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不眠症に悩む方必見!正しい睡眠環境の作り方
2025年9月19日 心療内科
「布団に入っても眠れない」「夜中に何度も目が覚める」「朝起きても疲れが取れない」――こうした不眠症の悩みを抱える人は年々増えています。現代社会では、ストレスや生活リズムの乱れだけでなく、睡眠環境そのものが眠りの質を左右する重要な要因であることが分かってきました。 正しい睡眠環境を整えることは、薬に頼らず自然に眠りを改善するための第一歩です。本記事では、不眠症改善に直結する「睡眠環境づくり」について、医学的根拠と専門家の知見を踏まえて徹底的に解説します。 不眠症と睡眠環境の関係 不眠症は「昨日あまり眠れなかった」という一時的な寝不足とは異なり、心身のリズムや脳の働きが長期的に乱れることで生じる深刻な状態です。その背景には心理的ストレスや自律神経の不調、加齢に伴うホルモン分泌の低下など、内的要因が複雑に関わっています。しかし、それと同時に見落とされがちなのが睡眠環境という外的要因の影響です。 脳と体内時計のメカニズム 人間の睡眠は脳内の「体内時計」によって調整されています。この体内時計は視床下部にある視交叉上核と呼ばれる神経核が中枢となっており、光や音、温度といった外部刺激に敏感に反応します。昼間に太陽光を浴びると脳は覚醒モードを維持し、夜間に暗闇が訪れると松果体から睡眠ホルモンであるメラトニンが分泌され、自然な眠気を誘います。 しかし、現代社会では夜間でも街灯や電子機器の光に囲まれ、脳は「昼と夜の区別」を見失いやすくなっています。その結果、メラトニン分泌のリズムが崩れ、寝床に入っても眠れない、浅い眠りしか得られないといった不眠症状を招くのです。 外部環境が自律神経に与える影響 睡眠の質を決定づけるもう一つの重要な要素が自律神経です。日中は交感神経が優位になり、心拍数や血圧を高めて活動をサポートします。一方で夜間は副交感神経が優位になり、心身を休息状態へと導きます。 ところが、寝室に入り込む光や外からの騒音、不快な温度や湿度といった環境刺激は、交感神経を刺激し続けてしまう原因になります。例えば: このように環境要因は、自律神経の切り替えを妨げ、夜になっても「休息モード」に入れなくなってしまうのです。 睡眠環境は「快適さ」以上の役割を持つ 多くの人は「眠れないのはストレスや体質のせい」と考えがちですが、実際には環境改善だけで不眠が軽減するケースも少なくありません。研究でも、光・音・温度・湿度・寝具といった環境因子を整えることで、メラトニンの分泌が正常化し、自律神経のバランスが回復することが確認されています。 つまり、睡眠環境は単なる「快適さを追求するもの」ではなく、脳と自律神経を正しく眠りに導くための決定的な要素なのです。 光環境の調整 ― メラトニン分泌を守る 私たちの体内時計は、外界の「光」によって強く調整されています。特に視交叉上核を中心とした脳の睡眠中枢は、網膜から入る光の刺激に敏感に反応し、日中の覚醒と夜間の眠気をコントロールしています。つまり、光の浴び方ひとつで睡眠の質は大きく左右されるのです。 夜間の光とブルーライトの影響 夜間に強い光、特にスマートフォンやパソコン、LED照明などから発せられるブルーライトを浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が著しく抑制されます。メラトニンは「夜になったから眠る準備を始めよう」という合図を脳に与えるホルモンで、これが阻害されると入眠が遅れ、眠りが浅くなる原因になります。 さらに、夜間の明るい環境は自律神経にも影響を与えます。暗闇の中では副交感神経が優位となり心拍数や血圧が下がりますが、光を浴びると交感神経が刺激され、脳と体は「まだ活動を続ける時間」と錯覚してしまうのです。その結果、布団に入っても脳が冴え、眠気が遠ざかるという悪循環に陥ります。 朝の光で体内時計をリセット 一方で、早朝に自然光を浴びることは快眠の大きな助けになります。朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、約16時間後に自然な眠気が訪れるリズムが整います。これは「夜は眠り、朝は目覚める」という本来の生体リズムを強化し、夜のメラトニン分泌をスムーズにする効果があります。特に起床直後の30分以内にカーテンを開けて自然光を浴びる習慣は、入眠のしやすさと深い眠りを得るために非常に有効です。 快眠のための光環境づくり 快眠を得るためには「夜は暗く、朝は明るく」という環境リズムを徹底することが不可欠です。そのための工夫として: このような光環境のコントロールは、薬に頼らず自然な睡眠リズムを整えるための基本的かつ効果的な方法です。特に不眠に悩む人ほど、まずは「光の浴び方」を見直すことで快眠への第一歩を踏み出すことができます。 音環境のコントロール ― 副交感神経を優位に 人間の脳は眠っている間も外部の音に敏感に反応しています。これは、進化の過程で「音=危険のサイン」と捉える防御本能が働いているためです。たとえ熟睡中であっても、車の走行音や隣人の生活音、上階の足音、パートナーのいびきといった音が不意に聞こえると、脳は「覚醒反応」を示し、交感神経を刺激してしまいます。その結果、入眠が妨げられたり、深いノンレム睡眠から浅い眠りに引き戻されたりするのです。こうした断続的な覚醒は、自覚がなくても翌朝のだるさや集中力低下となって現れます。 静寂を確保する耳栓の活用 睡眠中の騒音対策として最も手軽で効果的なのが耳栓です。とくにフォームタイプ(スポンジ素材)の耳栓は遮音性が高く、柔らかく膨張して耳の形にフィットするため、外部の雑音をしっかりと遮断してくれます。これにより、脳が「静寂の中にいる」と錯覚し、副交感神経が優位になりやすい環境が整います。副交感神経が働くと心拍数や血圧が下がり、筋肉が弛緩してスムーズに眠りへと移行できるのです。 ただし、耳栓は選び方と使い方が重要です。硬すぎる素材は耳の痛みや違和感を引き起こし、かえって眠りを妨げることがあります。睡眠用としては、圧迫感が少なく長時間装着しても疲れにくい柔らかなタイプがおすすめです。また、正しい装着方法もポイントです。フォームタイプの耳栓は細く丸めて耳に入れ、数秒待って膨らませることで遮音性が最大限に発揮されます。 完全な静けさが苦手な人にはホワイトノイズ 一方で、完全な無音状態に不安を感じたり、逆に些細な物音が気になって眠れなくなる人もいます。そんな場合には「ホワイトノイズマシン」の利用が有効です。ホワイトノイズとは、雨音や川のせせらぎ、波の音、扇風機の風の音など、周波数の幅が均一で一定リズムを持つ音のことです。このような音を流すことで、突発的な騒音(クラクションやドアの開閉音など)が目立たなくなり、脳が安定した音環境に適応しやすくなります。 ホワイトノイズは「音のカーテン」のように働き、外部からの刺激を和らげると同時に、脳に安心感を与えてくれます。その結果、副交感神経が優位に切り替わり、自然と眠気が訪れやすくなるのです。研究でも、ホワイトノイズは中途覚醒を減らし、睡眠の持続をサポートする効果が報告されています。 音環境調整のポイント このように、音環境を整えることは単なる「快適さ」ではなく、自律神経を整え、脳を休息モードへと導く大切なステップです。睡眠の質を左右する隠れた要因だからこそ、自分に合った方法で積極的にコントロールすることが、不眠症改善への近道となります。 温度と湿度 ― 深部体温のリズムを整える 人間の体は、眠りに入る前に「深部体温(体の内部の温度)」を自然に下げる仕組みを持っています。これは、脳の視床下部にある体温中枢が働き、血流を皮膚表面に集めて熱を放散させることで行われます。深部体温がゆるやかに下がることで脳は「休息の時間が来た」と認識し、副交感神経が優位に切り替わり、自然な眠気が訪れるのです。 しかし、このリズムは外部の温度環境に大きく左右されます。室温が高すぎると熱放散がうまくいかず、深部体温が下がらないまま覚醒状態が続いてしまいます。一方で、冷えすぎた環境では筋肉が緊張して体がリラックスできず、入眠が妨げられるだけでなく途中で目が覚めやすくなります。つまり、「眠りやすい体温リズム」を支えるには、適切な温度と湿度を維持することが不可欠なのです。 理想的な寝室の環境条件 加湿の重要性と注意点 乾燥は睡眠の質を下げる大きな要因です。湿度が30%を下回ると喉や鼻の粘膜が乾燥しやすくなり、途中で咳や口の渇きで目が覚める「中途覚醒」を招きやすくなります。加湿器を用いることで湿度を安定させると、副交感神経が働きやすくなり、眠りの持続性が高まります。 ただし、湿度が70%を超えるとカビやダニの繁殖が進み、かえって健康を損なうリスクがあります。特にアレルギー体質の方は注意が必要で、加湿しすぎないよう湿度計を用いた管理が望ましいでしょう。 温湿度と自律神経の関係 快適な温度・湿度環境は、単に眠りやすさを生むだけでなく、自律神経の切り替えにも関与します。体が適切に熱を放散できると副交感神経が優位になり、心拍や呼吸がゆるやかになって脳が休息モードに移行します。逆に不快な環境が続くと交感神経が優位のままとなり、眠りが浅くなったり、朝の目覚めに疲労感が残ったりします。 このように、温度と湿度のコントロールは、体のリズムを守り、深部体温を調整することで質の高い睡眠を支える重要な要素なのです。 寝具の選び方 ― 身体を支える環境を整える 快眠を得るために欠かせないのが「寝具」の質です。人間は一晩で数十回の寝返りを打ちながら体圧を調整し、血流や呼吸を維持しています。そのため、寝具は単なる寝心地の問題ではなく、脳と自律神経を眠りへと導くための重要な環境因子といえます。特にマットレス、枕、そして掛け布団の選び方は睡眠の深さに直結します。 高反発マットレス …
不眠症を改善するための快眠グッズ10選
2025年9月19日 心療内科
「布団に入ってもなかなか眠れない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」――このような不眠症の悩みを抱える人は年々増加しています。睡眠は心身の健康を維持するために欠かせない要素ですが、ストレスや生活リズムの乱れ、加齢によるホルモン分泌の変化などが重なることで、深い眠りを得ることが難しくなります。不眠を改善するためには、生活習慣の見直しや医療機関への相談が必要になる場合もありますが、まず日常的に取り入れやすい方法として 快眠グッズの活用 が注目されています。最新の研究では、睡眠環境を整えるだけで眠りの質が大きく改善することが報告されており、適切なアイテムを取り入れることは不眠改善の第一歩となります。本記事では、不眠症改善に役立つ快眠グッズ10選を医学的根拠と専門家の知見をもとに解説し、それぞれの効果や選び方のポイントをご紹介します。 不眠症と睡眠環境の関係 不眠症には、心理的ストレスや自律神経の乱れ、加齢に伴うホルモン分泌の変化、さらには慢性疾患など多くの要因が関与しています。しかし、その中でも見落とされがちなのが 「睡眠環境」 の影響です。実は、眠りを支配する脳と自律神経は、周囲の物理的条件――音、光、温度、湿度、そして寝具の質――から大きな影響を受けています。 具体的に考えてみましょう。たとえば、寝室にわずかな光が差し込むだけで、脳は「まだ昼間だ」と錯覚します。その結果、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制され、入眠のタイミングが遅れたり、浅い眠りにとどまったりします。同様に、車の走行音や隣室の生活音が続く環境では、眠りを守る副交感神経が優位になれず、脳が覚醒状態から切り替わりにくくなります。 また、温度や湿度も重要な要素です。人間の体は眠りに入る前に「深部体温を下げる」仕組みを持っていますが、室温が高すぎると体温が下がらず、逆に冷えすぎる環境では筋肉が緊張してしまいます。湿度が低い場合は喉や鼻の粘膜が乾燥しやすく、途中で目が覚める原因にもなります。一方で、適切な湿度を保つことで呼吸が楽になり、深い眠りを維持しやすくなるのです。 さらに、寝具の質も無視できません。体圧をうまく分散できないマットレスや、自分の首に合わない枕を使っていると、就寝中に筋肉や関節が緊張し、睡眠が分断されます。「夜中に何度も寝返りを打つ」「朝起きたときに肩や腰が痛む」という症状は、実は睡眠環境の不適切さが原因であることが多いのです。 このように、睡眠環境は脳と自律神経の働きに直接作用し、眠りの深さや質を大きく左右します。したがって、不眠に悩む方は生活習慣の改善に加えて、「眠れる環境づくり」 を意識することが極めて重要です。遮光カーテンやアイマスクで光を遮る、耳栓やホワイトノイズで騒音を和らげる、快適な寝具を選ぶ――こうした工夫を取り入れることで、副交感神経が優位になり、自然な眠気が訪れやすくなります。 つまり、不眠症の改善には「心」と「体」の調整に加えて、「環境」という第三の要素を整えることが不可欠」 なのです。 不眠症を改善するための快眠グッズ10選 ここからは、専門的な知見を踏まえて厳選した「快眠グッズ10選」を紹介します。単なるリラックスアイテムにとどまらず、睡眠の質を根本から改善することを目的とした製品を中心に取り上げます。 1. 遮光カーテン ― 光をシャットアウトしてメラトニン分泌を促進 人間の睡眠は、外部環境から受ける「光」の影響を強く受けています。私たちの脳には 視交叉上核(しこうさじょうかく) と呼ばれる体内時計の中枢があり、網膜を通じて入る光の情報をもとに昼夜のリズムを調整しています。夜間に街灯や車のライト、さらには近隣の建物からの光が室内に入り込むと、この体内時計は「まだ昼間だ」と錯覚してしまいます。その結果、睡眠ホルモンである メラトニン の分泌が抑制され、自然な眠気が訪れにくくなるのです。 この点で、遮光カーテンは非常に有効な快眠グッズです。高品質の遮光カーテンは、外部からの光をほぼ完全に遮断し、寝室を夜の暗闇に近い環境へと整えます。これにより脳は「今は夜である」と正しく認識し、メラトニンの分泌が促されてスムーズな入眠が可能になります。また、暗闇の中で分泌されたメラトニンは夜間を通じて持続しやすいため、睡眠の質そのものを深め、途中で目覚めにくい環境を作るのに役立ちます。 さらに遮光カーテンには、心理的な安心感を与える効果もあります。外からの光や視線を遮ることで「守られている空間」という意識が高まり、副交感神経が優位に働きやすくなるのです。特に、不眠傾向があり緊張や不安で眠りに入りにくい人にとっては、この「安心感」が入眠をサポートする重要な要素になります。 使用の際には、窓のサイズに合った遮光カーテンを選ぶだけでなく、カーテンの端から光が漏れないように設置方法にも工夫が必要です。カーテンレールの上部を覆う「カバートップ」や、横からの光漏れを防ぐ「リターン縫製」などを組み合わせることで、より高い遮光効果が得られます。加えて、遮光カーテンは断熱や防音効果を兼ね備えた製品も多いため、夏場や冬場の快適な室温維持、外部の騒音対策にも役立ちます。 つまり、遮光カーテンは単なる「光を遮る道具」ではなく、脳と自律神経に夜であることを知らせ、メラトニンの分泌を促し、質の高い睡眠を支える重要な環境調整ツール といえるのです。 2. アイマスク ― 持ち運べる暗闇環境 遮光カーテンが自宅の寝室全体を暗くするのに対し、アイマスクは顔の周囲に直接「暗闇」を作り出すことができる手軽な快眠グッズ です。わずか数十グラムの軽量アイテムながら、光による睡眠妨害を効果的に防ぐことができます。そのため、自宅だけでなく、旅行先や出張先、さらには飛行機や新幹線といった移動中でも、安定した睡眠環境を再現できるのが大きな魅力です。 特に 光に敏感な人 や、カーテンの隙間から差し込む早朝の自然光によって目覚めやすい人にとって、アイマスクは強力なサポートアイテムとなります。脳はわずかな光でも「朝が来た」と誤認してメラトニン分泌を抑制してしまうため、光を徹底的に遮ることで入眠と睡眠維持を助けるのです。 素材選びも快適な使用感に大きく関わります。シルク素材は通気性が良く、肌触りもなめらかで、敏感肌の方や長時間使用する方に特におすすめです。低刺激性の布地や、クッション性のある低反発素材を使ったタイプは、目元にフィットしつつ圧迫感を減らしてくれるため、快適さが持続します。また、立体構造のアイマスクを選べば、まぶたへの接触を避け、長時間使用しても目元にストレスを感じにくくなります。 さらに、最近では アロマ機能や温熱機能付きのアイマスク も登場しています。ラベンダーやカモミールの香りを含ませたタイプは副交感神経を優位にしやすく、自然なリラックス効果を得られます。温熱タイプは目元をじんわり温めることで血流を促進し、筋肉の緊張を和らげ、心地よい眠気を誘います。 使い方のポイントとしては、就寝直前に着用するだけでなく、日中の仮眠やリラックスタイムに活用するのも効果的です。昼間の20分程度の短い仮眠時にアイマスクを使用すれば、脳をしっかり休ませ、夜の睡眠リズムの安定にもつながります。 つまりアイマスクは、「どこでも自分専用の暗闇を持ち運べる」便利で多機能な快眠ツール といえます。寝室環境が整っていない場所でも、手軽に暗闇を確保できるため、不眠症に悩む方や生活リズムが乱れやすい方にとって欠かせないアイテムです。 3. 耳栓 ― 騒音をカットして副交感神経を整える 睡眠の質を左右する外的要因の中でも、音の影響は非常に大きなものです。人間の脳は、眠っている間でも音に対して反応する仕組みを持っています。たとえば、車の走行音や近隣住民の生活音、上階の足音、さらにはパートナーのいびきなど、本人にとっては小さな騒音であっても、脳はそれを「危険かもしれない刺激」として感知し、交感神経を刺激してしまいます。その結果、入眠が妨げられたり、深い睡眠から浅い眠りへ引き戻されたりするのです。 耳栓を使用することで、こうした不快な音刺激を効果的にカットし、脳を静寂な状態に導いて副交感神経が優位になりやすい環境 を整えることができます。静かな環境はリラックスホルモンであるセロトニンの分泌も促し、自然に眠気を誘発するため、不眠症の改善にも大きく役立ちます。 耳栓の種類と特徴 耳栓にはさまざまなタイプがあり、用途や好みに応じて選ぶことが大切です。 …
不眠症の原因は脳にある?メカニズムを解説
2025年9月19日 心療内科
「眠りたいのに眠れない」「布団に入っても頭が冴えてしまう」――そんな不眠症に悩む人は年々増加しています。ストレスや生活習慣の乱れが原因と考えられがちですが、実はその背景には脳の働きの乱れが大きく関わっています。脳は睡眠と覚醒をコントロールする司令塔であり、そのメカニズムに異常が生じると、自然な眠りに入れなくなるのです。本記事では、不眠症と脳の関係について医学的な視点から詳しく解説し、改善につなげる具体的なヒントを紹介します。 不眠症とは ― 単なる寝不足ではない 不眠症とは、夜に十分な睡眠時間を確保しているにもかかわらず、「なかなか眠れない」「眠ってもすぐに目が覚めてしまう」「熟睡感が得られない」といった状態が継続的に起こる症状を指します。これは一晩の寝不足や一時的なストレスによる浅い眠りとは異なり、睡眠そのものの質が慢性的に低下している状態です。 とくに重要なのは、不眠症は単独の病気ではなく「症候群」として捉えられる点です。背景には心理的要因(不安やストレス)、身体的要因(慢性疾患や痛み)、生活習慣の乱れ、さらには脳内での神経活動やホルモン分泌の異常が複雑に絡み合っていることが近年の研究で明らかになっています。 不眠症の代表的な4つのタイプ 不眠症の本質 ― 脳とホルモンの異常 これらの症状は、一見すると生活習慣や環境の問題に思えますが、近年の神経科学や睡眠医学の研究では、脳の神経活動やホルモン分泌の異常が深く関与していることがわかっています。 このように、不眠症は単なる「寝不足」ではなく、脳と自律神経の調整機能に異常が生じているサインともいえるのです。 脳と睡眠の仕組み ― 司令塔はどこにあるのか 「眠り」という現象は単に「体が疲れたから休む」といった単純なものではありません。実際には、脳内に存在する複数の部位が互いに連携し、ホルモンや神経伝達物質の働きを介して、睡眠と覚醒の切り替えを精緻にコントロールしています。ここでは、その中心的な役割を担う脳の司令塔について詳しく見ていきましょう。 視交叉上核(しこうさじょうかく)と体内時計 脳の視床下部に位置する視交叉上核(SCN: suprachiasmatic nucleus)は、いわば「体内時計の司令塔」です。網膜に入った光の情報は視神経を通じてこの部位に伝えられ、昼と夜のリズムを正確に刻む役割を果たしています。 夜になると視交叉上核は松果体へシグナルを送り、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促します。このメラトニンは体温を低下させ、脳に「眠る時間ですよ」という合図を送ることで自然な入眠を導きます。しかし、夜遅くまで強い光(特にブルーライト)を浴びると視交叉上核が「まだ昼間だ」と誤認し、メラトニン分泌が抑制されます。その結果、眠気が遅れ、睡眠リズム全体が乱れてしまうのです。 松果体とメラトニンの分泌 松果体は脳にある小さな内分泌器官ですが、睡眠の質を左右する極めて重要な役割を持ちます。松果体から分泌されるメラトニンは「睡眠ホルモン」と呼ばれ、夜間にその分泌が増えることで脳と体を休息モードへと導きます。メラトニンの分泌は、朝に光を浴びるタイミングとも密接に関係しています。朝日を浴びることで分泌が一旦抑制され、その約14〜16時間後に再び分泌が高まるリズムを持っているため、規則正しい生活がリズム形成に不可欠です。不規則な生活リズムや夜型の習慣、深夜までのスマートフォン使用は、このメラトニン分泌を阻害し、「眠りたいのに眠れない」という状態を引き起こす原因になります。 脳幹と覚醒システム 一方で、脳には「眠る仕組み」と同時に「覚醒を維持する仕組み」も存在します。その中心が**脳幹の上行性網様体賦活系(ARAS: ascending reticular activating system)**です。このネットワークは、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンなどの神経伝達物質を介して大脳皮質を刺激し、昼間の覚醒状態を保ちます。不眠症の患者では、この覚醒システムが夜になっても過剰に働き続けることがあります。つまり、体は「眠る準備」をしているにもかかわらず、脳は活動モードを維持してしまい、結果として「布団に入っても眠れない」「眠りが浅い」という状態を生み出すのです。 睡眠は脳内ネットワークのバランスで決まる このように、視交叉上核(体内時計)、松果体(メラトニン)、脳幹(覚醒システム)はそれぞれ独立して機能しているわけではなく、複雑なネットワークとして互いに影響し合っています。 こうした一連のプロセスがバランスよく切り替わることで、人は昼に活動し、夜に休息する「自然なリズム」を保つことができるのです。逆に、このバランスが崩れると不眠症が発症し、慢性的に続けば心身に大きな悪影響を及ぼします。 不眠症を引き起こす脳内メカニズム 不眠症は「単に寝つきが悪い」だけの問題ではなく、脳内で起きている複雑な神経活動やホルモン分泌の異常によって引き起こされます。ここでは、その代表的なメカニズムを詳しく解説します。 1. 睡眠ホルモンの分泌異常 ― メラトニンの乱れ 睡眠のリズムを整えるうえで最も重要なホルモンがメラトニンです。メラトニンは夜間に松果体から分泌され、深部体温を下げると同時に脳へ「休息の時間が来た」というシグナルを送ります。 しかし、このメラトニン分泌が遅れたり減少したりすると、夜になっても眠気が十分に生じず、寝つきが悪くなります。特に次のような要因がリズムを乱します。 このように、メラトニンの分泌異常は「入眠困難」や「浅い眠り」をもたらす典型的な原因であり、慢性的な不眠の入り口ともなります。 2. 神経伝達物質のアンバランス ― 興奮と抑制のバランス崩壊 睡眠は「脳を落ち着ける神経伝達物質」が働くことで成り立ちます。特に重要なのが、γ-アミノ酪酸(GABA)とセロトニンです。 一方で、ドーパミンやノルアドレナリンといった覚醒系の神経伝達物質が過剰に分泌されると、脳は活動状態を維持し続けてしまいます。本来なら夜には抑制が効くはずの覚醒系が強く働くことで、「頭が冴えて眠れない」状態を引き起こします。 つまり、不眠症は「抑制系(GABA・セロトニン)」と「覚醒系(ドーパミン・ノルアドレナリン)」のバランス崩壊によって生じるのです。 3. 脳の覚醒システムの過活動 ― ストレスが眠りを奪う 脳には、覚醒を維持するためのネットワークが存在します。その中心が脳幹の上行性網様体賦活系(ARAS)や、感情処理を担う扁桃体です。 これはまさに「頭が冴えて眠れない」典型的な不眠症のメカニズムです。ストレス社会に生きる現代人に不眠症が多い理由のひとつも、この覚醒システムの過活動にあるといえるでしょう。 自律神経との関係 …





