傷跡は種類ごとに治り方が異なるため、状態に合った治療を選ぶことが「治す」ための近道です。手術痕や切り傷など、やけど以外の外傷による傷跡もさまざまです。平らに治まることもあれば、赤く盛り上がったまま残ることもあります。
本記事では、傷跡ができる仕組みと、瘢痕のタイプ別の特徴を整理します。そのうえで、保存的ケア・保険診療・自費診療・手術という治療の選択肢を、順を追って紹介します。最後に、自分の傷跡に合う治療の選び方も解説します。ヒロクリニック形成外科・皮膚科の医師監修のもとまとめました。
この記事でわかること
- 傷跡が「治りにくい」と感じる仕組みと瘢痕の種類
- 治療を始めるのに適したタイミングの目安
- 自宅でできる保存的ケアと、その限界
- 保険診療・自費診療それぞれで受けられる治療内容
- 傷跡の状態別に見る治療法の選び方
目次
傷跡が「治らない」と感じる理由|瘢痕の種類を知る
傷跡は、切り傷や手術痕、転倒によるすり傷など、原因はさまざまです。傷が治る過程でコラーゲンの産生バランスが崩れると、赤み・盛り上がり・凹みといった跡が残ります。まずは自分の傷跡がどのタイプに近いか把握しましょう。

陥凹性瘢痕(傷跡の凹み)
皮膚の深い部分まで損傷すると、修復に必要な組織量が不足し、へこんだまま治ることがあります。ニキビ跡や外傷でとくによく見られる症状のひとつ。ニキビ跡に特有の凹みについてはニキビ跡を消すための皮膚科治療法で詳しく扱っています。
肥厚性瘢痕
肥厚性瘢痕は、傷の治癒過程でコラーゲンが過剰につくられ、赤みを帯びて盛り上がった状態です。盛り上がりが受傷部位の範囲内にとどまるのが特徴です。数年かけて徐々に平らになっていくケースも珍しくありません。
ケロイド
ケロイドは肥厚性瘢痕と似た見た目ですが、盛り上がりが受傷部位の周囲にまで広がっていく点が異なります。かゆみや痛みを伴うこともあり、自然には縮小しにくい性質です。両者の見分け方は、なんで傷あとがふくらむの?ケロイドと肥厚性瘢痕のちがいをやさしく解説でも紹介しています。
色素沈着
傷の炎症刺激でメラニン色素が過剰につくられ、茶色っぽく残る状態です。多くは半年から1年程度かけて薄くなりますが、紫外線を浴びると色が濃くなりやすい性質があります。
やけどによる傷跡は、これらに加えて瘢痕拘縮という関節の動きに関わる症状が生じることもあります。やけど跡特有の経過については、火傷跡の治療法|肥厚性瘢痕とケロイドの違いで個別にまとめています。
傷跡の治療を始める適切なタイミング
傷跡は、受傷直後から色や硬さが変化し続けます。赤みが強く不安定な「未成熟瘢痕」の時期と、状態が落ち着く「成熟瘢痕」の時期。この2段階で適した対応が変わります。
受傷直後から半年程度は保存的ケアを中心に経過を見るのが基本です。赤みが落ち着く1年前後を目安に、レーザーや手術といった積極的な治療を検討しやすくなります。
統括院長の岡博史はこう話します。「何年も前の傷跡だからと治療をあきらめる必要はありません。古い傷跡でも、状態に応じてレーザーや手術で改善が見込めるケースは珍しくないので、まずは一度診察でご相談いただきたいです」
治療を検討する時期の詳しい目安は、傷跡修正のタイミングは?形成外科での治療に適した時期で個別に取り上げています。あわせてご覧ください。
自宅でできる保存的ケアとその限界
傷跡がごく軽度な場合や、未成熟瘢痕の時期には、通院なしでできるケアで経過を整えられることがあります。
- 保湿:治癒後の皮膚はバリア機能が低下しています。保湿を続けることで、皮膚の乾燥や色素沈着の悪化を防ぎやすくなります。
- 紫外線対策:日焼け止めや衣類での保護は、色素沈着を目立たせないための基本策です。
- 市販のシリコンシート:患部を一定の圧力で覆い、肥厚性瘢痕の盛り上がりを抑える目的で使われます。継続使用が前提です。
ただし、セルフケアだけで完全に消せる傷跡には限りがあります。盛り上がりが強くなる、かゆみや痛みが増す。こうした変化が出たら、自己判断を続けず皮膚科・形成外科に相談してください。
編集部が本記事の作成にあたり院内の相談傾向を確認したところ、市販薬だけで数年様子を見てから受診する方も一定数いました。早い段階で専門医に見せるほど、治療の選択肢は広がりやすい傾向にあります。迷ったら早めの相談が安心です。
保険診療で受けられる傷跡治療
傷跡治療のなかには、症状や目的によって健康保険が適用されるものがあります。機能面の問題を伴う傷跡は、保険診療の対象になりやすい傾向です。
- ステロイドテープ・外用薬:炎症を抑え、肥厚性瘢痕やケロイドの盛り上がりを平らにする効果が期待されます。
- ステロイド局所注射:ケロイドや肥厚性瘢痕に直接注射し、過剰なコラーゲン産生を抑えます。数週間おきに複数回行うのが一般的です。
- 瘢痕拘縮の解除手術:関節の動きが制限されるなど、機能障害を伴う場合に検討します。
保険診療は自己負担が抑えられる一方、対象となる症状や治療内容には条件があります。診察時に、自分の傷跡が保険の対象になるか確認しておくと安心です。
自費診療の傷跡治療|レーザー・注入治療
見た目の改善を主な目的とする治療の多くは、自費診療になります。傷跡の色調や凹凸の状態によって、選ぶべき治療は変わります。

- フラクショナルレーザー:皮膚に微細な穴をつくり、コラーゲンの生成を促す治療です。凹みや硬さの改善を目指します。仕組みは皮膚科で行うフラクショナルレーザーの効果で解説しています。
- 血管系レーザー:赤みの原因となる毛細血管に反応させ、赤みを軽減する目的で使用します。
- ヒアルロン酸注入:陥凹性瘢痕による凹みを内側から埋め、表面の凹凸を目立たなくします。効果の持続期間には個人差があります。
- ケミカルピーリング:古い角質層を取り除き、傷跡表面の質感や色調のなじみを整えます。
これらの治療は、複数回の施術を重ねながら経過を見ていくのが一般的です。施術直後は赤みや軽い腫れが出ることもあります。効果の出方には個人差がある点も理解しておきましょう。
保険診療と自費診療は、同じ「傷跡治療」でも目的によって区分が変わります。費用感の目安は次のとおりです。
| 治療法 | 診療区分の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| ステロイドテープ・局所注射 | 保険診療となる場合が多い | 症状や医師の診断により異なります |
| 瘢痕拘縮の解除手術 | 保険診療となる場合が多い | 機能障害を伴う場合が対象になりやすい傾向 |
| 色調・凹凸改善目的のレーザー | 自費診療となることが一般的 | 照射範囲・回数により総額が変動 |
| ヒアルロン酸注入・美容目的の切除 | 自費診療となる場合がある | 目的や範囲により保険適用の可否が異なる |
同じ処置でも、目的が機能改善か見た目の改善かで区分が変わることがあります。費用の総額は治療範囲や回数によって差が出ます。カウンセリングの段階で見積もりを確認しておくと安心です。
手術による傷跡修正|形成外科の外科的治療
保存的治療やレーザーだけでは改善が難しいケースもあります。幅の広い傷跡や、目立つケロイド、関節の動きを妨げる瘢痕拘縮には、手術による修正を検討します。
- 瘢痕切除術:傷跡を切除し、皮膚の張力を調整しながら縫合し直す手術です。幅の狭い傷跡に適しています。
- Z形成術:傷跡の方向を皮膚のしわに沿う向きへ変え、目立ちにくくする手術です。関節をまたぐ拘縮の解除にも用いられます。
- 皮膚移植術・皮弁形成術:広範囲の瘢痕や深い組織欠損を伴う場合、他部位の皮膚を移植・移動して補います。
形成外科医の鳥海正博は「傷跡の手術は、見た目の改善だけが目的ではありません。関節の動かしにくさなど日常生活への影響があれば、機能回復の観点からも手術をおすすめすることがあります」と説明しています。
ヒロクリニック形成外科・皮膚科では、2008年8月から2026年6月までの累計で、腋臭症手術(皮弁法)3,606件の実績があります。皮膚を移動させる皮弁形成の技術は、傷跡修正の手術にも応用されています。
傷跡修正以外の形成外科的な治療の全体像は、形成外科でできる治療一覧|傷跡修正から輪郭形成までで紹介しています。
傷跡の状態別|治療法の選び方
ここまで紹介した治療法を、傷跡のタイプ別に整理しました。複数のタイプが混在する傷跡もあるため、実際の選択は診察のうえで判断されます。
| 傷跡のタイプ | 主な特徴 | 検討されやすい治療 |
|---|---|---|
| 色素沈着 | 茶色っぽいシミ状。紫外線で濃くなりやすい | 保湿・紫外線対策、美白系レーザー |
| 陥凹性瘢痕(凹み) | 皮膚が凹んだ状態 | フラクショナルレーザー、ヒアルロン酸注入 |
| 肥厚性瘢痕 | 受傷範囲内で赤く盛り上がる | ステロイドテープ・注射、血管系レーザー |
| ケロイド | 周囲へ広がるように盛り上がる | ステロイド局所注射、瘢痕切除術 |
| 瘢痕拘縮 | 関節部の動きが制限される | Z形成術、皮膚移植術・皮弁形成術 |
凹みと盛り上がりが同じ傷跡の中に混在することもあります。この場合、レーザーと注入治療を組み合わせるなど、複数の方法を段階的に取り入れることも少なくありません。
「跡が残ってから何年も経っているから、もう治療できない」と考える必要はありません。成熟した古い傷跡でも、状態に応じたレーザーや手術の選択肢は残されています。
信頼できる形成外科の選び方
傷跡治療は、数ヶ月から数年にわたることもある長期戦。医療機関選びが結果を左右する要素のひとつになります。

- 形成外科専門医が在籍しているか
- 保存的治療からレーザー、手術まで複数の選択肢を提示してくれるか
- 保険診療・自費診療の区分や費用について事前に説明があるか
- 術後の経過観察やアフターケア体制が整っているか
取材を通じて感じたのは、傷跡の見た目だけを気にする方ばかりではないという点です。動かしにくさやかゆみなど、生活面の悩みを抱える方も思いのほか多くいました。気になる症状は遠慮せず、診察で率直に伝えることをおすすめします。
よくある質問
Q1. 傷跡は自然に消えますか?
浅い傷による赤みや色素沈着は、時間の経過とともに目立たなくなることがあります。ただし肥厚性瘢痕やケロイド、陥凹性瘢痕は、自然には解消しにくい傾向です。状態に応じた治療の検討をおすすめします。
Q2. 傷跡治療はいつから始められますか?
保湿や紫外線対策などのセルフケアは、受傷後早い段階から始められます。レーザーや手術は、赤みが落ち着く成熟瘢痕の時期以降に検討するのが一般的です。数年前の傷跡でも、治療の選択肢が残っている場合があります。
Q3. 傷跡治療は痛みますか?
局所麻酔を使う治療も多く、施術中の痛みは軽減されます。レーザーは輪ゴムで弾かれるような刺激を感じることがあります。手術の場合は術後に痛みが出ることもあるため、事前に痛みへの対応方法を確認しておくと安心です。
Q4. 傷跡治療は保険が使えますか?
瘢痕拘縮の解除手術など、機能障害の改善を目的とする治療は保険診療の対象となる場合があります。一方、色調や凹凸の改善を目的とするレーザーや注入治療は、自費診療になるのが一般的です。詳しくは診察時に確認してください。
Q5. 肥厚性瘢痕とケロイドはどう違うのですか?
どちらも盛り上がった傷跡です。肥厚性瘢痕は受傷部位の範囲内にとどまります。両者の違いは、ケロイドが周囲の正常な皮膚にまで広がっていく点。見た目だけでの判断が難しいこともあるため、医師の診察を受けてください。
Q6. 手術で新しくできた傷跡はどのくらいで落ち着きますか?
手術による縫合部の傷跡も、未成熟瘢痕から成熟瘢痕へと同じ経過をたどります。おおむね半年から1年程度で、赤みや硬さが落ち着くのが一般的な経過です。
まとめ|傷跡のタイプを見極めて自分に合う治療を選ぶ
傷跡には、色素沈着・陥凹性瘢痕・肥厚性瘢痕・ケロイドといったタイプがあります。タイプによって、適した治療は異なります。保存的ケアからレーザー、注入治療、手術まで、選択肢は幅広く用意されています。
「もう何年も前の傷だから」とあきらめる前に、まずは形成外科で状態を診てもらうことをおすすめします。気になる症状があれば、早めにヒロクリニック形成外科・皮膚科へご相談ください。
本記事はヒロクリニック形成外科・皮膚科 統括院長 岡博史(医学博士・日本皮膚科学会皮膚科専門医)、形成外科医 鳥海正博(日本形成外科学会専門医・医学博士)の監修のもと制作しています。
【参考文献】








