親子鑑定には、DNAの個人差を読み取る方法としてSTR法とSNP法の2種類があります。日本国内の親子鑑定では、現在もSTR法が標準的な手法として使われています。この記事では、SNP法の仕組みと、日本人の親子鑑定でSTR法が選ばれている理由を、技術的な観点から整理してご説明します。祖先解析や体質傾向を調べる検査でSNPという言葉を目にし、親子鑑定との違いが気になった方にも参考にしていただける内容です。
この記事でわかること
SNP(一塩基多型)とは
SNPとは、ヒトゲノム全体に数百万〜1千万カ所以上存在する、1塩基単位のありふれた個人差のことです。DNA配列の中で1つの塩基だけが人によって異なる箇所を指し、親から子へそのまま受け継がれる性質を持つため、遺伝的な特徴を比較する材料として利用できます。
SNPは、多くの場合A・T・G・Cのうち2種類の塩基のどちらかを取る「二値」の変異です。1カ所あたりの個人差の情報量はSTRに比べて小さいという特徴があります。実際に検査データを見比べる際も、私はまずSNPかSTRかという手法の違いから確認するようにしています。
SNPを調べる際は「SNPアレイ」と呼ばれる解析装置がよく使われます。あらかじめ設計された多数のプローブ(特定のDNA配列を検出するための分子)を使い、数十万カ所のSNPを一度に読み取る仕組みです。1カ所ずつの情報量は小さくても、非常に多くの箇所をまとめて解析できる点がSNPアレイの強みです。
出産前に父子関係を確認できる検査
法的鑑定もできる
SNP法が親子鑑定に使われる場面
SNP法は一度に数十万カ所を解析できる技術であり、親子鑑定そのものよりも祖先解析や集団遺伝学の研究で多く使われています。この特性から、SNP法は祖先解析(ルーツ調査)や、大規模な集団遺伝学の研究などで広く活用されています。
親子関係の確認そのものにSNP法を使うことも技術的には可能です。ただし、1カ所あたりの識別力はSTRより低くなります。STR法と同等の精度を得るには、数百〜数千カ所という非常に多くのSNPを解析する必要があります。
海外では、大規模なバイオバンク研究や学術目的の家系解析において、SNPアレイが広く活用されています。数十万カ所のSNPを同時に解析できるため、多数のサンプルを比較する大規模研究に向いている手法だからです。一方で、個人間の親子関係を一件ずつ厳密に判定する用途では、STR法のように少ない座位数で高精度を出せる手法の方が扱いやすいとされています。学術研究と法医学的な個人識別とでは、求められる精度基準や解析コストの考え方が異なる点を理解しておくと、それぞれの技術の使い分けがつかみやすくなります。
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日本の親子鑑定でSTR法が標準である理由
日本の親子鑑定でSTR法が標準なのは、少ない座位数でも高い個人識別力を確保でき、法医学分野での実績が豊富なためです。STR(Short Tandem Repeat:短鎖反復配列)は、数塩基の配列が繰り返される回数が人によって異なる部分です。1カ所あたりの多型性(バリエーションの豊富さ)がSNPより高いため、少ない座位数でも高い識別力を確保できます。
米国のCODIS(犯罪者DNAデータベース)をはじめ、世界各国の法医学DNAデータベースの多くがSTR型を基礎としています。裁判所提出用の法的鑑定においても、STR法による解析結果が国際的に広く採用されてきた実績があります。STR法は1990年代から法医学分野で実用化が進み、各国の犯罪捜査データベースや親子鑑定で標準的な手法として定着してきました。反復配列という構造上の特徴から、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)によって微量なサンプルからでも安定して増幅・検出できる点も、普及を後押ししてきた理由の一つです。
| 比較項目 | STR法 | SNP法 |
|---|---|---|
| 1カ所あたりの多型性 | 高い | STRより低い |
| 高精度化に必要な座位数 | 数十カ所程度 | 数百〜数千カ所 |
| 主な用途 | 親子鑑定・法医学的個人識別 | 祖先解析・集団遺伝学の研究 |
| 法医学分野での実績 | CODISなど国際標準 | 親子鑑定での実績は限定的 |
親子鑑定の統計計算では、各座位の尤度比(父権指数)を掛け合わせて総合的な指標を算出します。座位数だけでなく、この掛け合わせの考え方を理解しておくと、精度の意味がつかみやすくなります。座位数が多いほど掛け合わせる数値の個数が増えるため、結果として偶然の一致を排除しやすくなるという理屈です。この考え方は、SNPよりも1座位あたりの情報量が大きいSTRの方が、少ない座位数で高い指数に到達しやすいという先述の特徴とも一致します。詳しい計算方法はSTRを用いた尤度比の計算方法で解説しています。
STRの国際的な参照配列の標準化については、Forensic Sequence STRucture Guide(FSSG)で詳しく解説しています。

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ヒロクリニックがSTR52座位を採用している理由
ヒロクリニックがSTR52座位を採用しているのは、次世代シーケンサーによる高精度な解析と、自社検査所での一貫した品質管理を両立させるためです。出生前親子鑑定では、次世代シーケンサー「MiSeq FGx System」を用いています。Qiagen社製で日本初導入の機器を使い、STR52座位を解析しています。自社の遺伝子専門検査所「東京衛生検査所」で一貫して解析し、総合父性除外率99.99%以上という精度を実現しています。
私自身、検査精度についてのご質問をいただく際は、座位数の多さだけを見ないようにしています。どの手法をどれだけの座位数で組み合わせているか、その点まで丁寧にお伝えするよう心がけています。数字の大きさだけで安心せず、手法の裏付けを確認することが大切だと感じています。
解析方法には、次世代シーケンサーのほかに、従来から使われてきたキャピラリー電気泳動法という手法もあります。キャピラリー電気泳動法は一度に扱える座位数に制限がある一方、次世代シーケンサーは大量の配列情報を同時に読み取れるため、より多くの座位を一括で解析でき、精度向上や解析時間の短縮につながります。検体は院内でバーコードにより管理し、東京衛生検査所への配送過程でも取り違えが起きない体制を整えています。同検査所はCAP(米国臨床病理学会)およびISO9001の認定を受けた遺伝子専門検査所であり、専属医師の管理下で運用されています。
共同監修者の堤修一(博多駅前院院長、医学博士、元東京大学先端科学技術研究センター准教授)は、ゲノム医学・エピゲノム解析を専門としています。SNP・STRいずれの技術的な特性についても、学術的な知見をもとに検査体制の監修にあたっています。
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身近な遺伝子検査とSNP法の関係
祖先解析サービスや体質傾向を調べる消費者向け遺伝子検査の多くは、親子鑑定とは異なりSNPアレイを使って解析されています。これらのサービスは数十万カ所のSNPを一度に読み取ることで、大陸ごとの遺伝的な特徴の割合や、特定の体質傾向との統計的な関連を示す仕組みになっています。
ただし、こうしたサービスが示すのはあくまで「傾向」や「確率」であり、親子関係を法的に証明する検査とは目的も精度基準も異なります。祖先解析サービスの結果に近親者と表示された人物との関係を確認したい場合でも、親子関係そのものを確定させるには、STR法による正式な親子鑑定をあらためて受ける必要があります。
| 比較項目 | 祖先解析・体質検査サービス | 正式な親子鑑定 |
|---|---|---|
| 主な手法 | SNPアレイ | STR法 |
| 示す内容 | 血縁の傾向・確率 | 親子関係の確定 |
| 法的な効力 | 原則としてなし | 法的鑑定であれば証拠として利用可能 |
| 本人確認・立ち会い | 通常は不要 | 法的鑑定では必須 |
SNP法とSTR法によくある誤解
「座位数が多い検査ほど必ず優れている」という考え方は誤解です。座位数だけでなく、各座位がどれだけ個人差を示しやすいか(多型性)や、解析手法自体の実績もあわせて判断する必要があります。
また、「SNP法は精度が低いから使えない」という理解も正確ではありません。座位数を数百〜数千カ所まで増やせば、SNP法でも高精度な個人識別は可能です。単に、同じ精度に到達するまでに必要な座位数と解析コストの点で、STR法の方が効率的だという違いがあります。手法の優劣ではなく、目的に応じた使い分けだと理解しておくと、検査結果の意味を誤解しにくくなります。検査結果を見る際は、まず「何を目的にした検査なのか」を確認する習慣をつけておくと安心です。
よくある質問
Q1. SNP法とSTR法、精度が高いのはどちらですか?
座位数を十分に確保すれば、どちらの手法でも高い精度を得ることが可能です。ただし1カ所あたりの識別力はSTRの方が高く、少ない座位数で高精度を実現しやすいという特徴があります。
Q2. なぜ日本の親子鑑定の多くはSTR法を使うのですか?
STR法は法医学分野で長年蓄積された実績があり、CODISなど国際的なDNAデータベースの基礎にもなっています。裁判所提出用の法的鑑定でも実績が豊富な手法です。
Q3. SNP法での親子鑑定はまったく行われていないのですか?
いいえ、SNPアレイを使った親子鑑定は海外の一部サービスなどで技術的に実施されています。ただし日本国内の一般的な親子鑑定では、STR法が主流という状況です。
Q4. ヒロクリニックの検査は何座位のSTRを解析していますか?
次世代シーケンサー「MiSeq FGx System」を用いてSTR52座位を解析しています。総合父性除外率は99.99%以上です。
Q5. 座位数が多いほど、必ず精度が高いといえますか?
座位数は精度を左右する要素の1つですが、それだけで単純比較はできません。各座位の多型性や解析手法の信頼性もあわせてご確認ください。
Q6. 祖先解析サービスの結果は親子鑑定の代わりになりますか?
いいえ。祖先解析サービスは血縁の可能性を統計的に示すものであり、法的な親子関係の証明には使えません。正式な親子鑑定は、STR法など個人識別に特化した手法であらためて受ける必要があります。
Q7. SNPとSTR、両方の検査を組み合わせることはできますか?
技術的には両方の情報を組み合わせて解析することも可能ですが、日本国内の一般的な親子鑑定ではSTR法単独での解析が標準です。組み合わせた解析を希望される場合は、検査機関に個別にご相談ください。
Q8. 次世代シーケンサーとキャピラリー電気泳動法は何が違いますか?
キャピラリー電気泳動法は従来から使われてきた解析方法で、一度に扱える座位数に制限があります。次世代シーケンサーは同時に大量の配列情報を読み取れるため、より多くの座位を一括で解析でき、精度向上や解析時間の短縮につながります。
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まとめ
SNP法は多数のSNPをまとめて解析できる技術です。ただし1カ所あたりの識別力はSTRより低く、STR法と同等の精度を得るには非常に多くの座位数が必要です。日本の親子鑑定で今もSTR法が標準となっているのは、こうした技術的な背景と法医学分野での実績によるものです。
祖先解析サービスや体質傾向を調べる消費者向け遺伝子検査で使われるSNPアレイと、法的な親子関係を確定させるための親子鑑定とでは、目的も精度基準もまったく異なります。「座位数が多いほど優れている」という単純な比較ではなく、目的に応じた手法選びが行われている点を理解しておくと、検査結果への向き合い方も変わってきます。
ヒロクリニックでは、次世代シーケンサーによるSTR52座位の解析で高精度な出生前親子鑑定を提供しています。あわせて総合父性除外率(排除確率)とはもご覧ください。
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略歴
- 1996年 慶應義塾大学医学部 卒業
- 2004年 慶應義塾大学 医学博士号 取得
- 2005年 慶應義塾大学 皮膚科学教室 助手
- 2008年 ヒロ皮フ形成クリニック 開業
- 2009年 医療法人社団福美会 理事長
- 2015年 医療法人社団福美会 理事
資格・所属
- CAPラボディレクター
- 日本皮膚科学会 皮膚科専門医
- 日本医師会 産業医
- 東京衛生検査所 指導監督医
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。
堤 修一 (つつみ しゅういち)
医師・医学博士 / ヒロクリニック博多駅前院 院長
略歴
- 1993年 東京大学医学部医学科 卒業
- 2016〜2019年 東京大学先端科学技術研究センター 准教授
発信・関連リンク
この記事は、 ヒロクリニックNIPPTの編集・監修体制 にもとづき、資格を持つ医師が内容を確認しています。





