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慢性疲労症候群(CFS)は、長引く倦怠感や集中力の低下、睡眠障害などで日常生活に支障をきたす症状を引き起こします。原因は多岐にわたりますが、内科的な観点から正しく理解し、対策を講じることで改善への道筋が見えます。この記事では、内科医としての視点から、CFSの可能性のある原因と、臨床やエビデンスに基づく実践的な改善策を詳しくご紹介します。専門的な内容を丁寧に、読みやすくまとめましたので、慢性的な疲労にお悩みの方はぜひご一読ください。
1. 慢性疲労症候群(CFS)の概要と診断基準
慢性疲労症候群(CFS: Chronic Fatigue Syndrome)は、単なる「疲れ」や「体力不足」とは異なる、医学的に認められた疾患です。特徴は、6カ月以上続く強い全身の倦怠感で、十分な休養をとっても改善しないことが多い点にあります。
さらに、CFSでは倦怠感以外にもさまざまな症状が現れるのが特徴です。たとえば、集中力や記憶力の低下、質の悪い睡眠、頭痛や筋肉痛、喉の痛み、リンパ節の腫れなどが挙げられます。これらの症状が複数重なることで、日常生活や仕事に大きな支障をきたし、患者さんのQOL(生活の質)を大きく低下させる要因となります。
内科診断におけるアプローチ
CFSは症状が幅広く、他の病気と区別するのが難しいため、診断は除外診断が基本となります。まずは、似た症状を示す他の疾患を一つひとつ除外していくことが必要です。具体的には、
- 貧血:酸素不足による疲労や集中力低下が起こる
- 甲状腺機能異常(低下症や亢進症):代謝バランスが崩れ、強い倦怠感を伴う
- 慢性の感染症:ウイルスや細菌感染が倦怠感や発熱を引き起こす
- 神経内科疾患(多発性硬化症など):神経障害による疲労や痛み
- 精神科領域の疾患(うつ病、適応障害など):心因性の疲労や集中力低下
これらを丁寧に確認し、該当しない場合にCFSの可能性が検討されます。
診断基準と検査の役割
米国疾病管理予防センター(CDC)の診断基準など国際的な基準も活用されます。そのうえで、以下のような検査を組み合わせ、患者さんの状態を多角的に評価していきます。
- 血液検査:炎症反応、貧血、栄養状態などを確認
- 内分泌機能検査:甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンの異常を調べる
- ウイルス抗体検査:EBウイルスやサイトメガロウイルス感染の有無を確認
- 心理面の評価:ストレスやうつ症状が疲労感を悪化させていないかを確認
このように、CFSの診断は「ひとつの検査で判定できる病気」ではなく、内科的な知見をもとに総合的に判断する必要があるのです。
2. CFSの原因を内科医が解き明かす
慢性疲労症候群(CFS)は、単に「疲れやすい体質」と片付けられるものではなく、体の免疫、ホルモン、エネルギー代謝、そして心の健康まで、複数の要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。ここでは、内科的な観点から考えられている主な原因をご紹介します。
2-1. 免疫系の異常
CFS患者では、体の防御反応である免疫系が過剰に働いていることが多く報告されています。特に、炎症を引き起こす「サイトカイン」(インターロイキン-6など)が過剰に分泌されることで、体が常に「炎症状態」に近い状態に陥り、強い倦怠感や集中力低下を引き起こすと考えられています。
また、ウイルス感染後に症状が悪化するケースも多く、異常な免疫応答や細菌由来の微小炎症(LPSなど)が、疲労を長引かせる要因とされています。
2-2. 神経内分泌系の機能異常
私たちの体は、ストレスに対応するために「HPA軸(視床下部-脳下垂体-副腎)」というシステムを使い、コルチゾールというホルモンを分泌します。しかし、CFS患者ではこのシステムがうまく働かず、ストレスに対して必要なホルモンが分泌されにくいことがわかっています。
その結果、体が十分に回復できず、常に疲労が溜まったままの状態となり、慢性的な倦怠感につながると考えられています。
2-3. ミトコンドリア機能の低下
エネルギーの生産工場であるミトコンドリアの働きが落ちていることも、CFSの大きな原因とされています。通常、私たちは食事から得た栄養をATP(エネルギー)に変換して活動しますが、CFS患者ではミトコンドリアの働きが弱まり、必要なエネルギーを十分に作り出せません。
これにより「常に体が重い」「少し動いただけで疲れる」という感覚が生じ、心身の回復が遅れることにつながります。
2-4. 精神的・社会的要因
CFSは体の異常だけでなく、心や社会的ストレスとも深く関係しています。慢性的な心理的ストレス、不眠、不安やうつ症状は、疲労を悪化させる大きな要因となります。特に、疲労が長引くことで仕事や学業、家庭生活に支障をきたし、そのこと自体がさらにストレスとなり、悪循環を生み出すケースも少なくありません。
したがって、CFSの改善には、体の治療と同時に、心理面や生活環境を含めた全人的なケアが求められます。

3. CFS改善に向けた内科的アプローチ
3-1. 精密検査による除外と目標設定
内科的アプローチでは、まず血液検査、甲状腺ホルモン、ビタミン欠乏、感染症(EBウイルス、サイトメガロウイルスなど)の有無を精査します。原因を特定しながら、患者ごとに現実的な改善目標を立てることが大切です。
3-2. 栄養・睡眠・運動の見直し
- 栄養:ビタミンB群、鉄、マグネシウム、亜鉛、CoQ10などの摂取が重要です。特に、偏った食生活や無理なダイエットは疲労を悪化させるため、バランスの良い食事が求められます。
- 睡眠:睡眠の質を高めるためには、規則的な生活、電子機器の制限、室内環境の最適化が有効です。必要に応じて医師の判断のもと、睡眠導入剤の使用も検討されます。
- 運動:軽いストレッチやウォーキングなどの「段階的運動療法(GET)」が推奨されます。ただし、無理をせず、体調に応じたペースで実施しましょう。
3-3. ストレス管理と心理的サポート
認知行動療法(CBT)やカウンセリングにより、ストレスの受け止め方や生活の質を改善する取り組みが効果的です。医師との対話を通じた安心感も、症状の改善につながります。
3-4. 補助療法:漢方とサプリメント
漢方薬(補中益気湯、加味帰脾湯など)は、倦怠感や体力低下に対して用いられることがあります。また、CoQ10、L-カルニチン、ビタミンB12などのサプリメントも、医師の監修のもとで補助的に活用できます。
3-5. 継続的なフォローと調整
症状は日々変化するため、定期的な診察や生活状況の見直しが欠かせません。必要に応じて専門外来(神経内科、心療内科など)への紹介も視野に入れ、柔軟な対応を心がけます。
4. 最新研究と今後の治療の可能性
慢性疲労症候群(CFS)は、未だに原因が完全には解明されていない複雑な疾患ですが、近年の研究によって少しずつ新しい知見が蓄積されています。従来は「疲れやすい体質」や「心の問題」と片付けられることもありましたが、医学的な研究が進むにつれて、体の仕組みや免疫・代謝に深く関係している疾患であることが明らかになってきました。
腸内環境との関連
近年特に注目されているのが、腸内環境とCFSの関係です。腸には全身の免疫細胞の多くが存在し、腸内フローラ(腸内細菌叢)のバランスが免疫機能や神経伝達物質の働きに大きな影響を与えることが分かってきました。
- 腸内細菌の乱れ(ディスバイオシス)が慢性炎症を引き起こす
- セロトニンなどの神経伝達物質の産生に腸内環境が関与する
- 腸の状態がストレス耐性や自律神経の安定に影響する
これらの点から、プロバイオティクス(善玉菌を含む食品やサプリ)やプレバイオティクス(善玉菌のエサとなる成分)の摂取が、CFSの症状改善に有望ではないかと考えられています。まだ研究段階ではあるものの、腸活がCFS治療の一助になる可能性があります。
遺伝子検査と個別化医療の進展
さらに、将来的には遺伝子検査や免疫調整薬を用いた個別化医療も期待されています。
患者さんごとの体質や免疫の状態を詳しく調べることで、「誰にどの治療が有効か」を事前に予測できるようになると考えられています。これにより、従来の画一的な治療では得られにくかった効果が、より高い確率で得られる可能性があります。
希望のある治療法へ
CFSは今なお「未解明な部分が多い疾患」ですが、世界中で研究が進んでおり、少しずつではあっても確実に治療の道筋が見え始めている段階です。腸内環境の改善や新しい免疫療法、個別化医療の発展によって、将来的にはより効果的で根本的な治療法が確立されることが期待されています。
まとめ
慢性疲労症候群は、一過性の疲れとは異なり、さまざまな生理学的・心理学的要因が複雑に絡み合う疾患です。内科的アプローチでは、正確な診断、適切な生活指導、補助療法の活用を通じて、症状の軽減と生活の質の向上を目指すことができます。医師との連携のもと、無理なく焦らず、自分に合った改善方法を見つけていくことが大切です。慢性疲労に悩む方々にとって、この記事が少しでも回復へのヒントとなれば幸いです。



