疼痛(とうつう)とは痛みのことで、火傷などの急性疼痛と長期間続く慢性疼痛とがあります。慢性疼痛には侵害受容性・神経障害性・心因性の原因が混在し、仕事や日常生活に大きな影響を与えるでしょう。この記事では慢性疼痛の原因や治療法を医師が解説します。

疼痛とは

疼痛(とうつう)とは痛みのことを指します。痛みとはヒトの身体に備わった健康と生命を守るための危険信号といえるでしょう。そのため、疼痛は病院の受診理由として最も多い症状とされています。

疼痛には火傷や擦り傷・打撲などの「急性疼痛」と、数ヶ月から数年に渡って続く「慢性疼痛」の2つがあります。急性疼痛であれば、症状の治癒とともに痛みは治まりますが、慢性疼痛は、侵害受容性疼痛・神経障害性疼痛・心因性疼痛が混在することも多く、その病態は非常に複雑です。

ヒトの感じる疼痛(痛み)は様々です。刺すような鋭い痛みやジワジワとする鈍い痛みなど、医師への説明が難しいケースも少なくありません。また疼痛への耐性も個人差が大きく、小さな切り傷でも強い痛みを感じる方もいれば、骨にヒビが入っていても病院へ行かず、自然治癒してしまう方もいらっしゃいます。

急性疼痛と慢性疼痛の違い

事故などによる強い急性疼痛は、血圧上昇のほかに心拍数増加や発汗、瞳孔(黒目)の散大などが現れます。

一方、慢性疼痛はストレス・睡眠障害・食欲減退・活動意欲喪失・抑うつ(うつ病)を引き起こすとされています。これらのことから、慢性疼痛は痛みそのものが病態であり、慢性疼痛が心身に与える影響は非常に大きいといえるでしょう。

慢性疼痛とは

慢性疼痛とは一般的に3ヶ月以上持続する痛みのことです。慢性疼痛は大きく3つに分けられ、「侵害受容性疼痛(ケガなどによる痛み)」「神経障害性疼痛(神経痛による痛み)」「心理社会的疼痛(心因性の痛み)」が挙げられますが、これらの要因すべてが複雑に絡み合うことで引き起こる混合性疼痛も少なくありません。

慢性疼痛はQOL(生活の質)やADL(日常生活動作)の低下を引き起こし、痛みが長期化するほど仕事や日常生活に支障をきたします。これにより慢性疼痛は、抑うつ症状(うつ病)を引き起こすことも多い病態とされています。

なお、慢性疼痛による痛みがストレスや抑うつ症状(うつ病)を引き起こしているのか、抑うつ症状が慢性疼痛を引き起こしているのかは医学的にはっきりとした結論は出ていません。しかし、原因の分からない痛みが3ヶ月以上続くのであれば、早めの診察が必要です。

慢性疼痛によるおもな随伴症状

・食欲不振・睡眠障害・便秘・生活動作の抑制・不安・破局的思考(ネガティブ思考)・抑うつ(うつ病)・性欲減退など

慢性疼痛の受診の前に必要なこと

ケガなどの覚えがないのに原因不明の痛みが長期に続く、または手術後など通常の治療期間を過ぎたにも関わらず痛みが持続する場合、慢性疼痛を疑います。早期の受診が大切ですが、痛みの原因が分からないのであれば何科を受診すればよいのか迷われる方も多いでしょう。

肩や腰の痛みや、手足の痺れなどがあれば整形外科などになりますが、迷われた場合は、かかりつけのクリニックでよいでしょう。症状などによっては専門の医療機関を紹介してもらえます。

痛みを「見える化」する

慢性疼痛の受診の前には、痛みの発生時期や痛みのある部位・痛みの強さを自身で把握することが大切です。痛みの感じ方や程度には個人差があるため、客観的な評価をすることができないため、例えば「痛みがない状態を0として、最も強い痛みを10とする」など、疼痛評価スケールをメモしてもよいでしょう。

通院中も「いつどんな時に、どんな痛みを感じたか」など、ご自身の慢性疼痛による苦痛をメモや表などにして可視化することは、原因が複雑な慢性疼痛の治療に有益といえます。簡単な走り書きでもかまいませんので、ぜひお試しください。

慢性疼痛の診察・検査

慢性疼痛の診察では、これまでの病歴などの問診や痛みの起こる部位を診たうえで、痛みの原因を調べていきます。必要に応じて、血液検査や画像診断などもおこないます。

慢性疼痛のおもな検査

筋力検査

筋力低下の有無を調べ、特定の筋肉に筋力低下がある場合は脊髄や末梢神経の損傷の可能性があります。

深部腱反射検査

膝の下を専用のハンマーで叩き反射異常を調べ、反射低下や消失がある場合は末梢神経の損傷の可能性があります。

知覚検査

痛みのある部位の痛覚・触覚・温度覚の異常を調べ、これらの知覚に異常がある場合は中枢神経や末梢神経の損傷の可能性があります。

血液検査

感染症や貧血、肝機能・腎機能など全身の状態を調べます。

画像検査

X線検査(レントゲン)により骨の状態などを調べ、異常がある場合はCTやMRI検査をおこないます。

電気生理検査

脳波検査や神経伝導検査、筋電図検査などにより慢性疼痛の症状が神経障害か筋肉障害かを調べる検査をおこないます。

心因性の慢性疼痛の原因と検査法

仕事や日常生活の中において、慢性的もしくは強いストレスを蓄積することで身体に痛みを生じる病態が心因性疼痛です。不安やイライラなどの心理状態が、無意識下でこれらと向き合うことを避けるために身体の特定部位に疼痛(痛み)を引き起こすとされています。

心因性疼痛はおもに、自律神経・内分泌系・免疫系に不調をきたすことで痛みが生じます。一方、慢性疼痛の痛みや不快感によって、それがストレスを引き起こし、抑うつ(うつ病)となるケースも少なくありません。

慢性疼痛は身体だけでなく、メンタル面にも大きな影響を与えます。慢性疼痛の痛みの原因がケガや手術などでない場合は、心療内科の受診を検討することも大切です。

心因性慢性疼痛のおもな検査

自律神経検査

発汗テストや心電図、皮膚温などから交感神経と副交感神経の乱れを調べます。

心理検査

抑うつ(うつ病)の評価、性格に関する心理テストなどにより、現在のメンタル状態を調べます。

慢性疼痛のおもな治療法

慢性疼痛の原因は様々であり、とても複雑です。そのため慢性疼痛に定められた治療方針はありません。痛みに対しては鎮痛投与などの内科的療法、また線維筋痛症などは心療内科的治療が有効とされています。

慢性疼痛は長期間にわたり、痛みが持続する病態です。市販の鎮痛薬で治まることは少ないため、自己判断せず早期受診を心がけてください。

心と身体の痛みが長期に続く場合は心療内科へ相談を

慢性疼痛は侵害受容性・神経障害性・心因性の原因が混在し、とても複雑です。いずれにしても痛みが長期的に続くことで、QOL(生活の質)は著しく低下し、慢性疼痛の治療はより困難なものになってしまうことも少なくありません。早期に受診して、痛みの原因を探るとともに痛みの緩和を目指すことが大切といえるでしょう。

総合医療クリニック「ヒロクリニック」は、ヒロクリニック心療内科のほかに、内科皮膚科、形成外科なども併設しております。ヒロクリニック心療内科によるストレスや不安を原因とする慢性疼痛の診断はもちろん、他科との連携により患者さまの慢性疼痛の原因究明、治療を早期におこなうことが可能です。

ケガなど外傷が起因の慢性疼痛のお悩みはもちろん、思い当たるような原因がないにも関わらず、頭痛や胃の痛み、皮膚の不快感などが長期間続き、何科へ行けばいいのか迷っているのであればヒロクリニックへ、ぜひ一度ご相談ください。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医