マイクロサテライトとSTR

デジタル解析システムのイメージ写真

マイクロサテライトマーカーを用いた親子鑑定は、DNA鑑定の中でも非常に信頼性が高く、広く利用されている方法の一つです。マイクロサテライトとは、DNA配列中に繰り返される短い塩基配列(通常2〜6塩基)が集中的に存在する領域のことです。これらの繰り返し回数が個人ごとに異なるため、個人識別親子関係の証明に適しています。「STR」という略語で目にすることが多い一方、「マイクロサテライト」という呼び方に馴染みがない方も少なくありません。ここでは、両者が同じものであることも含めて、仕組みと精度をわかりやすく解説します。

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マイクロサテライトマーカーとは?

マイクロサテライトは、STR(Short Tandem Repeats)とも呼ばれる、ゲノム上の特定の位置に存在する短い繰り返し配列です。具体的な仕組みを確認していきましょう。

  • マイクロサテライトは、Short Tandem Repeats (STRs) とも呼ばれ、ゲノム上の特定の位置に存在する短い繰り返し配列です。
  • これらの繰り返し配列は、個人間で異なるパターンを持つため、個人のDNAプロファイルの作成に非常に役立ちます。
  • 例えば、「AT」の繰り返しが10回の人と12回の人がいる場合、この違いが個人識別や親子関係の判定に使用されます。

マイクロサテライトは「SSR(Simple Sequence Repeat)」と呼ばれることもあり、遺伝子そのものをコードしない領域に多く存在します。繰り返し回数の組み合わせ(アリル)は1つの座位だけでも数十通り存在することがあり、複数の座位を組み合わせることで、個人を識別する力はさらに高まります。この特性から、STR解析は親子鑑定だけでなく、犯罪捜査における個人識別の分野でも国際的に採用されている手法です。

親子鑑定におけるマイクロサテライトマーカーの利用

親子鑑定では、子供のSTRマーカーが両親からそれぞれ受け継がれたものと一致するかどうかを4つの工程で確認します。親子鑑定では、子供は両親から半分ずつDNAを受け継ぐため、子供のマイクロサテライトマーカー(STR)が、母親と父親からそれぞれ受け継がれたものと一致するかどうかを調べます。以下のようなプロセスで行われます。

1. DNAサンプルの採取

  • 鑑定対象者(通常は子供、母親、父親)のDNAサンプルを採取します。一般的には、口腔内からの細胞を綿棒で採取する方法が多く使われます。

2. STR領域の増幅(PCR法の使用)

  • マイクロサテライトマーカーを使った親子鑑定では、PCR法を用いてSTR領域を増幅します。STR領域が増幅されることで、その繰り返し回数が解析可能となります。

PCR法は微量のDNAを数百万倍にまで増幅できる技術で、古い資料や微量のサンプルからでも解析を可能にします。増幅後は、キャピラリー電気泳動という手法でSTR断片の長さを測定し、繰り返し回数(アリル)を数値として読み取ります。

3. DNAプロファイルの比較

  • 増幅されたSTRの繰り返し数を分析し、親子の間でマーカーが一致するかを確認します。子供は両親から半分ずつDNAを受け継ぐため、子供のマーカーの半分が父親と一致し、もう半分が母親と一致するはずです。

4. 親子関係の判定

  • 鑑定の結果、子供と父親のSTRマーカーが一致する確率が非常に高ければ、親子関係が証明されます。親子鑑定の精度は通常99.9%以上であり、非常に信頼性の高い結果を得ることができます。

当院では52座位のSTRマーカーを解析することで、99.99%以上の精度を実現しています。解析する座位の数が多いほど、偶然に一致してしまう確率は低くなります。座位数や解析手法を公開していない鑑定機関もあるため、依頼前に確認しておくと安心です。DNA鑑定全体の流れや用途については「実子かどうかを確認するDNA鑑定」でも詳しく解説しています。

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STRマーカーを用いた親子鑑定のメリット

STRマーカーには、高い精度・少量のDNAで解析可能・迅速な結果提供・法的証拠としての利用という4つのメリットがあります。それぞれの内容を確認していきましょう。

  1. 高い精度: STRマーカーは非常に多様であり、個々のマーカーは高い識別力を持つため、親子関係の証明において非常に信頼性があります。
  2. 少量のDNAで可能: マイクロサテライトマーカーはPCR法で増幅されるため、少量のDNAサンプルであっても解析が可能です。古い資料や微量のサンプルからも親子鑑定ができます。
  3. 迅速な結果: DNAサンプルの採取から、数日から数週間程度で結果が得られるため、比較的短期間での鑑定が可能です。
  4. 法的証拠としての利用: マイクロサテライトマーカーを用いた親子鑑定は、法的証拠として利用されることが多く、裁判所などでの親子関係の証明に使用されます。

STR解析でわかること・わからないこと

STR解析でわかるのは血縁関係の有無だけであり、病気のかかりやすさや体質に関する情報はわかりません。検査の対象範囲を正しく理解しておくことが大切です。

  • わかること:対象者間に生物学的な親子関係があるかどうか。犯罪捜査での個人識別。
  • わからないこと:病気のかかりやすさ、体質、性格、外見的な特徴などの遺伝情報。

STR領域の多くは、遺伝子そのものをコードしない領域(非コード領域)に存在します。そのため、STR解析の結果から病気のリスクや体質を読み取ることはできません。体質・疾患系の遺伝子検査とは、調べる領域も目的もまったく異なる検査だと理解しておくと、検査結果を正しく受け止めやすくなります。相談の中で「検査を受けたら他の病気のことまでわかってしまうのでは」と不安を口にされる方もいますが、STR解析はあくまで血縁関係の有無だけを調べる検査です。不安な点があれば、検査前に遠慮なくお尋ねください。

マイクロサテライト(STR)とSNPの違い

STRは1つの座位あたりの識別力が高く少ない座位数で高精度が出せる一方、SNPは1か所あたりの情報量は少ないものの、断片化したDNAでも解析しやすいという特徴があります。それぞれの違いを整理すると、次のようになります。

比較項目STR(マイクロサテライト)SNP
解析対象短い繰り返し配列の回数1塩基の違い(多型)
必要な座位数の目安52座位程度で高精度数百カ所規模を組み合わせることが多い
得意な場面出生後の親子鑑定・法医学分野で標準的断片化した微量DNA(cfDNAなど)の解析
主な用途例私的鑑定・法的鑑定・犯罪捜査(CODIS等)非侵襲的出生前検査など

STR法は、FBIのCODIS(Combined DNA Index System)をはじめとする世界の法医学分野で標準的に採用されている手法です。当院では、この実績あるSTR法を52座位にわたって解析することで、高い精度と法的な信頼性を両立させています。SNP法を用いた出生前親子鑑定の研究例については「実子かどうかを確認するDNA鑑定」の参考文献でも紹介しています。

判定結果の見方:父性肯定確率(PI)とは

親子鑑定の結果は、父性肯定確率(PI)という統計指標を用いて、親子関係の確からしさを数値で示します。結果通知書に記載される数値の意味を理解しておくと、結果を正しく解釈できます。

父性肯定確率(PI: Paternity Index)は、各STR座位で得られた尤度比(Likelihood Ratio)を掛け合わせて算出される統計値です。座位の数が多いほど、また各座位の多型性(アリルのバリエーション)が高いほど、PIの値は大きくなり、判定の確からしさが増します。当院では52座位のSTR分析を用いることで、99.99%以上という高い精度でのPI算出を実現しています。結果通知書には、この数値とあわせて、判定結果(肯定・否定)がわかりやすく記載されます。

注意点

STRマーカーを用いた鑑定でも、サンプルの品質と実施機関の信頼性には注意が必要です。依頼前に、次の2点を確認しておきましょう。

  • サンプルの品質: DNAサンプルが劣化している場合、正確な解析ができないことがあります。サンプルは清潔で保存状態が良いことが重要です。
  • 法的鑑定: 日本国内で法的に有効な親子鑑定を行う場合、法的鑑定として認定された施設で実施される必要があります。海外に委託する場合、法的証拠として認められないことがあるため、注意が必要です。

海外委託に伴う法的有効性やサンプル管理のリスクについては「親子鑑定を海外に委託することのリスク」で詳しく解説しています。私も相談の中で、サンプルの保存方法を誤ったために再採取が必要になったケースを見たことがあります。採取後は速やかに提出することを心がけてください。

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よくある質問(FAQ)

ここでは、マイクロサテライト(STR)を用いた親子鑑定に関してよく寄せられる質問にお答えします。検査を検討する際の参考にしてください。

Q1. マイクロサテライトとSTRは同じものですか。

A. はい、同じものを指します。マイクロサテライトは、STR(Short Tandem Repeats)やSSR(Simple Sequence Repeat)とも呼ばれる、ゲノム上に存在する短い繰り返し配列の総称です。

Q2. STR法とSNP法では、どちらが優れていますか。

A. 一概にどちらが優れているとは言えません。STR法は少ない座位数で高い識別力が得られ、法医学分野で標準的に使われています。SNP法は断片化した微量なDNAの解析に強みがあり、非侵襲的出生前検査などで活用されています。当院では実績のあるSTR法を採用しています。

Q3. 何座位のSTRマーカーを調べれば十分な精度が得られますか。

A. 一般的には13座位以上が標準的とされます。当院では52座位のSTR分析により、99.99%以上の精度を実現しています。座位数が少ないほど、偶然の一致による誤判定のリスクが高まります。

Q4. STR解析には、どのくらいの量のDNAが必要ですか。

A. STR領域はPCR法で増幅できるため、ごく微量のDNAサンプルでも解析が可能です。古い資料や微量のサンプルからの鑑定にも対応できます。

Q5. STRマーカーを用いた鑑定結果は、裁判で証拠として使えますか。

A. 使えます。ただし、法的な証拠として使用する場合は、法的鑑定として認定された国内の施設で、第三者の立会いのもとに実施される必要があります。個人で採取したサンプルによる私的鑑定は、原則として法的証拠にはなりません。

Q6. 血液型を調べるだけでは、なぜ不十分なのですか。

A. 血液型はごく少数の型の組み合わせしかないため、親子関係を否定する材料にはなり得ても、一致していても親子関係を証明したことにはなりません。STRマーカーのように多数の座位を解析することで、初めて高い精度の判定が可能になります。詳しくは「血液型(ABO型とRh型)と親子関係」で解説しています。

Q7. 父性肯定確率(PI)とは何ですか。

A. 各STR座位で得られた尤度比を掛け合わせて算出する統計指標で、親子関係の確からしさを数値で示すものです。座位数が多く多型性が高いほど、PIの値は大きくなり、判定の確からしさが増します。

Q8. STR解析で病気のリスクもわかってしまいますか。

A. わかりません。STR領域の多くは遺伝子をコードしない領域に存在し、血縁関係の有無だけを調べる検査です。病気のかかりやすさや体質に関する情報は解析していません。

まとめ

マイクロサテライトマーカー(STRを利用した親子鑑定は、非常に高い精度で親子関係を証明できる信頼性の高い方法です。親子関係の証明だけでなく、犯罪捜査や個人識別にも広く用いられており、DNA鑑定の標準的な手法として確立されています。当院では52座位のSTR分析を行い、99.99%以上の精度で判定しています。解析する座位の数や手法を公開しているかどうかは、依頼先を選ぶ際の重要な判断材料になりますので、契約前に必ず確認してください。費用や結果が出るまでの期間については「赤ちゃんのDNA親子鑑定の費用は?」もあわせてご覧ください。

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監修:岡博史(統括院長・医学博士・CAPラボディレクター・東京衛生検査所指導監督医)、堤修一(博多駅前院院長・医学博士)。STR解析の仕組みや精度に関する説明は、当院の検査体制と学術的知見に基づいて整理しています。

医師監修 監修日:2024年9月14日

岡 博史 (おか ひろし)

医師・医学博士 ヒロクリニック統括院長

YouTubeチャンネルなどを通じて、遺伝子やNIPT(新型出生前診断)についてわかりやすく発信しています。

略歴

  • 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
  • 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
  • 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
  • 2009年 医療法人社団福美会 理事長
  • 2015年 医療法人社団福美会 理事

資格・所属

  • CAPラボディレクター
  • 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
  • 日本医師会 産業医
  • 東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2024年9月14日

堤 修一 (つつみ しゅういち)

医師・医学博士 ヒロクリニック博多駅前院 院長

略歴

  • 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
  • 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授

発信・関連リンク

この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

参考文献

  1. Weber JL, May PE. Abundant class of human DNA polymorphisms which can be typed using the polymerase chain reaction. Am J Hum Genet. 1989 Mar;44(3):388-396.
  2. Edwards A, Civitello A, Hammond HA, Caskey CT. DNA typing and genetic mapping with trimeric and tetrameric tandem repeats. Am J Hum Genet. 1991 Oct;49(4):746-756.
  3. Ellegren H. Microsatellites: simple sequences with complex evolution. Nat Rev Genet. 2004 Jun;5(6):435-445.

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