この記事の概要
DNA鑑定において、電気泳動(Electrophoresis)は、DNA断片の分析に使用される基本的な技術の一つです。以下のようなプロセスで行われます。
電気泳動とは、DNAの断片を大きさ(長さ)ごとに分離するための実験技術です。DNA鑑定の歴史において基礎となってきた手法で、抽出したDNAをゲルの中で電流にさらし、断片の長さの違いを利用して分離・可視化します。この記事では、電気泳動の仕組みと、DNA鑑定における位置づけをわかりやすく解説します。
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この記事でわかること
電気泳動の原理と4つのステップ
DNA鑑定における電気泳動の役割と、現在主流の解析方法との違い
電気泳動だけでは判断できないこと
電気泳動の原理
電気泳動は、DNAが持つ電気的な性質を利用した分離技術です。仕組みを理解すると、なぜDNA鑑定で断片の長さを比較できるのかが見えてきます。
DNA鑑定の最初の工程では、採取したサンプルからDNAを抽出し、特定の酵素で切断します。目的のDNA断片を分離しやすくするための準備工程です。抽出・切断されたDNAをゲルの中に置いて電流を通すと、断片は電場に沿って移動します。DNAはマイナスの電荷を帯びているため、プラス極に向かって進みます。
電気泳動の4つのステップ
電気泳動でDNA断片が分離される過程は、大きく4段階に分けられます。
- 電場の作用:電場をかけると、マイナスの電荷を帯びたDNA断片がプラス極へ引き寄せられます。
- ゲルによるふるい分け:ゲル(アガロースゲルやポリアクリルアミドゲルなど)が障害物となり、短い断片ほど速く、長い断片ほどゆっくり移動します。
- 断片サイズごとの分離:移動速度の違いにより、異なる長さのDNA断片がゲル内で異なる位置に分布します。
- 可視化:染色液で断片を発色させ、UVライトなどで観察することで、サンプル間のパターンを比較できるようになります。

ゲル電気泳動とキャピラリー電気泳動の違い
電気泳動には、大きく分けて2つの方式があります。目的とする断片のサイズによって使い分けられてきました。
- アガロースゲル電気泳動:比較的大きなDNA断片の分離に向いています。PCR産物の確認など、一般的な分子生物学の実験でよく使われる方式です。
- キャピラリー電気泳動:細いガラス管(キャピラリー)の中で泳動させる方式で、数塩基単位という微細な長さの違いを高精度に検出できます。STR型鑑定で長く採用されてきた方式です。
親子鑑定で比較するSTR型は、わずか数塩基の差で型が変わります。キャピラリー電気泳動は、この微細な差を検出できる精度を持つため、長年にわたり法医学分野の標準的な手法として使われてきました。
DNA鑑定における電気泳動の役割
電気泳動は、DNA鑑定の歴史を支えてきた基礎技術です。ただし、現在主流の解析方法とは役割が変わってきています。
1980年代に確立されたDNA型鑑定(RFLP法)は、制限酵素で切断したDNA断片を電気泳動で分離し、パターンを比較する方法でした。その後、STR法(Short Tandem Repeat、DNA配列上の繰り返し部分を比較する手法)が主流になってからも、PCRで増幅した断片の長さをキャピラリー電気泳動で読み取る方法が長く使われてきました。
近年は、MiSeq FGx Systemのような次世代シーケンサーを用いて、STR型を直接読み取る解析が広がっています。ヒロクリニックでは、52座位のSTR型を分析し、99.99%以上の精度で親子関係を判定しています。次世代シーケンサーの特徴は、MiSeq FGx Systemと出生前親子鑑定についてで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
共同監修者の堤修一は、東京大学先端科学技術研究センターでゲノム医学・エピゲノム解析に携わってきた経験から、「電気泳動は今もDNA解析の基礎ですが、大量のサンプルを高精度に処理する場面では、次世代シーケンサーの役割が大きくなっています」と話しています。DNA解析の手法は、目的とサンプル数に応じて使い分けられているのが実情です。
電気泳動だけではわからないこと
電気泳動は分離・可視化のための技術であり、それ単体で親子関係を判定できるわけではありません。判定には、比較対象となる複数のDNA型を照合する工程が必要です。
- 断片の長さを分離できても、複数人のDNA型を照合しなければ血縁関係の判定はできません。
- サンプルが劣化していると、バンドが不明瞭になり判定精度が落ちる場合があります。
精度の高い判定には、複数座位のSTR型を統計的に比較する工程と、検体管理の徹底が欠かせません。ヒロクリニックの検査精度については検査精度のページで公開しています。
統括院長の岡は「電気泳動の画像を見せながら説明すると、DNA鑑定がブラックボックスではなく、根拠のある比較作業だと理解していただけることが多いです」と、来院者への説明で電気泳動の図が役立つ場面をよく口にします。仕組みを知ることで、結果報告書の見方も理解しやすくなります。
応用分野:犯罪捜査から医療まで
電気泳動を利用したDNA解析は、親子鑑定以外にも幅広い分野で活用されています。犯罪捜査における個人識別、遺伝性疾患の診断、感染症の遺伝子検査などが代表例です。
警察の科学捜査では、現場に残された微量な検体からDNA型を割り出し、データベースと照合する際にSTR型鑑定の技術が使われています。医療分野では、遺伝性疾患の原因遺伝子を特定する検査や、感染症の病原体を同定する検査でも、電気泳動による断片解析が応用されてきました。分野は違っても「DNAの長さの違いを見分ける」という基本原理は共通しています。
PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)でDNAを増幅してから電気泳動で分離する組み合わせは、分子生物学の基本手順として研究機関でも広く使われています。PCRの仕組みについてはポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)をわかりやすく解説で説明しています。
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よくある質問
電気泳動と次世代シーケンサーは何が違いますか。
電気泳動はDNA断片を長さで分離する技術で、次世代シーケンサーは塩基配列そのものを直接読み取る技術です。ヒロクリニックではMiSeq FGx Systemを用いて、より詳細な情報を高速に解析しています。
電気泳動だけで親子関係は判定できますか。
できません。電気泳動はDNA断片を分離・可視化する工程であり、複数のSTR型を統計的に比較する解析と組み合わせて初めて判定できます。
DNA鑑定で電気泳動はどの工程で使われますか。
従来はPCRで増幅した断片の長さをキャピラリー電気泳動で読み取る方法が主流でした。現在は次世代シーケンサーを用いる解析が広がっています。
サンプルが劣化していると結果に影響しますか。
影響します。DNAが劣化するとバンドが不明瞭になり、判定精度が下がる場合があります。採取後はできるだけ早く検査機関へ提出してください。
電気泳動はDNA鑑定以外にも使われていますか。
使われています。犯罪捜査での個人識別、遺伝性疾患の診断など、DNAやタンパク質を分離・解析する幅広い分野で応用されている技術です。
まとめ
電気泳動は、DNA断片を長さごとに分離するための基礎技術です。1980年代のDNA型鑑定から、現在のSTR型分析まで、DNA解析を支えてきた歴史ある手法といえます。
現在ヒロクリニックでは、次世代シーケンサーMiSeq FGx Systemを用いたSTR型分析で、99.99%以上の精度による親子鑑定を提供しています。解析技術の違いが気になる方は、MiSeqとMiniSeqの違いもあわせてご覧ください。
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略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Lo YM, Chan KC, Sun H, Chen EZ, Jiang P, Lun FM, et al. Maternal plasma DNA sequencing reveals the genome-wide genetic and epigenetic signatures of the fetus. Sci Transl Med. 2010 Dec 8;2(61):61ra91.
- Yu SC, Jiang P, Choy KW, Chan KC, Won HS, Chiu RW, et al. Size-based molecular diagnostics using ultradeep sequencing for noninvasive prenatal testing. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jun 10;111(23):8583-8.
- Alcaide M, Yu S, McGrath S, Ding J, Kelly M, Zhang X, et al. Multiplex detection of circulating tumor DNA using pH-mediated capillary electrophoresis. Clin Chem. 2016 Oct;62(10):1393-401. (注: cfDNAの電気泳動による分析技術に関する基礎研究)
- Chan KC, Jiang P, Zheng YW, Liao GJ, Sun H, Wong J, et al. Cancer genome-wide profiling by plasma DNA size analysis. Clin Chem. 2015 Jan;61(1):115-24. (注: cfDNAのサイズ特性と電気泳動等によるサイズ選別の重要性を示す研究)





