タダラフィルは、日本国内でED以外にも「前立腺肥大症に伴う排尿障害」「肺動脈性肺高血圧症」の2つで承認されている成分です。同じ成分が3つの異なる商品名で、それぞれ別の病気に使われています。なぜ1つの成分が複数の臓器で働くのか。そして加齢とともに衰える血管・排尿・脳という領域で、いま何が報告されているのか。エイジングケアという視点から、事実と推測の線引きをはっきりさせながら整理します。
この記事でわかること
– タダラフィルが日本で承認されている3つの効能と、それぞれの商品名・用量
– 前立腺肥大症に伴う排尿障害への効果と、実際の臨床試験の数値
– 1つの成分が血管・尿道・肺で同時に働く仕組み
– 血管・脳について研究段階で報告されている内容と、その限界
– 「予防のために飲む」ことをどう考えるべきか

タダラフィルは3つの効能で承認されている
まず事実の確認からです。タダラフィルという成分は、日本で3つの異なる医薬品として承認されています。
| 商品名 | 効能・効果 | 用量 | 承認 |
|---|---|---|---|
| シアリス | 勃起不全(ED) | 5mg / 10mg / 20mg | 2007年 |
| ザルティア | 前立腺肥大症に伴う排尿障害 | 1日1回 2.5mg / 5mg | 2014年1月 |
| アドシルカ | 肺動脈性肺高血圧症 | 1日1回 20mg | — |
中身の成分は同一。それでも適応症と用法・用量がまったく異なるため、医療現場では取り違えが注意喚起されているほどです。
ここで押さえておきたいのは、これらが「効くと言われている」レベルの話ではないという点。いずれも臨床試験を経て国が承認した、正式な効能です。EDの薬という理解だけでは、この成分の輪郭を捉えきれません。
なお2026年7月31日から、EDに対するシアリス10mgが要指導医薬品として薬局で購入できるようになりました。ただし市販版はEDのみが対象です。以下で扱う他の効能は、いずれも医師の診断と処方が必要になります。
①前立腺肥大症に伴う排尿障害|加齢で増える尿の悩み
ED以外の効能で、男性のエイジングケアにもっとも近いのがこちらです。
前立腺肥大症は、加齢とともに前立腺の細胞が増えて大きくなり、尿道を圧迫する病気です。主に50歳以上の男性に現れ、次のような症状を招きます。
- 尿の勢いが弱い
- 出始めるまで時間がかかる
- 残尿感がある
- 夜間に何度もトイレで目が覚める
夜中に2回も3回も起きるようになると、睡眠が細切れになり、日中の集中力にも影響します。「歳だから仕方ない」と受け止められがちですが、治療の対象になる状態です。
2014年1月、タダラフィルは「前立腺肥大症に伴う排尿障害改善剤」として承認されました(日本新薬 ニュースリリース)。日本と韓国で行われた臨床試験では、症状の重さを点数化するIPSSというスコアで次の結果が報告されています。
| 群 | IPSSトータルスコアの変化量 |
|---|---|
| プラセボ群 | −4.5 |
| タダラフィル5mg群 | −6.0 |
スコアは下がるほど症状が軽いことを意味します。投与4週後から改善が認められ、5mg群はプラセボ群に対して統計学的に有意な差を示しました(日経メディカル)。
排尿の悩みは、人に相談しにくいという点でEDとよく似ています。ただ、外来で伺っていると、EDよりも先に夜間頻尿で困っている方が多い、というのが実感です。順番が逆のこともある。そう思って両方を聞くようにしています。
なお前立腺肥大症の診断と治療は泌尿器科の領域です。当院では扱っておりませんので、思い当たる症状があれば泌尿器科を受診してください。
②肺動脈性肺高血圧症|同じ成分が別の名前で使われる理由
もう1つの承認された効能が、肺動脈性肺高血圧症です。
肺の動脈の血圧が高くなり、心臓に負担がかかる難病。息切れや疲れやすさが主な症状です。ここでタダラフィルは20mgという、EDで使う量よりはるかに多い用量で、1日1回服用されます。
同じ成分が、5mgでは排尿を、20mgでは肺の血管を対象にする。この幅の広さが、次の章で説明する仕組みにつながります。

なぜ1つの成分が複数の臓器に効くのか
理由は、標的にしている酵素の分布にあります。
体の血管や臓器の平滑筋は、一酸化窒素(NO)という物質をきっかけにcGMPという伝達物質を増やし、それによってゆるみます。ゆるめば血管は広がり、血流が増える。この仕組みは、陰茎でも、尿道でも、肺の動脈でも共通です。
そしてcGMPを分解してしまうのが、PDE5という酵素。タダラフィルはこのPDE5の働きを抑えることで、cGMPが分解されずに残るようにします。結果として平滑筋がゆるんだ状態が続きます。
前立腺肥大症に対しては、この作用が3つの経路で働くと考えられています。
- 血管平滑筋がゆるむことによる血流の改善
- 尿道・前立腺・膀胱頸部の平滑筋の弛緩
- 求心性神経活動の抑制
つまりタダラフィルは特定の臓器を狙い撃ちする薬ではなく、PDE5が存在する場所すべてに作用する成分なのです。効能が複数あるのは偶然ではなく、必然といえます。
エイジングケアの視点|研究段階で報告されていること
ここからは慎重にお読みください。以下は承認された効能ではなく、研究段階の報告です。当院がこれらの効果を保証するものではありません。
加齢とともに衰える領域のうち、血管と脳について、近年まとまった規模の研究が出ています。
血管について
前立腺肥大症の患者にタダラフィル5mgを毎日投与した研究では、血管内皮機能の改善が確認されました。動脈の硬さを示すbaPWVも、投与3か月・6か月・12か月の各時点で改善が報告されています(The Aging Male, 2017)。
さらに16件のコホート研究・約126万人を統合したメタ解析では、PDE5阻害薬の使用者で主要心血管イベントが0.78倍、全死亡が0.70倍と報告されています(European Heart Journal – Cardiovascular Pharmacotherapy, 2024)。
脳について
2024年、米国の5,000万人規模の医療データベースを用いた研究が報告されました。ED患者509,788人とLUTS(下部尿路症状)患者1,075,908人を2004年から2021年まで追跡したものです。
この研究では、タダラフィルの使用者で認知症リスクが0.68倍、シルデナフィルで0.75倍と報告され、死亡・心血管疾患についても減少が示されました(The American Journal of Medicine, 2024/テキサス大学医学部ガルベストン校の発表)。アルツハイマー病に絞ったコホート研究やメタ解析でも、同じ方向の結果が複数報告されています(Neurology, 2024)。
血管・排尿・脳。加齢とともに気になり始めるこの3領域に、同じNO–cGMP経路が関わっている。そう並べてみると、この成分が注目される理由が見えてきます。
「予防のために飲む」ことはできるのか
ここが、この記事でもっとも正直にお伝えしたい部分です。
結論から言えば、現時点で「認知症や心筋梗塞の予防のためにタダラフィルを飲む」という使い方は成り立ちません。理由は3つあります。
1. 承認された効能ではない
日本におけるタダラフィルの効能は、前述の3つだけです。予防目的の処方は適応外にあたります。
2. 研究の多くが観察研究である
先に挙げた研究は、薬を飲んだ人と飲まなかった人を後から比較したものが中心です。「薬のおかげで下がった」のか、「そもそも薬を処方される状態の人が、治療を受けているぶん健康管理も行き届いていた」のかを完全には切り分けられません。因果関係を証明するには、あらかじめ振り分けて比べる試験が必要になります。
3. 対象者が限られている
これらの研究の参加者は、EDや下部尿路症状を持つ中高年男性が中心です。健康な人が予防目的で飲んだ場合にどうなるかを示したデータではありません。
そのうえで、私たちの立場をお伝えします。EDや排尿の症状という「今ある悩み」に対して適応を判断して治療を行い、その過程で血圧・血糖・脂質を確認し、血管の状態を一緒に見ていく。この順番であれば、結果的に将来のリスクにも向き合えます。症状を入口にして全身を診る——これがエイジングケアとして現実的なやり方だと考えています。
血管年齢という切り口については、血管年齢を下げる7つの方法で詳しくまとめました。あわせてご覧ください。

服用時の注意点と費用について
効能が複数あるからといって、自己判断で用量を変えることはできません。
併用禁忌:硝酸薬(ニトログリセリン、亜硝酸アミル等)およびsGC刺激薬(リオシグアト)を服用中の方は、タダラフィルを使用できません。血圧が急激に下がる危険があります。
主な副作用:ほてり、頭痛、鼻づまり、消化不良、背部痛など。多くは軽度ですが、症状が続く場合はご相談ください。
注意が必要な方:心血管系の疾患がある方、重度の肝機能・腎機能障害がある方、他に服薬中の薬がある方は、必ず事前にお申し出ください。
費用:処方は自由診療(自費)となり、費用は全額自己負担です。健康保険は適用されません。薬剤ごとの価格は、同じ医療法人が運営するED専門サイトの料金表に掲載しています。薬剤の特徴の比較はED治療薬の比較(PDE5阻害剤)をご覧ください。
当院の記事作成と監修の方針は編集・監修体制に、その他の男性向け診療はAGA・薄毛治療およびヒゲ脱毛のページにまとめています。
よくある質問
Q. シアリスとザルティアは同じ薬ですか?
成分はどちらもタダラフィルで同一ですが、別の医薬品です。効能・効果と用法・用量が異なり、シアリスはED、ザルティアは前立腺肥大症に伴う排尿障害が対象です。医療現場でも取り違えに注意が呼びかけられているため、自己判断で置き換えないでください。
Q. 前立腺肥大症の薬を飲めば、EDにも効きますか?
そのような使い方は想定されていません。用量も服用のタイミングも異なります。どちらの症状も気になる場合は、その旨を医師に伝えたうえで、適応を判断してもらってください。
Q. 認知症の予防のために飲みたいのですが可能ですか?
できません。認知症の予防は日本で承認された効能に含まれておらず、報告されている研究も観察研究が中心で因果関係が確定していません。予防目的での処方は行っていません。
Q. 毎日飲み続けても大丈夫ですか?
前立腺肥大症に対しては1日1回の連日服用が承認された用法です。ただし自己判断での長期服用は避けてください。定期的に状態を確認しながら継続するかを判断します。
Q. 市販のシアリスでも同じ効果が期待できますか?
市販版はEDのみが対象で、10mgの1規格しかありません。前立腺肥大症や肺高血圧症に対する用法・用量とは異なります。EDの症状に使う場合も、持病や常用薬がある方は医師にご相談ください。
Q. 健康診断で何も指摘されていなくても相談できますか?
できます。むしろ数値に異常が出る前の段階でご相談いただくほうが、生活習慣の調整だけで対応できる幅が広くなります。気になる症状があれば、それだけで受診の理由になります。
監修:岡浩子(医療法人社団福美会 運営責任者/日本内科学会認定医/日本医師会認定産業医)
参考文献・出典
– 日本新薬「ザルティア錠2.5mg/同5mg」新発売のお知らせ
– 日経メディカル「ザルティア:PDE5阻害作用で排尿障害を改善」
– The American Journal of Medicine (2024) Benefits of Tadalafil and Sildenafil on Mortality, Cardiovascular Disease, and Dementia
– European Heart Journal – Cardiovascular Pharmacotherapy (2024) Long-term effects of phosphodiesterase-5 inhibitors on cardiovascular outcomes and death
– The Aging Male (2017) Administration of daily 5 mg tadalafil improves endothelial function in patients with benign prostatic hyperplasia
– Neurology (2024) Phosphodiesterase Type 5 Inhibitors in Men With Erectile Dysfunction and the Risk of Alzheimer Disease
