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診察を受ける親子

子どもの健やかな成長を支えるために、保護者ができる最も大切な取り組みのひとつが「内科検診」です。身体の発育や健康状態を継続的に確認し、病気の兆候を早期に発見・対応することで、将来の健康にも大きな影響を及ぼします。しかし、「どんな項目を診ているのか」「何歳から必要なのか」「受ける意味は?」と疑問を抱く方も少なくありません。本記事では、小児の発育と内科検診の関係を、内科医の視点からわかりやすく、かつ専門的に解説します。

子どもの発育とは何か――発育過程と指標の理解

子どもの「発育」とは、単に身長や体重が増えることだけを指すのではありません。身体的な成長(physical growth)だけでなく、内臓機能の成熟、骨や筋肉の発達、免疫力の形成、さらには思春期における性成熟など、幅広い身体機能の発達過程を含みます。

成長と発達の違い

まず知っておきたいのが、「成長(growth)」と「発達(development)」の違いです。

  • 成長:身体の大きさの変化(身長、体重、頭囲など)
  • 発達:機能的な変化(運動能力、言語、社会性、知能など)

内科検診では主に「成長」に着目しながら、必要に応じて発達の観察も行います。特に、著しい成長の遅れや急激な体重増加・減少は、何らかの病的背景を示唆することがあります。

年齢別の発育指標

厚生労働省が発表する「乳幼児身体発育曲線」や、学校保健統計調査などを参考に、子どもの発育は年齢・性別ごとにおおよその基準値が設けられています。これらと実際の測定値を比較することで、正常な範囲にあるか、何らかの医学的評価が必要かを判断します。

幼児期(0〜6歳)

  • 身長と体重の増加が著しい時期
  • 頭囲や胸囲の測定も重要
  • 発語・歩行・食事の自立など、発達段階の観察が加わる

学童期(6〜12歳)

  • 緩やかに成長が続くが、個人差が拡大
  • 肥満や低身長の初期徴候が見られやすい
  • 学校での定期健診が大きな役割を果たす

思春期(12〜18歳)

  • 第二次性徴の開始(声変わり、乳房発達、月経など)
  • 急激な身長の伸び(成長スパート)
  • 精神的変化も含めたトータルな観察が必要

成長曲線の重要性

個々の子どもを評価する際には、成長曲線(グロースチャート)に基づいた追跡が非常に有効です。ある一点の測定値だけではなく、数か月〜数年にわたる推移を見ることで、発育の遅延や異常をより的確に把握できます。たとえば、身長が常に同じパーセンタイル帯にある場合は問題なしとされますが、急にパーセンタイルが下がるような場合は、内分泌疾患や慢性疾患の可能性が疑われます。

内科検診の内容とその医学的意義

子どもの内科検診は、単に身長体重を測るだけではありません。小児科的内科的な視点から、さまざまな病気の予兆を早期に発見するための重要な機会です。

主な検診項目

  • 身体計測(身長・体重・肥満度):基準と比較し、成長状態や栄養状態を評価。
  • 聴診(心音・呼吸音):心雑音や異常呼吸音がないかを確認し、先天性心疾患や喘息などの初期兆候を把握。
  • 視診・触診:皮膚・リンパ節・甲状腺・腹部などを診察。
  • 血圧測定:近年、小児の高血圧も問題視されており、特に肥満傾向のある子には重要。
  • 尿検査:腎機能障害、糖尿病、感染症などのスクリーニング。
  • 既往歴・家族歴・生活習慣の確認:生活習慣病予防に向けた保健指導にも活用。

医学的な目的と意義

内科検診の目的は大きく分けて以下の3つです。

  1. 発育状態の確認と異常の早期発見
    低身長や肥満、急激な体重変化などを見逃さず、早期に専門的評価につなげる。
  2. 無症状の疾患のスクリーニング
    子どもは不調を訴えにくいため、症状のない疾患(尿異常、高血圧、心雑音など)を早期に見つける機会になる。
  3. 保護者や学校への助言・支援
    結果に基づいて、食生活・運動習慣・睡眠など、日常生活に関する具体的な改善指導を行う。

学校検診と医療機関での検診の違い

学校での定期健診は一次スクリーニングに過ぎず、詳細な診断や治療は医療機関での精密検査が必要となるケースがあります。学校で異常を指摘されたら放置せず、必ず医師の診察を受けましょう。

特に、以下のようなケースでは専門医の受診が推奨されます。

  • 成長の停滞(身長がほとんど伸びていない)
  • 肥満が年々悪化
  • 尿蛋白陽性や血尿が続く
  • 心雑音があると指摘された
  • 発育や性成熟が極端に早い/遅い
学校検診

家庭でできる発育管理と内科的サポートの実践

内科検診の意義を最大限に活かすためには、家庭での健康観察と生活習慣の整備も非常に重要です。保護者の役割は、単に医療機関に連れて行くだけではなく、日常の中で子どもの身体の変化に気づく「最初の観察者」であることです。

家庭でできる日常観察ポイント

  • 身長・体重の記録:月に1回程度、簡易的に測定するだけでも発育傾向の把握に役立ちます。
  • 食事内容の管理:栄養バランスが取れた食事は成長ホルモンの分泌にも直結します。
  • 睡眠時間と質の確認:成長ホルモンは主に深夜に分泌されるため、十分な睡眠は発育に欠かせません。
  • 運動習慣の定着:筋肉や骨の発達、心肺機能の強化に加え、生活習慣病予防にも貢献。
  • 便通・排尿・皮膚の状態:内臓機能やホルモンバランスのサインとして注視すべき項目です。

成長に影響を与える病気の兆候

以下のような症状があれば、内科的な精査が必要です。

  • 身長が年齢相応より著しく低い/高い
  • 体重が急激に増減する
  • 思春期が周囲と比べて極端に早い/遅い
  • 慢性的な腹痛、倦怠感、食欲不振
  • 尿の泡立ちや血尿、頻尿
  • 日中の眠気や集中力低下

これらは内分泌疾患(成長ホルモン分泌不全、甲状腺機能異常)、腎疾患、代謝異常症などの兆候であることがあります。

内科医との連携と継続的なサポート

内科検診は単発的なイベントではなく、継続的な健康管理の一環です。検診結果を記録し、次回との比較や、医師との相談材料にすることが重要です。内科医は単なる病気の診断者ではなく、発育におけるアドバイザーとして、家族とともに子どもの成長を支える役割を果たします。

まとめ:発育と内科検診の“両輪”で子どもの未来を守る

子どもの発育には大きな個人差があり、必ずしも周囲と同じペースである必要はありません。一方で、身長・体重の伸びの停滞や、思春期の進み方の異常、繰り返す体調不良などは、隠れた疾患のサインであることも。内科検診はその気づきを与える「早期発見の窓口」であり、家庭での観察と組み合わせることで、病気の予防や適切な治療につなげられます。

内科検診では、成長曲線(身長・体重・BMI)の評価、視力・聴力、血圧、尿検査に加え、必要に応じて貧血や甲状腺機能、アレルギー・喘息、起立性調節障害などを総合的にチェックします。とくに思春期の早発・遅発、肥満や低栄養、睡眠不足・スクリーンタイム過多による不調は、早めの介入で将来の健康リスクを減らせます。学校健診の結果を「通知表」で終わらせず、家庭で振り返り、かかりつけ医へつなぐ流れを作ることが大切です。

家庭では、母子手帳や成長曲線の記録を定期的に更新し、次のようなサインに気づいたら受診を検討しましょう。

  • 6か月以上、身長の伸びが明らかに鈍い/体重が急増・急減する
  • 思春期の二次性徴が極端に早い・遅い
  • 朝起きられない、立ちくらみが続く、頭痛・腹痛が頻発する
  • 運動時の息切れ・夜間の咳、ぜんそく様症状が増えた
  • 無気力・食欲低下・不登校傾向など心のサインが強い

あわせて、予防接種のキャッチアップ、睡眠(学齢期は9–11時間が目安)、バランスの良い食事、毎日の外遊び・運動、デジタルデバイスの時間管理、定期的な歯科受診といった“生活の土台”を整えることも、発育を支える確かな投資です。家庭・学校・医療の三者が情報を共有し合う「チーム医療的な取り組み」を回し続ける――この両輪こそが、子どもの健やかな現在と、将来の選択肢の広さを守ります。