統合失調症で休職したあと、「もう一度、今の職場に戻れるのだろうか」と考える時期が必ず訪れます。復職は、本人の頑張りだけで決まるものではありません。主治医・産業医・会社が、それぞれの役割で関わりながら進めていく手続きです。

この記事では、厚生労働省が示す職場復帰支援の流れに沿って整理します。扱うのは会社に在籍したまま復職を目指す場合の道すじ。統合失調症という診断があること自体が、復職の可否を決めるわけではありません。

この記事でわかること

  • 復職できるかどうかを、誰が・何を見て判断するのか
  • 休職開始から復職後のフォローまで、厚生労働省が示す5つのステップ
  • 統合失調症ならではのつまずきポイント(陰性症状・認知機能・服薬の継続)
  • 職場にお願いできる就業配慮の具体例と、伝える/伝えないの考え方

川口院・池袋駅前院で診療しています。お電話は048-430-7000、ご相談は公式LINEからもお受けしています。

統合失調症の復職は「病名」では決まりません

復職の可否を分けるのは病名ではなく、働くために必要な力がどこまで戻っているかです。同じ診断でも、回復の程度や仕事の内容によって結論は変わります。

判断の材料になるのは「業務遂行能力」です

厚生労働省は「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」を公開しています。そこには、復職可否を判断するときの目安が具体的に並びます。抽象的な「治ったかどうか」ではありません。

手引きが示す判断基準の例は、次のようなものです。

  • 本人が十分な意欲を示している
  • 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
  • 決まった勤務日・時間に就労が継続して可能である
  • 業務に必要な作業ができる
  • 作業による疲労が翌日までに十分回復する
  • 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
  • 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している

並べてみると、幻聴や妄想の有無が入っていないことに気づきます。見られているのは、生活のリズムと、仕事に耐えられる体力・集中力です。症状そのものの経過については、統合失調症の初期症状と受診のサインで解説しています。

主治医の「復職可能」と、会社が見る基準はずれることがあります

ここは多くの方が戸惑うところです。手引きにも、はっきりと注意書きがあります。

主治医の診断は、日常生活の回復程度をもとにしていることが多いとされます。職場で求められる業務遂行能力まで回復しているとは限らない、と手引きは明記しています。だから産業医が改めて精査する仕組みになっています。

診察室でも、「主治医の先生はもう大丈夫と言ったのに、会社では復職の許可が出ない」というご相談を受けます。私たちはこれを、どちらかが間違っているという話としては捉えていません。見ている物差しが違うだけ、と説明しています。

そのため当院では、診断書に「何ができて、何にまだ配慮が要るか」を書き分けるようにしています。「復職可」の三文字だけでは、会社側が判断できないためです。

適応障害の復職とは、前提が少し違います

同じ復職でも、統合失調症では考えることが増えます。服薬を続けながら働くこと、再発予防、陰性症状や認知機能の変化などです。

適応障害は、原因となるストレス因から離れると比較的短期間で改善しやすい特徴があります。一方で統合失調症は、症状が落ち着いたあとも治療を継続しながら働く形が一般的です。適応障害の復職については、適応障害の復職と働き方で詳しく扱っています。

復職までの流れ|厚生労働省が示す5つのステップ

復職は、休職開始からフォローアップまでの5つのステップで進みます。会社ごとにルールの細かさは違いますが、大きな骨組みは共通しています。

段階的に職場復帰していく5つのステップを階段で表したイラスト
復職は一段ずつ。急がずに進めることが結果的に近道になります

まず全体像を押さえておくと、いま自分がどこにいるのかが分かります。

ステップ段階主に動く人
第1病気休業の開始と休業中のケア本人・上司・人事
第2主治医による職場復帰可能の判断本人・主治医
第3復職の可否判断と職場復帰支援プランの作成産業医等・上司・人事・本人
第4最終的な職場復帰の決定会社(事業者)
第5復職後のフォローアップ上司・産業保健スタッフ・主治医
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」をもとに作成

第1・第2ステップ|休職の開始と、主治医の復職可能診断

最初の関門は、安心して休める状態をつくることです。休職は主治医の診断書の提出から始まります。

この時期に会社から情報提供を受けるべき項目も、手引きは挙げています。傷病手当金などの経済的保障、相談先、休業の最長期間など。お金の見通しが立たないと療養に専念できないためです。

回復してきたら、本人が復職の意思を伝え、主治医に「復職可能」と記した診断書を書いてもらいます。このとき、就業上の配慮についての具体的な意見も書いてもらうようにしてください。

第3ステップ|復職の可否判断と「職場復帰支援プラン」

ここが実質的な山場です。産業医等が主治医から意見を集め、本人の状態と職場環境の両方を評価します。

医師と休職中の本人が落ち着いた面談室で復職について話し合う様子
復職前の面談では、できることとまだ難しいことを一緒に整理します

そのうえで作られるのが職場復帰支援プランです。復帰日、上司による就業上の配慮、人事労務上の対応、フォローアップの方法などを個別に決めます。

会社全体のルールである「職場復帰支援プログラム」と、あなた個人の計画である「職場復帰支援プラン」は別物です。混同しやすいので、面談の場で確認しておいてください。

試し出勤・模擬出勤・通勤訓練という助走

正式な復職の前に、助走期間を設けられる場合があります。手引きが試し出勤制度として紹介している仕組みです。

社内制度として用意されていれば、早い段階から復帰の試みを始められます。休んでいた不安をやわらげ、職場の様子を自分で確かめながら準備できます。

種類内容
模擬出勤勤務時間と同じ時間帯に、デイケアで模擬的な軽作業を行ったり、図書館などで過ごす
通勤訓練自宅から職場の近くまで通勤経路で移動し、一定時間過ごしてから帰宅する
試し出勤復職の判断などを目的に、本来の職場へ試験的に一定期間続けて出勤する
厚生労働省「職場復帰支援の手引き」が挙げる試し出勤制度等の例

すべての会社にある制度ではありません。就業規則を確認するか、人事に問い合わせてみてください。

第4・第5ステップ|復職の決定と、その後のフォロー

最終的に復職を決めるのは、主治医でも産業医でもなく会社です。産業医等が「職場復帰に関する意見書」を作成し、それを踏まえて事業者が決定します。

復職はゴールではありません。第5ステップとして、再発の有無の確認、勤務状況の評価、プランの見直しが続きます。プランは途中で変更してよいものだという点は、覚えておいて損がありません。

統合失調症の復職でつまずきやすい3つの壁

実務でつまずきやすいのは、幻聴や妄想よりも陰性症状・認知機能の変化・服薬の継続の3つです。どれも外からは見えにくく、誤解されやすいところ。

陰性症状は「怠け」に見えてしまいます

意欲がわかない、感情が動きにくい、身だしなみが億劫になる。こうした陰性症状は、事情を知らない人からはやる気の問題に見えます。

当院の診療でも、復職後に本人を苦しめるのは幻聴より陰性症状であることが少なくありません。「サボっていると思われていないか」という不安が、さらに出社を重くします。

Xでも、当事者の方が陰性症状のつらさで仕事を休んだ日のことを率直に書き留めていました(@takeshi1073さんの投稿)。無気力が本人にとってどれほど手強いかが伝わってきます。意思の弱さではなく、症状の一部です。

だからこそ、復職プランでは「調子が出ない日の扱い」を先に決めておくと安全です。

認知機能の変化は、実務にあらわれます

注意力や作業スピード、複数の情報を同時に扱う力に変化が出ることがあります。手引きの判断基準に集中力の回復が入っているのは、このためです。

たとえば、電話を受けながらメモを取り、同時に別の指示を聞く場面。こうした同時並行の作業は、復帰直後には負担が大きくなりがちです。

苦手を申告することは、能力が低いという申告ではありません。作業の順番を変えるだけで回ることも多いのです。

服薬を続けながら働くという課題

復職後も治療は続きます。日中の眠気やだるさが出る場合、勤務時間や通院日の設定を含めて主治医と相談してください。

自己判断で薬を減らしたり中断したりすることは、再発の引き金になり得ます。調整が必要なときは、必ず主治医に相談してください。薬物療法そのものについては統合失調症の薬と治療で解説しています。

職場にお願いできる就業配慮の具体例

配慮を引き出す鍵は、疾患特性を職場が扱える具体的な言葉に翻訳することです。病名を伝えるだけでは、現場は何をすればいいか分かりません。

厚生労働省の事例が示す「説明するという配慮」

厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」には、統合失調症の方の職場復帰が成功した事例が公開されています。架空の話ではなく、公的に公開されている事例です。

品質保証の技術職として働く男性の事例では、産業医が主治医に確認した内容を、上司に分かる言葉で説明しました。残業が増えると症状が悪化しうること、一度に多くの情報を処理するのが苦手なことなどです。

その結果、次のような取り決めがなされました。時間に余裕がある製品を担当し、自分のペースで進められるようにする。残業をなくす。予定外の休憩や欠勤のときは上司に伝える。事例では、その後2年にわたって長期の休職なく勤務が続いたと報告されています。(出典: こころの耳「疾患特性を職場に説明し職場復帰が成功した統合失調症の事例」

私たちがこの事例で注目しているのは、特別な制度を使っていない点です。やったことは、翻訳と、小さなルールの明文化だけ。

実際に依頼しやすい配慮の例

面談で言葉に詰まらないよう、依頼しやすい配慮を整理しました。すべてを求める必要はありません。

短時間勤務で静かな環境に配慮しながら働く人のイラスト
配慮は特別扱いではなく、働き続けるための調整です
困りごとお願いできる配慮の例
疲れやすい・体力が戻っていない短時間勤務から始め、段階的に通常勤務へ移行する
残業が続くと調子を崩す一定期間、残業や休日出勤を免除してもらう
同時並行の作業が苦手業務を一つずつ順番に割り当ててもらう
急な変更に対応しづらい予定や指示を明確に、できれば文字で伝えてもらう
通院を続ける必要がある通院日の勤務時間に配慮してもらう
不調のサインに早く気づきたい上司との短い定期面談を設定してもらう

職種そのものが症状と合わないと感じる方もいます。Xには、接客業を続けたいのに難しいと言われた方の投稿もありました(@teckizmiさんの投稿)。どこまでが配慮で、どこからが線引きなのか。揺れる気持ちが伝わってきます。配置転換の必要性も、第3ステップで話し合える項目です。

伝えるか、伝えないか|オープン就労とクローズ就労

病気を職場に伝えるかどうかは、あなたが決めてよいことです。どちらが正しいという答えは、この記事では示しません。

伝えれば配慮を求めやすくなる一方、偏見への不安は残ります。伝えなければ配慮は得にくく、無理が重なることもあります。どちらにも現実的な損得があります。

ただし、すでに休職して復職する場面では、会社は診断書を受け取っています。完全に伏せたまま進むことは難しい、というのが実際のところです。そのうえで「誰にどこまで伝えるか」は選べます。

なお、精神疾患に対する偏見そのものについてはスティグマとは何かで扱っています。

障害者雇用という選択肢と、現在の法定雇用率

障害者雇用枠へ切り替えるという選択肢もありますが、急いで決める必要はありません。制度の現状だけ、正確にお伝えします。

障害者雇用促進法にもとづく民間企業の法定雇用率は、段階的に引き上げられてきました。2023年度(令和5年度)は2.3%でした。2024年4月(令和6年4月)に2.5%となり、2026年7月(令和8年7月)以降は2.7%です。

対象となる事業主の範囲も広がりました。従業員37.5人以上の企業が対象です。(出典: 厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」

企業にとって、精神障害のある方の雇用継続は制度上も重みを増しています。配慮を求めることは、わがままではありません。

短時間勤務でも、企業の雇用率に算定されます

あまり知られていませんが、短時間勤務でも企業の障害者雇用率にカウントされます。これは復職の交渉材料になり得ます。

週の所定労働時間が20時間以上30時間未満の精神障害のある方。この場合は当分の間、雇入れからの期間などに関係なく1カウントとして算定できます。さらに2024年4月以降は、週10時間以上20時間未満でも0.5カウントとして算定されます。

つまり、いきなりフルタイムに戻らなくても、企業側に不利益が生じにくい設計になっています。「短時間から始めたい」と言い出しやすくなる事実です。

福祉サービスとしての就労継続支援A型や就労移行支援を検討する段階の方へ。就労継続支援A型と統合失調症をご覧ください。この記事は、あくまで在籍中の会社に戻るケースを扱っています。

復職後の再発予防|最初の数か月をどう過ごすか

再発予防の中心は、再発のサインを復職前に言葉にしておくことです。調子を崩してから考えるのでは間に合いません。

眠れない日が続く、音に過敏になる、人の視線が気になり始める。自分の場合はどれが最初に来るのか、振り返って書き出してみてください。

そのサインが出たときに何をするかも、あらかじめ決めておきます。受診を早める、残業を止める、上司に一言伝える。手順にしておくと、判断力が落ちている時期でも動けます。

復職直後は緊張が続き、疲れがたまりやすい時期です。手引きも第5ステップで、プランの評価と見直しを続けるよう求めています。無理が出てきたら、計画を組み直してかまいません。

日々の落ち着かせ方は統合失調症のストレス対処で解説しています。訪問看護や自立支援医療などの地域の支えについては地域で支えるリカバリーをご覧ください。

復職の判断に迷ったとき、診断書の書き方に困ったときもご相談ください。川口院・池袋駅前院で対応しています(電話 048-430-7000)。

よくある質問

復職について、診察室でよくいただくご質問をまとめました。

Q. 統合失調症から職場復帰は可能ですか?

A. 診断名だけで可否は決まりません。厚生労働省の手引きが判断材料に挙げているのは、業務遂行能力です。通勤できるか、決まった時間に働き続けられるか、作業による疲労が翌日までに回復するか。主治医と産業医、会社が話し合って個別に判断します。

Q. 統合失調症の復職率はどのくらいですか?

A. 統合失調症の復職率を示す単一の公的統計は見当たりません。回復の程度、職種、職場の配慮体制によって結果が大きく変わるためです。数字を探すよりも、ご自身の状態と職場の受け入れ体制を具体的に確認するほうが役に立ちます。

Q. 統合失調症で休職できる期間はどのくらいですか?

A. 休職できる期間は法律ではなく、会社の就業規則で決まります。まず就業規則を確認してください。経済面では健康保険の傷病手当金があり、支給開始日から通算して1年6か月まで受け取れます(令和4年1月から通算化されました)。

Q. 復職のタイミングは誰が決めるのですか?

A. 最終的に決めるのは会社です。まず主治医が復職可能と判断した診断書を出します。次に産業医等がそれを精査して意見書を作成し、事業者が最終決定します。主治医の判断は日常生活の回復度が基準になりやすく、職場が求める業務遂行能力とは物差しが異なります。

Q. 職場に病気を伝えないまま復職できますか?

A. 誰にどこまで伝えるかは選べます。ただし休職を経て復職する場合、会社は診断書を受け取っているため、完全に伏せたまま進むことは現実的に困難です。伝える範囲を上司と人事に限る、病名ではなく必要な配慮だけを共有するといった調整は可能です。

Q. 復職前に助走期間を設けることはできますか?

A. 会社に試し出勤制度があれば可能です。厚生労働省の手引きは、模擬出勤・通勤訓練・試し出勤の3つを例に挙げています。すべての会社にある制度ではないため、就業規則の確認か人事への問い合わせが必要です。

Q. 復職後にまた休んでしまったら、失敗でしょうか?

A. 休みが出ること自体は珍しくありません。手引きも第5ステップで、復職支援プランの評価と見直しを続けることを前提にしています。計画は途中で変えてよいものです。早めに主治医と上司へ共有してください。

まとめ

統合失調症の復職は、病名ではなく業務遂行能力で判断されます。厚生労働省の手引きが示す5つのステップに沿って、主治医・産業医・会社が役割を分担しながら進めます。

つまずきやすいのは、陰性症状・認知機能の変化・服薬の継続という見えにくい3点。疾患特性を職場が扱える言葉に翻訳できると、必要な配慮につながりやすくなります。

短時間勤務でも企業の雇用率に算定されるなど、制度は少しずつ働きやすい方向へ動いています。復職はゴールではなく、働き続けるための出発点です。焦らず、一段ずつ進めてください。

つらい気持ちが強いときの相談窓口

  • いのちの電話 フリーダイヤル:0120-783-556(無料)
  • #いのちSOS:0120-061-338
  • よりそいホットライン:0120-279-338
  • こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556

一覧は厚生労働省「まもろうよ こころ」でご確認いただけます。

参考文献・出典

本記事は、以下の公的資料をもとに作成しています。

  • 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(PDF)
  • 厚生労働省「こころの耳」疾患特性を職場に説明し職場復帰が成功した統合失調症の事例(事例638)
  • 厚生労働省「障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」(PDF)
  • 厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」(解説ページ)
  • 厚生労働省「こころの耳」職場復帰支援に役立つコンテンツ(事業者向け)

発行:ヒロクリニック心療内科編集部/運営統括:岡博史。本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。復職の可否や治療の判断は、必ず主治医にご相談ください。

医師監修 監修日:2025年10月8日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。