季節性の体調不調、「夏バテ」があるように寒さの厳しい時季には「冬バテ」が起こりやすいといわれています。またその症状は夏バテよりも深刻となるケースも少なくありません。この記事では冬バテの原因と治療法を医師が解説いたします。

冬バテとは

暑い季節に起こる食欲低下や、身体のだるさなどを引き起こす夏バテがあるように、寒い季節には冬バテといわれる季節性の体調不良が引き起こります。「バテ」とは、もちろん医学用語ではありません。元は「果てる」が語源とされ、ヘトヘトに疲れ、まさに精も根も尽き果てた状態を表すといえるでしょう。

夏バテのおもな症状は食欲低下・不眠・倦怠感などが挙げられます。一方、冬バテに多く見られる症状は、疲労感・倦怠感・頭痛・肩こり・不眠のほか、風邪やインフルエンザなどの感染症を繰り返してしまうことが特徴とされています。

冬バテのおもな原因

冬バテはおもに秋から冬へにかけて引き起こることが多いとされています。厳しい残暑から突然の冬日など、その寒暖差により自律神経が乱れ、さまざまな症状(体調不良)があらわれるといえるでしょう。また、室内でも暖房のきいた部屋から寒い風呂場への移動なども、身体にとっては急激な寒暖差となります。

自律神経の乱れとは

自律神経とは、体温調節・心臓・呼吸・消化など、ヒトが生きていく上で欠かすことのできない機能を無意識下でコントロールしている神経のことです。

自律神経は「交感神経(興奮や緊張)」と「副交感神経(リラックス)」の2種類の神経がバランスをとりながら、身体の機能調節を行なっています。仕事や運動時には交感神経が優位となり、休憩や睡眠時には副交感神経が優位となります。自律神経の乱れとは、このバランスが崩れ、身体に大きな負荷がかかることです。

冬バテの原因は寒暖差による自律神経の乱れ

体温調節を司る自律神経は、冬場の寒暖差により一日中、交感神経と副交感神経のスイッチを絶え間なく切り替えている状態です。これらの状態が全身の臓器に大きな負荷を与え、さまざまな症状を引き起こします。これらのことから冬バテとは、寒暖差による自律神経の乱れが原因といえるでしょう。

冬バテのおもな症状

冬バテは自律神経の乱れから引き起こされるため、自律神経失調症と似た症状が多く生じます。

  • 倦怠感
  • 頭痛
  • 肩こり
  • 動悸
  • めまい
  • 不眠(寝付きが悪い/眠りが浅い)
  • 食欲不振または食欲過多
  • イライラ
  • 気持ちが晴れない
  • 集中力低下
  • 疲労(疲れが抜けない)
  • 冷え
  • 下痢
  • 便秘
  • 感染症に罹患しやすい

冬バテの症状はさまざまであり、上記の症状が同時に生じることも多く見られます。倦怠感や肩こりなど、受診を迷うような軽微な症状であったとしても、治療の遅れによって慢性化することも少なくありません。季節の変わり目に心身の不調を感じた際は、早めに診察を受けることが大切です。

冬に風邪をひきやすい理由

気温の下がる冬は風邪やインフルエンザ、ウイルス性胃腸炎などの感染症罹患率が上昇するとされています。ヒトの健康は体温に左右されるともいわれ、体温が1℃下がると免疫力が約30%低下するとともに、基礎代謝も約10%低下するとされています。

免疫力とは体内に侵入したウイルスや菌などを排除する役割をもちます。しかし、冷えや加齢などにより免疫力が低下することで、さまざまな病気を引き起こします。また、基礎代謝とは生命活動に最低限必要とされるカロリー(エネルギー)のことです。特別な運動をせずとも脳や心臓・肝臓などの臓器を動かし、体温維持などに消費されるカロリーであることから、基礎代謝の低下はすべての身体機能が下がることといえます。

寒さによる冬バテが長く引くことで自律神経が乱れ、冷えを招き、それが風邪やインフルエンザなどの感染症を引き起こすことも少なくありません。これらのことから、冬バテの悪化を防ぐためにも身体を温め、体温を一定に保ち免疫力の低下を防ぐことが何よりも大切といえるでしょう。

冬バテによる気分の落ち込みと、うつ病の違いとは

冬バテの症状の中には「気分の落ち込み」「やる気や集中力の低下」が挙げられます。これらの症状は冬季うつ・ウインターブルーなどとも呼ばれ、うつ病と共通する症状があるものの、厳密にはうつ病と異なる診断がなされます。

冬バテによる気分の落ち込み

  • 気分の落ち込み
  • 気力減退
  • 集中力低下
  • イライラ
  • 倦怠感
  • 不眠
  • 趣味等が楽しめない など

うつ病

  • 気分の落ち込み
  • 気力減退
  • 集中力低下
  • イライラ
  • 倦怠感
  • 不眠
  • 趣味等が楽しめない
  • 不安
  • 焦燥感
  • 食欲低下
  • 体重減少などにより、社会的もしくは職業的に困難が生じている状態

なお、うつ病には米国精神医学会DSM5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)による明確な診断基準が存在します。症状が冬バテによる気分の落ち込みによるものか、うつ病によるものかは自己判断せず、早期に心療内科を受診しましょう。

寒さ到来の前に冬バテ対策

冬バテは寒暖差による自律神経の乱れを原因とします。そのため、季節の変わり目に体温を一定に保つことが、最も重要な冬バテ対策といえるでしょう。また、自律神経を整えるためにストレスをためない・解消法を見つける、血行を促すための適度な運動、冷たい食べ物を避けた食事など、生活習慣を見直すことが大切です。

なお、コーヒーや紅茶などは温かい飲み物であっても、カフェインにより交感神経が刺激され、自律神経の乱れを招くおそれもあります。カフェインの過度な摂取や就寝前の飲用には注意が必要です。

またアルコールやタバコに含まれるニコチンも同様に、交感神経を刺激する作用があります。これらの刺激物は自律神経へ影響を与えるだけでなく、他の重篤な疾患を引き起こす原因とされています。

冬バテの受診科について

冬バテのおもな原因は自律神経の乱れにあります。寒暖差の激しい秋から、寒さが増す冬にかけて頭痛やイライラ、風邪などの感染症を繰り返してしまうといった冬バテ症状があらわれた場合は、心療内科を受診しましょう。

冬バテの治療方法や内服薬について

冬バテの症状には個人差があり、いくつかの症状が同時に生じるケースも少なくありません。おもな治療方法として、食事や就寝時間などの生活指導が行われ、頭痛やめまいなど症状ごとに対症療法(症状を緩和するための治療)が行われます。

自律神経に作用する漢方も市販薬として多く発売されています。しかし、正しい治療を行うためには、自律神経の乱れが寒暖差によるものか、ホルモンバランスによるものかを診察する必要があります。安易な自己判断と市販薬によるセルフケアは、症状によっては悪化を招くこともあるでしょう。冬バテ症状があらわれた際は、必ず医師の診察により適切な検査と治療を行うことが大切です。

冬バテなど季節性の心身の不調は早期受診を

冬バテは風邪やインフルエンザなどの罹患率も上昇します。ヒロクリニック心療内科のほか内科も併設されているため、冬場に感染症を繰り返してしまう場合は、症状などをご相談ください。

冬バテに限らず、季節の変わり目は寒暖差により自律神経が乱れ、心身の不調を招きやすいとされています。年間を通し、心身ともに健やかな生活を送るためには、体温の安定やバランスの良い食事と適度な運動を心がけましょう。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医