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現代社会において、ストレスは誰もが抱える共通の課題です。精神的なストレスが、実は体のさまざまな不調や疾患と深く関わっていることをご存じでしょうか。特に内科領域では、ストレスが消化器系や循環器系、免疫系、自律神経系に影響を与え、多くの慢性疾患や心身症の原因・悪化要因になることが明らかになっています。本記事では、ストレスが身体に及ぼす影響や、具体的な内科的疾患との関係、そして予防や対処法まで、内科医の視点から詳しく解説します。
1. ストレスとは何か?医学的に見る定義と仕組み
● ストレスの定義
医学的には、ストレスとは身体や心にかかる負担や刺激に対して起こる生体の反応を指します。ストレッサー(原因)には、以下のようなものがあります:
- 精神的ストレッサー(仕事、人間関係、不安、喪失体験など)
- 身体的ストレッサー(病気、怪我、睡眠不足、栄養不足)
- 環境的ストレッサー(気温変化、騒音、過密環境)
● ストレスによる身体反応の仕組み
ストレスを感じると、脳の視床下部が刺激され、下垂体や副腎を介して「HPA軸(視床下部-下垂体-副腎系)」が活性化。結果として、コルチゾールやアドレナリンなどのホルモンが分泌され、以下のような生理反応を引き起こします:
- 血圧・心拍数の上昇
- 血糖値の上昇
- 胃酸分泌の促進
- 免疫機能の抑制
- 自律神経のバランス変化(交感神経優位)
この反応が短期的には適応的であっても、慢性的に持続すると体に悪影響を及ぼします。
2. ストレスと関係する内科的疾患の具体例
● 消化器系疾患
ストレスが最も影響しやすいのが消化器系です。
- 機能性ディスペプシア(FD):胃のもたれや痛みが続くが、内視鏡では異常が見られない疾患。ストレスによる胃運動機能の乱れが原因。
- 過敏性腸症候群(IBS):下痢や便秘が交互に繰り返される慢性疾患で、自律神経と腸内環境の乱れが関与。
- 逆流性食道炎:ストレスにより胃酸分泌や食道括約筋の緩みが生じ、胸焼けや呑酸が悪化。
● 循環器系疾患
ストレスが血管や心臓に与える影響も無視できません。
- 本態性高血圧:精神的緊張が交感神経を刺激し、血圧が持続的に上昇。
- 心筋梗塞・狭心症:慢性的なストレスが動脈硬化を進行させ、発症リスクを高める。
- 心臓神経症:心電図などに異常がないにもかかわらず、動悸や胸部不快感が出現。
● 内分泌・代謝系疾患
- 2型糖尿病:慢性的なストレスによりコルチゾールが過剰分泌され、血糖値のコントロールが困難になる。
- 甲状腺機能異常(バセドウ病、橋本病):ストレスが自己免疫反応に影響し、ホルモンバランスが崩れることも。
● その他
- アレルギー疾患(喘息、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎):ストレスによる免疫調整機能の低下で悪化。
- 免疫力低下:風邪や帯状疱疹など、感染症への抵抗力が弱まる。
- 慢性疲労症候群・線維筋痛症:原因不明の全身倦怠感や痛みが、ストレスと密接に関係。
3. 自律神経とストレスの関係
● 自律神経とは?
自律神経は、私たちの意思とは無関係に体の機能を調整する神経で、交感神経と副交感神経に分けられます。
- 交感神経:活動・緊張・ストレス時に優位(心拍数上昇、血管収縮など)
- 副交感神経:休息・回復・リラックス時に優位(消化促進、心拍数低下など)
● ストレスと自律神経失調症
過度のストレスで交感神経が常に優位になると、自律神経のバランスが崩れ、頭痛・めまい・倦怠感・動悸・不眠などの症状が慢性化します。これがいわゆる「自律神経失調症」です。
4. 内科的アプローチによるストレス関連疾患の治療と対処法
● 医学的検査と診断
ストレス性疾患は、他の重篤な疾患と区別するために、まず以下の検査を実施します。
- 血液検査(ホルモンバランス、炎症反応、血糖など)
- 心電図、ホルター心電図
- 胃カメラ・腹部エコー
- 自律神経機能検査(HRV検査など)
ポイント: 自覚症状だけで判断せず、必要な検査を行い、原因を明確にすることが重要です。
● 薬物療法
- 消化器症状に対する薬物(PPI、漢方薬など)
- 降圧薬、安定剤、睡眠導入剤の処方(必要に応じて)
- 抗不安薬・抗うつ薬(ストレス起因の心身症への対応)
※薬物は対症療法に過ぎないこともあるため、生活習慣改善との併用が必要です。
● 心身両面からのケア
- 心理カウンセリング・認知行動療法(CBT)
- マインドフルネスや呼吸法、瞑想の導入
- 医師との定期的なコミュニケーションにより自己理解を深める

5. ストレスマネジメント:内科医がすすめる生活習慣
● 規則正しい生活リズムの確立
- 起床・就寝時間を毎日一定に
- 朝食を必ず摂ることで体内時計をリセット
- 睡眠は最低でも6〜7時間を目安に
● 食事の工夫でホルモンバランスを整える
- トリプトファン(バナナ、豆類)+ビタミンB群でセロトニン生成を促進
- カフェイン・アルコールの過剰摂取は控える
● 適度な運動習慣
- ウォーキングやヨガは副交感神経を活性化し、ストレス軽減に効果的
- 1日30分程度の軽度〜中等度の有酸素運動を推奨
● 人間関係・情報の整理
- SNSや過剰なニュースから距離を置く
- 信頼できる人との対話で心理的ストレスを緩和
6. ストレスとどう向き合うか
クリニックでは、ストレスと関連する身体的症状の「見逃されがちなサイン」を丁寧に拾い上げ、必要に応じた検査・診断・治療を行っています。慢性の症状や不調が続く場合、自己判断せず、医師に相談することが大切です。
ストレスは完全になくすことはできませんが、「コントロールする力」は誰でも高めることができます。その第一歩として、身体の声に耳を傾け、内科的なサポートを受ける選択肢を持ってください。



