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暑い日々が続くと、体が重く感じたり、朝すっきり起きられなかったりするなど、「夏バテ」のような不調を覚える人が多くなります。軽く見過ごしてしまいがちですが、 夏バテは自律神経の乱れや代謝・内臓機能の低下など、体の深いところに悪影響を及ぼすことがあります。内科医としては、これらの症状を単なる“暑さによる疲れ”と片付けず、見分けと的確な対応をすることが重要です。本記事では、夏バテの典型的な症状、その診断の観点、内科でできる治療・ケア、そして日常でできる予防法を具体的に解説します。
夏バテとは何か ― 症状・原因・リスク因子
夏バテの定義と一般的症状
「夏バテ」は医学的に厳密にはひとつの疾患名ではありませんが、暑さ・高湿度・温度差など夏特有の環境ストレスが重なり、体の調整機能が負荷を受けて起こる体調不調の総称として使われます。主な症状は以下の通りです:
- 倦怠感・だるさ
- 食欲不振・胃もたれ
- 疲労が取れにくい・睡眠の質低下
- 頭痛・めまい・立ちくらみ
- 腹痛・下痢または便秘など胃腸の不調
- 心身の集中力低下・意欲低下
これらが複数同時に出現することで、日常生活に支障をきたすようになることもあります。
原因の医学的メカニズム
夏バテが起こる背後には複数のメカニズムがあります。主に以下のものが挙げられます:
- 自律神経の乱れ
屋外の高温・多湿と、冷房の効いた屋内の寒さとの差が激しいと、自律神経(交感神経と副交感神経)の切り替えが過剰または不十分になります。これにより体温調節機能が効率を失い、疲労感・だるさなどが発生します。 - 脱水および電解質異常
暑さで汗を多くかくと水分だけでなくナトリウム、カリウム等の電解質も失われます。適切な補給がなければ、疲労感や頭痛、筋肉のこむら返りなどが起こりやすくなります。 - 消化器の負担と栄養不足
冷たい飲食物の過剰摂取や食欲不振により胃腸の機能が低下し、栄養吸収が不十分になることがあります。 ⇒ 代謝が落ち、疲れがとれにくい状態を招きます。 - 肝臓をはじめとする臓器の疲労
食事・代謝の負荷、アルコールの摂取、薬物代謝、体内での老廃物処理が追いつかなくなると、肝機能が低下し、その結果倦怠感・だるさを引き起こす要因となることが、内科医の調査で指摘されています。 - 睡眠不足・生活リズムの乱れ
熱帯夜や冷房による体の冷え、夜間の覚醒などで睡眠の連続性・深さが損なわれると、自律神経の回復が不十分となります。これにより疲労の蓄積が起こります。
夏バテを起こしやすい人・リスク因子
内科の診療実践および調査で、以下のような人が夏バテを起こしやすいことがわかっています:
- 高齢者:体温調節機能の低下、腎機能・肝機能が落ちていることが多いため。
- 慢性疾患を持っている人(肝疾患、腎疾患、心疾患、糖尿病など):体の回復力が一般に低く、暑さや脱水への耐性が弱い。
- 栄養状態が悪い人:食事回数が少ない、偏食、低たんぱく・ミネラル欠乏など。
- 睡眠環境が悪い人や夜間冷房などで体が常に冷えている人。
- 屋内外の温度差を頻繁に行き来する人、冷房を過度に使用する人。
- 精神的・ストレスを抱えている人:ストレスが交感神経を優位にし、自律神経のバランスを崩すことがある。
内科での診断と見分けるべき病態
夏バテと思っていたらほかの病気が隠れていることもあるため、内科医は次のような手順で診断を行います。
診察で確認すべきこと
内科診療においては、問診と身体診察でまず以下の点を確認します:
- 発症時期・経過:いつから、どのように症状が現れ、悪化または改善しているか。
- 症状の種類と程度:倦怠感・食欲不振・めまい・吐き気・頭痛など。程度や持続性、日常生活への影響。
- 体温・発熱の有無:熱がある場合は、感染症の可能性も。
- 尿の色・量・回数・頻尿・排尿時の異常:脱水か腎機能の影響がないか。
- 胃腸症状:吐き気・下痢・便秘・腹痛など、食べ物の消化・吸収に関する訴え。
- 生活習慣のヒアリング:睡眠時間・冷房使用状況・水分補給・食事内容・ストレス状況。
必要な検査と鑑別診断
問診で得られた情報をもとに、次の検査を行うことがあります。
- 血液検査:全血球計算(貧血の有無)、肝機能検査(AST、ALT、アルカリホスファターゼなど)、腎機能(クレアチニン、eGFR)、電解質(Na,K,Cl)、血糖値。脱水状態の指標として血中の濃度変化や電解質異常が重要。
- ミネラル・ビタミン検査:ビタミンB群(特にB1・B2)、ビタミンC、ミネラル(マグネシウム・亜鉛など)が不足していると、代謝低下・疲労持続の原因になることがあります。
- 尿検査:蛋白・血・比重・電解質含有など。脱水や腎機能障害、炎症などを調べる手がかりに。
- 甲状腺機能検査:甲状腺機能亢進症または低下症が、倦怠感・体重変動・発汗異常を引き起こすため。
- 心電図や胸部聴診:心疾患の徴候(息切れ・動悸など)がある場合には心臓関連の検査。
鑑別が必要な疾患
夏バテと似た症状を示す疾患はいくつかあります。症状が軽くない、持続する、または以下の特徴があれば早めの受診が必要です:
- 感染症(ウイルス性・細菌性):発熱や喉の痛み、咳などの症状を伴うことが多い。
- 熱中症:めまいや高体温、頭痛・吐き気・脱力など、重症化すれば命に関わる。
- 脱水症状:めまい・立ちくらみ・尿量低下・口の渇きなど。
- 消化器疾患:胃炎・腸炎、食中毒などで食欲不振・腹痛・下痢が激しい場合。
- 代謝異常:糖尿病発症・血糖コントロール不良、電解質異常など。
- 肝疾患・腎疾患:肝機能障害ではだるさ、黄疸などが加わることもあります。
- 内分泌疾患:甲状腺以外に、副腎・副甲状腺などのホルモン異常。
診断の流れと重症度評価
内科医は、問診・身体診察・必要検査を経て「軽度の夏バテ」と「ほかの病気を要する状態」の線引きを行います。重症度評価のポイントは:
- 症状の持続期間:数日〜2週間なら自己管理の範囲だが、それ以上なら医療機関の評価を。
- 日常生活への支障:仕事・家事が難しい、食事が摂れないなど。
- 水分摂取・栄養摂取が十分でないか。
- 高齢者・慢性疾患を持っている人:夏バテがきっかけで他の病態が悪化する可能性が高いため、早期対応が望ましい。

内科的ケアと予防実践法
ここからは、内科医として実際に勧めるケア・治療法と、日常生活で実践できる予防策を具体的にまとめます。
内科での治療・ケア
- 点滴療法・補液
脱水が進んでいたり、水分補給が困難な場合には点滴による補液が有効です。電解質を適切に含む輸液を選ぶことが重要です。 - 薬物治療
夏バテそのものに対する特効薬はありませんが、症状に応じて以下の対処が行われます:
- 鎮痛薬や解熱薬(頭痛や発熱を伴う場合)
- 消化促進薬(胃もたれ・消化不良が強い時)
- 吐き気止め・整腸薬(下痢・吐き気が主な症状である時)
- 鎮痛薬や解熱薬(頭痛や発熱を伴う場合)
- 栄養サポート
食事摂取量が落ちている場合には、栄養士との連携でバランスの良い食事プランを立てます。補助的に経口補水液(ORS)や特別な栄養補助食品も検討されます。 - 生活リズムの調整
睡眠環境の整備、冷房の使い方の見直し、温度差対策など、自律神経を過度に刺激しないような工夫を医師から具体的に指導します。 - 肝機能や代謝機能のチェックと改善
肝臓の負荷を軽減する食事(過度な脂肪・アルコールを避ける)、軽めの運動、ビタミンB群等の補給などが含まれます。肝機能検査で異常があれば継続モニタリングが必要です。
日常での予防法 ― 自己管理のポイント
以下の予防策は、内科医として多くの患者に指導していて効果があるものです。
- 適切な水分・電解質補給
汗をかいたらただ水を飲むだけでなく、塩分・ミネラルの補給も意識する。特に屋外で活動後や暑い日中には、経口補水液・スポーツドリンクでも良いが、糖分過剰に注意。常温~少しぬるめの飲料を選ぶこと。 - バランスのよい食事
・ビタミンB1、B2、ビタミンCなど代謝に関与する栄養素を含む食材(豚肉・魚・緑黄色野菜・果物など)を摂る。
・酸味や香味野菜(しょうが、ネギ、梅など)を活用して食欲を刺激する。
・冷たい食事・飲料を過度に摂らない。胃腸の冷えを避け、消化能力を保つ。 - 睡眠と生活リズムの維持
・寝室の温度・湿度を適切に保つ(エアコン設定→25〜28℃程度など)し、風が直接当たらないようにする。扇風機や冷感寝具を併用。
・就寝前の刺激を減らす:強い冷房・電子機器の使用・カフェイン摂取を控える。ぬるめの入浴でリラックス。 - 温度差・冷房の使い方に注意
屋外と屋内の気温差が大きいと自律神経が揺さぶられます。冷房の設定温度を適度にし、冷風が直接体に当たらないようにする。また、屋内でも足元・首回りの保温を心がける。 - 適度な運動で暑さ耐性をつける
朝夕など気温がそれほど高くない時間帯に軽い運動(ウォーキング・ストレッチなど)を取り入れて、汗をかく習慣をつけることで、体温調節機能・血流・代謝が改善します。熱中症を回避するため十分に水分補給と休憩を。
注意すべき場合・医療機関受診のタイミング
内科医として、以下のような状況では自己判断を越えて医療機関を受診するよう強くおすすめします:
- 症状が数日~1週間以上持続するが改善しない
- 高熱・悪寒・発熱がある
- 食欲不振が強く、体重減少が明らかである
- 脱水の兆候(めまい・立ちくらみ・尿量の激減など)
- 胃腸症状がひどく、吐き気・下痢が続き、水分補給困難な場合
- 慢性疾患を持っている人(特に心疾患・腎疾患・肝疾患・糖尿病)で、症状悪化が見られる場合
まとめ
夏バテは、多くの人が経験する季節性の疾患ともいえる不調ですが、内科の観点からみると「早めの判断・正確な診断・適切なケア」が非常に重要です。自律神経・代謝・臓器機能・栄養状態・生活環境のすべてが絡み合って起こるものなので、単一の対策だけでは不十分です。自分自身の体の声をよく聴き、食事・睡眠・生活リズムを整え、必要であれば医師に相談することで、夏を快適に過ごすことができます。
“暑さに負けない体づくり”は、内科医としても日々の診療を通じて推奨したい方法です。健康な夏を!



