DNA親子鑑定で「父親ではない」と判定される確率は、調べる対象が一般の人々なのか、それとも実際に鑑定を受けた人々なのかによって大きく異なります。「30%」という数字だけが独り歩きしていることがありますが、これは特定の集団に限った海外の集計データです。この記事では、信頼できる研究データをもとに、正しい確率とその背景を解説します。
この記事でわかること
「30%」という数字を見て不安になった方にこそ、まず読んでいただきたい内容です。
- 一般集団における非父性率の実際のデータ
- DNA鑑定を受けた人に限った場合の否定率
- 「30%」という数字が独り歩きしやすい理由
- 鑑定結果そのものの正確性について
一般集団における非父性率は1〜3%程度とされている
特に疑いのない一般の人々を無作為に調べた場合、非父性率(父親だと思われている男性が、実際には生物学的な父親ではない割合)はごく低い水準にとどまります。まず前提として、この一般集団のデータを確認します。
スウェーデンで実施された大規模な追跡調査では、非父性率は現代においておよそ1%程度と報告されています※1。これまでに行われた複数の研究をまとめた分析でも、対象を一般集団に限った場合の非父性率は中央値で2〜3%程度という結果が示されています。「30%」とは、大きく水準の異なる数字です。
このスウェーデンの調査は、1950年から1990年ごろに生まれた約195万家族という非常に大きな規模を対象にしたものです。調査対象が大規模かつ無作為であるほど、結果は実態に近い数字になります。過去の研究では、対象を限定した集団をもとに20〜30%程度という高い数字が報告されたこともありますが、大規模かつ無作為な調査ほど、実際の非父性率は低い水準に収れんする傾向がうかがえます。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
DNA鑑定を実際に受けた人に限ると、否定される割合は約2〜3割になる
「疑いがあるからこそ検査を申し込んだ」人たちに対象を絞ると、数字は大きく変わります。一般集団のデータとは前提が異なるため、混同しないよう注意が必要です。
アメリカの血液銀行協会(AABB)認定検査機関の統計を分析した研究によると、認定機関で実施された親子鑑定のうち、父子関係が否定された(除外された)ケースは例年24〜29%程度で推移しており、平均するとおよそ28%前後と報告されています※2。ここが、「30%」という数字の出どころに近いデータだと考えられます。
この割合が高くなる理由は、検査を申し込む人の多くがすでに何らかの疑いや事情を抱えて検査を選んでいるためです。統計学ではこれを選択バイアスと呼びます。何の疑いもなく生活している一般の人々の割合とは、前提がまったく異なる点に注意してください。
なぜ研究によって数字が異なるのか
同じ「非父性率」というテーマでも、調査対象の集め方によって結果は大きく変わります。無作為に集めた大規模な集団を調べた研究と、すでに検査機関に申し込んだ人だけを対象にした統計とでは、そもそも比べている母集団が違うためです。
ニュース記事やインターネット上の情報では、こうした前提の違いが省略されたまま数字だけが引用されることが少なくありません。数字を見るときは、その数字が「誰を対象にした調査なのか」を必ず確認してください。この視点を持つだけで、不正確な情報に振り回されにくくなります。
また、調査が行われた時代や地域によっても、非父性率の水準は変わります。スウェーデンの調査では、1940年代以前に生まれた世代ほど非父性率がやや高く、時代が下るにつれて低下する傾向が示されています。避妊方法やDNA型鑑定に対する社会的な認知の変化など、複数の要因が影響していると考えられます。単純に「昔と今」「国と国」を並べて比較するのではなく、それぞれの調査の前提条件をふまえて数字を読み解く姿勢が欠かせません。
「30%」という数字が独り歩きしやすい理由
この数字は検査を受けるに至った人々に限定した割合であり、一般的な確率ではありません。「父親が否定される確率は30%」という表現だけが広まると、まるで多くの家庭に起こりうる話のように感じられてしまいます。
私自身、患者様から「父親が否定される確率は3割と聞いたので不安です」というご相談を受けることがあります。そのようなときは、まず対象がどの集団かによって数字の意味が大きく変わることを丁寧にご説明するようにしています。不安に感じている段階では、数字の背景まで確認する余裕がないことも多いと感じます。
なお、国内の公的な大規模統計は確認できていません。この記事で紹介した数値は、いずれも海外で実施された研究データを参考値として紹介しているものです。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
「否定される確率」と「検査結果の正確性」は別の話
「否定される確率」の高さと「検査結果そのものの正確性」は、まったく別の指標です。ここまでの数字と混同しやすい点なので、切り分けて理解してください。
| 指標 | データ |
|---|---|
| 非父性率(一般集団) | 約1〜3%程度 |
| 否定率(実際に鑑定を受けた人) | AABB認定機関の統計で平均約28%前後 |
| 鑑定結果そのものの精度 | STR法・52座位の分析で99.99%以上 |
ヒロクリニックでは、法医学的な標準手法であるSTR法(FBIのCODISでも採用される手法)を用い、52座位を分析することで99.99%以上の精度を実現しています。「否定される確率」が高いか低いかにかかわらず、検査結果自体の信頼性は確保されています。私自身、この2つの数字を分けて説明すると、多くの方が落ち着いて結果を受け止めやすくなると感じています。
座位数が多いほど、無関係な人物が偶然すべての座位で一致してしまう確率は理論上小さくなります。解析する座位が多いことは、否定の結果か肯定の結果かにかかわらず、その判定結果への信頼性を裏付けます。検査結果の正確性についてさらに詳しく知りたい方は、DNA出生前親子鑑定の正確性と信頼性もあわせてご覧ください。
「否定」の結果が出た場合に起きていること
検査で「父子関係が否定される」という結果が出た場合、それは複数のSTR座位のうち一定数以上で型が一致しなかったことを意味します。偶然に生じるような小さなズレではなく、生物学的な血縁関係がない場合に特徴的に現れるパターンです。
「否定」という言葉の響きから、検査自体の失敗や誤りを連想してしまう方もいらっしゃいます。しかし、否定という判定結果自体が、複数座位の一致・不一致を積み重ねた解析の結果であり、検査の精度が低いことを意味するものではありません。数字の意味を正しく理解することが、結果と向き合ううえでの助けになります。
結果を受け取った直後は、頭では理解していても感情が追いつかないことも珍しくありません。時間をかけて事実を受け止めることも、決して急ぐ必要のないプロセスです。ご家族やパートナーと一緒に、あるいは専門家に相談しながら、ご自身のペースで向き合ってください。
結果を受け取る前に知っておきたいこと
数字の意味を正しく理解したうえでも、結果を待つ間は不安を感じるものです。結果をどう受け止め、誰にどう伝えるかを事前に考えておくと、気持ちの整理がしやすくなります。詳しくはDNA出生前親子鑑定と倫理的な選択で解説していますので、あわせてご覧ください。
また、「否定される」ことの技術的な意味については排除確率(Probability of Exclusion: PE)とはでも詳しく取り上げています。
私的鑑定と法的鑑定、どちらを選ぶか
結果を今後、裁判所など公的な手続きに使う可能性が少しでもあるなら、はじめから法的鑑定を選んでください。私的鑑定は自宅でのセルフ採取も可能で手軽に確認できますが、採取時の本人確認や管理記録が法的な基準を満たしていないため、あとから法的な用途に転用することはできません。
当院の出生前親子鑑定は、私的鑑定98,000円(税込)、法的鑑定149,800円(税込)が基本料金です。費用だけでなく、検体採取の立ち会い体制や検査機関の登録状況もあわせて確認してください。法的鑑定に衛生検査所登録機関が推奨される理由は、法的用途の出生前親子鑑定は衛生検査所登録機関で行うべき理由で詳しく解説しています。
どちらの鑑定を選んだ場合でも、検体を採取してから結果が出るまでの間は、誰しも落ち着かない気持ちで過ごすことになります。その期間をどう過ごすか、結果が出たあとに誰にどう伝えるかをあらかじめ考えておくと、実際に結果を受け取ったときの心の負担を軽くできます。パートナーと事前に話し合っておくことも、選択肢のひとつです。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
まとめ
「父親が否定される確率は30%」という表現は、一般の人々に当てはまる数字ではありません。一般集団の非父性率は1〜3%程度である一方、実際に検査を申し込んだ人に限ると、AABB認定機関の統計で平均約28%前後という結果が報告されています。どちらの立場のデータなのかを確認したうえで、数字と向き合ってください。
数字の前提を理解したうえでなお不安が残る場合は、一人で抱え込まず、検査前でも検査後でもヒロクリニックへご相談ください。正確な検査結果と、数字の正しい読み方の両方を得ることが、落ち着いて次の一歩を踏み出す助けになります。
不確かな噂や断片的な数字に振り回されるよりも、一次データにあたって前提条件を確認する姿勢が、結果と向き合ううえでの支えになります。ヒロクリニックでは、検査そのものの精度だけでなく、数字の背景を含めた説明にも力を入れています。
今回参照した2つの研究は、いずれも査読を経た学術誌に掲載されたものであり、本文中に出典を明記しています。気になる方は、記事末尾の参考文献から原文を確認することもできます。根拠のはっきりした情報をもとに判断することが、不確かな噂に振り回されない一番の近道です。
※1 Dahlén T, et al. “The frequency of misattributed paternity in Sweden is low and decreasing: A nationwide cohort study.” Journal of Internal Medicine, 2022.
※2 “How many familial relationship testing results could be wrong?” PLOS Genetics, 2020(AABB認定relationship testing機関の統計分析に基づく)。
よくある質問
関連記事として、排除確率(Probability of Exclusion: PE)とは、DNA出生前親子鑑定と倫理的な選択、出産前に親子鑑定をするのはなぜか?もあわせてご覧ください。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
ヒロクリニックでのDNA出生前親子鑑定
ヒロクリニックのDNA出生前親子鑑定(NIPPT)は、全国のヒロクリニック直営クリニックでご利用いただけます。この検査は妊娠6週0日から提供され、1回の来院で検査が完了するため、必要な時間と労力を最小限に抑えることができます。自社ラボ「東京衛生検査所」(CAP認定・ISO9001取得)による検査ですので、安心してお受けいただけます。ただし、ご夫婦そろっての受診をお願いしています。そうすることで、より正確な検査結果を得ることができます。ご興味のある方は、こちらをクリックしてご予約いただくか、お問い合わせください。※料金・再検査対応の詳細は公式料金ページでご確認ください。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Anderson KG. How well does paternity confidence predict actual paternity? Evidence of worldwide nonpaternity rates. Curr Anthropol. 2006 Jun;47(3):513-520.
- Bellis MA, Hughes K, Hughes S, Ashton JR. Measuring paternal discrepancy and its public health consequences. J Epidemiol Community Health. 2005 Sep;59(9):749-754.





