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睡眠不足 男性

「寝つけない」「途中で目が覚める」 … こうした不眠症状に悩む人は多くいます。一方、睡眠中に「呼吸が止まる」「いびきが激しい」といった無呼吸症候群も、睡眠の質を著しく損なう重大な問題です。
これらは「睡眠障害」という点で共通しますが、原因・病態・対処法は大きく異なります。正しく理解しないまま対処を誤ると、改善が遠のくケースも少なくありません。
本記事では、不眠症と睡眠時無呼吸症候群の違いを体系的に整理し、症状や診断法、治療・対策のポイントまでを詳しく解説します。自分の睡眠問題の原因を見極め、適切な改善策を取る手助けになれば幸いです。

1. 不眠症とは何か? — 定義・分類・主な原因

1‑1 定義と分類

不眠症(Insomnia)は、「十分な睡眠時間が確保できない」「寝つきが悪い」「睡眠が浅い/中途覚醒が多い」「早朝に目覚めて再び眠れない」などの訴えを指します。
学術的には国際的基準(ICSD‑3:International Classification of Sleep Disorders 第3版)などで、睡眠困難の自覚があり、それが日中機能障害(疲労感・集中力低下・記憶力低下など)を引き起こすという点が、「不眠症」と診断される要件となります。

不眠症は時間軸や持続性で分類されることが多く、たとえば:

  • 急性不眠:環境変化やストレスなどが原因で一時的に起こる
  • 慢性不眠:少なくとも 3か月以上続く不眠状態
  • 入眠障害/中途覚醒型/早朝覚醒型などのタイプ別分類

1‑2 主な原因・誘因

不眠症を引き起こす因子は、多岐にわたります。以下は代表的なものです:

  • 心理・ストレス因子:不安・抑うつ・緊張・悩み事など
  • 環境因子 / 生活習慣:就寝リズムの乱れ、夜遅い照明・スマホ利用、騒音、暗さ・温度不適切
  • 薬剤・物質の影響:カフェイン、アルコール、ニコチン、一部向精神薬など
  • 身体疾患・合併症:疼痛、消化器疾患、呼吸器疾患、甲状腺機能異常など
  • 内因性リズム異常:睡眠相後退症候群、概日リズム障害など
  • 認知・行動パターン:過度な睡眠への関心、睡眠に対する恐怖、就床時の覚醒行動(ベッドで他の活動など)

不眠は単に「寝られない」だけでなく、慢性化すると心身のストレス耐性低下・生活の質の低下を招きやすく、早期改善が望まれます。

2. 睡眠時無呼吸症候群とは何か? — OSA/CSA/UARS 等

2‑1 睡眠時無呼吸症候群の基本

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome, SAS または OSA を含む)は、睡眠中に呼吸が繰り返し途絶(無呼吸)または浅くなる(低呼吸)現象を含む疾患群です。

主なタイプは以下の通りです:

  • 閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea:OSA):上気道が物理的に閉塞・狭窄し、呼吸が妨げられる
  • 中枢性睡眠時無呼吸(Central Sleep Apnea:CSA):呼吸制御中枢が呼吸指令を出せない/調節異常がある
  • 混合型・複合型:OSA と CSA が混在
  • 上気道抵抗症候群(Upper Airway Resistance Syndrome:UARS):明確な無呼吸基準には達しないが、呼吸抵抗の増大が連続的覚醒を誘発するタイプ

OSA が最も頻度が高く、日常的に「いびき」「呼吸停止感」「日中眠気」を伴う典型像を呈することが多いです。

2‑2 無呼吸のメカニズムと影響

体が睡眠中に喉・舌・軟口蓋・咽頭壁の筋肉を弛緩させると、上気道の支持力低下・空隙狭小化により、空気通路が塞がれやすくなります。これが呼吸停止・低酸素・覚醒反応を誘発します。

呼吸が止まるたびに体は覚醒(短時間でも)して呼吸を再開し、その断続覚醒が睡眠構造の破綻を招きます。また、低酸素・二酸化炭素の蓄積・交感神経過緊張などが体内ストレスを高め、心血管系・代謝系への負荷をもたらす可能性もあります。

無呼吸重症度は一般に AHI(Apnea–Hypopnea Index) という指標で評価され、時間あたりの無呼吸・低呼吸回数を基に分類されます。

2‑3 無呼吸に典型的な症状・合併症

主な症状

  • 大きいいびき
  • 中途覚醒や息苦しさで目覚める感覚
  • 口渇・喉の違和感
  • 日中の強い眠気・居眠り傾向
  • 頭痛・集中力低下・記憶力低下

主な合併症・リスク

  • 高血圧、心血管疾患、心筋梗塞・脳卒中リスク増加
  • インスリン抵抗性・2型糖尿病の悪化
  • 認知機能低下、うつ傾向
  • 事故リスク増大(運転など)

OSA 患者の一部には、不眠症状(中途覚醒・入眠困難)を併発する傾向もあり、両者の重複(後述の COMISA)も注目されています。

3. 不眠症と無呼吸の主な相違点

項目不眠症(Insomnia)睡眠時無呼吸症候群(特に OSA)
主な障害対象睡眠開始や維持が困難(主観的訴え)睡眠中の“呼吸”が断続・低下
覚醒・中途覚醒覚醒主体、不安や認知要因が関与呼吸停止後の再開が覚醒を誘発
日中症状疲労感・倦怠感・集中力低下強い眠気・居眠い傾向・昼間無感覚
典型症状入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒大きな いびき・無呼吸感・加えて日中眠気
発生要因心理ストレス・生活習慣・疾患・薬剤解剖学的因子・肥満・筋弛緩・呼吸制御異常
検査法睡眠日誌、質問票、場合によっては簡易ポリソムノグラフィー睡眠ポリソムノグラフィー、終夜呼吸モニタリング、AHI 評価
治療アプローチCBT‑I、睡眠衛生改善、薬物療法などCPAP、口腔装置、体位療法、減量、手術など
合併リスク精神疾患(うつ・不安)、慢性疲労、心身ストレス心血管疾患・代謝異常・認知機能低下・事故リスク

この比較から不眠症と無呼吸は「睡眠を妨げる」という点では重なりますが、原因・アプローチ・メインターゲットが大きく異なることがわかります。

4. 両者が“併存”するケース(COMISA:併存型)

4‑1 COMISA(Comorbid Insomnia and Sleep Apnea)とは

不眠症と睡眠時無呼吸症候群が同時に存在する状態を、近年「COMISA(併存型不眠+無呼吸)」と呼ぶことがあります。日本国内研究でも、OSA 患者の 30%前後に不眠症状を伴うとする報告があります。

この併存型は、単独の OSA や不眠と比較して、治療抵抗性・生活の質低下・アドヒアランス不良傾向(例えば CPAP 装置の継続利用率が低下)などの問題点が指摘されています。

4‑2 なぜ併存しやすいのか?相互作用メカニズム

  • 無呼吸 → 中途覚醒 → 不眠感
     呼吸停止後に覚醒を伴うため、睡眠断片化が進み、「眠りに戻れず不眠感」を引き起こすルート。
  • 覚醒閾値の低さ → 呼吸揺らぎに敏感反応
     不眠傾向・過覚醒傾向がある人は、軽微な呼吸変動でも覚醒反応を起こしやすく、無呼吸発現が顕在化しやすい可能性があるという仮説。
  • 共通リスク因子の重なり
     肥満、年齢、慢性炎症、代謝異常、精神的ストレスなどが両者に影響を及ぼす。
  • 治療干渉
     不眠治療(特定の薬剤)や補助療法が呼吸を抑制する作用を持ち、無呼吸を悪化させるケースもあり得る。

4‑3 COMISA の臨床的特徴と課題

  • 不眠症状が強い場合、CPAP の使用継続率(アドヒアランス)が低下しやすい。
  • 不眠改善を図る治療(認知行動療法、不眠薬など)が、呼吸障害改善に好影響を及ぼす可能性があるとの報告も。
  • 治療方針設計が複雑になり、片方だけを標的とするともう片方を悪化させるリスクがあるため、統合的アプローチが必要とされます。

5. 診断の流れと使われる検査

5‑1 初期評価:問診・スクリーニング

まずは主観的訴えを丁寧に聴取します。典型的には以下の質問・評価が行われます:

  • 入眠困難・途中覚醒・早朝覚醒の頻度・持続性
  • いびき・呼吸停止感・息切れ感の有無
  • 日中の眠気度・居眠り傾向(エプワース眠気尺度 ESS など)
  • 睡眠日誌記録(就寝時刻・起床時刻・覚醒回数など)
  • 睡眠衛生・生活習慣・薬剤歴・持病歴チェック

スクリーニングツール例:Insomnia Severity Index(ISI)、Athens Insomnia Scale(AIS)、Epworth Sleepiness Scale(ESS)など。

医者

5‑2 簡易呼吸モニタリング・在宅検査

無呼吸を疑う場合、在宅で行いやすい簡易モニタリング(終夜呼吸モニタリング装置)を使い、無呼吸・低呼吸・酸素飽和度低下を測定することがあります。

5‑3 睡眠ポリソムノグラフィー(PSG:Gold Standard)

精密な睡眠・呼吸評価には、終夜睡眠ポリソムノグラフィー(PSG) が用いられます。これは脳波(EEG)、筋電図、呼吸流量、酸素飽和度、心拍数、眼球運動、体位などを同時に記録する検査です。
これにより、無呼吸・低呼吸回数(AHI)、覚醒回数、睡眠段階構造、酸素変動などを詳細に評価できます。

また、COMISA を疑う場合は、不眠指標・覚醒頻度・呼吸イベントのタイミング関係性などを総合的に見る必要があります。

5‑4 補助的検査・追加評価

  • 頸部断面/頭頸部画像(MRI, CT, セファロ計測など)による解剖学的評価
  • 咽頭圧測定(上気道抵抗性評価)
  • 下顎運動測定、顎口腔機能評価
  • 精神・心理評価(不眠因子・うつ/不安スクリーニング)
  • 血液検査(甲状腺機能・電解質・代謝系異常チェックなど)

6. 治療・改善法:それぞれのアプローチ

不眠症と無呼吸は異なる病態であるため、治療アプローチも当然異なります。ただし、併存型 COMISA では双方を統合的に扱う必要があります。

6‑1 不眠症への治療アプローチ

主な戦略には次のものがあります:

  • 認知行動療法 for 不眠(CBT‑I):刺激制御法、睡眠制限法、認知再構成、リラクセーション技法などを組み合わせた根本治療法
  • 睡眠衛生改善:就寝前の照明・スマホ制限、カフェイン・アルコール制限、一定の就寝起床時間設定など
  • 薬物療法:ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系、オレキシン受容体拮抗薬など。ただし無呼吸併存例では呼吸抑制作用に注意が必要
  • リラクセーション法・心理療法:自律訓練法・呼吸法・マインドフルネス・ストレス対処法など

不眠が主因の場合、これらを中心にアプローチすることで睡眠の持続性と質を改善します。

6‑2 無呼吸(特に OSA)への治療アプローチ

主要な対策は次の通り:

  • CPAP(持続陽圧呼吸療法):最も標準的な治療法。気道を陽圧で開放して呼吸停止を防ぐ。有効性が高く多くのガイドラインで推奨される
  • 口腔内装置(下顎前方保持装置/マウスピース型):軽~中等度の OSA に適応。下顎を前方に保持し、気道確保を図る
  • 体位療法 / 寝姿勢制御:仰向け寝を避け、横向き寝を促す枕・補助具使用
  • 減量・体重管理:肥満是正は気道圧迫軽減に直結
  • 手術療法:軟口蓋形成術、鼻中隔矯正、舌根部切除などの外科的介入
  • 舌下神経刺激装置(Hypoglossal Nerve Stimulation, HNS):睡眠中に舌筋を刺激して沈下を防ぐ先進的手法(適応条件あり)
  • 鼻気道改善 / 鼻ストリップ / 鼻拡張具:補助的に鼻通り改善を図る手段

これらは無呼吸エピソードを減らし、睡眠の断片化・酸素低下を抑制するために用いられます。

6‑3 COMISA に対する統合戦略

両者を併存するケースでは、下記のような統合的アプローチが望まれます:

  1. 無呼吸治療優先:まず無呼吸性呼吸障害を改善する(CPAP など)ことで、中途覚醒要因を抑える
  2. 不眠症治療を併用:CPAP 継続性を改善する目的で CBT‑I や睡眠衛生改善を同時に導入
  3. 段階的・適合性重視:無呼吸装置の圧力設定やマスク適合性を調整し、不眠傾向者でも使いやすくする
  4. モニタリングと修正:装置使用率、覚醒頻度、不眠・呼吸イベント数などを継続評価し、調整を繰り返す

このように、片方の治療だけで済ますのではなく、両者を絡めて戦略を立てることが、COMISA 対応の鍵となります。

7. 睡眠改善のための生活習慣と注意ポイント

病的治療と並行して、生活ベースでできる改善策を取り入れることが、長期的な改善には不可欠です。

7‑1 睡眠衛生の最適化

  • 就寝・起床時間を一定に保つ
  • 就寝前 1 時間は強い照明・スマホ・パソコンを控える
  • 寝室環境(温度・湿度・暗さ・遮音)を整える
  • 快適な寝具・枕選び
  • カフェイン・アルコール摂取は就寝 4~6 時間前までに制限
  • 適度な日中運動を取り入れる

7‑2 体重管理・食事制御

肥満は無呼吸因子として極めて重要です。バランスのよい食事・定期運動・適正エネルギー制限が基本です。

また、就寝直前の重い食事や胃食道逆流を誘発する食事は避けるべきです。

7‑3 姿勢・寝具・枕の工夫

  • 横向き寝を基本とし、仰向けを避ける
  • 枕・マットレスで頭部・首のラインを適切に保つ
  • 寝具を清潔に保ち、アレルギー源(埃・ダニなど)を抑制する

7‑4 呼吸通りを整える工夫

  • 鼻腔洗浄・生理食塩水スプレー
  • 鼻ストリップ・外鼻拡張具
  • アレルギー対策(花粉・ダニ対策)

7‑5 ストレス対処・リラクゼーション

  • 瞑想・呼吸法・ストレッチ・マインドフルネス
  • 就寝前の軽い読書や音楽、ぬるめの入浴
  • 過剰な睡眠への執着を手放す(逆に覚醒しやすくなる認知パターンを避ける)

7‑6 継続的モニタリング

  • 睡眠日誌をつける
  • 装置ログ(CPAP 使用率など)をチェック
  • 覚醒頻度・日中眠気などの変化を観察
  • 定期的な再評価(睡眠検査・診察など)

8. まとめ:自分のタイプを見極めて対処を選ぶ

  • 不眠症 は主に「寝つけない・眠れない・眠り続けられない」といった主観的訴えが中心で、心理・行動・環境的要因が大きく関与
  • 睡眠時無呼吸症候群(特に OSA) は「睡眠中の呼吸異常」が根本問題で、断続覚醒・低酸素・日中眠気を伴うリスクが大きい
  • 併存型(COMISA) は両者が絡み合った複雑型で、治療も難易度が上がるが、統合的アプローチで改善の道が開ける可能性がある
  • 診断には問診・スクリーニング・睡眠検査が不可欠
  • 治療にはそれぞれの専用法(CBT‑I や CPAP 等)を適切に用い、併存例では双方を同時に扱う戦略が鍵
  • 生活習慣改善(睡眠衛生・体重管理・睡眠環境整備など)は、すべてのケースで基本の土台