「運動が体にいいのは分かる。でも、統合失調症に効くの?」
外来でよく受ける質問です。答えははっきりしています。運動には効果が確認されている症状と、そうでない症状があります。この差を知らないまま始めると、続きません。

この記事では、統合失調症と運動の関係を研究データに沿って整理します。何にどれくらい効くのか。逆に、期待しすぎないほうがよい点はどこか。薬の副作用で動けない日にどうするかまで、実際の外来での視点を交えて解説します。

この記事でわかること

  • 運動が効く症状(陰性症状・気分・生活の質)と、結論が割れている症状(認知機能)の違い
  • 運動がすすめられる本当の理由が「身体の合併症対策」でもあること
  • 週に何分、どんな運動をすればよいかの具体的な目安
  • 薬の副作用や気分の波で動けない日に、何をどう変えればよいか

統合失調症の運動療法は「薬の代わり」ではありません

最初に結論をお伝えします。運動は薬物療法に上乗せする補助的な方法であり、薬の代わりにはなりません。

研究の世界でも、運動は「add-on treatment(上乗せ治療)」と位置づけられています。土台にあるのは、あくまで抗精神病薬による治療です。運動はその土台の上に積む一手。順番が逆になることはありません。

ここは強調させてください。調子がよくなったと感じても、自己判断で薬を減らしたり中断したりしないでください。統合失調症では服薬の中断が再発の大きな引き金になります。運動を始めたことが、減薬の理由にはなりません。

薬の種類や新しい治療の選択肢については、統合失調症の治療で注目される新薬情報で詳しく解説しています。減薬や変更を考えたときは、この記事ではなく主治医に相談してください。

そもそも統合失調症とは(ここでは最小限に)

統合失調症では、幻覚や妄想などの陽性症状が現れます。あわせて、意欲の低下や感情表出の減少といった陰性症状も生じます。厚生労働省のこころもメンテしようでも、薬物療法と心理社会的療法の組み合わせが基本と説明されています。

症状や初期のサインの見分け方は、この記事の範囲を超えます。詳しくは統合失調症の早期発見に役立つ兆候とはをご覧ください。ここからは運動の話に絞ります。

お電話でのご相談は 048-430-7000/公式LINEからもご予約いただけます。

運動が効く症状・効きにくい症状|メタ解析でわかっていること

最も確かな効果は陰性症状に対するもので、認知機能への効果は研究によって結論が分かれています。

ここは他の解説記事があまり書かない部分です。しかし当事者にとっては、いちばん知りたい情報だと考えています。順に見ていきます。

陰性症状・気分・生活の質には効果が出ている

29の研究、のべ1,109人を統合したメタ解析があります(Dauwan ら、PMID: 26547223)。運動は対照群と比べ、複数の指標を有意に改善していました。

効果量(Hedges’ g)は、0.2で小さい、0.5で中程度が目安です。数字の大きさより「どの症状に効いたか」に注目してください。

改善が確認された項目効果量(g)対象人数
抑うつ症状0.71337人
生活の質(QOL)0.55770人
陰性症状0.49854人
総合的な症状の重さ0.39719人
全般的機能0.32342人
陽性症状0.32715人
出典:Dauwan M, et al. Schizophr Bull. 2016;42(3):588-99.(PMID: 26547223)

注目したいのは陰性症状の0.49という数字です。意欲が湧かない、感情が動きにくいといった症状は、薬が効きにくいことで知られています。そこに中程度の効果が出た意味は小さくありません。

この論文は運動を「robust add-on treatment」と表現しています。確かな上乗せ治療、という意味です。繰り返しますが、代替ではなく上乗せ。ここが要点です。

認知機能への効果は、研究どうしで食い違っている

正直にお伝えします。認知機能への効果は、メタ解析どうしで結論が一致していません

先ほどのDauwanらの解析を見ます。ヨガは長期記憶を改善しました(g=0.32)。しかし、それ以外の運動は認知機能に効果を示していません。ところが翌年、別のメタ解析が逆の結果を報告します。

10試験・385人を対象にした解析です(Firth ら、PMID: 27521348)。運動は全般的認知機能を有意に改善しました(g=0.33、95%信頼区間0.13-0.53)。内訳は作業記憶0.39、社会的認知0.71、注意・覚度0.66。ただし処理速度や言語記憶では有意差が出ていません。

この研究には続きがあります。運動量が多いほど効果が大きく、専門職の指導つきだと効果量は0.47まで上がりました。つまり「やり方次第」という条件つきの結果です。

私たちの外来でも、運動を始めた方が「頭のもやが晴れた気がする」と話されることはあります。ただ、それを全員に約束はできません。認知機能については「効くかもしれない、条件による」が現時点の誠実な答えです。

国際的な指針はどう言っているか

欧州精神医学会(EPA)は2018年、指針を公表しました(Stubbs ら、PMID: 30257806)。重い精神疾患に対する身体活動の位置づけを整理したものです。

統合失調症スペクトラムについては、有酸素運動が精神症状を軽くすると整理。認知機能と心肺体力の改善も認めています。一方で、体重や体格の指標への影響は「一貫していない」と明記。期待と現実の線引きが、指針レベルでもなされています。

運動がすすめられるもう一つの理由|身体合併症への備え

症状の改善と並ぶ、あるいはそれ以上に大きな理由が、身体の合併症を防ぐことです。

統合失調症の治療では、心の症状に目が向きがちです。しかし長期的な健康を考えると、身体のケアが治療の一部になります。

メタボリックシンドロームのリスクが高まりやすい

198の研究、のべ52,678人を統合した解析があります(Vancampfort ら、PMID: 26407790)。重い精神疾患のある方のメタボリックシンドロームの有病率は32.6%でした(95%信頼区間30.8-34.4%)。

条件をそろえた一般人口と比べると、リスク比は1.58倍(95%信頼区間1.35-1.86)。同じ解析には続きがあります。抗精神病薬を服用中の方は、未服用の方より有意にリスクが高いという結果です。

薬の副作用による体重増加は、実際に多くの方が経験されます。ただし、どの薬がどう影響するかは薬剤ごとに異なります。詳細は統合失調症の治療で注目される新薬情報と主治医の説明にゆだねます。

ここでお伝えしたいのは一点だけ。体重や血糖の変化は、薬をやめて解決するものではありません。運動と食事、そして定期的な検査で管理していくものです。

長期的な健康格差というデータ

不安にさせたい話ではありません。ただ、運動がすすめられる背景を知っておくことには意味があります。

11の研究、最大247,603人を対象とした解析があります(Hjorthøj ら、PMID: 28237639)。統合失調症のある方の平均余命は64.7歳と報告されました。失われる年数は加重平均で14.5年。その主な原因は精神症状そのものではありません。心血管疾患などの身体疾患です。

裏を返せば、ここは変えられる部分だということ。喫煙・運動不足・体重増加は、どれも対処のしようがある要因です。運動が「症状のため」だけでなく「身体を守るため」にすすめられる理由が、この数字にあります。

週にどれくらい動けばよいか|運動量と種類の目安

厚生労働省は成人に1日60分以上の身体活動を示していますが、まずはそこを目指さなくて構いません。

目標と現実の差を先に確認しておきます。そのほうが、無理な計画を立てずにすみます。

公的な目安(成人)

厚生労働省の健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023は、成人向けに次の推奨事項を示しています。

項目成人の推奨事項
身体活動3メッツ以上の身体活動を1日60分以上(1日約8,000歩以上)=週23メッツ・時以上
運動息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上=週4メッツ・時以上
筋トレ筋力トレーニングを週2〜3日
座位行動座りっぱなしの時間が長くなりすぎないように注意する
全体の方向性個人差を踏まえ、強度や量を調整し、可能なものから取り組む
出典:厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023(概要)」

同じガイドが全体の方向性として掲げているのが、「今よりも少しでも多く身体を動かす」という一文です。8,000歩は到達点であって、出発点ではありません。

現実とのギャップを知っておく

では、実際はどうか。69の研究、のべ35,682人を調べた解析が答えを出しています(Vancampfort ら、PMID: 28941119)。

重い精神疾患のある方は、起きている時間のうち1日平均476分を座って過ごしていました。約8時間です。中〜高強度の身体活動は1日38.4分。いずれも健康な対照群より有意に不良でした。

この解析では、統合失調症という診断そのものが身体活動の低さと関連していました。つまり、動けないのは意志の弱さではありません。病気の特性と、治療に伴う現実の結果です。

何から始めるか

種類ごとの特徴を整理します。どれか一つを選んで、週2回から始めてください。

種類具体例目安向いている場面
有酸素運動散歩、自転車、水中歩行1回15〜20分・週2〜3回から症状全般。研究の中心はここ
ヨガ・ストレッチ就寝前の10分間週2〜3回緊張が強い、眠りが浅い
筋トレ(自重)スクワット、膝つき腕立て週2〜3日体重・筋力の維持
生活の中の活動1駅分歩く、階段を使う毎日少しずつ外出のハードルが高い日

睡眠の悩みが強い方は、運動の時間帯も影響します。統合失調症と睡眠障害の深い関連を探るもあわせて参考にしてください。

統合失調症の運動療法として無理のないペースで歩く人

薬の副作用や不調で動けない日をどう扱うか

動けない日は、運動量を減らすのではなく、運動の形そのものを変えてください。

「運動しましょう」と書く記事は多くあります。けれど、なぜ動けないのかに踏み込む記事は多くありません。ここが実際にはいちばんの壁です。

動けなさには理由がある

抗精神病薬には、眠気やだるさ、立ちくらみなどが出ることがあります。なかでも運動と相性が悪いのがアカシジア(静座不能)です。じっとしていられず、そわそわして動き回りたくなる状態を指します。

Xでは、当事者の方がこの現実をそのまま書いています。陰性症状で具合の悪い日。そしてアカシジアで歩きたくて仕方ない日。その朝散歩ほどしんどいものはなかったと、@tukumotukune999さんが投稿しています(2026年7月13日)。

この感覚は診察室でもよく聞きます。外から見ると同じ「歩けていない」でも、中身がまるで違う。陰性症状で動けない日と、アカシジアで落ち着かない日は、対処法も別です。

だからこそ、動けない日が続くときは我慢せず主治医に伝えてください。副作用が原因なら、調整で変わることがあります。運動が続かない原因が薬にある可能性を、一人で抱え込まないでください。

急性期は運動より治療が優先

幻覚や妄想が強く出ているとき、眠れず消耗しているときは、運動を勧められません。この時期に必要なのは休養と治療です。

研究で効果が示されているのは、症状が比較的落ち着いた時期に、専門職の指導のもとで行われた運動です。調子の波が大きいときは、運動の開始そのものを先延ばしにして構いません。

不安や緊張が強い時期の過ごし方については、統合失調症とストレス管理の実践的手法で解説しています。

動けない日の「代わりの一手」

ゼロか100かで考えないでください。座位時間を少し削るだけでも、ガイドの方向性には合っています。

  • ベランダに出て2分だけ光を浴びる
  • 座ったまま足首を回す、肩を回す
  • 1時間に1回、立ち上がって台所まで歩く
  • 洗濯物を干す、ゴミを出す(生活活動も身体活動です)

どれも「運動」と呼ぶには小さすぎると感じるかもしれません。それでも、座りっぱなしを断ち切る行動として意味があります。

運動が続いている人がしている工夫

続いている方に共通するのは、「毎日30分」ではなく「暑い日は5分」と決めている点です。

私たちの外来で長く運動を続けている方を見ていると、意志が強いから続いているわけではないと分かります。続く仕組みを持っているだけ。その中身を3つ挙げます。

1. 上限ではなく下限を決める

「30分歩く」と決めると、20分で切り上げた日が失敗になります。「5分でも玄関を出たら合格」と決めると、失敗の日が消えます。

Xで日々の様子を発信している@ai_ai_2023さんの投稿が目にとまりました。猛暑の朝に「暑いから散歩は少しだけ」と書き添えています(2026年7月17日)。行かない日を作らず、量のほうを下げる。続けている方の発想がよく表れています。

5分でも「できた」に数えてください。この線引きが、3か月後の差になります。

2. 記録して、変化を目に見えるようにする

統合失調症では、日々の変化を本人が実感しにくいことがあります。だからこそ記録して見える化することが支えになります。

カレンダーに○をつけるだけで構いません。気分や睡眠を一言添えておくと、「歩いた日は寝つきがよい」といった自分だけの傾向が見えてきます。診察のときに持参していただけると、こちらも状態を把握しやすくなります。

3. 一人で始めない

先ほどのFirthらの解析では、専門職の指導つきの運動で効果量が0.47まで上がりました。一人でやるより、誰かと一緒のほうが効果が出やすいということです。

デイケアの運動プログラム、訪問看護、地域の健康教室。使える場は思ったより多くあります。制度や地域の支援については、統合失調症リカバリーを支える地域支援にまとめました。

ご家族が一緒に歩くのも有効です。声のかけ方に迷う場合は、統合失調症患者のための家族教育入門が参考になります。「運動しなさい」ではなく「一緒に行く?」のほうが続きます。

運動を始めてよい時期かどうか、ご相談ください。お電話は 048-430-7000/公式LINEでも受け付けています。

よくある質問

外来で実際に聞かれることの多い質問をまとめました。

Q. 統合失調症でも運動していいですか?

A. 症状が落ち着いている時期であれば、多くの方が取り組めます。ただし急性期や、強い眠気・立ちくらみがあるときは避けてください。開始前に主治医へ一言確認すると安全です。

Q. どんな運動がいちばん効果がありますか?

A. 研究の中心は散歩などの有酸素運動です。陰性症状や生活の質の改善が確認されています。緊張が強い方にはヨガも選択肢になります。続けられる種目が、結局いちばん効果的です。

Q. どれくらいの時間、運動すればいいですか?

A. 厚生労働省の成人向けの目安は1日60分以上の身体活動(約8,000歩)です。到達点として覚えておき、実際は1回15〜20分・週2〜3回から始めてください。

Q. 運動を続ければ薬をやめられますか?

A. やめられません。運動は薬物療法に上乗せする補助的な方法として研究されており、代わりになるという根拠はありません。自己判断での中断は再発の引き金になります。

Q. 意欲が湧かず、まったく動けません。

A. それは意志の問題ではありません。陰性症状や薬の副作用が背景にあることが多いためです。研究でも、統合失調症の診断は身体活動の低さと関連していました。まず主治医に伝えてください。動けない理由の切り分けが先です。

Q. 薬で体重が増えました。運動で戻せますか?

A. 運動だけで元に戻るとは限りません。欧州精神医学会の指針も、体格指標への効果は一貫しないとしています。それでも血糖や心肺体力の管理には役立ちます。食事や定期検査と組み合わせ、薬の調整は主治医と相談してください。

まとめ|運動は治療に「上乗せ」する一手

統合失調症における運動は、薬物療法を土台としたうえで積み上げる補助的な方法です。

この記事の要点を振り返ります。効果が確かなのは陰性症状・気分・生活の質。認知機能については研究間で結論が割れており、条件つきの期待にとどめるのが誠実な見方です。

そしてもう一つの理由が、身体合併症への備えでした。メタボリックシンドロームの有病率32.6%という数字。運動が「心のため」だけのものではないと分かります。

始めるときは、1回15〜20分・週2〜3回から。動けない日は量を下げ、形を変える。それでも動けない日が続くなら、副作用の可能性を主治医に伝えてください。運動を始める前に、いまが始めてよい時期かどうかを主治医に確認してください

回復までの道のりを他の方がどう歩んだかは、統合失調症患者が語る回復ストーリーでも紹介しています。

ヒロクリニック心療内科(川口院・池袋駅前院)では、統合失調症の診療と生活面のご相談に対応しています。運動を始めてよい時期か迷ったときは、次の診察でお尋ねください。ご予約は 048-430-7000、または公式LINEから承ります。

気持ちがつらく、誰かにすぐ話したいときは、いのちの電話(フリーダイヤル 0120-783-556・無料)をご利用ください。厚生労働省のまもろうよ こころにも、各種の窓口が掲載されています。

参考文献

  • Dauwan M, et al. Exercise Improves Clinical Symptoms, Quality of Life, Global Functioning, and Depression in Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-analysis. Schizophr Bull. 2016;42(3):588-99.(PMID: 26547223)
  • Firth J, et al. Aerobic Exercise Improves Cognitive Functioning in People With Schizophrenia: A Systematic Review and Meta-Analysis. Schizophr Bull. 2017;43(3):546-556.(PMID: 27521348)
  • Stubbs B, et al. EPA guidance on physical activity as a treatment for severe mental illness. Eur Psychiatry. 2018;54:124-144.(PMID: 30257806)
  • Vancampfort D, et al. Risk of metabolic syndrome and its components in people with schizophrenia and related psychotic disorders, bipolar disorder and major depressive disorder: a systematic review and meta-analysis. World Psychiatry. 2015;14(3):339-47.(PMID: 26407790)
  • Vancampfort D, et al. Sedentary behavior and physical activity levels in people with schizophrenia, bipolar disorder and major depressive disorder: a global systematic review and meta-analysis. World Psychiatry. 2017;16(3):308-315.(PMID: 28941119)
  • Hjorthøj C, et al. Years of potential life lost and life expectancy in schizophrenia: a systematic review and meta-analysis. Lancet Psychiatry. 2017;4(4):295-301.(PMID: 28237639)
  • 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
医師監修 監修日:2025年10月22日

佐々木先生 (ささき)

医師・医学博士 ヒロクリニック医師

略歴

  • 2008年 佐賀大学卒業
  • 2019年 ヒロクリニック心療内科

資格・所属

  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本精神神経学会指導医
  • 精神保健指定医

この記事は、ヒロクリニック心療内科の編集・監修体制にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。