眠れない夜が続き、そろそろ病院に行こうかと迷っている。けれど、行ったところで何をされるのか分からない。そう感じて受診をためらう方は、とても多いです。

実は不眠症の治療は、2026年6月に大きく変わりました。不眠症の認知行動療法(CBT-I)が保険適用になったからです。

この記事では、医療機関で実際に何が行われるのかを、診療する側の視点からお伝えします。薬を飲むかどうかを決める前に、知っておいてほしい話です。

この記事でわかること

  • 2026年6月から不眠症の治療がどう変わったか(認知行動療法の保険適用と治療用アプリ)
  • 初診で何を聞かれ、その日に何が起きるのか
  • 治療にかかる期間と費用の目安
  • 不眠症の治療を受ける病院・クリニックの選び方

川口院・池袋駅前院では、眠れない状態が続く方の相談を受け付けています。まずは今の眠りの状態を整理するところから始めてください。

お電話は 048-430-7000、公式LINEからもご相談いただけます。

不眠症の治療は「薬で眠らせること」ではありません

不眠症の治療が目指すのは、薬がなくても眠れる状態に戻すことです。

受診をためらう方の多くは、病院に行けば睡眠薬を出されて終わり、と思っています。けれど実際の診療は、そこから始まるものではありません。まず眠れない理由を切り分け、そのうえで手段を選びます。

不眠症の治療は、大きく4つの柱で組み立てます。どれか1つを選ぶのではなく、組み合わせて使うのが実際のところです。

治療の柱内容位置づけ
睡眠衛生指導起床時刻・光・カフェイン・寝床での過ごし方を整えるほぼ全員に行う土台
認知行動療法(CBT-I)眠りを妨げている行動と考え方を組み替える2026年6月から保険適用
薬物療法睡眠薬で症状を抑えながら生活を立て直す入口として使い、減薬まで計画する
併存する病気の治療うつ病・不安障害・睡眠時無呼吸などへの対応見落とすと不眠が治らない

私たちが外来で強く感じることがあります。「眠れないこと」より、「このまま一生眠れないのでは」という不安のほうが人を消耗させます。だからこそ、最初に治療の全体像と出口をお示しします。

精神科医の@aoiumimental氏も、同じ趣旨を述べています。不眠症治療のゴールは、薬なしで良質な睡眠が得られるようになること。「薬がないと眠れない」と言うようになることではない、という指摘です。

2026年6月、不眠症の治療は大きく変わりました

2026年6月1日から、不眠症に対する認知行動療法が健康保険で受けられるようになりました。

これは不眠症の治療にとって、かなり大きな転換点です。それまで日本では、対面の認知行動療法は保険診療の対象外でした。効果が確かめられている治療なのに、費用の壁があったわけです。

認知行動療法(CBT-I)が保険適用に

令和8年度の診療報酬改定で、「認知療法・認知行動療法」の対象疾患に不眠症が加わりました。内容は次のとおりです。

項目内容
適用開始2026年(令和8年)6月1日
対象となる方うつ病または不安障害が合併した不眠症の方/2種類以上の睡眠薬を使っても効果が不十分と医師が判断した不眠症の方
回数の上限一連の治療につき8回まで(他の疾患は16回まで)
1回の時間30分を超えて行われた場合に算定
費用(保険点数)医師が行う場合480点/医師と看護師が共同で行う場合350点/公認心理師が心理支援を行う場合330点

出典は厚生労働省の医科診療報酬点数表(別添1)です。I003-2「認知療法・認知行動療法」の項に記載があります。令和8年度診療報酬改定の関係法令も公開されています。

注意したいのは、誰でも保険で受けられるわけではないという点です。対象は、うつ病や不安障害を合併している方か、睡眠薬2種類以上でも効果が不十分な方に限られます。つまり、こじれた段階の不眠が想定されています。

社会保険労務士の@sr_nishiyama氏も、この改定に触れています。令和8年6月から不眠症が対象疾患に加わった点。そして、公認心理師が心理支援を担えるようになった点です。

治療用アプリも保険収載されました

同じ2026年6月、認知行動療法を届けるスマートフォンアプリも保険で使えるようになりました。

中央社会保険医療協議会は2026年5月13日の総会で、不眠障害用アプリの保険収載を了承しました。価格は2万4100円です(第650回中医協総会 議事録)。不眠の治療領域では、日本で初めて保険が使えるプログラム医療機器。

このアプリは、日本睡眠学会などがまとめた適正使用指針にもとづいて使われます。7日間の睡眠衛生指導と睡眠表の記録から始め、その後8週間の認知行動療法に取り組む設計です。

2つの入口は、正反対の人を向いています

同じ認知行動療法なのに、保険で受ける入口が2つあり、対象が食い違っています。

ここは分かりにくいところなので、整理しておきます。適正使用指針では、アプリは軽症から中等症の方が対象です。一方で、2種類以上の睡眠薬を飲んでいる方や、精神疾患のある方は対象外とされています。

対面の認知行動療法(保険算定)治療用アプリ
主な対象うつ病・不安障害を合併/睡眠薬2種類以上でも効果不十分不眠症の診断があり、軽症〜中等症
こんな方は対象外重症の方/睡眠薬を2種類以上服用中/精神疾患のある方/交代勤務・夜勤に従事している方
イメージこじれた段階比較的早い段階

要するに、薬が効かずに困っている方は対面、まだ薬に頼りきっていない方はアプリ、という住み分けです。どちらも医師の診察を経なければ始まりません。自分でアプリを買って使うものではない、という点は押さえておいてください。

なお、アプリを扱うには医師が所定の研修を修了している必要があります。対面の認知行動療法も、施設基準の届出をした医療機関でなければ保険では行えません。受けたい治療がある場合は、事前にその医療機関へ確認してください。

不眠症で受診すると、初診で何が起きるのか

初診は、眠れない理由を切り分けるための時間です。

いきなり薬の話になることは、あまりありません。眠れないという訴えの裏には、いくつもの異なる原因が隠れているためです。そこを見誤ると、薬を足しても改善しません。

初診で聞かれること

私が初診でまず確認するのは、眠れない「型」と、生活のリズムです。だいたい次のようなことをうかがいます。

  • 寝つけないのか、途中で目が覚めるのか、朝早く目覚めてしまうのか
  • 何時に寝床に入り、何時に起きているか(休日を含めて)
  • 日中の眠気や、仕事・家事への支障の程度
  • いつから続いているか、きっかけに心当たりはあるか
  • カフェイン・アルコール・喫煙の習慣
  • いま飲んでいる薬・市販薬・サプリメント
  • 気分の落ち込みや不安、いびきや脚のむずむず感の有無

最後の項目を意外に思われるかもしれません。けれど背景に別の病気が隠れていることがあります。睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、うつ病など。そのとき睡眠薬だけを出すのは、かえって遠回りです。

睡眠日誌をお願いすることがあります

記憶だけを頼りにすると、眠れた時間はほぼ確実に短く見積もられます

そこで2週間ほど、就床・起床の時刻を書き留めていただくことがあります。この記録が、その後の治療方針を決める土台になります。認知行動療法を行う場合には欠かせない材料です。

@aoiumimental氏は、初診での指導内容が予後を分けると指摘しています。早朝の定刻起床を指導するかどうかで、治療成果が大きく変わるという趣旨です。私たちも起床時刻を一定に保つことを治療の出発点に置いています。眠る時刻より、起きる時刻。

毎朝決まった時刻に起きることを表す目覚まし時計

自分の不眠がどの型か気になる方は、不眠症のセルフチェックをご覧ください。受診前に整理しておくと、初診での話が早く進みます。どの診療科にかかるか迷う場合は、不眠症は何科を受診すべきかが参考になります。

薬物療法は入口であって、ゴールではありません

睡眠薬は治療の一部であり、やめ方まで含めて計画するものです。

「一度飲んだら一生やめられないのでは」という不安は、外来で本当によく耳にします。この心配は、かつての睡眠薬の事情を思えば自然なものです。ただ、選べる薬の種類は以前とかなり変わりました。

種類はたらき方近年の位置づけ
オレキシン受容体拮抗薬覚醒を保つ物質のはたらきを弱め、眠りへ移りやすくする国内で3種類が使えるようになり、選択肢の中心になりつつある
メラトニン受容体作動薬体内時計に関わる仕組みにはたらきかける作用は穏やか。リズムの乱れに用いられる
ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系脳のはたらきを抑えて眠りを促す依存やふらつきへの懸念から、漫然と続けない方向へ

かつては最後の行にある薬が主役でした。いまは必要最小限にとどめる考え方が一般的です。依存性やふらつき、日中への持ち越しを避けるためです。

オレキシン受容体拮抗薬は2014年に国内初の薬が登場しました。その後2020年、2024年と種類が増え、いまは3種類が使えます。

どの薬をどう使うかは、必ず医師が診察のうえで判断します。この記事では具体的な量や飲み方は書きません。同じ「眠れない」でも、型や併存する病気によって選ぶ薬は変わるためです。

薬の種類ごとの特徴や副作用をもう少し詳しく知りたい方は、不眠症の薬と副作用の解説をご覧ください。

認知行動療法(CBT-I)では実際に何をするのか

CBT-Iは、眠りを妨げている行動と考え方を組み替えていく治療です。

カウンセリングで悩みを聴くだけの時間、と思われがちですが、中身はかなり実務的です。記録をつけ、寝床にいる時間を調整し、結果を毎週見直す。その繰り返しで進みます。

構成要素何をするか
睡眠衛生指導光・カフェイン・運動・寝室環境など、眠りを妨げる条件を整理する
睡眠表(睡眠日誌)就床・起床・眠れた時間を記録し、実態を可視化する
睡眠時間制限療法寝床で過ごす時間をあえて短く設定し、眠りの密度を上げる
刺激制御療法寝床を「眠る場所」として結びつけ直す
認知療法眠りへの過剰な不安や思い込みを現実的なものに調整する

ここで正確にお伝えしておきたいことがあります。睡眠時間制限療法で短くするのは、寝床で過ごす時間であって、睡眠時間そのものではありません。この2つを取り違えると、ただ睡眠不足になるだけです。

負担がないわけではありません

認知行動療法は「副作用がない治療」と紹介されることがありますが、正確ではありません

特に睡眠時間制限療法では、取り組み始めた時期に日中の眠気が強まり、注意力が落ちることが知られています。アプリの適正使用指針でも、夜間に起き出したときの転倒リスクに触れられています。

そのため、車の運転や危険を伴う作業がある方は、開始の時期や進め方を医師と相談してください。数週間で楽になることが多い一方、最初の山は確かにあります。そこを一人で越えずに済むことが、通院して行う意味です。

なお、通院せずにまず自分で試せることを知りたい方は、不眠症の治し方(セルフケアの手順)にまとめています。この記事は、それでも改善しなかった場合に医療機関で何が起きるかを扱っています。

治療にかかる期間と費用の目安

認知行動療法は8回前後を1つの区切りとし、費用は3割負担で1回あたり約1,440円が目安です。

先が見えないことは、それ自体が不眠を悪化させます。おおよその見通しを持っておいてください。

項目目安
認知行動療法(医師が行う場合)480点=4,800円。3割負担で1回約1,440円
回数の上限不眠症では一連の治療につき8回まで
8回受けた場合3割負担で合計約11,520円
治療用アプリ2万4100円。3割負担で約7,230円
アプリのプログラム期間睡眠衛生指導7日間+認知行動療法8週間

上の金額には、初診料や再診料、通院精神療法などの費用は含まれていません。実際の負担額は医療機関によって異なりますので、窓口で確認してください。薬物療法だけで進める場合は、これとは別の組み立てになります。

期間の感覚としては、認知行動療法は数週間から数か月。睡眠薬を使う場合も、眠れる状態が続いたら減らし方を相談していく流れです。いずれにせよ、一度きりの受診で終わる治療ではありません。

川口院・池袋駅前院では、眠れない状態が続く方の診察を行っています。治療方針や費用の見通しについても、診察のなかでご説明します。

お電話でのご相談は 048-430-7000 へ。公式LINEでも受け付けています。

不眠症の治療を受ける病院・クリニックの選び方

認知行動療法を保険で受けたいなら、施設基準の届出をしている医療機関かどうかを先に確認してください。

不眠症を診る医療機関は数多くあります。ただ、受けたい治療が受けられるかどうかは、看板だけでは分かりません。確認しておきたい点を挙げます。

  • 認知行動療法の施設基準を届け出ているか(保険で受けたい場合は必須)
  • 睡眠日誌など、記録にもとづいて方針を決めてくれるか
  • 薬を出すときに、減らし方・やめ方まで説明があるか
  • いびきや気分の落ち込みなど、背景の病気にも目を向けてくれるか
  • 8回前後、無理なく通い続けられる場所か

最後の項目は、地味ですが効きます。認知行動療法は毎週のように通うことが前提です。通いにくい場所を選ぶと、それだけで途中で切れてしまいます。

口コミや評価も参考にはなります。ただ、眠りの型も併存する病気も人それぞれで、他の方に合った治療が自分に合うとは限りません。評判より、上の5点を確認するほうが確実です。

何科にかかるべきかで迷っている段階の方は、不眠症は何科を受診すべきかで整理してください。眠れない状態を放置したときに何が起きるかは、睡眠障害を放置するリスクにまとめています。

なお、厚生労働省も睡眠対策のページで「健康づくりのための睡眠ガイド」を公開しています。受診前の基礎知識として目を通しておくと、診察での話が通じやすくなります。

よくある質問

外来で実際によくいただく質問をまとめました。

Q. 不眠症の治療は、どのくらいで効果が出ますか?

A. 薬物療法は服用したその晩から変化を感じることがあります。認知行動療法は数週間かけて効いてくる治療で、不眠症では8回までを一連の区切りとします。最初の数週間は日中の眠気が強まることもあるため、途中でやめずに医師と経過を共有してください。

Q. 不眠症の認知行動療法は、誰でも保険で受けられますか?

A. いいえ。2026年6月1日から保険適用になりました。ただし対象は限られます。うつ病または不安障害が合併した不眠症の方。あるいは2種類以上の睡眠薬を使っても効果が不十分と医師が判断した方です。また、施設基準の届出をしている医療機関で受ける必要があります。

Q. 睡眠薬を飲み始めたら、一生やめられなくなりませんか?

A. やめ方まで含めて計画するのが本来の使い方です。近年はオレキシン受容体拮抗薬など、依存の懸念が比較的小さいとされる薬も選べるようになりました。眠れる状態が続けば減らし方を相談していきます。自己判断で急にやめると眠れなさが強まることがあるため、必ず医師にご相談ください。

Q. 不眠症の治療用アプリは、自分でダウンロードして使えますか?

A. 使えません。医師の診察を経て使うプログラム医療機器です。2026年6月に保険収載され、価格は2万4100円。3割負担なら約7,230円が目安です。対象は軽症から中等症の方です。睡眠薬を2種類以上飲んでいる方、精神疾患のある方は対象外です。交代勤務・夜勤に従事している方も対象外とされています。

Q. 不眠症は何科を受診すればよいですか?

A. 心療内科・精神科が中心になります。いびきや日中の強い眠気が目立つ場合は、睡眠時無呼吸症候群を扱う診療科が適していることもあります。詳しくは「不眠症は何科を受診すべきか」の記事をご覧ください。

Q. 治療にはどのくらいの費用がかかりますか?

A. 認知行動療法を医師が行う場合は1回480点、3割負担で約1,440円が目安です。8回で合計約11,520円になります。これとは別に初診料や再診料などがかかり、実際の負担額は医療機関によって異なります。窓口でご確認ください。

まとめ

不眠症の治療は、2026年6月を境に選べる手が増えました。

要点を整理します。

  • 不眠症の治療の目的は、薬なしで眠れる状態に戻すこと
  • 2026年6月1日から、不眠症に対する認知行動療法が保険適用に(8回まで・対象者に条件あり)
  • 同月、認知行動療法を届ける治療用アプリも保険収載(2万4100円)
  • 初診は薬を決める場ではなく、眠れない理由を切り分ける場
  • 病院選びでは、施設基準の届出と通い続けられるかを確認する

眠れない状態が3か月以上続いているなら、それは気合いで越える段階を過ぎています。治療の選択肢は、以前より確実に広がりました。まずは今の眠りを言葉にするところから、始めてみてください。

川口駅から徒歩3分の川口院と、池袋駅前院で診察を行っています。ご予約はWEB、お電話(048-430-7000)、公式LINEから承ります。

医師監修 監修日:2025年8月28日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。