皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)は、胸や腹部、背中、太ももなど衣服で隠れている部位の腫瘍を切除する手術です。摘出した組織は病理検査に提出し、良性か悪性かを確定させます。
「しこりが大きくなってきた」「痛みや違和感がある」といった理由で受診を検討する方は少なくありません。露出部(顔・首・手など)に比べ、体幹や太ももは整容面より確実な摘出が優先される傾向にあります。
本記事では、対象部位や良性・悪性の見分け方を解説します。手術の流れから費用目安、術後の過ごし方まで、形成外科専門医の監修のもと詳しくご紹介します。専門用語には初出時に説明を添えました。
この記事でわかること
- 「露出部以外」に含まれる具体的な部位
- 良性腫瘍と悪性腫瘍の見分け方の基本
- 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)の手術の流れ
- 手術時間・入院の目安と診療報酬点数に基づく費用感
- 術後の過ごし方と再発を防ぐための注意点
- 「露出部」の手術との違いと使い分け
1. 「露出部以外」とは?対象となる部位
まず、「露出部以外」という言葉が指す範囲を整理しておきましょう。この区分は、保険診療の手術名に使われる正式な分類です。
- 露出部:顔、首、手、前腕、下腿など、衣服で隠れにくい部位
- 露出部以外:胸、腹部、背中、腰、臀部、大腿(太もも)など、普段着で覆われる体幹・四肢の部分
- 整容面(見た目)への配慮は必要ですが、露出部に比べると優先度はやや低く、腫瘍を確実に取りきることが重視されます
同じ「摘出」でも、部位によって重視されるポイントが変わる点がポイントです。衣服に隠れる部位ならではの判断基準といえるでしょう。露出部と露出部以外の違いは、記事後半の「10. 『露出部』の手術との違い」で改めて比較します。
2. 皮膚・皮下腫瘍とは?良性腫瘍と悪性腫瘍の見分け方
「皮膚・皮下腫瘍」とは、皮膚の表面や皮下組織にできる腫瘍の総称です。触れると分かるしこりとして自覚されることが多く、原因や性質によって対応は大きく異なります。
- 良性腫瘍:脂肪腫(しぼうしゅ)、粉瘤(ふんりゅう・アテローム)、線維腫(せんいしゅ)など。ゆっくり大きくなり、転移はしません
- 悪性腫瘍:基底細胞がん、扁平上皮がん、悪性黒色腫(メラノーマ)など。短期間で急速に増大したり、出血や潰瘍を伴ったりすることがあります

見た目だけで良性・悪性を判断するのは、専門医でも容易ではありません。そのため、視診・触診・ダーモスコピー(拡大鏡による観察)で総合的に評価します。最終的には、摘出した組織を顕微鏡で調べる病理検査で確定診断を行います。
病理検査とは、切除した組織を薄く切って染色し、病理医が顕微鏡で細胞の状態を確認する検査です。
| チェックポイント | 良性が疑われる所見 | 悪性を疑う所見 |
|---|---|---|
| 大きさの変化 | 数か月〜数年かけてゆっくり増大 | 数週間〜数か月で急速に増大 |
| 形・表面 | 境界がなめらかで左右対称に近い | 境界が不明瞭・形がいびつ |
| 色調 | 均一な色調(肌色〜黄白色など) | 黒褐色〜多色性、色むらがある |
| 症状 | 無症状か軽い圧痛のみ | 出血、潰瘍、急な痛みを伴うことがある |
| 硬さ・可動性 | 周囲組織に対してよく動く | 硬く、周囲組織に癒着している印象 |
当院では、これらの所見はあくまで受診の目安であり、自己判断だけで様子を見ることはおすすめしていません。少しでも気になる変化があれば、早めの受診が安心につながります。
粉瘤の摘出方法についてさらに詳しく知りたい方は、粉瘤(アテローム)の摘出法についてでくり抜き法との違いを解説しています。脂肪腫の特徴を知りたい方は脂肪腫の特徴・原因と治療法もあわせてご覧ください。
3. 摘出手術が必要になる主な理由
良性腫瘍であっても、次のような場合には摘出が検討されます。「良性だから放置してよい」とは限らない点に注意が必要です。
- 大きくなるにつれて圧迫感や痛み、炎症を起こすことがある
- 触診や画像所見だけでは悪性の可能性を完全には否定できない
- しこりの存在そのものが不安や日常生活の支障になっている
- 粉瘤の場合、内部で炎症を起こすと腫れ・強い痛み・排膿を伴う「炎症性粉瘤」に進行することがある
特に、短期間で大きくなった腫瘍や出血を伴う腫瘍は、悪性の可能性を考える必要があります。早めに摘出し、病理検査で性質を確認することが推奨されます。摘出のタイミングに迷う場合の考え方は切除が必要な脂肪腫の見極め方でも詳しく解説しています。
4. 手術の目的
皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)には、主に3つの目的があります。
- 腫瘍を完全に切除し、症状を改善すること
- 摘出した組織を病理検査に提出し、確定診断を行うこと
- 取り残しによる再発や悪性化の見逃しを防ぐこと
「取って終わり」ではなく「取った腫瘍を調べて終わり」までが一連の治療です。この点は、意外と知られていません。診断の確定こそが、この手術の本質的な目的といえます。
5. 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)の流れ
実際の手術は、次の6つのステップで進みます。小さな腫瘍であれば、来院当日に日帰りで完了することも珍しくありません。

5-1. 麻酔
多くの場合、局所麻酔で日帰り対応が可能です。腫瘍が大きい場合や深い部位に及ぶ場合は、全身麻酔を選択することもあります。
5-2. 切開
腫瘍の大きさに合わせて皮膚を切開します。露出部に比べて傷あとを隠しやすいため、切開線の設計は整容性よりも視野の確保を優先できるのが特徴です。
5-3. 腫瘍の摘出
腫瘍とその周囲の組織を切除します。良性が疑われる場合は、腫瘍をくり抜くように切除します。悪性の疑いがある場合は、周囲を広めに切除して取り残しを防ぎます。切除範囲は、術前の視診・触診の所見をもとに医師が判断します。
5-4. 止血と縫合
出血を止めたうえで縫合します。皮膚が足りないほど大きく切除した場合は、皮弁(近くの皮膚を移動させる方法)や植皮で傷を閉じます。
5-5. 病理検査
摘出した腫瘍は顕微鏡での病理検査にまわし、良性か悪性かを確定します。病理検査の一般的な流れは、日本病理学会「病理検査について」でも解説されています。
5-6. アフターケアの説明
処置後は、創部の消毒方法や抜糸の時期、日常生活での注意点について説明を受けます。疑問点はこの場で確認しておくと安心です。
6. 手術時間・入院期間・費用の目安
手術にかかる時間や入院の要否は、腫瘍の大きさと性質によって変わります。
- 小さな腫瘍:30分〜1時間程度、日帰り
- 大きな腫瘍・悪性が疑われる腫瘍:1〜2時間以上、数日の入院が必要になる場合がある
費用については、皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)は健康保険が適用される手術です。厚生労働省が定める診療報酬点数表(令和6年度改定)では、腫瘍の大きさに応じて点数区分が設定されています。1点=10円で計算します。
| 腫瘍の大きさ(長径) | 診療報酬点数 | 3割負担の目安(手術料のみ) |
|---|---|---|
| 3cm未満 | 1,280点 | 約3,840円 |
| 3cm以上6cm未満 | 3,230点 | 約9,690円 |
| 6cm以上12cm未満 | 4,160点 | 約12,480円 |
| 12cm以上 | 8,320点 | 約24,960円 |
上記はあくまで手術料部分の目安です。診察料や病理検査費用、麻酔費用、投薬費用などは別途かかります。詳しい金額は、厚生労働省「令和6年度診療報酬改定について」をご参照いただくか、受診時に医療機関へ直接ご確認ください。
7. 手術のメリット
- 腫瘍を完全に除去できる
- 病理検査によって確定診断が得られ、安心につながる
- 圧迫感や炎症など、症状の改善が期待できる
- 再発や悪性化のリスクを早期に把握できる
8. 術後に起こりうるデメリット・リスク
メリットが多い一方、以下のようなリスクも理解したうえで手術に臨むことが大切です。
- 傷あとが残る(衣服で隠れる部位ではあるものの、ゼロにはできません)
- 出血や感染を起こす可能性がある
- まれに、神経や血管を損傷するリスクがある
- 取り残しによる再発のリスクがある
- 悪性だった場合、追加治療(再手術・放射線・化学療法など)が必要になることがある
9. 術後の過ごし方と注意点
術後の経過は、日常生活での過ごし方によっても変わってきます。次の点を意識して過ごしましょう。
- 創部を清潔に保つ:入浴や洗浄の可否は医師の指示に従ってください
- 抜糸は1週間前後が目安:溶ける糸を使用した場合は抜糸が不要なこともあります
- 体幹部は動作で皮膚が引っ張られやすいため、無理な運動やストレッチは控える
- 悪性だった場合:再手術や放射線治療、化学療法などの追加治療が必要になることもあります
当院の診療でも、太ももや背中は歩行や着替えの際に傷が引っ張られやすい部位です。自己判断で早めに動きすぎてしまう方も見かけます。傷が安定するまでは、医師の指示した期間を守ることが、きれいな治癒への近道です。
10. 「露出部」の手術との違い
同じ「皮膚・皮下腫瘍摘出術」でも、露出部(顔・首・手など)と露出部以外では重視されるポイントが異なります。保険点数の区分も異なります。
| 比較項目 | 露出部 | 露出部以外(本記事) |
|---|---|---|
| 対象部位 | 顔・首・手・前腕・下腿など | 胸・腹部・背中・腰・臀部・大腿など |
| 重視されるポイント | 整容性(傷あとの目立ちにくさ)を優先しやすい | 確実な摘出と病理診断を優先しやすい |
| 保険点数の区分 | K005(露出部) | K006(露出部以外) |
| 縫合デザイン | しわに沿った切開線など美容的配慮が中心 | 機能面・切除範囲の確保が中心 |
顔や手など露出部の腫瘍摘出術については、皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)で詳しく解説しています。また、悪性の可能性が高いと判断された場合は皮膚悪性腫瘍切除術としてより広い範囲の切除が行われることもあります。

11. 皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)に関するよくある質問(FAQ)
Q1. しこりが痛くない場合でも、摘出したほうがよいですか?
A1. 痛みがなくても摘出をおすすめする場合があります。大きくなり続けている、または悪性の可能性を否定できないケースです。経過観察でよいかどうかは、視診・触診・画像所見によって医師が判断します。まずはご相談ください。
Q2. 手術当日はどのくらいの時間がかかりますか?
A2. 小さな腫瘍であれば、麻酔から縫合まで30分〜1時間程度で終わることが多いです。腫瘍が大きい場合や複数箇所を同時に処置する場合は、より時間がかかることがあります。
Q3. 傷あとはどのくらい残りますか?
A3. 縫合線として細い線状の傷あとが残ります。露出部以外は衣服で隠れやすい部位ですが、完全に消えるわけではありません。時期に応じたケアで目立ちにくくすることは可能です。
Q4. 病理検査の結果はいつ、どのように知らされますか?
A4. 医療機関によって異なりますが、1〜2週間程度で結果が判明することが一般的です。結果は次回の診察時に、医師から直接説明を受けます。
Q5. 手術費用はどのくらいかかりますか?
A5. 健康保険が適用されます。3割負担の場合、手術料は約3,840円〜24,960円程度(腫瘍の大きさによる)が目安です。診察料や病理検査費用は別途かかります。詳しくは記事内の費用の章をご覧ください。
Q6. 摘出後に同じ場所へ再発することはありますか?
A6. 粉瘤などは、被膜(袋状の壁)が完全に取りきれていない場合、まれに再発することがあります。再発が心配な方は、抜糸後の経過観察も含めて医師にご相談ください。
12. まとめ
皮膚・皮下腫瘍摘出術(露出部以外)は、胸・腹部・背中・大腿など衣服で隠れる部位の腫瘍を確実に摘出する手術です。摘出後は病理検査で診断を確定します。露出部に比べて切除の確実性が重視される傾向がありますが、傷あとへの配慮が不要というわけではありません。
良性が疑われる場合でも、大きさや症状の変化があれば早めの受診が安心です。気になるしこりに気づいたら、自己判断で様子を見続けるのではなく、一度専門医の診察を受けてみましょう。
本記事は、ヒロクリニック皮膚科・形成外科 形成外科医・海老沢武志医師が監修しています。海老沢医師は日本形成外科学会専門医であり、川口院・池袋駅前院の両院で腫瘍摘出術に対応しています。







