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不眠

眠ろうとしても寝つけない――それに加えて「呼吸が止まる」「いびきが大きい」といった無呼吸の兆候を感じる。こうした「不眠」と「無呼吸」が同時に起こる状態は、単なる睡眠の悩みを超えて健康リスクを伴う可能性があります。
本記事では、なぜこれらが同時に起こりうるのか、そのメカニズムを紐解きつつ、日常で始められる改善法や医療的対策、注意点をご案内します。あなたの睡眠の質を取り戻すための指針としてご活用ください。

1. 不眠+無呼吸併存(COMISA)の実態と意味

1‑1 COMISA(コモーリッド不眠+睡眠時無呼吸症候群)とは

不眠症(Insomnia)と閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea:OSA)が併存する状態は、近年「COMISA(Comorbid Insomnia and Sleep Apnea)」と呼ばれ、注目されています。日本語文献でも、この併存率はかなり高いとされており、OSA 患者のおよそ 30% に不眠症状が見られ、不眠症患者の約 30% に OSA を伴うという報告があります。

このようにどちらか一方だけでなく、両者が重なることで、日常生活機能障害生活の質(QOL) への影響は単独の場合より大きくなる可能性が指摘されています。

1‑2 COMISA がよりリスクをもたらす理由

  • 症状の複雑化・重症化:不眠が強く出ると、睡眠構造が不安定になり、無呼吸の中断(覚醒反応)が更に悪影響を及ぼすことがあります。
  • CPAP 適合性低下:不眠症状(特に入眠困難・中途覚醒)が強いと、CPAP 装置の着用継続率(アドヒアランス)が低下するという報告があります。
  • 心血管リスクの増大:COMISA 状態では、心血管疾患の合併率・予後不良リスクが単独の OSA や不眠と比較して有意に高いという研究報告もあります。
  • 治療反応性の違い:どちらか一方に焦点を当てた治療だけでは、もう一方の症状が残存・悪化するリスクがあるため、統合的アプローチが求められます。

以上の点から、単なる「睡眠が浅い」「いびき」「目覚めの悪さ」といった訴えを軽視せず、併存可能性を念頭に置くことが重要です。

2. 原因とメカニズム:どうして両者が重なるのか

以下では、不眠と無呼吸が相互作用する要因・メカニズムを整理します。

2‑1 無呼吸 → 中途覚醒 → 不眠誘発

無呼吸・低呼吸エピソードが終わる際、身体は呼吸を再開するために“覚醒反応” (arousal) を引き起こします。これが中途覚醒や断続的な覚醒を誘発し、睡眠の連続性を破壊します。結果として「目が覚めやすい」「眠りが浅い」「断続的に目覚める」など、不眠症状を引き起こしやすくなります。

たとえば、OSA 患者に CPAP を導入した研究では、不眠症状(特に中途覚醒)は改善したという報告もあります。

2‑2 過覚醒傾向が無呼吸を浮き彫りにする

逆方向の関係もあります。不眠体質・過覚醒性(寝入る前や夜間に過度に脳が覚醒しやすい傾向)があると、わずかな呼吸の揺らぎ(気道抵抗の変動など)でも覚醒してしまい、無呼吸がより顕在化する可能性があります。すなわち、本来は無自覚だった軽度の呼吸抵抗変動も、覚醒傾向が強いと不眠感や中途覚醒を起こすトリガーとなります。

このように “不眠状態 → 睡眠の不安定化 → 呼吸揺らぎへの過敏反応 → 無呼吸発現” という悪循環モデルが指摘されています。

2‑3 構造的・解剖学的要因+神経制御の異常

無呼吸をもたらす因子(肥満、首周囲脂肪、小顎、軟口蓋過長、舌沈下傾向など)と、不眠を助長する神経興奮傾向・覚醒閾値(低い閾値=目覚めやすい傾向)とが重複すると、両者を併発しやすくなります。

また、上気道抵抗症候群(UARS:Upper Airway Resistance Syndrome)という、明確な無呼吸ではないものの、呼吸抵抗増大が睡眠を断片化する状態もあり、これが不眠様症状を併せ持つケースもあります。

2‑4 精神・心理・ストレス因子との関連

  • ストレス・不安・抑うつ:これらは不眠の主要因となるだけでなく、呼吸制御や自律神経の緊張を通じて呼吸揺らぎの反応性を高め、無呼吸発現を促す可能性があります。
  • 薬物使用:鎮静薬・睡眠薬・アルコールなどは咽頭筋弛緩を促し、無呼吸を悪化させ得ます。同時に、不眠改善を目的として投与された薬剤が返って睡眠構造を乱すこともあります。
  • 覚醒-睡眠リズム乱れ:シフト勤務・不規則な生活リズムなどが睡眠構造を不安定化させ、無呼吸への耐性を下げることも考えられます。

これら複数要因が交錯し、「不眠+無呼吸」併存をもたらすわけです。

3. 生活習慣でできる改善法

併存する不眠と無呼吸を和らげるには、生活ベースで取り組める改善が基盤になります。以下は、特に有効性が期待される手法です。

3‑1 体重管理と食生活の見直し

  • 適正体重・脂肪量のコントロール:肥満や首周囲脂肪の過剰蓄積は無呼吸(気道狭窄)を助長するため、減量は基本対策です。
  • 夕食時間の工夫:就寝直前の重い食事や高脂肪・高糖質食は消化・胃食道逆流によって気道への刺激を及ぼす可能性があるため、就寝 2~3 時間前には食事を済ませ、軽めに抑えるのが望ましい。
  • 水分・塩分のバランス:むくみ(特に頸部・顔面むくみ)は気道周囲の浮腫を引き起こしうるので、夕方以降の過度な塩分や水分摂取には注意。

3‑2 規則的な睡眠リズムの確立

  • 就寝時刻・起床時刻をできるだけ毎日同じにする
  • 寝る前のルーティン(読書・瞑想・深呼吸などリラックス行動)を設ける
  • スマホ・強い光の使用を就寝前 1 時間程度前には控える(ブルーライト制御)

これらは不眠改善の基本であり、覚醒傾向を抑制するための神経可塑性改善にもつながります。CBT‑I(認知行動療法による不眠治療)もこの領域で最も支持される方法です。

3‑3 適度な運動・身体活動

  • 毎日または定期的な有酸素運動(ウォーキング、ランニング、サイクリングなど)
  • 筋力トレーニング(体幹・頸部筋肉など含む)
    運動は体重減少効果だけでなく、自律神経調整・循環改善を通じて睡眠・呼吸制御機構へもプラスに働くと考えられます。

3‑4 禁酒・節酒・薬物見直し

  • 就寝前数時間はアルコールを摂らない
  • 睡眠薬・鎮静薬の使用は最小限にし、できれば専門家指導のもと漸減検討
  • タバコは気道粘膜炎症・腫張を促すため禁煙が望ましい

3‑5 寝室環境・姿勢最適化

  • 枕の高さや寝具を調整し、頭部・頸部を適度に挙上する
  • 横向き寝を基本とする(仰向け寝は無呼吸誘発リスクを高める)
  • 寝室温度・湿度・照明・遮音など環境整備(快適な入眠環境づくり)

これらの生活改善は、軽度~中等度の COMISA 症例ではかなり有効なベース戦略となります。

4. 補助療法・器具・訓練法の選択肢

生活改善だけで症状がなかなか改善しない、または無呼吸が中等度~重度である場合には、以下の補助的アプローチを併用することが一般的です。

4‑1 CPAP(持続陽圧呼吸療法)

無呼吸症候群に対する第一選択治療です。気道に陽圧をかけて閉塞を防ぎ、呼吸の中断を抑えます。
COMISA 症例でも、CPAP を導入することで無呼吸由来の中途覚醒が軽減し、不眠症状も改善するケースがあります。

ただし CPAP 利用者は、不眠傾向が強いと装着継続が困難になることもあり、装着適合性・使用快適性を向上させる工夫が不可欠です。

4‑2 口腔内装置(下顎前方保持装置:マウスピース型)

下顎を前方に引き出すことで気道を確保する装置で、軽〜中等度の OSA において比較的扱いやすい治療選択肢です。
装置を使うことで、無呼吸・低呼吸が軽減されれば中途覚醒も抑制され、不眠改善に寄与する可能性があります。

4‑3 補助的呼吸装置・バルブ系デバイス

  • Nasal EPAP(鼻呼気陽圧弁):鼻に貼る小型バルブ型器具で、呼気時に抵抗をかけ、上気道圧力維持を図る方式。軽度~中等度の OSA において効果を示したという報告もあります。
  • 上舌下神経刺激(Hypoglossal Nerve Stimulation, HNS):睡眠中に舌を前方へ動かす刺激を与え、舌沈下を防ぐ植込み型治療。重症例での補助手段として研究が進んでいます。
  • 振動ポジショニング装置・センサー枕:いびき・呼吸異常検出時に軽く振動を与えて体位変換を促す装置も市販されています。

4‑4 マイオファンクショナル療法(口腔咽頭筋トレーニング)

舌・軟口蓋・咽頭筋など上気道支持筋を訓練することで、睡眠中の気道崩壊を抑える手法。唱歌・発声訓練・舌運動などを使う方法があります。
この方法単独では劇的な効果を期待するのは難しいものの、CPAP や口腔装置補助として併用されることが多いです。

4‑5 認知行動療法 for 不眠(CBT‑I)

不眠そのものを改善するための心理行動療法で、睡眠制限療法・刺激制御・認知再構成・リラクセーション技法などを用います。
特に COMISA 症例では、不眠側の要因(入眠不安・夜間覚醒思考など)を制御する CBT‑I が、呼吸障害治療の補完的役割を果たします。

4‑6 薬物療法(慎重に)

不眠が非常に重く、心理的な要因が大きい場合には睡眠薬・抗不安薬などが使われることもあります。ただし、これらの薬剤は筋弛緩作用を持つ場合があり、無呼吸を悪化させるリスクを伴うため、慎重に選択・管理が必要です。
また、最近はオレキシン受容体拮抗薬(睡眠維持を助ける系)など、比較的新しい作用機序の薬剤も使われ始めています。

医者

5. 医療的チェックポイントと治療戦略

重症例や改善が見られない例では、医療的評価と治療戦略が不可欠です。

5‑1 精密検査(睡眠検査・ポリソムノグラフィー)

自宅型簡易検査(在宅終夜呼吸モニタリング)から始め、異常があれば臨床的ポリソムノグラフィー検査を行います。これにより、無呼吸・低呼吸回数(AHI指数)、血中酸素飽和度変動、覚醒回数、睡眠段階などが定量的に評価されます。

この結果をもとに、無呼吸重症度・睡眠構造異常度・覚醒傾向の強さなどを総合的に見て、治療方針を決定します。

5‑2 総合的治療アプローチ(統合治療)

COMISA の場合、単一治療だけで十分な改善が得られにくいため、以下のような統合アプローチが理想とされます:

  1. 呼吸補正優先:CPAP や口腔装置などで無呼吸・低呼吸をまず改善
  2. 不眠制御:CBT‑I や睡眠リズム改善などで不眠要因を抑制
  3. 並行生活改善:体重管理・運動・食事などの基盤を整える
  4. モニタリングと調整:治療適合性を見ながら、圧力設定・装置調整・治療併用などを最適化

5‑3 フォローアップ・モニタリング

  • CPAP や装置の使用率・効果モニタリング(機器ログ・自己報告)
  • 睡眠日誌・覚醒頻度・日中眠気・QOL指標の定期評価
  • 必要に応じて再検査(ポリソムノグラフィー再実施)
  • 合併症(高血圧、心疾患、認知機能変化等)モニタリング

5‑4 手術的治療検討

無呼吸原因として、扁桃肥大・軟口蓋過長・鼻中隔湾曲などの構造異常が明らかな場合は、手術的治療(軟口蓋形成術・鼻中隔矯正術など)が検討されることもあります。ただし手術による効果や合併症リスクを慎重に検討すべきです。

6. 実践ステップと注意点

6‑1 実践ステップ(例)

  1. 現状把握と記録
     ・寝つき時間・中途覚醒回数・早朝覚醒の記録
     ・いびき有無・無呼吸感覚・日中の眠気度の自己評価
  2. 生活習慣見直し
     ・就寝ルーティン・運動・食事時間などを整える
  3. 簡易対策導入
     ・枕・寝姿勢・横向き寝・環境最適化
  4. 補助療法併用
     ・口腔装置・CPAP(軽度~中等度例で試行)
     ・マイオファンクショナル訓練・CBT‑I 導入
  5. 治療適合性・モニタリング
     ・装置使用率・睡眠検査結果の追跡
     ・改善が乏しければ医療受診・再評価

6‑2 注意点・リスク管理

  • 睡眠薬・鎮静薬の使用は必ず専門医と相談し、無呼吸への影響をチェック
  • 補助器具(マウスピース・CPAP など)は、適合性(痛み・違和感・顎関節・歯の動揺など)を継続的にチェック
  • 症状が急激に悪化・突然の重篤な日中眠気・心肺症状などが出た場合は早急に医療機関受診
  • 高齢・心血管疾患・呼吸器疾患などの合併症を持つ場合は、治療方針を慎重に設計

7. まとめ:質の高い睡眠を取り戻す道

不眠と無呼吸が同時に起こる「COMISA(併存不眠+睡眠時無呼吸)」は、相互に悪影響を及ぼしあう複雑な睡眠障害です。両者を分離して扱うのではなく、呼吸補正 + 不眠制御 + 生活ベースの改善 を統合的に行うアプローチがより効果を発揮します。