春を迎える頃に多く耳にする五月病。新年度の環境変化に心が追いつかず鬱々とした状態を指しますが、放置することで悪化し、適応障害やうつ病を引き起こすことも少なくありません。この記事ではストレスによっておこる心の病気について医師が解説いたします。

五月病の原因は環境変化による心のゆらぎ

五月病とは新年度の進学や就職、転居などの環境変化に心が追いつかず、学生および新入社員が「学校や会社に行きたくない」「気分がふさぎ体調が優れない」など、憂うつな状態のことをいいます。また、ゴールデンウィーク明けに、これらの症状を訴える方も多くいらっしゃいます。

五月病は一般的に”軽いうつ病”ともいわれますが、医学的にはストレスを起因とする適応障害といえるでしょう。適応障害は放置することで、うつ病へと移行することも少なくありません。

適応障害とは

適応障害とは特定可能なストレスを起因とする心の病気のことです。入学や入社または転職を始めとし、結婚・離婚・死別など、これまでいた環境と異なる状況がストレスとなり、気分が落ち込んだり、からだの不調によって日常生活に支障をきたすとされています。

これらのことから、適応障害は学生や新入社員など若い人だけではなく、性別や年齢を問わず誰もが発症の可能性のある病気といえるでしょう。

なお適応障害の診断基準はDSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル)で定められ、うつ病とは異なる病態となります。

適応障害の診断基準

  • ストレスの原因がはっきりとしている。ストレスが始まってから3ヶ月以内に症状が現れる。
  • ストレスの原因に対して不釣り合いな症状や苦痛。
  • それらの症状によって社会的または、職業的な機能が著しく損なわれている。
  • ほかの精神疾患では説明ができない症状。
  • その症状は正常の死別反応では説明できない。
  • ストレスの原因が終わることにより、6ヶ月以上症状が続くことはない。

上記をすべて満たすことで適応障害と診断されます。なお「死別反応」とは家族やパートナーなど、親しい存在の死別にともなう悲しみや、抑うつ状態のことです。心の病気とは関係なく、正常な感情による反応とされています。

悲しみ・怒り・悩みなど、人は生きていく上でさまざまな感情(反応)が沸き起こります。しかし、それらの反応が過剰でなく、日常生活を送るうえで支障がないのであれば、適応障害とはいえないでしょう。

うつ病とは

うつ病とは、仕事や趣味などの活動に対する興味・喜びが低下し、日常生活に支障をきたすような強い抑うつを感じている状態のことです。

うつ病はおもに強いストレスや、悲しみをともなう出来事などを原因として発症するといわれています。その原因に対して不釣り合いなほど強く、悲しみや抑うつ・不安などを長い期間感じることにより、「仕事中も涙が止まらない」「気分がふさぎ、起き上がることもできず寝てばかり」などの状態により、休職(休学)や退職(退学)を余儀なくされるケースも少なくありません。このほか、うつ病の原因はホルモンバランスや薬の副作用、遺伝などが挙げられます。

適応障害とうつ病の違いとは

適応障害とうつ病には似た症状も多く認められます。しかし、適応障害とうつ病は、診断基準も治療法も異なる病態です。

適応障害の症状

適応障害の症状はストレスとなる原因から離れることにより、症状が軽快しやすいとされています。また、趣味や自身が興味のあることについては楽しむことができます。睡眠や食欲は個人差がありますが、ストレスの原因から離れている場合、問題なくとれているケースも少なくありません。

適応障害の対処法

  • ストレスの原因(場所や人間関係)と距離をおく。
  • 職場環境や生活環境を変える。
  • 自身が最もリラックスできる状態で好きなことをする。
  • 不眠や抑うつ症状が見られる場合は、カウンセリングや症状に対しての投薬などの医療的なケアを行う。

うつ病の症状

うつ病の症状は適応障害と異なり、職場や人間関係などストレスの原因から離れたとしても軽快しづらいとされています。適応障害の場合、自身の好きなことや趣味は楽しむことができますが、うつ病はこれまで好きだったことや、楽しかったことへの興味が失われてしまいます。また不眠や食欲減退なども挙げられます。

うつ病の治療

  • カウンセリングや投薬など、医療的なケアが必要。

適応障害によるおもな症状

適応障害の症状は個人差があり、うつ病と似た症状も多く挙げられます。いずれも早期の診察と適切な治療が大切です。気分がふさぐ、抑うつ的、不眠や食欲低下(もしくは過食)などの症状が続いた際は、すみやかに心療内科で診察を受けましょう。

適応障害の心の症状

  • 気分の落ち込み
  • 不安感
  • 訳もなく涙が出て止まらない
  • イライラする(焦燥感)
  • 集中力の低下

適応障害のからだの症状

  • 食欲不振もしくは過食 
  • 動悸や頭痛、倦怠感
  • ストレス原因が学校や職場にある場合、遅刻や欠勤などを繰り返す
  • 人と会いたくない、メールや電話のやりとりが苦痛
  • 他人に対して攻撃的になる(暴言や暴力など)

適応障害になりやすい人の特徴

適応障害はストレスを原因とする心の病気です。環境の変化が怖い、気が弱いなどストレス耐性が低い人や、完璧主義であったり真面目な人ほど、適応障害になりやすいといわれています。なお、DSM-5によると適応障害の男女比率は1:2とされ、独身女性に多く見られる症状といわれています。

身近な人が適応障害となった場合の対策と接し方

家族や職場の同僚が適応障害と診断された場合、ストレスを原因とする病気であることを理解することが最も大切です。たとえば職場でのパワハラがストレスの原因であれば、パワハラ行為者と被害者との距離を保つよう配置換えを行う、出社を強制するのでなく可能な限り、在宅勤務を行える環境に整えることなどが挙げられるでしょう。

家族であれば接し方にも注意が必要です。適応障害はうつ病と異なり、自身に興味のあることや趣味を楽しむことができます。個人差はありますが、睡眠や食欲は問題のないケースも少なくありません。その様子を「大人の甘え」や「さぼり癖」などと非難せず、当事者の話に耳を傾け、つらい状況をサポートする姿勢を心がけましょう。

適応障害からうつ病へ

適応障害はストレスの原因の始まりから3ヶ月以内に発症したのち、ストレスの原因が解消され、6ヶ月以上続くことなく軽快する、とされています。しかしストレスとなる環境、または人間関係が改善されず適応障害の症状が長引き、うつ病へ移行することも少なくありません。

適応障害の再発

適応障害はストレスに始まり、ストレスを遠ざけることで、抑うつ状態から抜け出すことが可能とされています。しかし適応障害を発症した原因であるストレスに再び対峙した際、適応障害が再発する可能性は高く、適応障害からうつ病へ移行すると約60%の確率で再発のおそれがあるといわれています。

うつ病発症後の自殺による死亡は6日以内

厚生労働省の報告によると半数以上が、うつ病発症後から6日以内に自殺により死亡するとの調査結果があげられています。ご自身や周囲の方が適応障害と診断が下されたのち、原因となるストレスから離れても抑うつ状態が続く、または不眠や食欲減退が見られるようであれば、すみやかに心療内科で診察を受けることが重要です。

今日からできる適応障害の対策

鉄分が不足するとセロトニンやドーパミンなど、精神を落ち着かせる成分の生成が阻害されるといわれています。また、ビタミンCの不足により疲労や倦怠感が強くなることから、栄養バランスのとれた食事を心がけましょう。

食事以外であればスポーツで汗を流す、カラオケなどで大声を出してストレスを発散させることも、適応障害の対策の一つです。

適応障害の抜け出し方は心療内科に相談を

環境の変化や人間関係など、ストレスを原因として引き起こる適応障害。適応障害を予防する最たるものは「休みたいという心の声に従うこと」といえるでしょう。家族や友人に相談しづらいのであれば心療内科でカウンセリングを受けたり、診断書を学校や会社へ提出し環境や症状が改善するまで休むことが大切です。

「強いストレスにより明るい未来が見えない」「心もからだも重たい泥に沈んだようで抜け出し方が分からない」適応障害がうつ病へと移行する前に、ヒロクリニック心療内科へご相談ください。ストレスの原因を早期に見つけ、心の回復に必要な時間と方法を一緒に考えましょう。


【参考文献】

記事の監修者

佐々木真由先生

佐々木真由先生

医療法人社団福美会ヒロクリニック 心療内科
日本精神神経学会専門医
佐賀大学医学部卒業後、大学病院、総合病院で研鑽をつんだのち、ヒロクリニックにて地域密着の寄り添う医療に取り組んでいる。

経歴

2008年 佐賀大学医学部卒業
2008年 信州大学医学部附属病院
2011年 東京医科歯科大学医学部附属病院
2014年 東京都保健医療公社 豊島病院
2016年 東京都健康長寿医療センター
2018年 千葉柏リハビリテーション病院
2019年〜 ヒロクリニック

資格

日本精神神経学会専門医
日本精神神経学会指導医
精神保健指定医