STRとSNPを組み合わせた解析は、SNP単体での解析よりも高い判定精度が期待できます。STRは1座位あたりの情報量がSNPより多く、組み合わせることでSNP単体の弱点を補えるためです。ただし、実際にどこまで精度が上がるかは、解析する座位数や手法によって変わります。この記事では、両者の特徴と組み合わせによる効果、ヒロクリニックがSTR単独で高精度を実現している理由を解説します。
この記事でわかること
- STRとSNPの基本的な違い(情報量・変異率)
- SNP単体解析の限界
- STRを組み合わせることで精度が向上する理由
- ヒロクリニックがSTR単独で高精度を実現している理由
STRとSNP、それぞれの特徴
STRとSNPの最大の違いは、着目する配列の単位と、1マーカーあたりに得られる情報量です。STRとSNPは、どちらもDNA配列の個人差を利用する解析手法です。ただし、着目する配列の単位と、個人識別に使える情報量が異なります。
| 項目 | STR(短鎖タンデム反復配列) | SNP(一塩基多型) |
|---|---|---|
| 変異の単位 | 短い配列の繰り返し回数 | 1塩基の違い |
| 1マーカーあたりの情報量 | 多い | 少ない |
| 変異率の目安 | 0.1〜0.4%程度/世代 | 極めて低い(安定) |
| 親子鑑定での主な役割 | 主要な判定手法 | 補助的に用いられる場合がある |
STRは変異率がやや高い分、1座位あたりの多型性が高く、少ない座位数でも高い識別力を発揮します。一方SNPは、変異率が極めて低く安定している反面、1か所ごとの情報量は少なめです。
代表的なSTR座位のひとつに「D1S1656」があります。1番染色体上にある「TAGA」という4塩基の繰り返し配列で、人は父由来・母由来の2本の染色体を持つため、それぞれの繰り返し回数(例:6回と4回)を「D1S1656 6, 4」のように表記します。一方、SNPの例である「rs1490413」は1番染色体上の特定の1塩基がA(アデニン)かG(グアニン)かのいずれかを示すもので、1座位あたりの違いは小さくなります。
座位ごとの多型性(型のバリエーションの豊富さ)は一律ではありません。集団内でアリルの種類が多く、特定の型に偏っていない座位ほど個人識別力は高くなり、逆に特定の型の出現頻度が高い座位は、他の座位で情報量を補う必要があります。検査機関がどの座位を組み合わせて解析しているかによって、同じマーカー数でも識別力に差が出る点は知っておいて損はありません。
SNPの情報量がSTRより少なくなりやすい理由のひとつに、型の種類の違いがあります。SNPは基本的に1座位につきA・T・G・Cのうち2種類の塩基しか取らない「二対立型」であるのに対し、STRは繰り返し回数によって座位ごとに数種類〜十数種類の型を取りうる「多対立型」です。型の選択肢が多いほど、偶然同じ型が重なる確率は下がるため、1座位あたりの識別力に差が生まれます。
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SNP単体解析の限界
SNP単体解析には、STRに比べて多くのマーカー数が必要になるという限界があります。SNP単体で高い判定精度を得るには、多くのマーカーを同時に解析する必要があります。研究報告によれば、15座位程度のSTRと同程度の識別力を得るには、50〜60個程度のSNPマーカーが必要になるとされています。
兄弟姉妹や祖父母鑑定など、より複雑な血縁関係を判定する場合は、さらに多くのSNPマーカーが必要になるケースもあります。マーカー数が増えるほど、解析コストや検査期間にも影響が及びます。
STRを組み合わせることで精度が向上する理由
STRを組み合わせる最大のメリットは、少ないマーカー追加で識別力を大きく補強できる点です。SNP単体の解析にSTRを組み合わせると、少ないマーカー追加で識別力を大きく補強できます。STRは1座位あたりの情報量が多いため、SNPだけでは判別しにくい近親者間のケースでも、差を見つけやすくなるからです。
- 近親者間の複雑な血縁鑑定: 兄弟姉妹や祖父母鑑定など、候補者同士の遺伝的な近さが判定を難しくする場合があります。
- SNP解析で結果が境界的だった場合: まれなケースとして、追加のマーカーによる確認が検討されることがあります。
- 学術・研究目的での利用: 親子鑑定そのものではなく、遺伝的背景を幅広く調べる研究用途で使われることがあります。
このように、STRとSNPは対立する技術ではなく、互いの弱点を補い合う関係にあります。どちらか一方が常に優れているわけではなく、目的に応じた使い分けが大切です。私が座位数の異なる解析結果を比較してきた中でも、座位数を確保できるかどうかで結果の安定感が変わると感じています。
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父権肯定率・尤度比とマーカー数の関係
父権肯定率・尤度比は、各座位の情報を掛け合わせて算出するため、1座位あたりの情報量が多いほど少ないマーカー数で高い数値に到達しやすくなります。親子鑑定の結果は「父権肯定率」や「尤度比」といった統計指標で示されます。各座位で得られた一致・不一致の情報を掛け合わせて算出する仕組みのため、1座位あたりの情報量が多いほど、少ないマーカー数でも高い数値に到達しやすくなります。
これが、STRを組み合わせるとSNP単体よりも効率よく精度を高められる理由です。尤度比の考え方については、親子鑑定の尤度比(ゆうどひ)を求める方法で詳しく解説しています。
たとえば、仮にあるマーカーの不一致がない場合の寄与度を一定の比率と仮定すると、座位数を重ねるごとに数値は掛け算的に大きくなっていきます。これはあくまで仕組みを理解するための考え方であり、実際の判定はマーカーごとの実測データに基づいて行われます。座位数が十分であれば、追加のマーカーがなくても高い数値に到達できるという点が、STRを主軸とした解析の強みです。父権肯定率や尤度比の具体的な算出方法は検査機関によって異なるため、他社の数値をそのまま単純比較することは避けてください。
ヒロクリニックがSTR単独で高精度を実現している理由
ヒロクリニックの出生前親子鑑定は、STRを52座位解析することで99.99%以上の判定精度を実現しています。これは法医学分野で標準とされるFBIのCODIS(20座位)を大きく上回る座位数です。
座位数が十分に多いため、通常のケースではSNP検査を追加する運用は行っていません。近親者間の複雑な血縁鑑定など特殊なケースに心当たりがある場合は、お申し込み前にクリニックへご相談ください。
座位数を増やすことは、偶然の一致による誤判定リスクを下げることにもつながります。理論上、解析する座位数が少ないほど、血縁関係がなくても偶然すべての座位が一致してしまう「偶発一致率」が上がりやすくなります。52座位という座位数は、この偶発一致率を実務上ほぼ無視できる水準まで下げるための設計であり、単に数値を大きく見せるためのものではありません。
実際の診察では、数値だけでなく解析手法の違いについてもご説明するようにしています。私自身、STRとSNPのどちらの手法かを気にされる方には、座位数や国際的な採用実績もあわせてお伝えするよう心がけています。数値の大小だけで検査機関を比較するのではなく、どのような設計思想でその数値に至っているかを確認することが、納得感のある選択につながると感じています。
私自身、これまでの解析結果を確認してきた中で、座位数が多いほど偶然の一致による誤判定のリスクが下がると実感しています。解析には日本初導入の次世代シーケンサー「Qiagen社 MiSeq FGx System」を使用し、検体はバーコード管理のもと自社ラボ「東京衛生検査所」で解析しています。
STRとSNPの使い分けについてさらに詳しく知りたい方は、親子鑑定にSTR以外にSNPも必要ですか?もあわせてご覧ください。
よくある質問
まとめ
STRとSNPを組み合わせた解析は、SNP単体よりも高い判定精度が期待できます。STRの高い多型性がSNP単体の弱点を補い、少ないマーカー追加で識別力を底上げできるためです。
ヒロクリニックでは、STRを52座位解析することで99.99%以上の精度を実現しており、通常はSNP検査を追加する必要はありません。ご自身のケースで判定方法に不安がある場合は、お申し込み前に担当医へご相談ください。
関連記事として、SNPだけの出生前親子DNA鑑定なら何種類のSNPが必要か?、親族間のSTRとSNPの一致率(鑑定に重要)、親子鑑定におけるSTRの重要性は?もあわせてご覧ください。
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ヒロクリニックでのDNA出生前親子鑑定
ヒロクリニックのDNA出生前親子鑑定(NIPPT)は、全国のヒロクリニック直営クリニックでご利用いただけます。この検査は妊娠6週0日から提供され、1回の来院で検査が完了するため、必要な時間と労力を最小限に抑えることができます。自社ラボ「東京衛生検査所」(CAP認定・ISO9001取得)による検査ですので、安心してお受けいただけます。ただし、ご夫婦そろっての受診をお願いしています。そうすることで、より正確な検査結果を得ることができます。ご興味のある方は、こちらをクリックしてご予約いただくか、お問い合わせください。※料金・再検査対応の詳細は公式料金ページでご確認ください。
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略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
参考文献
- Yang XY, Qiu YM, Geng QB, Liu LL, Zhang HSY, Jiang RH, Han JY, Qian FS, Jiang TM, Zhao SM, Yin RH, Zhu BF. Non-invasive prenatal paternity testing: A combination of SNPs and STRs is superior to SNPs alone. Forensic Sci Int Genet. 2021 May;52:102479.





