ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)をわかりやすく解説

親子鑑定 NIPPT DNA鑑定 ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)

ポリメラーゼ連鎖反応(PCR:Polymerase Chain Reaction)は、特定のDNA配列を短時間で数百万倍に増やす技術です。DNA親子鑑定では、採取した検体からごく微量のDNAしか得られない場合があります。この微量なDNAを解析できる量まで増幅する工程がPCRであり、親子鑑定の精度を支える土台となる技術です。この記事では、PCRの仕組みをわかりやすく解説します。

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この記事でわかること

  • PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の基本的な仕組み
  • 変性・アニーリング・伸長という3ステップの内容
  • PCRがDNA親子鑑定でどう使われているか
  • PCRが使われているほかの身近な検査例

PCRとは何か

PCRとは、いわば「DNAのコピー機」です。PCRとは、DNAポリメラーゼという酵素を使い、少量のDNAサンプルから狙った部分だけを大量にコピーする技術です。DNAポリメラーゼは、生物の体内でDNAを複製する際に働く酵素と同じ仲間になります。二本鎖のDNAを一時的にほどき、それぞれの鎖に新しいヌクレオチド(DNAの構成要素)を付け加えて、新しいDNA鎖を合成します。

PCRで使われるDNAポリメラーゼは、熱に強いことが条件です。代表例がTaqポリメラーゼで、高温の温泉に生息する好熱菌から発見された酵素になります。高温でも壊れずに働き続けるため、後述する温度変化を繰り返すPCRの工程に適しています。Taqポリメラーゼが発見される以前は、変性ステップの高温でDNAポリメラーゼが壊れてしまうため、サイクルのたびに新しい酵素を手作業で加える必要がありました。熱に強いTaqポリメラーゼの発見によって、酵素を追加せずに温度変化だけを繰り返せるようになり、サーマルサイクラーによる完全自動化が実現しました。

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PCRの3つのステップ

PCRは変性・アニーリング・伸長という3つの温度操作を繰り返し、DNAを指数関数的に増幅させる仕組みです。PCRは、以下の3つのステップを1サイクルとして、これを20〜30回程度繰り返す仕組みです。1サイクルごとにDNAの量は倍増するため、サイクルを重ねるほど指数関数的に増幅されます。

  1. 変性(Denaturation):約95℃に加熱し、二本鎖のDNAを一本鎖2本に分離します。
  2. アニーリング(Annealing):約50〜65℃に温度を下げ、プライマー(増幅したい部分の目印となる短いDNA断片)をターゲットDNAに結合させます。
  3. 伸長(Extension):約72℃に加熱し、DNAポリメラーゼがプライマーを起点に新しいDNA鎖を合成します。

この3ステップの温度変化を自動で制御する装置がサーマルサイクラーです。設定したサイクル数をあらかじめプログラムしておけば、装置が温度変化を繰り返し、DNAの分離・結合・複製を効率よく進めてくれます。

DNA検査の検体を扱う様子

PCRの3ステップ早見表

PCRの1サイクルは、温度を変えるだけの3ステップで完結します。それぞれの温度・時間・役割を表にまとめました。

ステップ温度の目安時間の目安この工程で起きること
1. 変性(Denaturation)約95℃数十秒二本鎖DNAが1本鎖2本にほどける
2. アニーリング(Annealing)約50〜65℃数十秒プライマーがターゲットDNAに結合する
3. 伸長(Extension)約72℃数十秒〜1分程度DNAポリメラーゼが新しいDNA鎖を合成する

この3ステップを1サイクルとしてサーマルサイクラーが自動で20〜30回繰り返すことで、微量なDNAが解析可能な量まで増幅されます。1サイクルにかかる時間は数分程度のため、20〜30サイクルの合計では1〜2時間程度が目安です。

PCRを開発したのは誰か

PCRは、1983年にアメリカの生化学者キャリー・マリス氏が開発した技術です。この功績により、マリス氏は1993年にノーベル化学賞を受賞しました。PCR以前は、DNAを増幅するために大腸菌などの生物を使う煩雑な手法が中心でしたが、PCRの登場によって試験管内で短時間かつ簡便にDNAを増幅できるようになりました。

PCRが実用化されたことで、DNA親子鑑定をはじめとする遺伝子解析は、微量な検体からでも短期間で結果を出せるようになりました。約40年前に生まれた技術が、現在の親子鑑定の精度を支えていると考えると、技術の進歩の速さを実感します。

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PCRとDNA親子鑑定の関係

PCRは、DNA親子鑑定でSTR型判定に必要な量までDNAを増幅する、精度を支える前処理工程です。DNA親子鑑定では、STR(Short Tandem Repeat)と呼ばれる、DNA上の特定領域における繰り返し配列の数を、父親候補と子どもで比較します。この繰り返し配列を読み取れる量まで増幅する工程が、まさにPCRです。座位ごとに繰り返し回数の個人差が大きいSTR領域を選んで解析することで、他人同士が偶然同じ型を持つ確率を極めて低く抑えられます。

頬粘膜や毛髪など、日常的に採取できる検体は、含まれるDNA量がごくわずかです。PCRによる増幅がなければ、その後の型判定(電気泳動やシーケンス解析)に十分な量のDNAを確保できません。PCRの精度が、そのまま鑑定結果の信頼性に直結すると言っても過言ではないのです。

ヒロクリニックの検査では、次世代シーケンサー「MiSeq FGx System」を用いてSTR52座位を分析しています。座位ごとに正確なPCR増幅ができているかどうかは、解析システムが自動でチェックする仕組みになっており、増幅が不十分な場合は再検査となります。

検査精度を保つための管理体制

PCRの増幅精度は、検体の管理体制と検査機器の性能に大きく左右されます。ヒロクリニックの自社ラボ「東京衛生検査所」では、以下のような体制でPCR増幅を含む解析工程の品質を管理しています。

  • 検体のバーコード管理:採取した検体を医療機関からラボへ直接配送し、バーコードで個体管理することで取り違えを防止
  • 次世代シーケンサー5台体制:Qiagen社「MiSeq FGx System」を含む機器を複数台保有し、検体量に応じた解析体制を確保
  • 国際規格の認証CAP(米国臨床病理学会認定)およびISO9001を取得し、検査工程の標準化を実施
  • 専属医師による管理:CAPラボディレクター資格を持つ医師の監督下でPCR増幅から型判定までを運用

私自身、ラボの指導監督医としてPCR増幅のエラー率を確認する機会がありますが、温度管理や試薬の品質管理を徹底することで、再検査になるケースはごくわずかに抑えられています。目に見えない工程だからこそ、管理体制の透明性が信頼の土台になると考えています。

定量PCR(リアルタイムPCR)と親子鑑定で使うPCRの違い

親子鑑定で使うPCRと、感染症検査でよく使われる「リアルタイムPCR」は、目的も仕組みも異なります。リアルタイムPCR(定量PCR、qPCRとも呼ばれます)は、蛍光色素を使ってDNAが増幅される様子をサイクルごとに測定し、検体中にどれくらいの量のウイルスや遺伝子が含まれているかを数値化する手法です。新型コロナウイルス検査で「陽性・陰性」の判定に使われるのは、主にこの仕組みです。

一方、DNA親子鑑定で必要なのは、DNAの「量」ではなく「型(繰り返し配列の長さ)」です。そのため、PCRで目的の領域を増幅したあとに、電気泳動やシーケンス解析といった別の工程で型を読み取ります。増幅量そのものをリアルタイムに測定する必要はなく、確実に読み取れる量まで増幅できていれば十分という点が、感染症検査との大きな違いです。

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PCRが使われているほかの検査

PCRは親子鑑定だけでなく、感染症検査や遺伝子診断、法医学など幅広い分野で使われている基盤技術です。PCRは、親子鑑定以外にもさまざまな検査で活用されています。仕組みを知っておくと、日常生活で見聞きする検査のイメージがつかみやすくなります。

感染症検査では、ウイルスや細菌の遺伝子を増幅して検出します。新型コロナウイルスのPCR検査は、この技術を応用した代表例です。ウイルスの遺伝情報がRNAの場合は、逆転写酵素という別の酵素を使ってDNAに変換したうえでPCRにかける「RT-PCR」という手法が使われます。遺伝子診断の分野では、特定の遺伝子変異の有無を調べる際にPCRが使われます。法医学の分野でも、微量な血痕や体液からの個人識別にPCRが役立てられています。

いずれの用途でも、共通しているのは「ごく微量なDNAを、解析可能な量まで正確に増やす」という役割です。日々の検体解析に携わる立場から見ても、PCRの安定した増幅なしには、どの検査も成立しないというのが実感です。

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PCRでよくある誤解

PCRは「増幅回数を増やすほど精度が上がる」わけではありません。誤解されやすいポイントを2つ紹介します。

1つ目は、サイクル数と精度の関係です。サイクル数を必要以上に増やすと、目的以外の配列まで増幅されたり、微量な汚染DNAまで検出されたりする可能性があります。ヒロクリニックの解析システムでは、座位ごとに適切なサイクル数をあらかじめ設定し、過剰増幅による誤判定を防ぐ仕組みを取り入れています。

2つ目は、PCRの結果だけで親子関係が判定できるという誤解です。PCRはあくまでDNAを読み取れる量まで増やす前処理であり、実際の判定はその後のSTR型比較と尤度比の計算によって行われます。この点は本記事の冒頭でも触れた通りです。仕組みを正しく理解しておくと、結果報告書の内容もより深く読み解けるようになります。

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まとめ

PCRは、微量なDNAを解析可能な量まで増幅し、DNA親子鑑定の精度を根底から支える技術です。変性・アニーリング・伸長という3ステップを繰り返し、微量なDNAを解析可能な量まで増幅する技術です。DNA親子鑑定においては、STR型判定の前段階として欠かせない工程になります。仕組みがわかると、結果報告書の背景にある技術への理解も深まるはずです。増幅されたDNAがどのように親子関係の数値評価につながるかは、STRを用いた尤度比の計算方法で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

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よくある質問

PCRとDNA親子鑑定の型判定は同じものですか?

別の工程です。PCRはDNAを増幅する前処理にあたり、そのあとに増幅したDNAの型(繰り返し配列の数など)を読み取る解析工程が続きます。
PCRだけでは親子関係の判定はできません。

PCRにはどれくらいの時間がかかりますか?

サイクル数や機器によって異なりますが、一般的には1〜2時間程度です。
親子鑑定では、PCRのあとに型判定やデータ解析の工程が続くため、結果報告までにはさらに日数を要します。

検体の量が少ないとPCRはうまくいきませんか?

極端に少ない、または劣化した検体では、増幅がうまくいかないことがあります。
その場合は再採取をお願いする場合がありますので、検体の採取方法は案内に沿って正しく行ってください。

Taqポリメラーゼとはどのような酵素ですか?

温泉などの高温環境に生息する好熱菌(Thermus aquaticus)から発見された、熱に強いDNAポリメラーゼです。
PCRの変性ステップ(約95℃)でも壊れずに働き続けられる点が、PCR技術の実用化を支えました。

PCR検査とDNA親子鑑定は精度が違うのですか?

PCR自体は増幅技術であり、目的によって使い方が異なります。
親子鑑定では、複数のSTR座位を分析し座位ごとの尤度比を掛け合わせることで、高い精度での判定を実現しています。詳しくは尤度比の解説記事をご覧ください。

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医師監修 監修日:2024年8月30日

岡 博史 (おか ひろし)

医師・医学博士 ヒロクリニック統括院長

YouTubeチャンネルなどを通じて、遺伝子やNIPT(新型出生前診断)についてわかりやすく発信しています。

略歴

  • 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
  • 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
  • 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
  • 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
  • 2009年 医療法人社団福美会 理事長
  • 2015年 医療法人社団福美会 理事

資格・所属

  • CAPラボディレクター
  • 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
  • 日本医師会 産業医
  • 東京衛生検査所 指導監督医

この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

医師監修 監修日:2024年8月30日

堤 修一 (つつみ しゅういち)

医師・医学博士 ヒロクリニック博多駅前院 院長

略歴

  • 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
  • 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授

発信・関連リンク

この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。

参考文献

  1. Saiki RK, Scharf S, Faloona F, Mullis KB, Horn GT, Erlich HA, Arnheim N. Enzymatic amplification of beta-globin genomic sequences and restriction site analysis for diagnosis of sickle cell anemia. Science. 1985 Dec 20;230(4732):1350-4.
  2. Mullis K, Faloona F, Scharf S, Saiki R, Horn G, Erlich H. Specific enzymatic amplification of DNA in vitro: the polymerase chain reaction. Cold Spring Harb Symp Quant Biol. 1986;51 Pt 1:263-73.

記事の監修者