汗疹(あせも)

汗をたくさんかいたあとにできる発疹として有名な「あせも」。誰もが一度は耳にしたことがある、あるいはなったことがあるかと思いますが、どんな病気かしっかりと理解している人は意外と少ないのではないでしょうか。このページでは、あせもの原因や症状、予防方法について解説します。

あせもはなぜできる?


「あせも」はとても有名な病気です。
しかしなぜあせもができるのか、その理由はご存知ですか?
「たくさん汗をかくと、できやすくなる」のはその通りですが、もう少し細かく解説していきます。
ひとことで言うと、あせもは「汗管(かんかん)がつまることによって起きる病気」です。
人間の皮膚には、汗を作り出す汗腺(かんせん)と言う器官が存在します。
汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類がありますが、エクリン汗腺は全身にくまなく分布し、体温調節をするための汗を分泌しています。
通常エクリン汗腺から分泌された汗は汗管というくだを通って皮膚の表面に送り出されますが、なんらかの原因によって一時的に汗管が詰まってしまうと、汗がスムーズに排出されなくなります。
汗は汗管が詰まっても出続けますので、徐々に汗管の中に汗がたまってしまいます。
やがて汗管内部に溜まった汗の圧力によって汗管は破裂し、その周囲で炎症が起きてしまう、これがあせものできるメカニズムです。
そして大量の汗が出るときにエクリン汗腺が詰まりやすくなることから、多汗(たかん:たくさん汗をかくこと)があせもの原因としてよく知られているのです。
当然夏にできることが多いですが、夏以外でも汗管がつまれば発症する可能性があります。
また、あせもは小さなお子様にできやすいことでも有名ですが、汗腺の密度の違いがその理由と考えられます。
小児も成人も汗腺の総数は同じですので、体が小さい方が汗腺の密度が高く、汗腺のつまりが引き起こされやすくなります。
そのため、お子様、特に赤ちゃんにはあせもができやすいのです。

あせもの症状は1つではない


あせもができてしまう理由はご理解いただけたと思います。
では次にどんな症状に気をつければ良いのかを解説していきますが、実はあせもの症状は1つではありません。
赤いブツブツができてかゆいこともあれば、かゆくない小さな水ぶくれになることもあります。
あせもの症状は「汗管のどの部分がつまるか」によって①水晶様汗疹(すいしょうようかんしん)②紅色汗疹(こうしょくかんしん)③深在性汗疹(しんざいせいかんしん)の3つに分類されています。

①水晶様汗疹


皮膚は外側から表皮(ひょうひ)・真皮(しんぴ)・皮下組織(ひかそしき)の順に層になっていますが、表皮の中でも最も外側にある「角層(かくそう)」の汗管がつまることで発症するあせもです。
角層の中にたまった汗が皮膚表面に透けて見えるため、小さな水晶のような水ぶくれになります。
水ぶくれは1〜2mm程度と小さいですが、多発することが多いです。かゆみはほとんどありません。
発症してから時間がたつとうっすら皮がむけてきて、数日で治ります。
赤ちゃん、特に新生児の顔にできることが多いですが、成人でも発熱に伴って体の様々な部位にできることがあります。

②紅色汗疹


角層よりも深い部分の表皮内で汗管がつまることで、表皮の中に汗がたまった状態です。
汗管の周りに炎症を起こし、あかみとかゆみが強くなります。
たくさん汗をかいた後に体幹・肘や膝の内側・首・わきなどにできやすく、重症化して湿疹や膿疱に変化することも多いタイプです。

③深在性汗疹


表皮と真皮の境目にある汗管がつまることで、真皮内部にあせがたまることで生じる状態です。
紅色汗疹を繰り返した後、皮膚になだらかな盛り上がりが多発してきます。
深在性汗疹が広がると、体温調節機能が低下して熱中症を生じることもあると言われています。

あせもは汗管のつまる深さによって違う症状になる


このように、汗管のつまる深さごとに症状は微妙に異なりますし、症状の重症度も異なります。
浅いところのつまり(水晶様汗疹)ほど軽い症状になりやすく、深いところのつまり(紅色汗疹や深在性汗疹)ほど重症化してしまうことが多いです。

あせもの治療


では次にあせもの治療について解説します。
ここまでに説明させていただいたように、あせもの症状は様々です。
軽い症状の場合もあれば、場合によっては残念ながら重症化してしまうこともあります。
当然、治療方針もあせもの状態によって変わりますので、かゆみがない場合とかゆみがある場合に分けて考えてみましょう。

「かゆみがないあせも」の場合


水晶様汗疹を代表とする比較的軽いあせもでは、炎症を起こしにくいためかゆみも通常ありません。
特別な治療を受けなくても、肌を清潔に保っていれば数日で治ってしまいます。
あせもができた後は、汗をかいてもすぐに拭き取るなどのケアを行い、1日1回は入浴して清潔をたもちましょう。
ただし、あせもの範囲が広い場合や少しのかゆみがある場合には、弱めのステロイド外用薬などを塗って治療します。

「かゆみがあるあせも」の場合


紅色汗疹や深在性汗疹では、炎症を起こして赤みやかゆみがでることが多いです。
かゆみがあるあせもの治療では、症状に合わせてステロイド外用薬の強さを調整しつつ、肌を清潔に保ち、保湿剤によるスキンケアも並行して行います。
ここでの注意点として、かゆみがひどいと、つい爪でかきむしりたくなることもあると思いますが、ここでかいてはいけません。
あせもをかき壊すと皮膚が傷ついて湿疹ができてしまったり、周辺の皮膚まで細菌感染をおこす「とびひ」になることもあります。
かゆみが強い場合でもかき壊さず、薬ですみやかに症状を抑えることを心がけましょう。

あせもを予防するために


ここまで、あせもの治療についてお話をしました。
しかし、あせもを予防できるならそれが一番いい方法だと思いますので、予防法についてもお話します。
前述の通り、大量に汗をかくことは汗管が詰まる原因の一つになります。
そのためまずは汗をかきやすい部位をよく知っておくことが大切です。

体の中で汗をかきやすい場所


・顔、額、首
・わきの下
・ひじの内側
・ひざの裏
・足の付け根
・お尻

ご自身でのチェックはもちろんのこと、乳児や寝たきりの方にもこれらのポイントを意識してチェックしてあげましょう。

そのほかにも、

・高温多湿の環境にいる方
・運動量の多い方
・通気性の悪い衣服をよく着る方

上記のように汗をかきやすい環境にいる方や

・肥満の方
・発熱している方
・包帯やギプスをつけている方
・甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)や
 原発性局所多汗症(げんぱつせいきょくしょたかんしょう)などの基礎疾患をお持ちの方

などのように、汗をかきやすくなっている方はあせもができやすいので注意が必要です。
誰にでもできるあせも対策は「なるべく汗をかかずにすむよう工夫すること」や「汗をかいた時に放置しないこと」です。
室内ではエアコンを使いながら温度を調整したり、日中室外を歩くときは日傘を使って体温を下げると汗をかきにくくなるため良いでしょう。
通気性の良い服を着る、汗をかいたら早めに着替えるなど、衣服を調節することも有効です。
また、汗をかいてしまった場合はなるべく早めに体を拭いたり、シャワーで汗を流しましょう。

あせもに似ている別の病気


最後に、あせもに似ている病気をいくつかご紹介しておきます。

①多発性汗腺膿瘍(たはつせいかんせんのうよう)


まず乳幼児の場合には多発性汗腺膿瘍です。
頭や首にできやすく、あせもをかき壊すことで発症し、一般的には「あせものより」と呼ばれることもあります。
多発性汗腺膿瘍はエクリン汗腺に細菌感染を起こした状態のことであり、病変部に痛みを伴うことも多いです。
とびひと同様に、細菌に対する治療として抗菌薬を要します。
ちなみに多発性汗腺膿瘍と似たような状態がわきや陰部にできることもありますが、この多くは化膿性汗腺炎(かのうせいかんせんえん)といってアポクリン汗腺の炎症です。

②ニキビ・マラセチア毛包炎


小・中学性以降で、前胸部や背中に赤いブツブツが生じた場合はやニキビマラセチア毛包炎という病気の可能性もあります。
ニキビに対してはニキビ治療を行います。
マラセチア毛包炎はカビによる症状のため、抗真菌薬(こうしんきんやく)で治療します。

③その他


この他にも、あせものように見えたけど実はアトピーの皮膚症状だった、というケースも少なくありません。

まとめ


これまでの説明のように、あせも自体の症状が様々あることに加え、あせもに似ている別の病気も少なくありません。
これらの様々な症状を正確に見分けるのはなかなか難しいです。
夏場は特に、発疹が出てもただのあせもだと思って様子をみてしまうこともあるかと思います。
しかし数日たっても治らない場合はご自分だけで悩みすぎず、皮膚科へご相談ください。


【参考文献】
・古江増隆他:本邦における皮膚科受診患者の多施設横断四季別全国調査.日皮会誌119:1795-1809,2009
・あたらしい皮膚科学 第3版 中山書店
・今日の皮膚疾患治療指針 第4版 医学書院

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