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「風邪をひきやすい」「季節の変わり目に必ず体調を崩す」――そんな悩みを抱える方は少なくありません。特に仕事や家庭で忙しい現代人にとって、風邪による体調不良は大きな問題です。医療機関を訪れる患者の中にも、「風邪をひきにくい体をつくるにはどうしたらよいか?」という相談が増えています。この記事では、内科医の立場から、日常生活に取り入れやすい風邪予防の実践的なコツを、医学的根拠とともにご紹介します。正しい知識と継続的な取り組みで、風邪知らずの健やかな体を目指しましょう。
1. なぜ風邪をひくのか?内科的にみる原因と仕組み
風邪とは、正式には「上気道感染症」と呼ばれ、鼻や喉、気管支といった呼吸器の入り口部分にウイルスが感染することで起こる病気です。原因となるウイルスは非常に多く、200種類以上あるとされています。最もよく見られるのは「ライノウイルス」で、次いで「コロナウイルス」「アデノウイルス」などが知られています。つまり、一口に「風邪」といっても、その正体はさまざまなウイルスの集合体であり、毎回同じものに感染しているわけではないのです。
また、風邪の症状は咳や鼻水、発熱など多岐にわたりますが、これは体がウイルスと戦っているサインでもあります。ウイルスそのものが直接症状を引き起こすというよりは、それを排除しようとする免疫反応が熱や炎症となって現れるのです。
風邪をひきやすくなる主な要因
では、なぜ同じ環境にいても「風邪をひきやすい人」と「ほとんど風邪をひかない人」がいるのでしょうか?そこにはいくつかの要因が関わっています。
- 免疫力の低下
疲労の蓄積、睡眠不足、栄養の偏りなどが続くと、免疫細胞の働きが弱まり、侵入したウイルスを排除できなくなります。特に睡眠は免疫機能を回復させる大切な時間であり、慢性的な寝不足は風邪の大きなリスク要因です。 - 寒暖差による自律神経の乱れ
季節の変わり目に体調を崩す人が多いのは、寒暖差が激しいことで自律神経が乱れ、体温や免疫の調整がうまくいかなくなるためです。これにより体の防御機能が低下し、ウイルスに感染しやすくなります。 - 手洗い・うがいの習慣不足
風邪のウイルスは飛沫感染や接触感染で広がります。ドアノブや手すりなどを介して手に付着したウイルスが口や鼻から侵入するため、手洗いの不足は風邪の大きな原因になります。 - 空気の乾燥による粘膜バリアの低下
鼻や喉の粘膜は、外から入ってくる異物を排除するバリアの役割を果たしています。しかし空気が乾燥すると粘膜が乾き、この防御機能が弱まります。その結果、ウイルスが付着しやすくなるのです。 - 人混みや換気の悪い場所での長時間滞在
ウイルスは人の体の中でしか増えられないため、人が集まる場所ほど感染リスクは高くなります。特に冬の密閉空間では、飛沫が空気中に滞留しやすく、風邪をもらいやすい環境が整ってしまいます。
季節ごとのリスクと内科的な視点
特に冬場や季節の変わり目は、気温の変化や湿度の低下によって体の免疫機能が落ち込みやすく、風邪の流行シーズンとなります。内科の視点から見ると、風邪は単なる「軽い病気」ではなく、体調管理の基本を映し出す鏡のような存在です。つまり、風邪をひきやすい状態というのは、生活習慣や体調に何らかの不調があるサインと捉えることもできるのです。
風邪を防ぐためには、単に「ウイルスを避ける」こと以上に、体の抵抗力を高め、日常生活の中で免疫を守る工夫を続けることが重要だといえるでしょう。
2. 内科医が教える「風邪をひかない体」の基盤づくり
風邪予防の基本は「免疫力の維持・強化」です。免疫力とは、体に侵入したウイルスや細菌を排除する防御機能のこと。日々の生活習慣がその質を大きく左右します。
2-1 栄養バランスの取れた食事
- ビタミンC:免疫細胞の活性化に関与。みかん、ブロッコリー、ピーマンなどに豊富。
- ビタミンD:免疫調節作用があり、近年は風邪予防効果も注目されている。魚介類、きのこ類、日光浴で補える。
- 亜鉛・鉄分:免疫細胞の生成に不可欠。牡蠣、レバー、赤身肉などがおすすめ。
- 発酵食品:腸内環境を整え、免疫の70%が集中する腸をサポート。納豆、ヨーグルト、キムチなど。
糖質や脂質に偏った食事は免疫力を下げる可能性があります。バランスよく、継続的に摂取することが重要です。
2-2 良質な睡眠
睡眠中に分泌される「成長ホルモン」や「メラトニン」は、免疫機能を高める働きがあります。7〜8時間の睡眠を目安に、就寝前1時間はスマホやPCの画面を避け、リラックスする習慣をつけましょう。
2-3 適度な運動
ウォーキング、軽いジョギング、ストレッチなどの有酸素運動は、白血球の働きを活発にし、感染防御力を高めます。過度なトレーニングは逆効果なので、週3〜4回、30分程度の運動を継続するのが理想です。
3. 日常生活に取り入れる実践的な風邪予防習慣
風邪を防ぐためには、ただ「ウイルスに近づかない」だけでは十分ではありません。予防医学の観点から大切なのは、①ウイルスに触れないようにする工夫(感染を避ける行動)、そして②たとえ感染しても重症化しにくい体をつくること、この二本柱です。ここでは、内科医が日々患者さんに伝えている、日常生活で実践できる予防習慣を紹介します。
3-1 手洗い・うがいの徹底
風邪の原因となるウイルスは、飛沫感染(咳やくしゃみによるしぶき)と接触感染(手すりやドアノブ、スマホなどを介して口や鼻へ侵入)で広がります。特に接触感染は見落とされがちで、無意識のうちに手で顔を触ることで簡単に感染してしまうのです。
そのため、最も効果的でシンプルな予防策が「手洗い」です。外出後、食事の前、トイレの後は必ず石けんで30秒以上かけて丁寧に洗うことを習慣にしましょう。指先や爪の間、手首までしっかり洗うことがポイントです。
うがいも有効な習慣です。水道水でも一定の効果はありますが、緑茶に含まれるカテキンには抗ウイルス作用があり、また塩水うがいは喉の炎症を抑える効果があるとされています。帰宅時や寝る前に取り入れると、喉の粘膜を清潔に保てます。

3-2 マスクと加湿の活用
マスクの役割は「ウイルスの侵入を防ぐ」だけではありません。実は大きなメリットの一つが口や喉の乾燥予防です。乾燥した粘膜はバリア機能が低下し、わずかなウイルスでも感染が成立しやすくなります。マスクをつけることで呼気の湿度が保たれ、粘膜が守られるのです。
また、室内環境も大切です。風邪のウイルスは湿度40%以下の乾燥した空気で活発化しやすいため、理想の湿度は40〜60%とされています。加湿器を活用するのはもちろん、濡れタオルを干したり、洗面器にお湯を張って置くだけでも効果があります。特に暖房を使う冬場は意識的に加湿を心がけましょう。
3-3 ストレスコントロール
忘れてはいけないのが心の健康です。慢性的なストレスは「コルチゾール」というストレスホルモンの過剰分泌を招き、免疫細胞の働きを弱めてしまいます。つまり、ストレスを抱え込む生活は、ウイルスに対して無防備な状態をつくり出してしまうのです。
具体的な対策としては、
- 毎日少しでも自分のための時間をつくる(趣味や好きなことに没頭する)
- 深呼吸や瞑想を取り入れる
- 適度な運動で気分をリフレッシュする
- 必要に応じて専門家のカウンセリングを受ける
といった方法があります。重要なのは「ストレスをゼロにする」ことではなく、うまく発散して心身のバランスを保つことです。
4. 内科的に見る風邪とインフルエンザ・コロナの違い
風邪と似た症状を示す感染症に、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)があります。内科では症状の出方や経過をもとに鑑別し、必要に応じて検査を行います。
主な違いの比較
| 病名 | 発症 | 主な症状 | 発熱 | 感染力 |
| 風邪 | 徐々に | 鼻水、喉の痛み、軽い咳 | 微熱またはなし | 中程度 |
| インフルエンザ | 急激に | 高熱、筋肉痛、倦怠感 | 38〜40℃ | 強い |
| COVID-19 | 徐々にまたは急に | 発熱、咳、味覚・嗅覚障害、息切れ | 37.5℃以上 | 非常に強い |
内科での対応
症状の初期段階での相談が推奨されます。風邪か他の感染症かを見極めることで、不要な薬の使用や他人への感染を防ぐことができます。
5. サプリメントや漢方の活用は効果的?
内科では、患者のライフスタイルに応じて、栄養補助食品や漢方薬の提案を行うこともあります。科学的根拠に基づいたものを選び、過信せず補助的に活用することが前提です。
5-1 免疫に関わる栄養素のサプリメント
- ビタミンC・D:免疫活性を高める
- 亜鉛:ウイルスへの抵抗力を強化
- エキナセア:ハーブの一種で風邪予防に使用されることもある(効果には個人差あり)
5-2 風邪に効くとされる漢
方薬
- 葛根湯(かっこんとう):風邪のひき始めに用いられる代表的な漢方
- 麻黄湯(まおうとう):発熱や悪寒が強い時に用いられる
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):虚弱体質の改善、風邪予防に使用される
ただし、持病や他の薬との飲み合わせに注意が必要なため、内科医に相談したうえでの使用が推奨されます。
まとめ
風邪をひかない体をつくるには、単に「ウイルスを避ける」だけでは十分ではありません。免疫力の土台を支える食事・睡眠・運動・ストレス管理をバランスよく整えることが、最も確実で効果的な予防法です。内科医としても、患者さんに繰り返しお伝えしているのは「特別なことより、基本的な生活習慣の積み重ねが大切」という点です。
サプリメントや一時的な流行の健康法に頼る前に、まずは自分の生活リズムを振り返り、できることから少しずつ改善していきましょう。例えば「夜はスマホを早めに置いて睡眠の質を上げる」「朝食にフルーツを一品取り入れる」「外出後は必ず手洗いをする」など、小さな習慣の積み重ねが風邪予防につながります。
もし「どうしても風邪を繰り返してしまう」「体力の回復に時間がかかる」といった悩みがある場合は、自己判断せずに内科を受診してください。隠れた病気が背景にあることもあるため、医師のチェックを受けることで安心につながります。
正しい知識と毎日の習慣こそが、風邪知らずの体をつくる一番の近道です。今日からできることを始めて、健康な毎日を手に入れましょう。



