・アイムス(Suzanne Imes)によって命名されたと伝えられています。

インポスター症候群の中には、自分が詐欺師であるという感情をより強固に感じている人も一定数存在しますが、決して特定の個人のみに現れる特徴ではなく、社会的に成功した高いキャリアを有する多くの女性が自分を賢いと思わずに他人から過大評価されていると考えています。

アメリカのハリウッド映画でよく知られている『ハリー・ポッター』シリーズのハーマイオニー役で知られる女優のエマ・ワトソン自身などの有名人も、自らがインポスター症候群であることを周囲に告白して話題になっています。

一般的には、傾向として男性より女性がこの症候群を発症しやすいとされていて、特に聡明で有能な女性、あるいは高いキャリアを築いている女性や高度専門職の女性に認められやすいと言われています。

過去の調査では、東京都丸の内で働くワーキングウーマンの約46.3%が「インポスター症候群」だと自覚を持っていて、約5割の働く女性が自己肯定できない事実があるとも考えられます。

インポスター症候群の特徴例として、①積極的な挑戦を避ける傾向にある点、②他人と比較して自分を卑下してしまう点、③成功することに通常より不安を感じる点などが挙げられます。

インポスター症候群に陥る人は、日常の様々な場面において極端な失敗や間違い、あるいは他人からの否定的な意見を恐れる傾向があるために、新しい経験や探求にチャレンジして飛び込む勇気を自ら制限する傾向があると指摘されています。

インポスター症候群を抱えている人は、自らの能力があることを示す実績や証拠があるにもかかわらず、自分は詐欺師であり、他人より劣っていて成功するに値しない人間だというネガティブな考えを持つ習慣があります。

また、インポスター症候群を抱える人は、自分の上司が求める答えを直感的な理解によって察知して、上司の能力を補強して伝えることが出来るので、自分が偽物であるという感情に拍車をかけて自分の能力が評価されたのではないと自らに対する疑いをさらに濃厚に強めます。

自分の成功は、単なる幸運やタイミングが重なった偶然の産物として見過ごされるか、実際よりも成績が優秀で類まれな能力があると他人を信じ込ませることによって獲得したものであるという認識を持つ傾向が見受けられます。

インポスター症候群に関連する症状は、世界中の人口の約70%が経験すると言われていますが、その多くは認識されておらず、実際にインポスター症候群の渦中に属する人々は、普段の生活で不安やストレス、自尊心の低さ、抑うつなどに苦しむこともあります。

インポスター症候群は正式な精神障害ではありませんが、インポスター症候群から生じる不安やストレスによって人生から幸福感を奪い、長期間放置しておけばうつ病や適応障害など精神疾患を引き起こす原因にもなりかねません。

インポスター症候群の原因

ここからはインポスター症候群を引き起こす原因について解説していきます。

インポスター症候群を発症させる原因のひとつとして、心理的な要因が挙げられます。

極端に成功体験を恐れて、仕事やプライベートの場面で周囲からの自分の評価が変化することを過度に恐れる場合には、インポスター症候群に陥りやすいと考えられています。

また、二つ目の原因要素としては、自分を取り巻く人間関係によるものが想定されています。

職場の上司や同僚から必要以上に優秀であると評価されて過度に期待されることに対してプレッシャーをより感じて、失敗を恐れる気持ちが強いことが相まって、成功体験できた背景には周囲の協力や幸運の影響が大きいと信じてしまいインポスター症候群に陥りやすくなります。

さらに、インポスター症候群の原因項目のひとつとして、家庭環境によるものが考えられていて、仮に兄弟や姉妹が存在する家庭において、常に優劣を比較されて発育してきた場合にはインポスター症候群になりやすいと捉えられています。

また、同調要素を重要視するように教育されてきたケースでは、どうしても必要以上に両親や周囲の目を伺い過ぎてしまうため、自己肯定感が低くなることで自分の実力をただ単に周囲のおかげと錯覚してしまって、インポスター症候群を発症しやすいと考えられます。

一般的に、勤勉で能力の高い人々は、自分が偽物であると人から思われたくないがために、熱心に働く傾向があると共に他人から目立つことを過度に恐れてインポスター症候群に陥りやすく、燃え尽き症候群や睡眠不足に繋がることも想定されます。

インポスター症候群に対する対処策

この章では、インポスター症候群に対する対処方法を紹介していきます。

基本的に、インポスター症候群を少しでも克服するためには、自分自身に優しくする、自分の感情を他人に話して周囲からのサポートを得る、自分が果たした成功体験に関して否定的な表現を使用しないなどの対応が重要であると考えられています。

インポスター症候群に関連する状態を多少なりとも緩和する代表的な対処方法としては、キャリアの初期段階から、この話題について家族や上司を含めて他人と十分に話し合って、自らの状況や感情について相談することができれば、孤独を感じずに症状が改善する期待ができます。

インポスターに関する体験について他人と一緒に考えることは、その重責を克服するキーポイントとして認識されていて、自分が達成した出来事や自分のパフォーマンスに対するポジティブな感想を共有することでインポスター症候群の発症を防止することが可能となります。

また、普段から性格的に完璧主義であり自分に厳しければ厳しい人々は、インポスター症候群に陥りやすいと言われていて、過度に完璧を求め過ぎると自分を大きく苦しめる要因に繋がりますので、自ら自分を褒める習慣を作って日々の生活の中で程好い加減を意識して過ごしましょう。

インポスター症候群は、自己肯定感の低さが背景にあって自信力がなく周囲の評価とのギャップに苦しむことがありますので、できる範囲から自分で自分を認める行動を実践して一日を振り返って自分自身が良かった要点などを紙やノートに書きだして記録することをお勧めします。

また、自身の過去の経験を整理して当時のことを客観的に見つめ直すことによって、自分の実力や能力が不足しているのかなどを冷静に振り返ることが出来ますし、そうしたメタ認知行動が自己肯定に繋がる有効な方法となります。

さらに、インポスター症候群の症状を改善するために、Social Network Service(略称:SNS)と一定の距離を確保するのも有効的な対処策になります。

SNSの世界では、多くの成功者や煌びやかに派手に表現する人々の情報が嫌でも無尽蔵に情報として目に入ってきますので、他者との比較を避けて自分を見つめ直すという観点からもSNSとの距離を一定程度保つことがインポスター症候群を予防するうえで重要な対策となります。

インポスター症候群を抱えている場合には、自分よりも優秀なメンバーがいる環境下に身を置いて周囲に頼りやすい環境を作ることで、自らに対する過度な期待や責任を感じずに心理的負担を軽くすることができてインポスター症候群に関連する症状を緩和することが期待できます。

まとめ

インポスター症候群は特別な精神疾患ではなく、一般的に誰もが陥る可能性があります。

発症する原因もケースバイケースであり多岐に渡って見受けられますが、それぞれの背景を深く理解して適切に対策を講じることが重要な観点となります。

自分自身のセルフケア方法だけではなく、周囲に助けてもらう方法を活用することによってインポスター症候群に伴う症状を軽減することが可能であると考えられます。

万が一、インポスター症候群に関連する症状が継続或いは悪化すれば、心理カウンセラーが在籍する精神科や心療内科など専門医療機関を一度受診して相談するのも有効的と考えられます。もし心配な症状があれば、ヒロクリニック心療内科へご相談ください。

今回の記事情報が少しでも参考になれば幸いです。


【参考文献】

  • Clance, P.R.; Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: dynamics and therapeutic intervention.”. Psychotherapy: Theory, Research and Practice 15 (3): 241–247. 
  • McElwee, Rory O’Brien; Yurak, Tricia J. (2010). “The Phenomenology Of The Impostor Phenomenon”. Individual Differences Research. Social Sciences Full Text (H.W. Wilson) 8 (3): 184–197.
  • Wikipedia – インポスター症候群

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医