スティグマとは、ある特徴を理由に否定的なレッテルを貼られ、不当な扱いを受けることです。日本語では「偏見」「差別」と訳されることが多い言葉。
もともとは医療や福祉の専門用語でしたが、近年はニュースやSNSでも見かけるようになりました。

この記事では、スティグマの意味と語源を整理したうえで、3つの種類と具体例を解説します。
最も強いスティグマが向けられてきた統合失調症を軸に、統計データで「危険」というイメージを検証します。
川口市と池袋で心療内科の診療にあたる立場から、診察室で見えている現実もお伝えします。

この記事でわかること

  • スティグマの意味と語源。「偏見」「差別」との違いが表で整理できます
  • 公的・自己・構造的という3つの種類と、身近な具体例
  • 「統合失調症=危険」というイメージが、統計と一致しない理由
  • 研究でわかっているスティグマの減らし方と、今日からできること

こころの不調は、誰にでも起こりうるものです。
受診をためらう最大の理由が「人にどう思われるか」であるケースは、決して珍しくありません。
気になる症状があれば、一人で抱えずご相談ください。

お電話は 048-430-7000、公式LINE からもご相談いただけます。

スティグマとは?意味をわかりやすく解説

スティグマとは、個人の特徴に対して周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いを受けることを指します。
単なる「悪いイメージ」ではなく、実際の不利益を伴う点が特徴です。

スティグマの意味 ―「レッテル」と「不当な扱い」の2点セット

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)精神保健研究所は、こう説明しています。
「精神疾患など個人の持つ特徴に対して、周囲から否定的な意味づけをされ、不当な扱いを受けること」
出典はNCNP精神保健研究所「スティグマについて」です。

押さえたいのは1点。
スティグマは「否定的なレッテル」と「不当な扱い」がセットになった状態です。

頭の中で「なんとなく怖い」と思うだけなら、まだ本人には届きません。
その思いが採用の見送りや距離を置く態度に変わったとき、実害が生まれます。

つまりスティグマは、心の中の問題であると同時に、社会の中で起きる出来事でもあります。
だからこそ「気をつけましょう」という呼びかけだけでは、なかなか減りません。

語源は古代ギリシャの「烙印」

スティグマ(stigma)の語源は、古代ギリシャで使われた「印(しるし)」です。
NCNPの解説によれば、身分の低い者や犯罪者を識別するため、体に強制的に付けられた印を指しました。

本人の意思とは無関係に、外から一方的に刻まれるもの。
その構造は、現代の「レッテル貼り」にもそのまま引き継がれています。
日本語で「烙印を押される」と訳されるのは、この語源によるものです。

「スティグマ」「偏見」「差別」「レッテル」の違い

この4語は近い意味ですが、指している範囲が違います。
スティグマは、偏見と差別の両方を含む、より大きな概念だと捉えると整理しやすくなります。

用語指しているもの
レッテル特定の属性に貼られる決めつけのラベル「あの人はトウシツだから」
偏見根拠のない否定的な認識・感情(心の中)「何をするかわからなくて怖い」
差別偏見に基づく不利益な行為(行動)病名を理由に採用を見送る
スティグマレッテル・偏見・差別・不利益が連鎖した状態全体受診をためらい、回復が遅れる構造

偏見は「思うこと」、差別は「すること」。
スティグマは、その両方が社会の仕組みの中で固定化された状態を指します。

スティグマの3つの種類(公的・自己・構造的)

スティグマは、誰が誰に向けるかによって3つに分類されます。
この3つは独立しておらず、互いを強め合う関係にあります。

1. 公的スティグマ(パブリックスティグマ)

公的スティグマは、社会の多数派が特定の集団に向ける否定的な認識や態度です。
NCNPはこれを「市民のスティグマ」と呼び、精神疾患を持つ人も持たない人も含まれると説明しています。

ここが見落とされやすいところ。
偏見を向ける側と向けられる側は、はっきり分かれているわけではありません。
当事者自身も、社会の空気を吸って育つ以上、同じイメージを内側に持っています。

2. 自己スティグマ(セルフスティグマ)

自己スティグマは、社会の否定的なイメージを本人が自分に当てはめてしまう状態です。
NCNPは、これをさらに4つに分けて整理しています。

  • 知覚したスティグマ ― 「世間はこう思っているはずだ」という認識
  • 経験したスティグマ ― 実際に差別的な扱いを受けた経験
  • 予期するスティグマ ― これから差別されるのではないかという不安
  • 内面化されたスティグマ ― 否定的な評価を自分の価値として取り込んだ状態

この4分類は、診察の場面でとても役に立ちます。
「実際に何か言われた経験がありますか」と伺ってみる。
すると多くの方が、実体験ではなく予期するスティグマで動いていたと気づかれます。

まだ起きていない差別を、先回りして恐れてしまう。
それが受診や復職を遅らせているケースは少なくありません。

3. 構造的スティグマ

構造的スティグマは、制度や慣行の中に埋め込まれた不利益です。
NCNPは、精神疾患があることを理由に適切な身体疾患の治療が受けられない状況を例に挙げています。

誰も悪意を持っていないのに、結果として不利益が生じる点が厄介なところ。
個人の心がけでは動かせない層にあるため、制度そのものを変える必要があります。

この「個人の意識では届かない層がある」という感覚は、SNSでも語られています。
見田宗介『まなざしの地獄』を引いた@koheinet608さんの投稿が、その一例。

心理レベルの「まなざしの恐怖」は緩和できる。
けれど社会構造が生む「まなざしの地獄」は、個人の認知だけでは解決できない――。
構造的スティグマの本質を言い当てた整理だと感じます。

スティグマは、一人ひとりの心がけだけでは消えません。
制度を変える議論が、必ずセットで必要になります。

スティグマの具体例 ― 精神疾患から糖尿病まで

スティグマは精神疾患に限った話ではありません。
「本人の努力不足だ」と誤解されやすい状態には、共通してスティグマが生まれます。

領域貼られやすいレッテル生じる不利益
統合失調症「危険」「何をするかわからない」就労・住居の機会を失う、受診が遅れる
うつ病・適応障害「甘え」「気合が足りない」休職を言い出せず重症化する
認知症「何もわからなくなった人」本人抜きで物事が決められる
依存症「意志が弱い」「自業自得」治療につながらず孤立する
糖尿病「不摂生の結果」受診や病名の開示をためらう
HIV・感染症「不道徳」検査を避け、診断が遅れる

並べてみると、共通点が見えてきます。
いずれも「本人の責任だ」という誤った因果関係が、レッテルの土台にあります。
病気の成り立ちが知られていないほど、その誤解は強くなります。

スティグマが厄介なのは、個人ではなく属性全体に貼られる点です。
発達障害を題材にした自虐的な投稿をめぐる@extrahardlifeさんの投稿を見かけました。

「虐」の対象が「自分」ではなく「自属性」に及ぶ構図は有害だ、という指摘。
一人の語りが、同じ診断名を持つ人すべてのイメージとして受け取られてしまう。
この非対称さこそ、スティグマの正体だと感じます。

統合失調症のスティグマ ―「危険」は統計と一致するのか

結論から申し上げると、「統合失調症=危険」というイメージは、公的統計と一致しません。
ここでは、感情論ではなく数字で確認します。

統合失調症は100人に1人弱の身近な病気

NCNPの「こころの情報サイト」に、推計が示されています。
生涯のうちに統合失調症を発症する人は、人口の0.7%
100人に1人弱という頻度です。

日本の患者数は約80万人とされています(こころの情報サイト「統合失調症」)。
同サイトは、治療の進歩にも触れています。
新しい薬や治療法の開発により、多くの患者さんが長期的な回復を期待できるようになりました。

決して珍しい病気ではありません。
そして、治療が届く病気です。

刑法犯検挙人員に占める割合は0.7%

法務省『令和6年版犯罪白書』に、令和5年の数字が出ています。
刑法犯検挙人員の総数に占める精神障害者等の比率は、0.7%
報道から受ける印象と、実際の数字には大きな開きがあります。

ここでいう精神障害者等とは、精神障害者と精神障害の疑いのある者の合計です。
統合失調症に限った数字ではなく、より広い範囲を含んでいます。

公平を期すために付け加えます。
同白書では、罪名別に見ると放火11.3%、殺人5.9%と比率が高く出る犯罪類型も報告されています。
この差だけを取り出せば、不安を覚える方もいるでしょう。

ただし、検挙人員の統計を「病気の危険度」として読むことはできません。
検挙後の精神鑑定を経て把握される数字であり、通報や責任能力の判断など複数の要因が絡みます。
全体像はあくまで0.7%であり、大多数の当事者は誰も傷つけずに生活しています。

診察室で幻覚や妄想に苦しむ方と向き合ってきた実感として申し上げます。
多くの方が抱えているのは攻撃性ではなく、強い恐怖と孤立感です。
症状については幻聴がみられる原因と対策法でも解説しています。

2002年、病名は「精神分裂病」から変わった

日本精神神経学会は2002年8月、病名を変更しました。
1937年から使われてきた「精神分裂病」から「統合失調症」へ。

きっかけは1993年、全国精神障害者家族連合会からの要望でした。
経緯は日本精神神経学会「呼称変更の経緯」に記されています。

「精神が分裂する病気」という呼び名は人格否定的で、本人にも告げにくい――。
そうした声が、病名を動かしました。

もっとも、名前を変えれば偏見が消えるわけではありません。
SNSでは今も、略語による揶揄が見られます。
名称を変えても差別意識そのものが変わらなければ元の木阿弥だ、という声もあります。

言葉は入り口にすぎません。
そこから先は、社会の側の課題。

スティグマが引き起こす3つの問題

スティグマの最大の害は、治療から人を遠ざけることです。
医療者の立場から見て、深刻だと感じる順に3つ挙げます。

1. 受診の遅れ

受診の遅れは、最も直接的な被害です。
「精神科に行った」と知られたくない気持ちが、最初の一歩を何年も遅らせます。

統合失調症は、早い段階で治療を始められるほど経過が安定しやすい病気です。
初期のサインについては統合失調症の早期発見に役立つ兆候にまとめました。

2. 自己スティグマによる回復の停滞

症状が落ち着いても、「どうせ自分は働けない」という思いが残ることがあります。
先ほどの4分類でいう、内面化されたスティグマ。
薬では溶けないこの部分が、社会復帰の最後の壁になります。

復職に向けた具体的な進め方は統合失調症と職場復帰支援の最新事例で解説しています。

3. 家族の孤立

スティグマは、支える側にも向かいます。
「身内に精神疾患がいると知られたくない」という思いから、家族が相談先を失うケース。
その結果、受診の判断がさらに遅れます。

ご家族の関わり方については統合失調症患者のための家族教育入門を参考にしてください。

スティグマをなくすには?最も効果があるのは「接触」

研究で効果が確認されている方法は、知識を教えることではありません。
当事者と実際に出会うことです。

大人には「当事者と会って交流すること」が最も効果的

NCNPは、大人で最も効果的な方法を明記しています。
精神疾患を経験した当事者に会って交流することです。
知識の伝達よりも、生身の関わりが認識を変えます。

理由はシンプルだと感じています。
「統合失調症の人」という抽象的な集団は怖い。
けれど「隣の席で働いている◯◯さん」は怖くありません。

レッテルは、固有名詞の前で力を失う。
診察室でも、家族の理解が進む瞬間はたいてい同じ形をしています。

回復した方々の語りは統合失調症患者が語る回復ストーリーに掲載しています。

年代によって効く方法が違う

同じ啓発でも、届き方は年代で変わります。
NCNPは学校教育の取り組みについて、次の知見を示しています。

  • 12〜13歳では、体験談を聞くだけではスティグマの軽減がほとんど見られない
  • 高校生では、当事者との双方向のやりとりや、よく設計された動画が有効

話を聞かせれば伝わる、という前提は成り立たないということ。
相手の発達段階に合った方法を選ぶ必要があります。

言葉を「病名」から「人」に戻す

スティグマを生まないよう言葉の選び方を見直すイメージ

日常でできる最も小さな一歩は、主語を変えることです。
「統合失調症の人」ではなく「統合失調症のある人」。
病名ではなく人を主語にするだけで、相手は属性ではなく個人として立ち上がります。

「精神が弱い」「変な人」といった言い回しは避けてください。
冗談のつもりでも、その場にいる誰かの受診をためらわせているかもしれません。

セルフスティグマに気づくためのセルフチェック

自己スティグマは、自覚しにくいところが厄介です。
以下は診察の場で私が実際に確認している視点を、ご自身で振り返れる形にしたものです。

  • 「病気のことを知られたら、今の関係は終わる」と感じている
  • 実際に何か言われたわけではないのに、言われる場面を何度も想像してしまう
  • 「自分には無理だ」と、挑戦する前に候補から外している
  • 調子が良い日でも、「どうせまた戻る」と先回りして考えてしまう
  • 受診や服薬を、人に隠すために生活の予定を変えている

当てはまる項目が多いほど、症状ではなくスティグマが行動を決めている可能性があります。
ここで大切なのは、当てはまること自体を責めないこと。
社会の側のイメージを引き受けてしまっただけであり、あなたの弱さではありません。

気持ちがつらく、消えてしまいたいと感じるときは、一人で抱えないでください。
厚生労働省の「まもろうよ こころ」が、無料の相談窓口を案内しています。

  • #いのちSOS ― 0120-061-338(24時間対応)
  • よりそいホットライン ― 0120-279-338(24時間対応)
  • こころの健康相談統一ダイヤル ― 0570-064-556

よくある質問

スティグマについて、診察室でよくいただく質問にお答えします。
気になる項目からお読みください。

Q. スティグマとは、簡単に言うと何ですか?

A. ある特徴を理由に否定的なレッテルを貼られ、実際に不当な扱いを受けることです。「思われるだけ」ではなく、就労や受診の機会を失うといった不利益を伴う点が特徴です。

Q. スティグマと偏見・差別の違いは何ですか?

A. 偏見は心の中の否定的な認識、差別はそれに基づく行為を指します。スティグマは、レッテル・偏見・差別・不利益が連鎖して固定化した状態全体を指す、より広い概念です。

Q. セルフスティグマとは何ですか?

A. 社会の否定的なイメージを、本人が自分に当てはめてしまう状態です。国立精神・神経医療研究センターは4つに整理しています。知覚したスティグマ、経験したスティグマ、予期するスティグマ、内面化されたスティグマです。

Q. 統合失調症の人は危険なのですか?

A. 統計とは一致しないイメージです。法務省『令和6年版犯罪白書』によると、令和5年の刑法犯検挙人員に占める精神障害者等の比率は0.7%。大多数の方は、治療を受けながら地域で生活しています。

Q. スティグマを減らすには何が効果的ですか?

A. 当事者と実際に出会うことです。国立精神・神経医療研究センターは、大人では当事者に会って交流するのが最も効果的だとしています。知識を伝えるだけの啓発より、実際の関わりが認識を変えます。

Q. 家族が偏見を恐れて受診を拒みます。どうすればよいですか?

A. 「病院に行こう」と説得しないでください。眠れない、食べられないなど、生活上の困りごとに焦点を当ててお話しください。ご本人が来られない段階でも、ご家族だけでのご相談を受け付けています。

まとめ ― スティグマは「知らないこと」から生まれる

スティグマとは、否定的なレッテルと不当な扱いがセットになった状態です。
公的・自己・構造的の3層に分かれ、互いを強め合います。

統合失調症は、100人に1人弱が経験する身近な病気です。
刑法犯検挙人員に占める精神障害者等の比率は0.7%にとどまります。

スティグマは「知らないこと」から生まれます。
この事実は、裏を返せば希望でもあります。
知り、出会うことで、確実に薄くなるからです。

そして、あなた自身がスティグマに縛られる必要はありません。
「どう思われるか」で受診を先延ばしにしている方に、私はいつもこうお伝えしています。
早く相談したほうが、選べる選択肢は多く残ります。

ヒロクリニック心療内科では、川口院・池袋駅前院で診療を行っています。
ご本人が受診をためらう段階でも、ご家族だけでのご相談が可能です。
診断書の発行にも対応しています。

お電話は 048-430-7000。公式LINE でもご相談を受け付けています。

参考文献

監修: ヒロクリニック心療内科 編集部/運営統括: 岡 博史(医師・医学博士)
本記事は一般的な情報提供を目的としています。診断・治療については医療機関にご相談ください。

医師監修 監修日:2025年10月22日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。