この記事の概要
親子関係の確認を目的とするDNA鑑定は、通常は関係者全員の同意のもとで行われる任意の検査です。しかし、日本においても法的な争いが発生した場合には、家庭裁判所などが命じる「強制的な親子鑑定」が行われるケースが存在します。本記事では、日本の法律に基づいた親子鑑定の強制性について、DNA鑑定の拒否が及ぼす影響、裁判所の命令に従わなかった場合の法的な帰結について詳しく解説します。
1. DNA鑑定とは?
DNA鑑定は、個人のDNA(遺伝子情報)を比較することで、親子関係などの血縁関係を科学的に証明する手段です。通常、唾液や血液などのサンプルを用いて解析が行われ、非常に高い精度で親子関係を特定できます。親子鑑定は、出生前(NIPPT)にも実施可能で、胎児と父親候補の関係も確認できます。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
2. 日本で強制的に親子鑑定が行われるケース
日本の民法では、親子関係の確認が必要な法的争いが発生した場合に、家庭裁判所がDNA鑑定を命じることがあります。以下のような事例が代表的です
(1) 認知訴訟
未婚の男女の間に子が生まれた際に、父親が認知を拒否するケースでは、母親または子供側が認知を求めて裁判を起こすことができます。家庭裁判所は、父子関係を科学的に明らかにするためにDNA鑑定を命じることがあり、これに従わなければ不利な判断が下される可能性があります。
(2) 親権争い
離婚や別居の際、どちらが親権を持つかを決定するうえで、親子関係の確定が必要になることがあります。この場合も、裁判所はDNA鑑定を命じることがあります。
(3) 相続紛争
相続権の有無を巡って、亡くなった人との親子関係が問題になる場合、鑑定が命じられることがあります。たとえば、非嫡出子や養子の親子関係が争われた場合、DNA鑑定の結果が判断材料となります。
3. 鑑定の拒否とその法的影響
DNA鑑定は本来、身体への侵襲がないとはいえ、プライバシーの権利とのバランスが問われます。そのため、法的には強制力を持たせることには限界があります。
しかしながら、裁判所がDNA鑑定を命じたにもかかわらず当事者が拒否した場合、以下のような「不利益推定」が適用されることがあります。
不利益推定の例
- 鑑定を拒否した人物が「親である」可能性が高いと推認される。
- 拒否する理由が合理的でなければ、裁判所はその態度自体を証拠として扱う。
このような扱いにより、実質的には「拒否が難しい」状況となり得ます。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
4. 任意鑑定との違い
DNA鑑定には「任意鑑定」と「法的鑑定」があり、任意鑑定は当事者全員の同意に基づくものであり、結果に法的拘束力はありません。一方、裁判所が関与する法的鑑定は、法的根拠に基づいて実施され、判決や調停の証拠となります。

5. 母親が拒否した場合の扱い
母親がDNA鑑定を拒否するケースもありますが、その理由が不明確である場合、裁判所は「隠すべき事情がある」と判断することがあります。特に、出生前の鑑定(NIPPT)では、母体の血液を用いるため、母親の同意が不可欠です。拒否が続いた場合、認知請求が棄却される、あるいは不利な判決が下る可能性もあります。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
6. 日本法におけるDNA鑑定の立ち位置
日本では、DNA鑑定を直接強制する法律は存在しませんが、裁判所の命令に従わなければ実質的に「不利な判断をされる」という仕組みが整っています。プライバシー権との兼ね合いから強制執行は難しいものの、裁判実務上は非常に重い意味を持ちます。
まとめ
日本でDNA鑑定が強制されるのは、裁判所の命令がある場合に限られます。特に認知訴訟や相続紛争など、親子関係が法的に争点となる事案では、鑑定が重要な証拠となります。鑑定を拒否する自由はありますが、それによって法的に不利な立場に立たされる可能性が高いため、実質的には「強制」となりうるのが現実です。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
よくある質問
参考文献
- 裁判所HP「家事事件手続法」
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2021/kazi_tejun.pdf - 日本弁護士連合会「DNA鑑定に関する意見書」
https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2019/opinion_190208_2.pdf - NCBI – Genetic Testing and the Law
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8244616/





