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「布団に入っても眠れない」「ようやく寝ついたのに夜中に何度も目が覚める」――そんな悩みを抱えていませんか?多くの人はこれを“ストレス”や“生活リズムの乱れ”による不眠症と考えがちです。しかし、実はその裏に 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS) が隠れている場合があります。無呼吸による酸素不足や自律神経の乱れが、入眠そのものを妨げ、健康リスクを高めることが医学的に分かってきました。本記事では、寝つきの悪さと睡眠時無呼吸の関係、見逃してはいけないサイン、診断や治療法までを詳しく解説します。
寝つきが悪い原因は本当に不眠症だけ?
「布団に入ってから30分以上眠れない」「頭が冴えてしまって眠気があるのに寝つけない」――こうした症状は、一般的に 入眠困難 と呼ばれ、従来は典型的な「不眠症」のサインとされてきました。
不眠症は、以下のような複数の睡眠障害を包括する診断名です。
- 入眠困難:寝つくまでに時間がかかる
- 中途覚醒:夜中に何度も目が覚める
- 早朝覚醒:予定よりも早く目覚め、その後眠れない
- 熟眠障害:十分眠ったつもりでも疲れが取れない
原因は多岐にわたり、精神的ストレスや生活習慣の乱れ、過度なカフェインやアルコール摂取、さらにはうつ病や不安障害といった精神疾患まで関連していることが知られています。これまで「寝つきの悪さ=不眠症」と安易に結びつけられることが多かったのは、こうした背景があるからです。
しかし、近年の研究によって「入眠困難=必ずしも不眠症」とは限らないことが明らかになってきました。その背後に 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS) が潜んでいるケースが少なくないのです。
SASは、睡眠中に呼吸が断続的に止まったり浅くなったりする疾患で、従来は「いびきが大きい人の病気」と思われがちでした。しかし実際には、入眠の段階からすでに呼吸の乱れが生じ、自律神経の働きや脳の覚醒度に影響を与えていることが分かっています。
例えば、呼吸が不安定になると体内の酸素濃度が下がり、脳は「窒息の危険」を回避するために交感神経を刺激します。本来ならリラックスして副交感神経が優位になるべき入眠期に、逆に体は「緊張状態」に置かれてしまい、寝つきが悪くなるのです。
このように「寝つきの悪さ」は、必ずしも精神的ストレスや生活習慣だけが原因ではなく、無呼吸による酸素不足と自律神経の乱れ が根底にある場合もあります。したがって、単に「不眠症だから仕方ない」と片付けてしまうのではなく、背後に潜む睡眠時無呼吸症候群を疑う視点が必要なのです。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS) とは、睡眠中に呼吸が繰り返し停止したり、極端に浅くなったりする病気です。これは一過性の不調ではなく、毎晩繰り返される慢性的な障害であり、放置すると全身に深刻な影響を及ぼすことが知られています。
診断基準
医学的には、以下のいずれかに該当する場合、SASと診断されます。
- 10秒以上の呼吸停止が一晩に30回以上発生
- 1時間あたり5回以上の無呼吸または低呼吸が確認される
ここでいう「無呼吸」とは、上気道(空気の通り道)が完全に塞がれて呼吸が止まってしまう状態を指します。一方「低呼吸」とは、呼吸自体は途絶えないものの空気の流れが大幅に減少し、体内に十分な酸素が取り込めない状態を意味します。
身体に起こる変化
呼吸が止まったり浅くなったりすると、血液中の酸素濃度は急速に低下し、同時に二酸化炭素が体内に蓄積します。脳はこれを「窒息の危機」と判断し、交感神経を強く刺激して覚醒反応を引き起こします。すると:
- 脳が強制的に目覚め、眠りが分断される
- 心拍数や血圧が急上昇し、心臓や血管に強い負担がかかる
- 全身の筋肉が緊張し、休息すべき時間に体が「戦闘モード」になる
本来、睡眠時には副交感神経が優位に働き、心拍や血圧が下がって体が回復するはずです。しかし、SAS患者ではこの切り替えが繰り返し妨げられ、深い眠りに到達できません。そのため「眠気はあるのに寝つけない」「寝ても熟睡感が得られない」といった状態が続きます。
日常生活への影響
夜間に十分な休息が取れないことで、翌日以降の生活にも深刻な悪影響が及びます。代表的なのは以下のような症状です。
- 起床時の強い倦怠感や頭痛
- 昼間の過度な眠気による仕事や運転への支障
- 集中力・記憶力の低下による学習や業務パフォーマンスの低下
つまりSASは、単に「寝ている間に息が止まる病気」ではなく、夜間の睡眠の質を徹底的に奪い、日中の活動や健康寿命にまで影響を与える重大な疾患 なのです。
寝つきの悪さと睡眠時無呼吸の関係
「なかなか眠れない=不眠症」と考える人は少なくありません。確かに、入眠困難は不眠症の代表的な症状のひとつですが、実際には 睡眠時無呼吸症候群(SAS) が隠れた原因となっている場合があります。SASでは、眠りに入ろうとするタイミングから呼吸が乱れるため、脳や自律神経が影響を受け、入眠そのものが妨げられるのです。ここではそのメカニズムを詳しく見ていきましょう。
酸素不足による覚醒反応
SASでは、気道の閉塞や脳からの呼吸指令の異常によって呼吸が一時的に止まり、血中の酸素濃度が急激に低下します。脳はこの状態を「窒息の危険」と判断し、交感神経を刺激して覚醒反応を起こします。本来なら副交感神経が優位になり、心身をリラックスさせて眠りに導くはずの入眠期に、脳が「目を覚ませ」と信号を出してしまうため、眠気があってもなかなか眠れない状態が続いてしまいます。これは生理的な防御反応であり、体を守るための仕組みですが、結果として寝つきを悪くする要因となります。
いびきと気道閉塞
「いびきがうるさい」と言われる人は少なくありませんが、その裏には気道の狭さが隠れています。舌の付け根や軟口蓋が喉の奥に落ち込みやすい体質や肥満によって、上気道が狭まりやすくなります。入眠直後から気道が不安定になると、呼吸はスムーズに行えず、脳は酸素不足を感知して断続的に覚醒信号を発します。その結果、本人は「眠りたいのに寝つけない」「ウトウトしてもすぐに目が覚めてしまう」と感じやすくなります。つまり、いびきは単なる睡眠中の騒音ではなく、入眠困難の背景にある呼吸障害のサイン である可能性が高いのです。
自律神経の乱れ
通常、眠りに入るときには副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が低下し、深い眠りに入る準備が整います。しかし、SASでは酸素不足や気道閉塞のストレスにより、交感神経が夜間も過剰に働き続けます。交感神経は「闘争・逃走反応」を司るため、心臓や血管を緊張状態に置き、体を休ませることができません。その結果、眠りにつくために必要な心身のリラックスが得られず、寝つきが極端に悪くなるのです。
不眠症との違いを見極めることが重要
不眠症は心理的ストレスや生活リズムの乱れが主因であるのに対し、SASに伴う入眠困難は 生理的な酸素不足と自律神経の異常な働き が根底にあります。そのため、睡眠薬などを自己判断で使用しても改善せず、むしろ呼吸抑制によって症状を悪化させる可能性すらあります。つまり「寝つきが悪い=不眠症」と決めつけるのではなく、呼吸障害が関与していないかどうかを正しく見極めることが大切です。
睡眠時無呼吸の主なサイン
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、患者本人が自覚しにくい病気です。なぜなら、呼吸の停止や酸素不足は睡眠中に起こるため、本人は眠っている間の異変を直接感じることができないからです。しかし、夜間と日中の行動や体調に特有のサイン が現れるため、それらを見逃さないことが早期発見につながります。
夜間に見られるサイン
- 大きないびきとその後の突然の静寂(呼吸停止)
典型的なサインは、「激しいいびきの後に突然音が止まる」現象です。これは単なる「いびきの休止」ではなく、実際には上気道が完全に塞がれて呼吸が止まっている可能性を示しています。その後しばらくして「ガッ」と大きな呼吸音やあえぐような息づかいが再開するのが特徴です。本人は気づかないことが多く、家族やパートナーの指摘で初めて発覚するケースが少なくありません。 - 息苦しさで目が覚める、眠りが断続的になる
呼吸が止まると血液中の酸素濃度が急激に下がり、脳が「窒息の危険」と判断して覚醒反応を引き起こします。これにより、本人は無意識のうちに何度も目を覚まし、深い眠りを維持できません。夜間に「トイレに何度も起きる」と思っていても、実際には呼吸停止が原因で覚醒しているケースが多いのです。 - 頻繁な寝返りや落ち着かない睡眠
無呼吸によって呼吸が妨げられると、体は無意識に気道を確保しようとします。その結果、寝返りの回数が増えたり、布団の中で落ち着かず動き続けたりすることが多くなります。朝起きたときにシーツがぐしゃぐしゃになっているのも、SASのサインのひとつです。
日中に見られるサイン
- 強い眠気(仕事中や運転中の居眠り)
夜に深い睡眠が確保できないため、日中は強い眠気に襲われます。会議やデスクワーク中にウトウトしてしまうだけでなく、車の運転中に居眠りする危険もあり、重大な交通事故や労働災害の原因になりかねません。 - 集中力・記憶力の低下
質の悪い睡眠は脳の働きを低下させます。その結果、「考えがまとまらない」「注意力が続かない」「物忘れが増える」といった状態が日常的に起こります。これは単なる疲労ではなく、夜間の呼吸障害による慢性的な睡眠不足が原因となっている可能性があります。 - 起床時の頭痛や喉の乾燥
無呼吸により酸素不足と二酸化炭素の蓄積が繰り返されると、脳血管が拡張し、起床時に頭痛が生じることがあります。また、無呼吸中は口呼吸が増えるため、朝起きたときに喉が乾燥していたり、イガイガ感を伴ったりすることも典型的な症状です。
「寝つきの悪さ」と同時に見られる場合は要注意
これらの夜間・日中のサインが、「寝つきの悪さ」と一緒に現れている場合、単なる不眠症とは異なり、睡眠時無呼吸症候群が原因となっている可能性が非常に高い と考えられます。本人は「眠れていない」と感じても、実際には「眠れているようで眠れていない状態」が続いているのです。
放置すると危険な合併症
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なる「いびきの病気」ではありません。夜間に繰り返される無呼吸や低呼吸は、体を慢性的な低酸素状態に追い込み、同時に交感神経を過剰に刺激し続けます。これにより、全身の臓器や血管が大きなストレスにさらされ、時間の経過とともに重大な合併症を引き起こすリスクが高まります。
高血圧 ― 夜間高血圧の危険
通常、睡眠中は副交感神経が優位になり、心拍数や血圧が低下して体が休息する時間帯です。しかしSASでは、無呼吸による酸素不足が繰り返されることで交感神経が刺激され、血圧が上昇したままの状態が続きます。特に、夜間から早朝にかけて血圧が高くなる「夜間高血圧」や「早朝高血圧」を引き起こしやすく、心臓や血管への負担が増大します。これらは通常の降圧薬でもコントロールが難しい場合があり、放置すると動脈硬化や心不全のリスクが加速します。
心疾患 ― 不整脈から心筋梗塞まで
心臓は大量の酸素を必要とする臓器です。無呼吸によって酸素が不足すると、心筋はダメージを受け、不整脈が生じやすくなります。さらに、無呼吸と再呼吸を繰り返すたびに心臓に負担がかかり、冠動脈の血流が障害されることで狭心症や心筋梗塞へとつながります。実際に、SAS患者は心疾患の発症率が健常者より数倍高いことが知られており、突然死のリスクすら否定できません。
脳卒中 ― 脳血管に迫るリスク
低酸素と高血圧の繰り返しは、脳の血管にも深刻なダメージを与えます。血管内皮が傷ついて動脈硬化が進行し、やがて脳梗塞や脳出血を引き起こすリスクが顕著に高まります。特に早朝に発症する脳卒中は、睡眠時無呼吸との関連が強いことが報告されています。一度発症すれば重い後遺症を残す可能性があるため、予防のためにもSASの早期治療は欠かせません。
糖尿病・肥満 ― 悪循環のスパイラル
SASは代謝にも悪影響を及ぼします。睡眠不足と低酸素状態が続くと、インスリンの働きが妨げられ、血糖値が上がりやすくなります。その結果、糖尿病の発症や悪化につながるのです。さらに、睡眠不足は食欲を増進させるホルモン(グレリン)を増やし、食欲を抑えるホルモン(レプチン)を減少させるため、過食や肥満を引き起こしやすくなります。肥満は気道をさらに狭くするため、無呼吸を悪化させるという悪循環に陥ります。
まとめると、SASを放置すると 高血圧 → 心疾患 → 脳卒中 → 生活習慣病の悪化 という連鎖的なリスクが進行し、命に関わる合併症に直結します。「寝つきが悪い」や「いびき」といった一見ささいな症状の裏には、全身の健康を脅かす危険が潜んでいるのです。

診断の流れ
睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われる場合、正確な診断には 医療機関での段階的な検査 が必要です。なぜなら、本人が自覚できる症状は限られており、実際には「呼吸がどれくらい止まっているのか」「睡眠の質がどの程度損なわれているのか」を客観的に測定することが欠かせないからです。診断は一般的に以下の流れで行われます。
1. 問診と生活習慣の確認
まず最初に行われるのが医師による問診です。ここでは、本人や家族からの聞き取りをもとに以下の情報を確認します。
- いびきの有無や特徴(大きさ・途切れるかどうかなど)
- 日中の強い眠気や集中力低下の有無
- 高血圧・糖尿病・心疾患といった既往症
- 生活習慣(飲酒・喫煙・体重の変化、運動習慣など)
特に、家族から「いびきが止まっている」と指摘された場合や、治療中の高血圧がコントロールできないといった情報は、SASの重要なサインとして医師が注目します。
2. 簡易検査(自宅で実施できるスクリーニング検査)
問診の結果、SASが疑われる場合には、まず 簡易検査 が行われます。患者は小型のセンサーを装着して普段通りに自宅で眠り、その間のデータを記録します。測定項目は主に以下の通りです。
- 酸素飽和度(SpO₂):睡眠中にどの程度酸素が不足しているかを評価
- 呼吸の有無・低呼吸の回数:無呼吸や呼吸の浅さを定量的に把握
- 心拍数の変動や体位:呼吸障害との関連をチェック
自宅で実施できるため、検査時の緊張感が少なく、普段の睡眠環境に近い状態でデータが得られるのがメリットです。
3. 精密検査(ポリソムノグラフィー:PSG)
簡易検査で異常が疑われた場合、あるいは重症度をより正確に把握する必要がある場合は、専門医療機関にて ポリソムノグラフィー(PSG) と呼ばれる精密検査を行います。患者は一晩入院し、以下の多角的なデータを同時に記録します。
- 脳波(EEG):睡眠の深さやレム睡眠・ノンレム睡眠の割合を評価
- 呼吸の流れ、胸・腹部の動き:呼吸停止や低呼吸のパターンを詳細に分析
- 心電図(ECG):睡眠中の心拍の変化や不整脈の有無を確認
- 酸素飽和度(SpO₂):低酸素の程度や持続時間を記録
- 筋電図や眼球運動:睡眠の質や異常運動の有無を分析
この検査により、無呼吸・低呼吸の頻度を示す「AHI(無呼吸低呼吸指数)」が算出されます。AHIが高いほど重症度が高く、治療の必要性が増します。
4. 診断結果と治療方針の決定
最終的に、問診・簡易検査・PSGの結果を総合的に評価し、以下のように重症度が分類されます。
- 軽症:無呼吸・低呼吸が1時間あたり5~15回
- 中等症:15~30回
- 重症:30回以上
この分類をもとに、生活習慣の改善だけでよいのか、CPAP(持続陽圧呼吸療法)が必要なのか、あるいは外科的治療が適応されるのかといった治療方針が決定されます。
まとめると、診断の流れは 問診 → 簡易検査 → 精密検査 → 治療方針の決定 という段階を踏んで進みます。正しい診断を受けることが、合併症を防ぎ、質の高い睡眠と健康を取り戻す第一歩になるのです。
主な治療方法
睡眠時無呼吸症候群(SAS)の治療は、症状の 重症度 や 原因となる要因 に応じて段階的に選択されます。治療の目的は、呼吸停止を防ぐことで睡眠の質を改善し、心血管系への負担や生活習慣病などの合併症リスクを下げることです。以下に代表的な治療法を詳しく解説します。
1. 生活習慣の改善 ― 軽症例や予防に有効
SAS治療の第一歩は、日常生活の見直しです。特に軽症の場合、生活習慣の改善だけで症状が大きく緩和するケースもあります。
- 減量:肥満はSASの最大のリスク因子です。首回りや咽頭周囲に脂肪がつくと気道が圧迫されやすくなります。体重を5〜10%減らすだけでも気道の閉塞が軽減し、無呼吸が改善することがあります。
- 禁酒・禁煙:アルコールは咽頭の筋肉を弛緩させて気道を塞ぎやすくし、喫煙は気道の炎症や浮腫を引き起こします。特に就寝前の飲酒は無呼吸を誘発しやすいため避けることが重要です。
- 横向き睡眠:仰向けでは舌や軟口蓋が重力で喉の奥に落ち込みやすくなり、気道が閉塞しやすくなります。横向きで眠る習慣をつけるだけで、無呼吸の回数が減少することがあります。専用の抱き枕や睡眠ポジショントレーナーを利用するのも有効です。
2. CPAP療法(持続陽圧呼吸療法) ― 中等症以上の標準治療
CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)は、SAS治療の「ゴールドスタンダード」とされる方法です。
- 仕組み:鼻や口に装着したマスクから一定の圧力を持つ空気を送り込み、気道を常に広げて閉塞を防ぎます。これにより睡眠中の無呼吸や低呼吸をほぼ完全に防止できます。
- 効果:夜間の酸素不足や覚醒反応がなくなるため、日中の眠気や倦怠感が解消し、集中力や記憶力も改善します。また、高血圧や心血管疾患リスクを下げる効果も科学的に証明されています。
- 注意点:毎晩の使用が必要で、マスクの装着感や乾燥による不快感から中断してしまう人もいます。継続のためにはマスクのフィット調整や加湿器の併用が重要です。
3. マウスピース療法(口腔内装置) ― 軽症例やCPAPが合わない人に有効
軽症から中等症の閉塞性SASに対して有効な治療法です。
- 仕組み:就寝時に下顎を前方に固定するマウスピースを装着し、舌根や軟口蓋が喉の奥に落ち込むのを防ぎます。その結果、気道が広がり無呼吸の発生を抑えられます。
- 利点:装置が小さく持ち運びやすいため、旅行や出張先でも使用可能です。CPAPに比べて装着への抵抗感が少なく、軽症例では第一選択になることもあります。
- 注意点:歯科でのオーダーメイド製作が必要で、顎関節症がある人には適さない場合があります。また、慣れるまでに違和感を覚えることもあります。
4. 外科的治療 ― 解剖学的要因への根本的アプローチ
SASの原因が扁桃肥大や鼻腔の構造異常といった解剖学的な問題である場合、手術が選択されることがあります。
- 扁桃摘出術・アデノイド切除:特に小児や若年層では扁桃やアデノイドの肥大が原因となることが多く、それを取り除くことで気道が広がります。
- 鼻腔の手術:鼻中隔湾曲やポリープなどがある場合、矯正手術で鼻の通りを改善します。これにより気道抵抗が減り、呼吸がスムーズになります。
- 顎の手術:下顎が小さい場合(下顎後退症など)、骨格を前方に移動させて気道を拡大する外科的アプローチが行われることもあります。
外科治療は根本的な改善が期待できる一方、侵襲性が高くリスクも伴うため、適応は慎重に判断されます。
まとめると、
- 軽症例 → 生活習慣の改善、マウスピース療法
- 中等症以上 → CPAP療法が第一選択
- 解剖学的要因 → 外科的治療
という流れで治療方針が選ばれるのが一般的です。
医療機関に相談すべきタイミング
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、自覚が難しい病気であり、本人が「呼吸が止まっている」と認識することはほとんどありません。そのため、気づかぬうちに症状が進行し、生活習慣病や心血管系の重大な合併症へとつながるリスクがあります。次のような兆候がある場合は、早めに医療機関を受診し、専門的な検査を受けることが重要です。
1. 家族から「いびきが止まっている」と指摘された場合
睡眠中に大きないびきをかいた後、急に静かになるのは典型的な無呼吸発作のサインです。本人は眠っているため気づかないことが多いですが、家族やパートナーが繰り返し観察している場合は要注意です。この「静寂」は決して安眠を意味するのではなく、実際には呼吸が停止している可能性が高いため、見過ごさず医療機関での検査を検討する必要があります。
2. 日中の強い眠気や集中力低下が続く場合
十分な睡眠時間を確保しているのに、仕事中や運転中に強い眠気に襲われるのは危険信号です。これは夜間に何度も呼吸停止と覚醒が繰り返され、深い睡眠が得られていない証拠です。慢性的な眠気や集中力の低下は、仕事や学業のパフォーマンスを落とすだけでなく、交通事故や労災事故など命に関わるリスクを引き起こす可能性があります。
3. 高血圧や糖尿病などの治療中でコントロールが難しい場合
睡眠時無呼吸は、生活習慣病を悪化させる大きな要因のひとつです。夜間の低酸素状態が交感神経を刺激し、血圧を慢性的に上昇させるため、降圧薬を服用していても数値が安定しないケースがあります。糖尿病でも同様に、酸素不足や睡眠不足が血糖コントロールを乱し、治療効果を妨げることがあります。基礎疾患を抱えている方は、SASが隠れた原因になっている可能性を考慮するべきです。
早期受診の重要性
これらのサインを放置してしまうと、心筋梗塞や脳卒中といった命に関わる合併症を招くリスクが高まります。しかし、適切な時期に診断を受け、生活習慣の改善やCPAP療法などの治療を始めることで、合併症のリスクを大幅に低下させることが可能です。
「ただのいびき」「疲れているだけ」と軽視せず、少しでも不安がある場合は睡眠外来や呼吸器内科などの専門医に相談することが、健康を守るための第一歩となります。
まとめ ― 寝つきの悪さはSOSのサイン
「寝つきが悪い」というありふれた症状の裏に、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることがあります。放置すれば高血圧・心疾患・脳卒中など、命に関わる病気へとつながるリスクも。
ただの不眠と片付けず、生活習慣の見直しとともに、必要であれば専門医を受診することが重要です。質の高い睡眠は心身の健康を守る基盤。寝つきの悪さを軽視せず、早めの対策を取ることが健やかな人生への第一歩となります。



