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「毎日しっかり寝ているのに、朝スッキリ起きられない」「日中、強烈な眠気に襲われる」——これらの症状は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が関係している可能性があります。SASは、睡眠中に何度も呼吸が止まることで身体にさまざまな負担をかける、放置すれば命にも関わる病気です。本記事では、睡眠時無呼吸症候群を疑ったときに知っておくべき情報を、内科医の視点から詳しく解説します。受診のきっかけとして、ぜひお読みください。
睡眠時無呼吸症候群とは?——放置できない「呼吸の中断」
睡眠中に何が起きているのか
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)は、眠っている間に呼吸が繰り返し止まったり、浅くなったりする病気です。医学的には「10秒以上の呼吸停止が1時間に5回以上」起きることが、診断基準のひとつとされています。
例えば、7時間の睡眠で1時間あたり10回の呼吸停止がある場合、合計で70回以上も呼吸が止まっていることになります。これは単なる「いびき」や「疲れ」ではなく、全身に慢性的な酸素不足をもたらす深刻な状態です。
呼吸が止まると、脳や体は酸素不足を補うために繰り返し覚醒反応を起こします。その結果、本人は気づかなくても「熟睡できていない」状態が続き、日中の強い眠気や集中力の低下につながります。
SASの主なタイプ
SASにはいくつかのタイプがあり、原因によって分類されます。
1. 閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
最も多いタイプで、全体の約9割を占めます。
睡眠中に舌の付け根や咽頭周囲の筋肉がゆるみ、上気道が物理的に塞がれて空気の通り道が閉じてしまうことで呼吸が止まります。肥満による首回りの脂肪、顎の形、扁桃腺肥大などがリスク要因です。
2. 中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSAS)
こちらは気道の閉塞ではなく、脳の呼吸中枢からの信号が出にくくなることで起こります。心不全や脳卒中など循環器系・神経系の病気を背景に持つ方に多くみられます。
3. 混合型(複合型)
閉塞性と中枢性の両方が混在するケースです。原因が複雑なため、診断や治療にはより専門的な評価が必要になります。
なぜ気づきにくいのか
SASの特徴は
しかし実際には、夜間の酸素不足が毎日のように積み重なることで、心臓や脳、代謝に大きな負担を与えます。放置すると高血圧、不整脈、心筋梗塞、脳梗塞など命に関わる病気へと進展するリスクがあります。
日常生活への影響
SASは単に「睡眠の問題」にとどまらず、生活全般に影響します。
- 強い日中の眠気により、仕事のパフォーマンスが低下
- 運転中の居眠りによる交通事故リスクの増大
- 気分の落ち込みや抑うつ状態
- 生活習慣病の悪化(高血圧・糖尿病など)
このように「眠れないだけの病気」と軽く見てしまうと、健康や生活の質(QOL)が大きく損なわれてしまいます。
症状チェック:こんなサインがあれば要注意
主な自覚症状
- 大きないびき(特に断続的)
- 起床時の頭痛や喉の渇き
- 熟睡感がない、朝のだるさ
- 日中の強い眠気や集中力の低下
- 仕事中や運転中に眠ってしまう
- 気分の落ち込みやイライラ

他人から指摘されやすい症状
- 「いびきがうるさい」と言われる
- 「寝ている間に呼吸が止まっていた」と家族に言われた
- 寝返りが多い、寝汗をかく
特にいびきが急に止まって、しばらくして大きな呼吸音が出るというパターンは、SAS特有の兆候です。これらの症状が複数当てはまる場合は、早めの医療機関受診が望まれます。
SASがもたらす健康リスクとは?
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、単なる「いびきの病気」ではありません。夜間の繰り返す呼吸停止によって、体は慢性的な酸素不足にさらされます。この酸素不足と覚醒反応の繰り返しが、心臓や血管、代謝に深刻なダメージを与え、さまざまな合併症を引き起こすことがわかっています。
合併症のリスク
高血圧
呼吸が止まるたびに酸素が不足し、交感神経が強く刺激されます。その結果、血管が収縮して血圧が上昇します。SASを放置すると、降圧薬を飲んでもなかなか血圧が下がらない「治療抵抗性高血圧」になることもあります。
心疾患
夜間の低酸素状態は心臓に大きな負担を与えます。心不全や心筋梗塞、不整脈といった心血管系疾患のリスクが高まり、命に直結する危険があります。特に「心房細動(不整脈の一種)」とSASの関連は強く、SASの治療により不整脈が改善するケースもあります。
脳血管障害
酸素不足と血圧上昇が繰り返されることで、脳の血管もダメージを受けます。その結果、脳梗塞や脳出血のリスクが高まります。ある研究では、SASを持つ人は持たない人に比べて脳卒中の発症率が数倍になることが報告されています。
2型糖尿病
SASは代謝にも影響します。夜間の低酸素状態がインスリン抵抗性を悪化させ、血糖値が上がりやすくなります。実際に、糖尿病患者の中にはSASを併発している人が少なくなく、互いに病状を悪化させる悪循環に陥ることがあります。
メタボリックシンドローム
肥満、高脂血症、高血圧、高血糖といった生活習慣病とSASは密接に関連しています。体重が増えるとSASが悪化し、SASが続くと代謝が乱れてさらに太りやすくなるという「負のスパイラル」が生じやすいのです。
事故や社会的リスク
健康上の合併症だけではなく、社会生活にも影響を及ぼします。
日中の眠気と事故リスク
SAS患者は深い眠りが得られず、日中の強烈な眠気に悩まされます。その結果、仕事中の集中力低下や判断力の鈍りにつながり、重大な事故を招く危険があります。特に運転中の居眠りは命に関わる問題で、交通事故の一因として社会的にも問題視されています。
労働災害や仕事の能率低下
作業中の注意力散漫や判断ミスが増え、労働災害のリスクが高まります。SASは「個人の健康の問題」にとどまらず、「職場や社会全体の安全」にも直結する疾患なのです。
診断の流れと検査方法
受診のタイミング
以下のような症状がある場合は、内科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科などでの受診が推奨されます。
- 家族に無呼吸を指摘された
- 日中の眠気が改善しない
- 睡眠時間を確保しても疲れが取れない
- 生活習慣病がなかなか改善しない
主な検査方法
- 簡易検査(自宅)
ポータブル機器を使い、睡眠中の呼吸状態・血中酸素飽和度・脈拍などを記録します。1晩で終わる簡便な方法です。 - 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)
医療機関に1泊入院して、脳波・眼球運動・筋電図・呼吸・心電図などを多角的に測定します。より詳細な診断が可能です。
これらの検査によって、無呼吸の頻度(AHI:無呼吸低呼吸指数)を算出し、重症度を判定します。
治療法:重症度に応じたアプローチ
CPAP療法(経鼻的持続陽圧呼吸療法)
もっとも一般的かつ有効な治療法です。専用のマスクを装着し、一定の圧力で空気を送り込むことで気道を広げ、無呼吸を防ぎます。AHIが15以上(中等症以上)で保険適用されます。
- 高い治療効果(いびき・日中の眠気の改善)
- 長期的な合併症リスクの軽減
- 毎日の継続使用が重要
マウスピース(口腔内装置)
軽症〜中等症のSASに効果的です。就寝時に装着し、下顎を前に出すことで気道の閉塞を防ぎます。歯科で作成されます。
外科的治療
扁桃腺肥大や鼻中隔弯曲など、解剖学的な原因がある場合には外科的手術が検討されることもあります。
自宅でできる予防と対策
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は医療機関での治療が大切ですが、日常生活の工夫だけでも症状を軽減できる場合があります。特に軽症の段階や、治療と並行して行うことで効果を高めることが期待されます。
生活習慣の見直しがカギ
1. 減量
肥満はSAS最大のリスク因子です。特に首回りや舌の付け根に脂肪がつくと、睡眠中に気道が塞がれやすくなります。体重を5〜10%減らすだけでも、気道の圧迫が軽減され、無呼吸の回数が減ることが報告されています。急激なダイエットではなく、バランスのとれた食事と適度な運動による「持続可能な減量」が大切です。
2. 禁酒
アルコールは筋肉を緩める作用があるため、就寝前に飲酒すると上気道の筋肉も弛緩し、気道がふさがれやすくなります。また深い睡眠の質も悪化し、SASが一層進行します。寝酒の習慣がある方は、寝る3時間前以降の飲酒を控えるだけでも改善が期待できます。
3. 禁煙
喫煙は喉や気道の粘膜を炎症させ、むくみを引き起こします。その結果、気道が狭くなり、無呼吸のリスクが高まります。禁煙することで炎症が治まり、呼吸の通りが改善することがあります。SAS改善だけでなく、全身の健康に大きなメリットがあるため、ぜひ取り組みたい習慣です。
4. 仰向けでの睡眠を避ける
仰向けに寝ると舌が喉の奥に落ち込み、気道を塞ぎやすくなります。横向きで寝るだけでも無呼吸が減るケースが多くあります。工夫としては、背中にタオルや小さな枕を固定して、自然に横向きで眠れるようにする「体位療法」があります。
5. 定期的な運動
ウォーキングや軽いジョギングなどの有酸素運動は、肥満予防だけでなく、睡眠の質そのものを高めます。特に日中に体を動かすことで、夜に自然な眠気が得られやすくなり、深い睡眠が促されます。無理な運動ではなく、週に数回、30分程度から始めることがおすすめです。
まとめ:気になるなら、早めに医師へ相談を
睡眠時無呼吸症候群は、本人が気づきにくい病気であると同時に、命に関わる合併症のリスクを伴う疾患です。日常の「なんとなく不調」に慣れてしまっている方も多く、そのまま生活しているうちに深刻な健康被害につながるケースも少なくありません。
特に以下に当てはまる方は要注意です。
- 肥満傾向がある
- 高血圧や糖尿病を治療中
- 強い日中の眠気がある
- 家族からいびきや無呼吸を指摘された
当院では、簡易検査から精密検査、そして治療まで一貫した診療を行っています。気になる症状がある方は、お気軽にご相談ください。「眠るだけで命のリスクが高まる」——その事実を見逃さないことが、健康を守る第一歩です。



