生理前の1週間だけ、自分が自分でなくなる。そんな感覚に心当たりはありませんか。

些細な一言で涙が止まらない。家族に強く当たってしまい、後から自己嫌悪に沈む。生理が始まった途端、その嵐が嘘のように引いていく。この落差に苦しむ方は少なくありません。

それはPMDD(月経前不快気分障害)かもしれません。PMDDは気のせいでも甘えでもなく、DSM-5という国際的な診断基準に正式に収載された精神疾患です。当院にも「婦人科でPMSと言われたが、気分の落ち込みだけが治らない」という相談が届きます。

この記事では、心療内科の視点からPMDDを解説します。PMSとの違い、うつ病との見分け方、そして受診先の選び方まで整理しました。

この記事でわかること

  • PMDDとPMSは何が違うのか(分かれ目は「気分症状の重さ」と「生活への支障」)
  • PMDDとうつ病・適応障害を見分ける最大の手がかりは「周期性」
  • 診断には2周期以上の症状日記が要る理由と、その具体的なつけ方
  • 婦人科と心療内科、自分はどちらに行けばいいのか

気分症状が主体で、生活に支障が出ている。婦人科で相談しても気持ちの波が改善しない。そんなときは心療内科が力になれます。ヒロクリニック心療内科(川口院・池袋駅前院)では、周期性のある気分症状のご相談も承っています。

お電話は048-430-7000、公式LINEからもご相談いただけます。

PMDD(月経前不快気分障害)とは

PMDDとは、月経前に強い気分の不調が繰り返し現れ、生活に支障が出る精神疾患です。英語ではpremenstrual dysphoric disorderと表記します。

窓辺に座る女性と、月ごとの気分の波を示す円環のイメージ
PMDDの不調は月経周期に沿って現れ、月経が始まると引いていきます

日本産科婦人科学会は、月経前症候群(PMS)の解説でこう述べています。「日本人女性の70〜80%が月経前に何らかの不調を自覚」し、「5%は重い月経前症候群で日常生活に困難を感じています」。月経前に何かしら不調が出ること自体は、むしろ多数派。

その中で、心の症状が際立って重く、生活が立ち行かなくなる状態がPMDDです。症状は月経の3〜10日ほど前から現れ、月経開始とともに軽くなっていきます。

PMDDが精神疾患として扱われる理由

PMDDは、米国精神医学会の診断基準であるDSM-5に、抑うつ障害群の一つとして収載されています。つまりPMDDは、心療内科・精神科が正面から扱う疾患です。

「生理前だから仕方ない」と片づけられてきた不調に、診断名と治療の道筋がある。私が診療で最初にお伝えするのは、この一点です。

PMDDとPMSの違い

PMDDとPMSを分ける境目は、気分症状の重さと、生活が壊れるほどの支障があるかどうかです。両者は別物ではなく、地続きの関係にあります。

PMSは身体症状も含めた幅広い不調の総称です。むくみ、乳房の張り、頭痛、だるさ。これらが中心なら、多くはPMSの範囲に収まります。

比較項目PMS(月経前症候群)PMDD(月経前不快気分障害)
位置づけ症状の総称。診断基準は緩やかDSM-5に収載された精神疾患
症状の中心身体症状+軽い気分の変化強い気分症状(怒り・抑うつ・不安・情緒不安定)
必要な症状数定めなし合計5つ以上、うち中核症状1つ以上
生活への支障あっても限定的仕事・学業・人間関係が続けられないほど
診断の確定問診が中心2周期以上の前向きな毎日の記録が必須
主な相談先婦人科心療内科・精神科(婦人科と連携)

表の最下段が、この記事でいちばんお伝えしたい点です。身体症状が主体ならまず婦人科、気分症状で生活が壊れているなら心療内科。この振り分けが、遠回りを減らします。

PMDDの症状

PMDDの症状は、DSM-5で「中核症状」と「その他の症状」の2段構えに定められています。中核症状が1つもなければ、PMDDとは診断されません。

中核となる4つの気分症状(1つ以上が必須)

次の4つは、PMDDの中心にある症状です。いずれか1つ以上が当てはまることが条件になります。

  • 著しい情緒不安定(急に悲しくなる、涙もろくなる、拒絶に過敏になる)
  • 著しいいらだち、怒り、対人関係の摩擦の増加
  • 著しい抑うつ気分、絶望感、自分を責める考え
  • 著しい不安、緊張、張り詰めた感じ

1つ目の「拒絶に過敏になる」は、外から見えにくい症状です。普段なら流せる一言が、刃物のように刺さる。診察室でも、この感覚を言葉にできず戸惑う方が多いと感じています。

Xにも同じ実感がありました。生理前は「些細な出来事や言葉で傷ついたりもしてしまう」と綴る方がいます(@non47659489)。当事者の言葉と診断基準は、きれいに重なります。

あわせて数える7つの症状

中核症状に加え、次の症状と合わせて合計5つ以上あることがPMDDの条件です。身体症状もここに含まれます。

領域症状
意欲普段の活動への興味の低下
認知集中しづらさ
気力倦怠感、疲れやすさ、著しい気力の低下
食欲食欲の変化、過食、特定の食べ物への渇望
睡眠過眠または不眠
コントロール感圧倒される感じ、抑えが効かない感じ
身体乳房の張りや痛み、関節痛・筋肉痛、膨満感、体重増加

食欲と睡眠の乱れは、PMDDに限った症状ではありません。生理前と関係なく食欲が止まらないなら食欲の増加・減少をコントロールする方法をご覧ください。眠れない状態が続くなら眠れないが続く原因とリスク・治療法が参考になります。

PMDDになりやすい人の特徴

PMDDは、ホルモンの量が異常な人に起きるわけではありません。ホルモンの変動に対する脳の感受性が高い場合に起こると考えられています

排卵後の黄体期には、エストロゲンとプロゲステロンが大きく変動します。この揺れがセロトニンなどの神経伝達物質の働きに影響し、気分の調節が効きにくくなる。ホルモン値そのものは正常な方がほとんどです。

そのうえで、次のような背景を持つ方は症状が強く出やすいと報告されています。

  • 気分障害や不安症の既往がある、または家族歴がある
  • 強いストレス下にある、あるいは過去にトラウマ体験がある
  • 睡眠が慢性的に不足している
  • 喫煙習慣がある

注意していただきたいのは、これらが「本人の性格の問題」ではないという点です。真面目だから、几帳面だからPMDDになる、という単純な話ではありません。PMDDは体質と環境が重なって起こるもので、努力不足の結果ではありません

PMDDとうつ病・適応障害の見分け方

PMDDとうつ病を見分ける最大の手がかりは「周期性」です。症状が月経周期に沿って現れ、月経開始後の数日でほぼ消える。ここが心療内科の腕の見せどころになります。

周期的に上下して元に戻る波形と、低いまま回復しない波形を並べた比較図
PMDDは波が引く時期がある一方、うつ病は低い状態が続きます

PMDDには、症状がほぼ消える「フラットな期間」が必ずあります。うつ病では、そうした回復期が月単位で訪れません。適応障害なら、原因となるストレス状況との結びつきが前面に出ます。

見分ける軸PMDDうつ病適応障害
症状の時期月経前に限られる時期を問わず続くストレス状況が続く間
回復する時期月経開始後〜排卵前は軽快明確な軽快期に乏しい原因から離れると軽快
引き金ホルモンの変動特定しにくいことが多いはっきりしたストレス因
確認の方法2周期以上の症状日記問診と経過観察ストレス因との時間的関係

「生理中も続く」なら、PMDD以外を疑います

生理が始まっても、終わってもつらさが続くなら、それはPMDDではない可能性が高いと考えます。DSM-5でも、他の精神疾患が月経前に悪化しただけの状態はPMDDに含めないと定めています。

実際、うつ病や不安症が月経前に増悪する現象はよく知られています。この場合に必要なのは、PMDDの治療ではなく、もともとの病気の治療です。

混同は当事者の側でも起きています。「適応障害もあっただろうけどPMDDに近いPMSだったのかもしれない」と振り返る投稿(@Skan_na_duki)。「元々はPMDDだったんだと思うけど、うつ病の診断受けて」と迷う声(@FiEgxy761035)。自己判断が難しい領域だと、あらためて感じます。

PMDD以外に隠れていることがある病気

すべての不調をPMDDに帰着させるのは危険です。次の疾患は症状が似ており、血液検査などで確認します。

  • 甲状腺機能の異常(だるさ、気分の変動、体重の変化)
  • 鉄欠乏性貧血(疲れやすさ、集中しづらさ、いらだち)
  • 更年期障害(40代以降で症状が周期と無関係に続く場合)
  • 双極性障害(気分の高揚を伴う時期がある場合)

40代以降で気分の波が周期と無関係に長引くなら、更年期の関与も検討します。詳しくは更年期障害の症状と原因・治療法の男女差をご覧ください。

PMDDの診断に欠かせない「症状日記」

PMDDの診断を確定させるには、2周期以上にわたって毎日、前向きに症状を記録することが必須です。DSM-5がそう定めており、記録がない段階では「暫定的な診断」に留まります。

ノートと月間カレンダーに毎日の症状の強さを点や丸で記録している様子
毎日その日のうちに記録することが、診断の精度を左右します

なぜ「後から思い出す」ではいけないのか

記憶は、つらかった時期を強調する方向に歪みます。後から振り返って書くと、症状の程度も時期も実際とずれてしまう。だから「前向きに(その日のうちに)」記録する必要があります。

日本産科婦人科学会も、日々の症状を症状日誌に記録し、月経周期と関連するかを確認すると説明しています。婦人科と精神科で共通する、診断の土台。

症状日記のつけ方

難しく考える必要はありません。私が患者さんにお願いしているのは、次の4つだけです。

1. 月経の開始日と終了日を記す

周期との対応を見るための基準になります。ここが抜けると記録の価値が半減します。

2. つらい症状を3つまで選んで固定する

全症状を追うと続きません。「いらだち」「涙もろさ」「だるさ」のように、自分の主症状を絞ってください。

3. 毎日0〜3の4段階で強さをつける

0はなし、3は生活に支障が出るレベル。数字にすると、波の形が一目で見えます。

4. 生活への支障を一言添える

「仕事を休んだ」「家族に当たった」など事実だけで構いません。DSM-5の診断では、この支障の有無が決め手になります。

アプリでも紙でも構いません。厚生労働省研究班による月経前症候群(PMS)/月経前不快気分障害(PMDD)チェックも使えます。記録を始める前の目安として便利です。ただし、これは診断ではありません。

婦人科と心療内科、どちらを受診すべきか

結論として、身体症状が主体なら婦人科、気分症状で生活が壊れているなら心療内科が適しています。どちらか一方が正解というより、症状の重心で決まります。

あなたの状況まず向かう先理由
むくみ・乳房の張り・頭痛が中心婦人科排卵を抑える治療が第一選択になりやすい
避妊も同時に考えている婦人科月経周期そのものへの介入を扱う
怒り・抑うつ・涙が止まらないが中心心療内科・精神科気分症状の評価と鑑別が専門
婦人科で相談したが気分の波が残る心療内科・精神科PMDDや併存する気分障害の可能性を評価
死にたい気持ちが出る心療内科・精神科(早めに)安全の確保が最優先
うつ病などで通院中に悪化する今の主治医既存疾患の月経前増悪の可能性

迷ったら、どちらでも構いません。大切なのは、症状日記を持って受診すること。記録があれば、どちらの科でも判断が早く進み、必要なら適切な科へつないでもらえます。

受診をためらう気持ちも自然なものです。ある投稿が印象に残りました。婦人科医から「これまでよく頑張ってきたねぇ」と言われて安堵した、という声(@red_salmon_girl)。長く一人で抱えてきた方ほど、認めてもらえた瞬間の意味は大きいのだと思います。

心療内科に行くべきか迷う場合は、心療内科に相談すべきサインもご覧ください。

PMDDの治療で心療内科ができること

心療内科の役割は、薬を出すことではありません。「本当にPMDDなのか」を見極め、治療の方向を定めることにあります。ここでは全体像だけを示します。

治療は大きく3つの層に分かれます。多くの場合、下の層から順に検討していきます。

セルフケアと生活の調整

睡眠の確保、有酸素運動、カフェインとアルコールの調整。症状が軽い段階では、ここだけで波が小さくなる方もいます。

ただし、サプリメントや「PMSに効く食べ物」に確実な効果を期待しないでください。カルシウムやビタミンB6などは研究がありますが、根拠の強さは限定的です。試すこと自体は妨げませんが、これで治ると考えて受診が遅れる状況は避けたいところです。

心理的アプローチ

症状の周期を知り、負荷の高い予定を黄体期からずらす。認知行動療法的な工夫も選択肢になります。「今は波の時期だ」と自覚できるだけで、対人関係の摩擦は減らせます。

薬物療法

気分症状が強い場合、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が用いられます。身体症状や周期そのものへの介入が必要な場合は、婦人科で排卵を抑える治療が検討されます。

ここで具体的な薬剤名や飲み方には触れません。どの薬をどう使うかは、診察のうえで医師が個別に判断します。自己判断での市販薬の常用や、他人に処方された薬の使用は避けてください。

仕事に行けないほどつらいときの選択肢

月に数日、どうしても働けない。その状態が続くなら、我慢ではなく制度で対処する段階です。

PMDDは「生活・仕事・人間関係に著しい支障が出ること」が診断要件に含まれます。裏を返せば、仕事に行けないほどのつらさは、それ自体が受診すべき根拠だということ。

診察の結果しかるべき状態と判断されれば、診断書の発行も可能です。休職や勤務調整を検討する際の手続きは、診断書は必要?発行の流れとよくある質問にまとめています。

Xでも消耗の実感が語られていました。「フラットな日が月に一週間くらいしかないのでは」という声(@L_h_mai)。「自分の情緒の高低差がすごすぎて自分でも着いて行けなくて疲れる」という声(@kitagami_hj)。月の半分近くを消耗して過ごすなら、それは十分に医療の対象です。

つらさが限界のときの相談窓口

PMDDでは、月経前に「消えてしまいたい」という考えが浮かぶことがあります。その気持ちが出たときは、一人で抱えずに窓口へつながってください。

波が引けば嘘のように楽になる、と分かっていても、渦中では判断が難しくなります。まずは無料のいのちの電話(フリーダイヤル)0120-783-556にご連絡ください

窓口電話番号備考
いのちの電話(フリーダイヤル)0120-783-556無料。まずはこちらへ
#いのちSOS0120-061-338無料
よりそいホットライン0120-279-338無料
こころの健康相談統一ダイヤル0570-064-556お住まいの自治体の窓口につながります
いのちの電話(ナビダイヤル)0570-783-556有料

窓口の一覧と最新情報は、厚生労働省のまもろうよ こころで確認できます。SNSやチャットでの相談窓口も案内されています。

よくある質問

診察室でよくいただく質問をまとめました。

Q. PMDDは何科を受診すればいいですか?

A. 怒りや抑うつなど気分の症状が中心なら心療内科・精神科です。むくみや乳房の張りなど身体症状が中心なら婦人科が適しています。婦人科で相談しても気分の波が残るなら、心療内科へお越しください。どちらの場合も、症状日記を持参すると判断が早く進みます。

Q. PMSとPMDDの違いを一言で教えてください。

A. PMSは月経前の不調全般を指す総称です。PMDDはそのうち気分症状が際立って重く、生活に著しい支障が出る状態を指します。PMDDはDSM-5に収載された精神疾患。診断には合計5つ以上の症状と、2周期以上の記録が必要です。

Q. 生理が始まってもつらさが続きます。これもPMDDですか?

A. PMDDの可能性は低いと考えられます。PMDDは月経開始後の数日で軽快し、月経後にはほぼ消えるのが特徴です。生理中も生理後も続く場合は、別の病気も考えられます。うつ病や不安症の月経前増悪、甲状腺の異常、貧血など。受診して確認してください。

Q. 診断にはどのくらい時間がかかりますか?

A. DSM-5では2周期以上の前向きな記録が求められるため、確定までに最短で2か月ほどかかります。ただし記録を待つ間も、つらさへの対処や他の病気の除外は進められます。受診を先延ばしにする必要はありません。

Q. PMDDは自分の性格や我慢が足りないせいですか?

A. 違います。PMDDはホルモンの変動に対する脳の感受性が関係すると考えられています。性格や努力の問題ではありません。ホルモンの数値自体は正常な方がほとんどです。DSM-5に収載された疾患であり、治療の対象になります。

Q. サプリメントでPMDDは治りますか?

A. サプリメントだけで治るとは言えません。カルシウムやビタミンB6などの研究はありますが、根拠の強さは限定的です。試すこと自体は問題ありませんが、効果が乏しいまま受診が遅れる状況は避けてください。

Q. 家族やパートナーに、どう説明すればいいですか?

A. 症状日記を見せる方法が有効です。「月経前だけ症状が出て、月経が来ると治まる」という波を可視化する。性格の問題ではないと伝わりやすくなります。受診に同席してもらう方法もあります。

ご自身の状態が当てはまるか気になった方は、一度ご相談ください。気分症状が主体の場合や、婦人科で相談しても改善しない場合に、心療内科がお役に立てます。

お電話は048-430-7000、公式LINEでもご予約いただけます。

まとめ

PMDD(月経前不快気分障害)は、DSM-5に収載された精神疾患です。月経前の1〜2週間だけ強い気分症状が現れ、月経が始まると引いていく。この周期性が最大の特徴になります。

PMSとの分かれ目は、気分症状の重さと生活への支障です。そして診断には、2周期以上の症状日記が欠かせません。記録は、あなたのつらさを可視化する最も強い武器。

身体症状が中心なら婦人科、気分症状で生活が壊れているなら心療内科。生理中も生理後もつらさが続くなら、PMDD以外の病気も検討します。

今日からできることは1つだけです。今日の症状の強さを0〜3で書き留めてください。それが2周期分たまった頃、あなたの不調には名前がつきます。

「生理前だから」と我慢してきた時間は、もう十分に長かったはずです。


【監修】ヒロクリニック心療内科(川口院・池袋駅前院)/運営統括: 岡 博史(医師・医学博士)

【参考文献】

医師監修 監修日:2022年9月1日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。