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更年期は、女性の人生の中で避けて通れない大きな節目のひとつです。閉経を中心としたホルモンバランスの変化は、身体だけでなく心にも大きな影響を及ぼします。ホットフラッシュ(ほてり)、不眠、気分の落ち込み、イライラなどの症状は、日常生活に支障をきたすほどつらいこともあり、知らず知らずのうちにQOL(生活の質)を低下させる原因となります。
一方で、更年期に起こる変化の仕組みや、適切な治療・セルフケア方法を正しく理解することで、症状を和らげ、穏やかな日常を取り戻すことは十分に可能です。特に現代では、ホルモン補充療法(HRT)や漢方、プラセンタなど多様な選択肢があり、医学的なサポートと生活習慣の工夫を組み合わせることで、自分に合ったケアができる時代になっています。
本記事では、内科医としての視点から「更年期とは何か」という基本的な理解に始まり、ホルモン療法・非ホルモン療法の選び方、症状に応じた評価法、食事・運動・睡眠といったセルフケアの具体例まで、多面的にわかりやすく解説します。さらに、心のケアや相談窓口の活用法、治療開始後の定期的なフォローアップの重要性についても丁寧に触れています。
更年期を「不安な時期」ではなく、「これからの人生を見直す機会」として前向きに捉えられるよう、信頼できる情報をお届けします。本記事が皆さまの健やかな毎日の一助となれば幸いです。
1. 更年期とは何か?ホルモン変化の背景と影響
更年期は一般的に45~55歳前後に訪れる「閉経前後の移行期」であり、卵巣機能の低下によってエストロゲン分泌が減少します。このため、体内では骨密度の低下、血管拡張の乱れ、自律神経の不安定さといった変化が起こり、ホットフラッシュ(ほてり)、不眠、イライラ、不安などの症状が生じます。これらの変化が続くことで生活の質が低下しやすく、早期の理解と支援が大切です。
2. 主な症状と内科視点での評価ポイント
更年期に見られる身体・精神面の主な症状には、以下のようなものがあります。
- 身体症状:ホットフラッシュ、発汗、のぼせ、倦怠感、関節痛、頻尿・尿失禁など
- 精神症状:不眠、不安、気分の落ち込み、集中力低下など
内科医としては、他の疾患(甲状腺機能異常、貧血、うつ症状など)と重なる症状を排除するため、問診・身体診察・必要に応じて血液検査(ホルモン値、甲状腺機能)を行い、的確な診療計画を立てることが求められます。症状の内容と程度を丁寧に聞き取ることで、適切なアプローチが可能になります。
3. ホルモン療法(HRT)の基礎知識と注意点
ホルモン療法(HRT)は、更年期障害の根本的な原因であるエストロゲンの不足を補う治療です。エストロゲン単独またはプロゲステロンと併用することで、以下の効果が期待されます。
- 症状の緩和:ホットフラッシュ、不眠、情動不安定などの改善
- 骨密度の維持:骨粗鬆症の進行抑制
- 自律神経の安定:血管や体温調整機能の改善
ただし、HRTには心血管リスクや乳がんリスクの変化、子宮内膜増殖などの注意点もあり、個人の背景(心臓病、肝疾患、血栓症など)に応じて慎重な判断が必要です。内科医や婦人科医との相談を通じながら、安全な導入と適切なフォローを進めることが重要です。

4. 非ホルモン療法の選択肢:漢方・プラセンタ・薬物など
ホルモン療法が難しい方、あるいは避けたい方に対しては以下のような非ホルモン療法があります。
- 漢方薬:体質や症状により、緩やかに作用しながらほてりなどの症状の緩和に有効な場合があります。
- プラセンタ療法:ヒト胎盤由来の成分によって、自律神経やホルモンバランスの調整サポートが期待され、副作用も比較的少ない選択肢です。
- 薬物療法:抗うつ薬や抗不安薬が、不安や気分の波などに対して効果を示す場合があります。いずれも医師による継続的な評価が必要です。
これらは軽度〜中等度の症状に効果が期待され、体質や治療の志向に応じて柔軟に組み合わせることで、より安心・継続可能なケアが可能です。
5. セルフケアと生活習慣の見直しポイント
更年期を支えるセルフケアには、以下の生活習慣が効果的です。
- 食事の見直し:大豆イソフラボン、マグネシウムを含む納豆・豆腐・ナッツ・緑黄色野菜の積極的な摂取。カフェイン・アルコール・甘いものは症状悪化の可能性があるため控えめに。
- 運動・リラクゼーション:ウォーキングやスイミングなど週150分程度の有酸素運動、ヨガや深呼吸・瞑想による自律神経の安定が効果的です。
- 睡眠環境の整備:就寝前1時間のスマホや電子機器の使用を避け、光・温度・湿度に配慮した寝室設計を心がけてください。薄着での温度調整や白湯、簡単ストレッチも睡眠の質を後押しします。
こうした方法は薬と併用しても有効であり、症状の軽減のみならず、心身の安定や日常の快適さ向上にもつながります。
6. 心のケアと相談支援の活用方法
更年期は精神的にも不安定になりやすく、ストレスや孤立を感じる方も少なくありません。以下の支援を活用することが重要です。
- カウンセリングやピアサポート:心理的負担を軽減し、共感的な支えを得られる場として有効です。
- 市民講座・Web情報の活用:更年期を知るだけで安心感が生まれ、自律的な対応力が高まります。
- 家族やパートナーとの対話:更年期を理解してもらうことで、周囲の理解とサポートが得やすくなります。
7. 定期的なフォローと症状再評価の重要性
治療を始めた後も、定期的な評価とフォローアップが重要です。
- HRTや漢方を使用する場合:3〜6ヶ月ごとに医師による症状の評価や副作用の確認を行います。
- 骨密度・血液検査:1〜2年ごとに行い、骨粗鬆症やホルモン・代謝の変化を確認します。
- 症状の変化やライフステージの移行に応じた調整:ホルモン療法の選択や内容を検討し直すことも必要です。
まとめ
更年期は、単に「年齢による変化」ではなく、心身の両面にわたる深い影響を及ぼす重要なライフイベントです。ホットフラッシュや不眠といった身体的な症状だけでなく、不安感や気分の浮き沈みといった精神的な変化も起こりやすく、それらが日常生活や対人関係に影響を与えることも少なくありません。
しかし、更年期に現れる症状や体の変化は「病気」ではなく、「変化に対する自然な反応」です。そのため、過度に不安になる必要はありません。大切なのは、自分自身の変化を正しく理解し、適切な知識とサポートをもとに、柔軟かつ前向きに対応していくことです。
本記事で紹介したように、更年期に対する対処法は非常に多岐にわたります。ホルモン療法(HRT)をはじめとする医療的アプローチはもちろん、漢方やプラセンタなどの代替療法、日々のセルフケア、心の支援、家族や医療者との対話など、自分に合った選択肢を見つけることが最も大切です。特に内科的視点からの多角的な評価は、症状の重なりや他疾患との見極めにも有効であり、治療方針を立てる上で非常に有意義です。
また、治療やケアを開始した後も、定期的な症状の再評価や検査を通じて、状態の変化に柔軟に対応していく姿勢が求められます。更年期は終わりのある一時的な変化であり、正しく付き合うことでより充実した人生を送ることができます。
ご自身の心と体にしっかりと目を向け、必要なケアを選び、時には医療の力も借りながら、「今の自分」にとって最善の方法を見つけてください。本記事がその道しるべとなり、更年期を安心して乗り越えるための手助けとなれば幸いです。



