受診のご案内

お子さまが発熱したとき、親として「どう対応すべきか」が最も気になるものです。単なる熱でも、場合によっては迅速な対応や受診が必要になります。本記事では、内科医が日常診療で実際に行っている“観察のコツ”や、“家庭でできる対応法”、そして“受診の判断基準”を、エビデンスに基づいて分かりやすく解説します。不安があるときに頼りになる、実用的な内容です。
1. 発熱時にまず観察すべき症状とは?
発熱は“病気そのもの”ではなく、体の防御反応です。体温の数字だけに注目せず、いつもと違う全身の変化を丁寧に見てください。
全身状態(いちばん大事)
抱っこしてもぐったりしている/機嫌が著しく悪い・反応が鈍い/呼吸が速い・肩で息をする・胸やみぞおちがへこむ(陥没呼吸)/顔色が悪い・口唇が紫っぽい──こうしたサインは重症化の可能性を示します。水分がとれているか、尿の回数が極端に減っていないか(脱水)も必ず確認を。手足が冷たい悪寒(寒気)は上昇期のサインで、無理に冷やしすぎないようにします。
熱型(続き方・上がり方)
38℃台でも元気なら自宅で様子見できることが多い一方、40℃前後の高熱が出る/解熱してもすぐ再上昇する(発熱が3~4日以上続く)/解熱剤がほとんど効かないといった場合は、細菌感染やほかの疾患を疑って受診を検討します。震え(悪寒戦慄)を伴う急激な上昇や、発熱と解熱を大きく繰り返すパターンも要注意です。
随伴症状(どこがつらいか)
咳・鼻水・のどの痛み・耳を触って嫌がる(中耳炎)・強い頭痛や首のこわばり・光をまぶしがる・嘔吐や下痢・激しい腹痛・排尿時痛や尿のにおいの変化(尿路感染)・発疹などをチェック。発疹は「赤い点」「じんましん様」「紫斑(ガラスで押しても消えない内出血様)」など性状がヒントになります。紫斑+高熱や強い頭痛+項部硬直はすぐ受診のサインです。
病歴・既往歴・背景(重症化リスク)
心肺・腎・代謝疾患、けいれんの既往、免疫不全や長期ステロイド内服、生後3か月未満、早産児、ワクチン未接種、最近の海外渡航・流行地域への移動、家族・園・学校での流行状況がある場合は、より慎重に観察・受診判断を行います。
最後に、発熱開始時刻・最高体温・解熱剤の種類と投与時刻・飲水量と尿回数・嘔吐/下痢の回数・気になる随伴症状を簡単にメモしておくと、受診時の評価がスムーズになります。
2. 家庭でできるセルフケアの基礎
発熱時の“おうちケア”は、水分・安静・適温の3本柱に、適切な解熱剤と観察の記録を加えるのが基本です。以下を目安に、無理のない範囲で整えていきましょう。
体温測定と水分補給
- 測り方を固定:脇・耳・口など、いつもと同じ方法・同じ体温計で。計る頻度は2〜4時間おきで十分(ぐったり・悪化時は適宜)。記録しておくと受診時に役立ちます。
- 少量頻回がコツ:一度にたくさん飲ませるより、スプーンやストローで少しずつ。吐き気があるときは5〜10分おきにひと口から。
- 飲むものの例:経口補水液(ORS)が最優先。なければ麦茶・薄めたイオン飲料でも。未満児は甘すぎる飲料やハチミツ入り飲料を避ける。母乳・ミルクは欲しがるだけでOK。
- 脱水のサイン:尿が少ない・色が濃い/口が乾く/涙が出ない/ぐったり。見られたら、よりこまめな補給を。
解熱剤の使い方
- 目的は“楽にすること”:熱を「下げ切る」ためではなく、不快感(痛み・だるさ・眠れない)を和らげるために使用。
- 成分とルール:小児ではアセトアミノフェンが標準。用量・間隔は製品表示(もしくは医師指示)を厳守。併用・重ね飲みはしない。
- 避けたいこと:アスピリン系は小児NG/医師指示なく別成分に切り替える/解熱のためだけに短間隔で繰り返す。
環境づくり(室温・服装・清潔)
- 室温・湿度:目安24〜26℃、湿度40〜60%。エアコンは“強冷”にせず、風が身体に直あたりしないよう調整。
- 服装と寝具:汗をかいたら肌着をこまめに交換。薄手で重ね着し、寒気が収まったら1枚脱ぐなど微調整。
- 清拭・入浴:ぬるめのシャワーや温タオルでの清拭は不快感の軽減に有効。アルコールでの清拭や保冷材の当てっぱなしは不可(冷やしすぎ・皮膚トラブル)。
- 鼻・咳のケア:鼻づまりは生理食塩水の点鼻や加湿で楽に。頭を少し高くして眠ると呼吸が楽なことも。
安静の確保と過ごし方
- 安静=退屈対策:絵本やお絵描き、静かな動画などで横になって過ごせる環境に。無理に寝かせつけなくてOK。
- 食事は“食べられるときに”:ゼリー・プリン・アイス・うどん・おかゆなど、口に入りやすい物から。食べられなくても水分優先で問題ありません。
- 登園・外出:解熱後24時間経過し、食欲・活動性が戻ってから再開を。
してはいけないこと(事故・悪化を防ぐため)
- アルコール清拭・氷枕の当てっぱなし・解熱剤の多剤併用/過量・強い直風はNG。
- 大人用の薬を分け与える、自己判断で抗生物質もNG。疑問はかかりつけへ。
観察と受診準備(“見守る”もケアの一部)
- メモしておく:発熱開始時刻/最高体温/解熱剤の成分名・量・投与時刻/飲水量・尿回数/嘔吐・下痢の回数/既往・薬・アレルギー/周囲の流行状況。
- 迷ったら相談:夜間・休日は小児救急電話相談 #8000、平日はかかりつけ小児科へ。息苦しさ・意識低下・紫斑・けいれんなど緊急サインがあれば119。
まとめると、“水分は少量頻回” “解熱剤は必要時のみ” “冷やしすぎず快適な環境” “観察記録で受診をスムーズに”。この4点を丁寧に続けることが、家庭でできる最善の内科的ケアです。

3. 受診すべき目安とその判断ポイント
内科への受診を検討すべきタイミングは以下の通りです。
| 項目 | 目安・理由 |
| 生後3ヶ月未満 | 38度以上の発熱は即受診が必要。感染性疾患が重大化しやすいため。 |
| ぐったり・反応の鈍さ | 中枢神経・重篤感染症の可能性あり。すぐに医療機関へ。 |
| 呼吸困難やチアノーゼ | 呼吸器の深刻なトラブルの可能性。緊急対応が必要です。 |
| 高熱が続く(発熱4日以上) | 細菌性感染や免疫性疾患などの可能性が高く、検査の必要あり。 |
| その他症状(発疹、嘔吐、下痢、激しい腹痛など) | 医師による評価が不可欠です。特に脱水やアレルギー、腸炎などの懸念あり。 |
また、慢性疾患を持つお子さま(心臓・腎臓・免疫の異常など)は、37.5度でもすぐ受診するケースがあります。
4. 症状別の応急対応と注意点
具体的な症状に応じて、以下のような対応が考えられます。
発疹を伴う発熱
- 発疹のタイプを観察:蚊に刺されたような発疹か、斑点状か、紫斑か。
- 内出血のような紫斑+発熱:細菌性疾患(例:髄膜炎、髄膜炎菌感染症)の可能性があるため、即受診。
嘔吐・下痢を伴う発熱
- 脱水の兆候をチェック:口のかわき、皮膚の弾力の低下(つねって戻りにくい)、尿量減少。
- 経口補水液の使用:ミネラルと水分の補給に安全で効果的。ただし、吐き気が強ければ少量ずつこまめに。
強い咳・呼吸器症状を伴う発熱
- 呼吸のリズムと音:ゼーゼー音・ヒューヒュー音・陥没呼吸(肋骨の間が吸気で引っ込む)を見逃さない。
- 保冷や加温:夜間は特に冷気を避け、安静を保つよう配慮。必要に応じて吸入や薬剤使用も検討。
5. 再発予防と日常管理のヒント
予防接種を“家族単位”で完了させる。
ヒブ・肺炎球菌・麻しん風しん・水ぼうそう・インフルエンザなど、スケジュールどおりの接種が基本です。流行期のインフルエンザは毎年の接種を。重症化を防ぐ観点では、同居家族も含めた接種(コクーン予防)が有効です。母子手帳やアプリで接種歴を常に最新化しましょう。
手洗い・咳エチケット・換気を“丁寧に”。
帰宅後・トイレ後・食事前は、石けんで20~30秒の手洗いを徹底(指先・親指・手首まで)。タオルやコップ、歯ブラシの共用は避けます。咳やくしゃみが出る時はマスク、室内は湿度40~60%・こまめな換気でウイルスが広がりにくい環境に。
睡眠・栄養・水分で“基礎体力”を底上げ。
年齢相応の睡眠時間を確保し、朝・昼・夕のリズムを整えます。主食・主菜・副菜+乳製品・果物を意識した“彩りのある食事”を目安に。激しい運動でなくても、日中の外遊びや散歩で体温リズムをつくり、便通や食欲を整えましょう。
園・学校との“登園・登校ルール”を共有。
解熱後24時間以上かつ全身状態が良好、医師の指示に従う──といった園・学校の基準を事前に確認。無理な早期復帰は再燃のもとです。家庭内では患児の寝具やタオルを分け、ドアノブやスイッチなど高頻度接触面を定期清拭すると二次感染予防に役立ちます。
家庭の“備え”を平時に整える。
体温計(予備電池)、経口補水液、使い捨てマスク、ゴミ袋、解熱剤(アセトアミノフェン)の在庫と用量メモ、かかりつけの連絡先、#8000(小児救急電話相談)、夜間救急の受付先をひとまとめに。発熱時の“持ち出しセット”を作っておくと慌てません。
記録して“見える化”。
発熱の開始時刻・最高体温・解熱剤の投与時刻、飲水量/尿回数、嘔吐や下痢の回数を簡単にメモ。予防接種歴と併せて一元管理すると、受診時の説明が的確になり、診断がスムーズです。
「繰り返す発熱」の線引きを知る。
乳幼児は集団生活で年に6~10回程度の発熱は珍しくありません。ただし、毎月40℃台が続く/体重が減る・元気が戻らない/局所症状(関節痛・夜間の強い咳・尿のにおい)を繰り返すなどのパターンがあれば、かかりつけで原因精査を相談しましょう。
日々の小さな習慣(手洗い・睡眠・朝昼晩のリズム)と、家族ぐるみの予防接種・記録の“見える化”。この二本立てが、再発を減らし、いざという時にも落ち着いて動ける土台になります。
6. まとめ
発熱時は体温の数字に一喜一憂せず、まず全身の様子を見ましょう。呼びかけへの反応、呼吸の苦しさ、ぐったり度、水分摂取と尿回数――この4点が最優先です。家庭では、経口補水液を少量ずつ回数を分けて与え、室温は目安24〜26℃に整え、汗をかいたら着替えを。解熱剤は“熱を下げる目的”ではなく“不快感を和らげる目的”で、アセトアミノフェンを用量・間隔厳守で必要時のみ使います。食事は無理せず、ゼリーやアイスなど口にしやすいもので十分です。アルコール清拭、保冷剤の当てっぱなし、医師の指示ない解熱剤の併用・変更は避けてください。
受診の目安は、生後3か月未満で38℃以上、ぐったり・反応低下、息苦しさや顔色の悪さ、高熱が4日以上続く・ぶり返す、紫斑を伴う発疹、強い頭痛や首のこわばり、水分がほとんど飲めない・尿が極端に少ない、初めてのけいれん等です。受診前には、発熱開始時刻と最高体温、解熱剤の名前・量・投与時刻、飲水量・尿回数、嘔吐や下痢の回数、持病・内服薬・アレルギー、家族や園の流行状況をメモすると診療がスムーズです。
夜間・休日で迷うときは小児救急電話相談「#8000」へ、平日はかかりつけに。命の危険を感じたらためらわず119番を。――数字より全身状態を見極めること、水分・安静・適温を丁寧に、解熱剤は必要時のみ、迷ったら相談。この4つを覚えておけば“いざ”に強くなれます。※最終判断は主治医の指示に従ってください。



