現代人に受け継がれたネアンデルタール人の遺伝子
現代人の多くは、絶滅した旧人類ネアンデルタール人の遺伝子をわずかに受け継いでいます。ネアンデルタール人の遺伝子が日本人を含む現代人にどの程度含まれているかは、遺伝子解析の結果から明らかになっています。現代人の多くは、ネアンデルタール人の遺伝子を一部受け継いでおり、その割合は人種や地域によって異なります。
この事実がわかったのは、化石として残された骨からごくわずかに残る古代DNAを抽出し、次世代シーケンサーで解析する技術が発展したためです。ネアンデルタール人のゲノム解読に大きく貢献した研究者の一人が、ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のスバンテ・ペーボ博士で、この功績により2022年にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。古代人骨から得られたゲノム配列と、世界各地の現代人のゲノム配列を比較することで、どの領域がネアンデルタール人由来かを特定できるようになりました。
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ネアンデルタール人の遺伝子の割合
アフリカ以外にルーツを持つ現代人のゲノムには、平均して約1〜4%程度のネアンデルタール人由来の遺伝子が含まれています。ネアンデルタール人は、約40,000年前に絶滅した旧人類で、ユーラシア大陸に広く分布していました。現代の人類(ホモ・サピエンス)は、アフリカで進化した後、ユーラシアに広がり、そこでネアンデルタール人と交雑しました。その結果、アフリカ以外に住むほとんどの現代人は、ネアンデルタール人の遺伝子を一部持っています。
具体的には、アジア人やヨーロッパ人のゲノムには、約1~4%程度のネアンデルタール人の遺伝子が含まれていることが確認されています。これは、日本人を含む東アジアの人々も同様です。日本人のネアンデルタール人の遺伝子の割合も約2~3%程度とされています。なお、この割合はあくまで平均的な目安であり、同じ地域の出身者であっても、個人ごとにどの染色体領域を受け継いでいるかは異なります。
ネアンデルタール人の遺伝子の影響
ネアンデルタール人由来の遺伝子は、免疫系や皮膚、代謝に関連する領域に多く残っているとされています。ネアンデルタール人との交雑により、現代人は特定の遺伝的特徴を受け継いでいます。これらの遺伝子は、免疫系や皮膚、代謝に関連するものが多いとされています。例えば、以下のような影響があると考えられています。
- 免疫システムの強化: 一部のネアンデルタール人の遺伝子は、免疫反応に関連しており、病原体に対する抵抗力を強化する役割を果たした可能性があります。
- 皮膚の適応: ネアンデルタール人はヨーロッパやアジアの寒冷地に適応していたため、彼らの遺伝子は皮膚や髪の色、肌の適応に影響を与えた可能性があります。
ただし、これらの遺伝子は有利に働く場合もあれば、逆に現代の生活環境ではネガティブな影響を及ぼす可能性もあります。例えば、ネアンデルタール人の遺伝子が、アレルギーや自己免疫疾患のリスクを高める一因となっている可能性も指摘されています。一つの遺伝子が単純に「良い」「悪い」と分けられるわけではなく、当時の生活環境では有利だった特徴が、現代の生活環境では別の形で作用することがある、という点が興味深いところです。
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ネアンデルタール人の遺伝子と他の古代人類
ネアンデルタール人のほかにも、デニソワ人という古代人類の遺伝子が一部の現代人に受け継がれています。ネアンデルタール人以外にも、デニソワ人という古代人類が存在しており、特に東アジアやオセアニアの人々には、デニソワ人の遺伝子が含まれていることが知られています。デニソワ人の遺伝子は日本人にもごく少量含まれていると考えられており、特にチベット人やメラネシア人に多く見られる遺伝子です。
デニソワ人はシベリアのデニソワ洞窟で発見された指の骨や歯の化石から存在が確認された古代人類で、ネアンデルタール人ともホモ・サピエンスとも異なる系統に位置づけられています。チベット人が高地の低酸素環境に適応できる一因として、デニソワ人由来とされる遺伝子領域が関わっているという研究報告もあります。こうした事例は、異なる人類同士の交雑が、生き延びるための身体的な適応にも影響してきたことを示しています。
日本人におけるネアンデルタール人遺伝子の特異性
日本人のネアンデルタール人由来遺伝子の割合は他の東アジア人とほぼ同水準ですが、どの領域を受け継ぐかは個人差があります。日本人におけるネアンデルタール人の遺伝子の割合は、他の東アジア人とほぼ同じですが、地域によるわずかな違いが見られることもあります。また、ネアンデルタール人の遺伝子は、個人間でも異なる形で受け継がれているため、どの遺伝子が残っているかは個々の違いによります。
このような古代人類由来の遺伝子の有無を調べる解析は、ゲノム全体に散らばる無数のSNP(一塩基多型)のパターンを、参照データベースと比較することで行われます。数百万か所にわたる塩基配列の違いを統計的に処理することで、どの染色体領域がネアンデルタール人由来である可能性が高いかを推定する仕組みです。
こうしたゲノム比較の研究成果は、国際的な学術誌で発表され、世界中の研究機関が参照できるデータベースとして蓄積されています。祖先ルーツを推定するサービスの多くは、こうした公開データを基盤として利用しており、個人の解析結果は年々精度が高まってきています。ただし、これらはあくまで集団としての由来を推定するものであり、個人を特定したり、特定の二者の血縁関係を証明したりする目的には使えません。

まとめ
まとめとして、日本人を含む現代のアジア人のゲノムには、約2~3%程度のネアンデルタール人の遺伝子が含まれていることが知られています。この遺伝子は、免疫系や皮膚の適応に影響を与えていると考えられており、現代人の進化において重要な役割を果たしている可能性があります。ただし、その影響は有益なものばかりではなく、現代の生活環境ではネガティブな側面も指摘されています。
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祖先由来の遺伝情報の解析と、親子関係を調べるDNA型鑑定の違い
ネアンデルタール人由来のDNA解析と、親子関係を証明するDNA型鑑定は、同じ「遺伝子検査」でも調べる仕組みが異なります。ここまで紹介してきたネアンデルタール人やデニソワ人の遺伝子解析は、SNP(一塩基多型)を用いて祖先のルーツをたどるタイプの解析です。一方、親子関係を確認するDNA型鑑定では、STR(Short Tandem Repeat)と呼ばれる、親から子へ規則的に受け継がれる反復配列の型を比較する手法が使われます。
ヒロクリニックの出生前親子鑑定でも、このSTR法を採用しています。52座位のSTR領域を分析し、父親候補となる方と子のDNA型を比較することで、99.99%以上の精度で生物学的な親子関係を判定します。祖先由来の遺伝子を調べる解析が「どんなルーツを持つ集団に由来するか」を明らかにするのに対して、DNA型鑑定は「目の前にいる特定の二人が生物学的な親子であるかどうか」を明らかにするものであり、目的も解析対象の遺伝子領域も異なる点を押さえておくと理解しやすくなります。
よくある質問(FAQ)
ネアンデルタール人の遺伝子やDNA解析について、よく寄せられる質問にお答えします。気になる点がある場合は、下記もあわせてご確認ください。
日本人にはどのくらいネアンデルタール人の遺伝子が含まれていますか。
日本人を含む東アジアの人々のゲノムには、平均して約2〜3%程度のネアンデルタール人由来の遺伝子が含まれているとされています。
なぜアフリカ系の人々にはネアンデルタール人の遺伝子がほとんどないのですか。
ネアンデルタール人との交雑は、ホモ・サピエンスがアフリカを出てユーラシア大陸に広がった後に起きたと考えられているためです。そのため、アフリカにとどまった集団の子孫には、ネアンデルタール人由来の遺伝子がほとんど見られません。
デニソワ人とネアンデルタール人はどう違うのですか。
どちらもホモ・サピエンスとは異なる系統の古代人類ですが、発見された化石や分布地域が異なります。デニソワ人はシベリアで発見され、東アジアやオセアニアの現代人に遺伝子を残しているとされています。
祖先のルーツを調べる遺伝子検査と、親子関係を調べるDNA型鑑定は同じ検査ですか。
異なります。祖先ルーツの解析はSNPという遺伝子マーカーを用いて集団としての由来を推定するのに対し、親子関係を調べるDNA型鑑定はSTRという遺伝子マーカーを用いて特定の二人が生物学的な親子かどうかを判定します。
出生前親子鑑定の精度はどのくらいですか。
ヒロクリニックではSTR法による52座位の分析で、99.99%以上の精度を実現しています。
祖先ルーツを調べる一般的な遺伝子検査で、親子鑑定もできますか。
できません。祖先ルーツを調べる検査はSNPという遺伝子マーカーを用いて集団としての由来を推定するものであり、親子関係の証明には対応していません。親子関係を確認したい場合は、STR法を用いた専用のDNA型鑑定を受ける必要があります。
ネアンデルタール人由来の遺伝子は健康に悪い影響しかないのですか。
そうとは限りません。免疫反応の強化など有利に働いたと考えられる面がある一方、現代の生活環境ではアレルギーなど別の形でリスクに関わる可能性も指摘されており、一概に良し悪しを判断できるものではありません。
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略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Green RE, Krause J, Briggs AW, Maricic T, Stenzel U, Kircher M, et al. A draft sequence of a neanderthal genome. Science. 2010 May 7;328(5979):710-22.
- Zeberg H, Pääbo S. The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals. Nature. 2020 Nov;587(7835):610-612.
- Zeberg H, Pääbo S. A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals. Proc Natl Acad Sci U S A. 2021 Mar 2;118(9):e2026309118.
- Zeberg H, Dannemann M, Sahlholm K, Fischer MT, Wiebe V, Kanbar JR, et al. A Neanderthal Sodium Channel Variant Increases Pain Sensitivity in Present-Day Humans. Curr Biol. 2020 Sep 7;30(17):3465-3469.e4.
- Simonti CN, Vernot B, Bastarache L, Bottinger E, Carrell DS, Chisholm RL, et al. The phenotypic legacy of admixture between modern humans and Neanderthals. Science. 2016 Feb 12;351(6274):737-741.
- Dannemann M, Kelso J. The Contribution of Neanderthals to Phenotypic Variation in Modern Humans. Am J Hum Genet. 2017 Oct 5;101(4):578-589.





