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「いびきがひどい」「日中眠くて仕事に集中できない」「朝起きると頭が痛い」——そんな悩みを抱えていませんか?
これらは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の典型的なサインかもしれません。
この疾患は、睡眠中に呼吸が止まることで全身の健康に悪影響を及ぼし、放置すれば心筋梗塞や脳卒中などの重篤な病気につながるリスクも。
しかし、適切な治療と生活改善によって症状は確実に改善が見込めるのです。
本記事では、専門的な観点からSASの治療法とセルフケアのポイントをわかりやすく解説します。
睡眠時無呼吸症候群とは?まずは正しい理解から
病気の概要
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が何度も止まってしまう病気です。医学的には「10秒以上呼吸が停止する状態」が繰り返され、1時間あたり5回以上の無呼吸または低呼吸(呼吸が浅くなる状態)が認められた場合に診断されます。
無呼吸や低呼吸が起きると、体内の酸素が不足し、脳や心臓に負担がかかるだけでなく、眠りが浅くなり熟睡できません。そのため「しっかり寝たはずなのに疲れが取れない」「日中に強い眠気に襲われる」といった症状が現れやすくなります。放置すると生活の質が下がるだけでなく、高血圧や心筋梗塞、脳卒中など命に関わる病気のリスクを高めることが知られています。
主な分類と原因
睡眠時無呼吸症候群には、大きく分けて次の3つのタイプがあります。
1. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
最も多く見られるタイプで、上気道(喉の奥)が塞がることで空気の通り道が狭くなり、呼吸が止まります。
原因としては、肥満による首回りの脂肪の増加、加齢による筋肉のゆるみ、扁桃腺やアデノイドの肥大、あごの骨格の影響などがあります。特に日本人は骨格的に気道が狭いため、痩せている人でも発症することがあります。
2. 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)
脳から呼吸をするための指令がうまく出なくなるタイプです。気道自体は塞がっていないのに呼吸が止まってしまいます。心不全や脳梗塞、神経疾患などの基礎疾患に伴って発症することが多く、閉塞性に比べると頻度は少ないですが、より専門的な治療が必要です。
3. 混合型
閉塞性と中枢性の両方の要素を持つタイプです。最初は閉塞性で発症し、その後中枢性の要素が加わるケースなどもあり、診断と治療のためには精密な検査が欠かせません。
ポイント
「いびきが大きい」「寝ているときに呼吸が止まっていると言われた」「日中の眠気が強い」といったサインがある場合、単なる疲れや年齢のせいではなく、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。まずは病気の正体を正しく理解することが、治療や予防の第一歩となります。
治療の第一歩は正確な診断から
診断の流れ
- 問診・診察
日中の眠気、いびき、肥満、生活習慣病の有無などを医師が確認します。 - 簡易検査(在宅)
自宅で装置を装着し、呼吸の状態や血中酸素濃度などを1晩かけて測定します。 - 精密検査(終夜睡眠ポリグラフィー:PSG)
医療機関で1泊し、脳波、眼球運動、心電図、呼吸の状態などを詳細に記録します。重症度の判定に用いられます。
重症度の分類(AHI:無呼吸低呼吸指数)
- 軽症:5〜15回/時
- 中等症:15〜30回/時
- 重症:30回以上/時
この分類により、治療方針が決定されます。
主な治療法とその効果
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、症状の程度や原因に応じて選択されます。大きく分けて「機械を用いた治療」「口腔内装置」「外科的治療」があり、さらに生活習慣の改善と組み合わせることで効果が高まります。ここでは、代表的な治療法とその効果について詳しく説明します。
1. CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
概要と仕組み
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)療法は、鼻に装着するマスクから一定の空気圧を送り込み、睡眠中も気道を常に開いた状態に保つ治療法です。気道が塞がるのを防ぐため、無呼吸やいびきを劇的に減らすことができます。
特徴
- 中等症〜重症のSASに対して第一選択となる標準治療
- 保険適用あり(診断基準を満たす必要あり)
- 毎日の使用が必須
- 治療を始めてすぐに効果を実感できるケースも多い
効果
- 日中の強い眠気の改善
- 夜間の熟睡感の回復
- 高血圧の安定、心筋梗塞や脳卒中リスクの低下
- 睡眠の質向上により、集中力や仕事効率の改善
ただし、マスクの装着感や機械の音に慣れるまでに時間がかかる場合があります。医師や医療スタッフと相談しながら、自分に合ったマスクを選ぶことが大切です。
2. マウスピース療法(口腔内装置)
概要と仕組み
軽症〜中等症の患者に適応される治療法です。専用のマウスピースを歯科で作成し、睡眠中に装着します。下顎を少し前に出す形で固定することで、舌や軟口蓋が後方に落ち込むのを防ぎ、気道を広げる仕組みです。
特徴
- 寝るときに装着するだけの簡便な治療
- CPAPに比べるとコンパクトで扱いやすい
- 適応の有無は医師の診断と歯科での評価が必要
- 長期間の使用では歯や顎の噛み合わせに影響が出る場合があるため、定期的な調整が必要
効果
- 無呼吸やいびきの軽減
- 軽症〜中等症に有効
- 「CPAPは装着が難しい」という人の代替手段として利用可能
3. 外科的治療
概要
気道を塞ぐ原因が明確な場合には、外科的手術が選択されることもあります。特に扁桃腺やアデノイドの肥大、鼻の形の問題(鼻中隔湾曲症など)があるケースでは、根本的な改善が期待できます。
対象となるケース
- 扁桃腺肥大による気道狭窄
- 鼻中隔のゆがみによる通気障害
- アデノイド肥大(小児に多い)
手術の種類
- 扁桃腺やアデノイドの摘出手術
- 鼻中隔矯正術による鼻の通気改善
- 顎の形を整える顎矯正手術(下顎後退が原因の場合)
効果と注意点
- 構造的な問題が解消されれば長期的に改善が見込める
- 手術は身体への負担が大きいため、他の治療法で効果が得られない場合に検討される
治療と並行して取り組む生活習慣の見直し
睡眠時無呼吸症候群の治療は、医療機器や薬だけに頼るものではありません。日常生活の習慣を見直すことで、症状の軽減や再発予防につながります。ここでは、内科医が特に重視する生活改善のポイントを詳しく解説します。
1. 減量と食生活の改善
肥満は、睡眠時無呼吸の最大のリスク要因です。特に首回りや舌の付け根に脂肪がつくと気道が圧迫され、睡眠中に空気の通り道が塞がれやすくなります。実際に、体重をわずかに落とすだけで症状が改善するケースも多く報告されています。
ポイント
- 体重の5〜10%減でも無呼吸の回数が減少する可能性あり
- 脂質や糖質を控え、野菜・魚・豆類を中心としたバランス食を意識
- 夜遅くの食事や就寝直前の飲食は控える(胃の逆流や呼吸への負担を防ぐ)
「痩せなければ」と思うと負担に感じがちですが、小さな改善でも効果があります。日常の食事を見直すことが、治療の大きな支えになります。
2. アルコールと喫煙の制限
アルコールは一見「寝つきが良くなる」と思われがちですが、実際には筋肉を弛緩させる作用があり、気道が閉塞しやすくなります。また、喫煙は気道の粘膜を炎症させて腫れを引き起こし、空気の通りを悪くします。
注意点
- アルコールは特に就寝前の摂取を控える
- 禁煙によって気道の炎症が改善し、呼吸が楽になるケースも多い
- 「少しだけなら大丈夫」と思わず、継続的に見直すことが大切
禁酒・禁煙を実践しただけで、無呼吸の回数が目に見えて減少した患者さんもいます。
3. 睡眠姿勢の工夫
仰向けで寝ると、舌や軟口蓋が重力で喉の奥に落ち込み、気道が塞がれる原因となります。これを避けるためには横向きでの就寝が有効です。
工夫の例
- 抱き枕を使って横向き寝を維持する
- 背中にクッションを当てて仰向けにならないようにする
- 高すぎない枕を選び、気道を圧迫しない姿勢を取る
寝姿勢を工夫するだけでも、いびきや無呼吸の頻度が改善されるケースがあります。
4. 睡眠リズムの整備
睡眠の質を上げるには、生活リズムの安定が欠かせません。不規則な生活は自律神経を乱し、呼吸リズムにも悪影響を与えます。
推奨される習慣
- 毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きる
- 就寝前30分はスマートフォンやパソコンを避け、脳を休ませる
- 寝室は暗く静かで、適切な温度・湿度に整える
規則正しい生活を続けることで、自律神経のバランスが改善され、深い睡眠が得られるようになります。

よくある質問(Q&A)
Q1:CPAPは一生つけ続ける必要がありますか?
A1:原則として、治療効果を維持するためには継続的な使用が必要です。
ただし、体重の減少や生活習慣の改善により症状が軽減し、医師の判断で中止するケースもあります。
Q2:治療を始めたらすぐに効果が出ますか?
A2:CPAP療法では、開始当日から眠気の改善を感じる方もいます。
マウスピースは数日〜数週間で効果を感じることが多いですが、個人差があります。
Q3:放置するとどうなるのですか?
A3:高血圧・心筋梗塞・脳卒中・糖尿病などの合併症リスクが大幅に上昇します。
また、交通事故や労働災害のリスクも高まり、社会生活への影響も無視できません。
まとめ:治療すれば、あなたの毎日は変わる
睡眠時無呼吸症候群は、正しい診断と治療を受けることで、確実に改善が可能な病気です。
「ただのいびき」と見過ごされがちですが、実際には心臓病や脳卒中などの重大な病気のリスクを高める、体からの大切なSOSである場合があります。
放置せず、まずは医療機関での相談をおすすめします。治療を始めることで、多くの方が日中の眠気や疲労感から解放され、集中力や記憶力が回復し、仕事や学業のパフォーマンスも大きく向上しています。さらに、生活習慣病や心血管疾患の予防にもつながるため、将来の健康を守るうえでも大きなメリットがあります。
「もしかして自分も?」と感じた方は、ぜひお気軽にご相談ください。あなたの睡眠の質は、毎日の活力だけでなく、人生の質そのものを左右します。今の一歩が、健やかで安心できる未来につながるのです。



